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第十二章 ― そんな風に俺を扱わないで…期待してしまうから…―

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「…軽蔑する…?」

 久し振りに会った親友は、そう桂に訊ねた。

 高校三年間を野球部で一緒に過ごした親友…池畑 衛…は卒業後、ふっつりと消息を絶っていた。

 どんな事も相談しあい、苦楽をともにして青春時代を過ごして来た…。お互い悩みも打ち明け…秘密など無い筈だった。

 決定的な異変は、衛の両親が不慮の交通事故で呆気なく急死した事だった。

 一人息子で他に頼る家族も親戚もいない衛は、立派に喪主を務め両親を見送った。

 涙を堪えて…ただ淡々と両親を弔う姿は桂には切なく辛く映ったのだった。

 財産の整理をしなきゃいけないんだ…。まだ…色々する事があってさ…。

 最後に桂と会った時衛は辛そうに、その顔を歪めて…だからしばらく会えない…。そう桂に告げた。

…そして…それっきり半年近く衛は姿を消したのだった…。それまで住んでいた家は処分され、他人の物になっていた。

 桂は衛の事を思い出すたび胸が痛んだ。自分は衛の助けに何もならなかったんだろうか…どうして親友と苦しみを分かち合えなかったんだろう…と…。

 何か悩みがあれば…聞きたかった…。でも…それが自分のエゴでしかない事も桂は何となく気付いていた。

 季節が秋にうつろう頃、衛からメールが来た…。
そこにはたった一言…「会いたい」と…。

 久し振りに親友に会える…。その喜びだけで、桂は指定された待ち合わせ場所に向かっていた。
約束の時間、そこに現われたのは…美しいリナだった。

 驚く桂に哀しそうな瞳の色を見せながら…リナは桂に訊ねた…。

「こんな私…軽蔑する…?」



 
 …かっちゃん…かっちゃん…

 誰だろう…俺を優しく呼ぶのは…。誰…?そこは気持良いの…?優しいのかな…?

 かっちゃん…かっちゃん…

 お願い…教えて…そこは…俺に…優しい…?俺は…もう…傷つきたく…ないん…だ…。

…かっちゃん……かつ…ら…かつら…桂…。

 だから…お願い…俺に…優しい居場所を…くれよ…。
 
 桂はフッと目を醒ました。
最初に目に映ったのは見なれた自分の部屋の天井。そしてヒョイっと視界に飛び込んできたのは、リナの笑顔だった。

「あ…リナ…?俺…?どうしたんだ…?」

 状況が理解できず、朦朧とした頭を心持振りながら桂は体を起こそうとした。

 そんな桂をやんわりと押し止めてリナは桂をベッドに戻した。何も言わずに優しく桂を寝かしつける。なおも口を開こうとした桂にリナがうっすらと笑みを浮かべて伝えた。

「神経性胃炎と過労…。それに栄養不良ですって…。しばらくは安静よ。お医者様驚いていたわ…。こんな身体でどうして授業なんか出来たのかって…」

 枕に頭をつけて、桂がそうか、と答えた。自分の身体の不調には気がつかない振りをしていた。

 気持より先に身体が根を上げたのか…。苦笑して桂はリナを見た。 

「ごめん…迷惑掛けて…」

 リナは肩を竦めると微笑んだ。

「まぁ…お互い様だから…。それより…大丈夫…?痛くない?ビックリしたわ。突然倒れたんで…」

 心配そうに自分を見つめるリナに桂は安心させるように微笑んだ。

「大丈夫…。なんか…スッキリした…」

 桂の答えにそう…とリナが答えた。桂は躊躇する様に瞳を辺りにめぐらせた。

「山本は?」その問いは禁句のようで、喉の奥にひっかかって出てこない。

 桂の言いたい事に気がついたリナがニッコリと微笑んで告げた。

「あいつは今…仕事に行った…。急に呼び出されて…。かっちゃんの事随分心配していた…。それこそ…」

 言いかけてリナがふふっと思い出し笑いを浮かべた。

「それこそ…もう大騒ぎだったんだから…」

 そうか…亮の事を言われてまた胃が痛んだ…これから自分と亮がどうなっていくのか…分からなくなっていた。

 もう亮の事を考えたくない…それが本音のような気もしていた。

 桂が思い出したようにリナに話し掛けた。

「俺…夢を見たよ…」

 夢?どんな夢?リナが片眉を上げながら続きを促した。

「リナと…リナと…会った頃の夢」

 首を傾げながらリナが穏やかな笑みを見せて訊いた。

「私に…?池畑 衛じゃなくて…?私に…?」

 桂がうんと頷いて答えるとリナは頬を緩めて「そう…良かった…」と答えた。
 
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