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第十一章 ― お前はただ一言「終り」と言えば良いんだ。そうすれば俺は…お前の前から消える…
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亮がもう自分と逢ってくれないのではないのでは…。
桂のその心配は杞憂に終った。
「休暇終った…。」
亮は相変わらず不機嫌そうに、そう月曜日の朝電話をしてきた。
桂はドキドキしながら亮のその声を聞いていた。自分があんな事を言ってしまった後でも連絡をしてきてくれる亮が愛しかった。
「うん…」
答える言葉が見つからなくて、高鳴る鼓動を押さえながら桂はやっとその言葉を呟いた。
「今夜来いよ。迎えに行くから…」
「うん…」
亮の言葉が嬉しくて桂は見えない相手に向かって微笑んで答えていた。
◇◇◇◇◇
「桂…ちゃんと食べているか?」
亮がキッチンで食器を洗っている桂を見ながら訊ねた。
「桂の料理が喰いたい…。」そう幾分シャイな笑みを浮かべた亮の言葉で、いつも通りの、亮の部屋でのデートになっていた。
お互いに気まずさを隠して普段通りに接していた。
最初こそギクシャクした雰囲気だったが、食事の最中たわいも無い会話を交わす事で…ニューヨークの話題に触れない事で、そのぎこちない空気は溶けていた。
「ああ…。食べている…けど…。なんで?」
亮の言葉に訝しげな表情で桂は返事をした。
どこも悪い所など無かった…。
桂の返事に亮は苦笑をすると、膝をぽんと叩いて両腕を広げた。
それがおいでの合図なのは歴然で…、その恋人のような甘い行為に桂は戸惑ってしまう。
驚いたようにシンク前で布巾を手にしたまま動けない桂に亮はまた苦笑すると声を掛けた。
「ほら…こいよ」
顔を赤らめながら桂はゆるゆると亮に近づくと、彼に強く腕を引っ張られる。あっと思う間もなく、その膝の上に向かいあうように跨がされていた。
こんな行為に慣れないまま、桂はそっと吐息をつくと、亮のがっしりした肩に腕を回す。
久し振りの亮の熱っぽい体の感触に桂の心拍数が一気にあがった。それなのにいつもと同じ彼のボディーソープの香りがして桂は気持が落ち着くのも感じていた。
亮は桂の体を強く引き寄せると桂の胸に顔を埋めて言った。亮の大きい手は桂の体をさまよっていた。
「お前、この2週間の間に…また痩せた気がする。無理していないか…?」
亮の自分を労わる言葉に桂は微笑むと、体を少し離して亮を見下ろした。
「大丈夫だよ…。痩せてなんかいないよ。食事だってちゃんと取っているし…」
桂の言葉にそうか…。と納得していないような口調で返事をすると、桂の顎にチュっと音を立ててキスをする。
亮の優しい言葉に嬉しくなって桂もお返しにとばかりに亮の額にキスを落とした。
亮の桂を抱きしめる腕に力が篭る。亮はもう一度桂の頬にキスを与えると桂の体をソファーにそのまま押し倒した。
桂の体をソファーに沈めると柔らかく桂の顔や耳元、首筋に唇を這わせていった。
「…ん…ぁぁ…」
久し振りの亮の抱擁に桂が甘えた吐息を零す。堪らずに亮の背中にぐっと腕を回して縋りついた。
桂の体の感触を確かめるように亮が手をしっとりと撫で上げていく。その優しい感触に桂は少しだけ戸惑う。
いつものようなセックス前の触れ合いとは違うような気がしたからだ。
亮は桂の額にキスを落とすと、桂の瞳を覗き込んだ。自分を見詰める桂の頬を優しく撫でながら、亮がいつになく真摯な瞳で口を開いた。
「桂…話しがある」
不意に亮がニューヨークに行く時に「帰国したら話しがある…」そう言っていたのを桂は思い出す。
あの時一瞬「別れ話かな」そう思った自分を思い出して桂は不安で瞳を揺らめかせた。
「話しって…ニューヨークに行く時に言っていた奴?」
桂の問いに亮が一瞬困ったような表情を見せた。亮は困ったような表情の後、辛そうに口を開いた。
「いや…あれとは違う。あれは…今はいいんだ…」
歯切れの悪い亮の口調に桂も戸惑ったような表情をした。何が言いたいのだろう…?
亮は桂の体を深く抱き寄せると桂の耳元に唇をよせて辛そうに告げた。
「しばらく…俺…桂を抱かない…。いいか?」
「え…?どう言う事…?」
亮の予想もしない言葉に桂が驚いて体を起こしかけた。亮はしっかりと桂の体を押さえ込むと、体重を掛けて桂の体をソファーに押し付けて抱きしめる。
「言葉通りだよ。桂の体調が良くなるまで、俺…しばらく桂とセックスしないから…」
亮の言葉に桂は戸惑う。
―なんか変じゃないか?それって?俺と山本はセックスが前提なのに…。セックス無しじゃ契約が成り立たない…。それとももう俺に飽きたのか…?
取りとめも無い不安が胸の中に沸き上がって、いつしか涙声になりながら桂が訊ねた。不安で体がガクガクと震えてしまう。
「どうして…?俺の体に飽きたのか?…セックス無しじゃ…契約終了って…事?」
桂が契約終了と言うのを聞いて亮が明らかに怒ったような顔をした。
ギュッと震える桂の体を抱きしめると、宥めるようにこめかみにキスを落とす。そのまま首筋に顔を埋めると辛そうに違う、と呟いた。
「違う…。契約なんて言うな…。桂の体が心配なんだ。俺の所為で無理させているかもしれない…。それに…」
それに…と言って亮が顔を上げて桂に満面の笑みを見せて続けた。
「セックスだけじゃないだろ…。俺と桂付き合っているんだから…。他にする事色々あるだろ…?」
言ってもう一度桂の首に顔を埋めてしまう。亮の真意がわからなくて桂は戸惑うように亮を抱きしめる。
俺の体を心配して…そう言ってくれているのだろうか…?本当に俺の体に飽きたのじゃないのだろうか…?
漠然とした不安を胸に桂は亮を抱きしめる腕に力を篭めていた。
桂のその心配は杞憂に終った。
「休暇終った…。」
亮は相変わらず不機嫌そうに、そう月曜日の朝電話をしてきた。
桂はドキドキしながら亮のその声を聞いていた。自分があんな事を言ってしまった後でも連絡をしてきてくれる亮が愛しかった。
「うん…」
答える言葉が見つからなくて、高鳴る鼓動を押さえながら桂はやっとその言葉を呟いた。
「今夜来いよ。迎えに行くから…」
「うん…」
亮の言葉が嬉しくて桂は見えない相手に向かって微笑んで答えていた。
◇◇◇◇◇
「桂…ちゃんと食べているか?」
亮がキッチンで食器を洗っている桂を見ながら訊ねた。
「桂の料理が喰いたい…。」そう幾分シャイな笑みを浮かべた亮の言葉で、いつも通りの、亮の部屋でのデートになっていた。
お互いに気まずさを隠して普段通りに接していた。
最初こそギクシャクした雰囲気だったが、食事の最中たわいも無い会話を交わす事で…ニューヨークの話題に触れない事で、そのぎこちない空気は溶けていた。
「ああ…。食べている…けど…。なんで?」
亮の言葉に訝しげな表情で桂は返事をした。
どこも悪い所など無かった…。
桂の返事に亮は苦笑をすると、膝をぽんと叩いて両腕を広げた。
それがおいでの合図なのは歴然で…、その恋人のような甘い行為に桂は戸惑ってしまう。
驚いたようにシンク前で布巾を手にしたまま動けない桂に亮はまた苦笑すると声を掛けた。
「ほら…こいよ」
顔を赤らめながら桂はゆるゆると亮に近づくと、彼に強く腕を引っ張られる。あっと思う間もなく、その膝の上に向かいあうように跨がされていた。
こんな行為に慣れないまま、桂はそっと吐息をつくと、亮のがっしりした肩に腕を回す。
久し振りの亮の熱っぽい体の感触に桂の心拍数が一気にあがった。それなのにいつもと同じ彼のボディーソープの香りがして桂は気持が落ち着くのも感じていた。
亮は桂の体を強く引き寄せると桂の胸に顔を埋めて言った。亮の大きい手は桂の体をさまよっていた。
「お前、この2週間の間に…また痩せた気がする。無理していないか…?」
亮の自分を労わる言葉に桂は微笑むと、体を少し離して亮を見下ろした。
「大丈夫だよ…。痩せてなんかいないよ。食事だってちゃんと取っているし…」
桂の言葉にそうか…。と納得していないような口調で返事をすると、桂の顎にチュっと音を立ててキスをする。
亮の優しい言葉に嬉しくなって桂もお返しにとばかりに亮の額にキスを落とした。
亮の桂を抱きしめる腕に力が篭る。亮はもう一度桂の頬にキスを与えると桂の体をソファーにそのまま押し倒した。
桂の体をソファーに沈めると柔らかく桂の顔や耳元、首筋に唇を這わせていった。
「…ん…ぁぁ…」
久し振りの亮の抱擁に桂が甘えた吐息を零す。堪らずに亮の背中にぐっと腕を回して縋りついた。
桂の体の感触を確かめるように亮が手をしっとりと撫で上げていく。その優しい感触に桂は少しだけ戸惑う。
いつものようなセックス前の触れ合いとは違うような気がしたからだ。
亮は桂の額にキスを落とすと、桂の瞳を覗き込んだ。自分を見詰める桂の頬を優しく撫でながら、亮がいつになく真摯な瞳で口を開いた。
「桂…話しがある」
不意に亮がニューヨークに行く時に「帰国したら話しがある…」そう言っていたのを桂は思い出す。
あの時一瞬「別れ話かな」そう思った自分を思い出して桂は不安で瞳を揺らめかせた。
「話しって…ニューヨークに行く時に言っていた奴?」
桂の問いに亮が一瞬困ったような表情を見せた。亮は困ったような表情の後、辛そうに口を開いた。
「いや…あれとは違う。あれは…今はいいんだ…」
歯切れの悪い亮の口調に桂も戸惑ったような表情をした。何が言いたいのだろう…?
亮は桂の体を深く抱き寄せると桂の耳元に唇をよせて辛そうに告げた。
「しばらく…俺…桂を抱かない…。いいか?」
「え…?どう言う事…?」
亮の予想もしない言葉に桂が驚いて体を起こしかけた。亮はしっかりと桂の体を押さえ込むと、体重を掛けて桂の体をソファーに押し付けて抱きしめる。
「言葉通りだよ。桂の体調が良くなるまで、俺…しばらく桂とセックスしないから…」
亮の言葉に桂は戸惑う。
―なんか変じゃないか?それって?俺と山本はセックスが前提なのに…。セックス無しじゃ契約が成り立たない…。それとももう俺に飽きたのか…?
取りとめも無い不安が胸の中に沸き上がって、いつしか涙声になりながら桂が訊ねた。不安で体がガクガクと震えてしまう。
「どうして…?俺の体に飽きたのか?…セックス無しじゃ…契約終了って…事?」
桂が契約終了と言うのを聞いて亮が明らかに怒ったような顔をした。
ギュッと震える桂の体を抱きしめると、宥めるようにこめかみにキスを落とす。そのまま首筋に顔を埋めると辛そうに違う、と呟いた。
「違う…。契約なんて言うな…。桂の体が心配なんだ。俺の所為で無理させているかもしれない…。それに…」
それに…と言って亮が顔を上げて桂に満面の笑みを見せて続けた。
「セックスだけじゃないだろ…。俺と桂付き合っているんだから…。他にする事色々あるだろ…?」
言ってもう一度桂の首に顔を埋めてしまう。亮の真意がわからなくて桂は戸惑うように亮を抱きしめる。
俺の体を心配して…そう言ってくれているのだろうか…?本当に俺の体に飽きたのじゃないのだろうか…?
漠然とした不安を胸に桂は亮を抱きしめる腕に力を篭めていた。
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