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第九章 普通の恋人同士なら行かないで…そう言うのかな…
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7月の終りから熱帯夜が続いていた。毎日30度を軽く越える暑い日が続いていて食欲が落ちてはいた…。
しかし桂にはそんなに自分が痩せたと言う自覚はなかった。
でも…そう言えば…と桂は目の前でイタリアの食文化を色々面白く話してくれるジュリオの笑顔を眺めながら、リナや真柴が自分に言った事を思い出していた。
6月頃から、リナも真柴も口を揃えて桂が痩せたと言っていた。リナはやつれたとまで言っていた…。
そして…今出会って2週間あまりのジュリオにまで体調を気遣われる有り様…。俺の体調に関心がないのは山本だけか…。そこまで考えて、桂はクスッと笑った。
「どうしました?カツラ…。料理は美味しくないですか?」
ジュリオの心配そうな声に桂は物思いから我に返った。亮の事を考えていた自分に後ろめたさを感じながら、慌ててニッコリとジュリオに笑いかける。
「いいえ。ジュリオさん。とても美味しいです」
桂の返事を聞いてジュリオが嬉しそうに笑った。
「良かったです。ここの料理、とてもヘルシーで栄養のバランス良いです。きっと桂の身体にも良いでしょう」
会ったばかりのジュリオにまで健康を心配されるようじゃ…俺もお終いだな。
そう考えて桂が自嘲するような笑みを口の端に浮かべる。
ジュリオはそんな桂をつぶらな瞳で何かを考えるような色を浮かべて見つめた。
桂はその視線にドギマギして顔を少し俯かせた。ふいにさっきジュリオが亮に「カツラを口説きます」と言ったのを思い出したからだ。
少しの沈黙の後、さっきまでの陽気な口調とはまったく違う真摯な声音でジュリオは桂に話しかけた。
「カツラ…私、本当にカツラが好きです。んー。好きになりました。私のコイビトになってください」
単刀直入なジュリオの言葉に桂がパッと顔を上げた。ジッと自分を見つめるジュリオの熱っぽい視線とぶつかって桂は困ったように顔を逸らした。
そんな桂の様子を見て、ジュリオが優しく声を掛けた。
「スミマセン。カツラが困りましたね。でも…私本当にカツラ好きです」
ジュリオの優しい言葉にふいに桂は胸の中が熱くなり込み上げる物を感じていた。目から溢れそうになる涙を慌てて拭いながら桂は顔を上げた。
ジュリオの優しい気遣いも言葉も嬉しい…ずっとこんな優しさに飢えていた…。
ジュリオに縋ってしまえば、きっと楽になれる…。不安なんか絶対感じないのだろう…。
彼の優しさに包まれていられる…。ぽかぽかとした温もりや安心感の中に浸っていられる…。
揺れる胸の内でたくさんの感情がグチャグチャになって桂を苦しめる。
それでも…
桂は顔を上げて泣き濡れた瞳でジュリオを見つめた。掠れそうになる声で…喉に引っかかってしまいそうな言葉をやっと絞り出す。
「ジュリオさん。ありがとうございます。でも…俺…俺…。山本が…好きなんです」
戦慄く唇で絶望的な亮への気持をジュリオに告げる。
絶対リナ以外には知られてはいけない想いだった…。
でもジュリオは自分と亮との間にある何かを感じとってしまっている。それなのに真摯な態度で自分が好きだと言ってくれるジュリオに嘘などつけない…。
桂の瞳からすっと涙が零れた。気付いて桂は乱暴にゴシゴシと目元を擦りながら続けて言う。
「でも…山本には健志さんと言う大切な恋人がいます。山本は彼を愛しています。俺が一人で勝手に…彼を好きなんです」
「分かっています。私、タケシに会った事あります」
ジュリオがやっぱり優しい笑みを目元に浮かべたまま桂に答えた。
「でも、私カツラが好きです。だから…カツラの気持が…んーなんて言ったら良いのかわからないですねェ…。そう…!カツラの気持がクリアーになったら、その時は私の事考えなさい。それまでは、友達で我慢します」
ジュリオの優しい、そして冗談めかした言葉にやっと桂は笑みを浮かべて黙って頷いた。
しかし桂にはそんなに自分が痩せたと言う自覚はなかった。
でも…そう言えば…と桂は目の前でイタリアの食文化を色々面白く話してくれるジュリオの笑顔を眺めながら、リナや真柴が自分に言った事を思い出していた。
6月頃から、リナも真柴も口を揃えて桂が痩せたと言っていた。リナはやつれたとまで言っていた…。
そして…今出会って2週間あまりのジュリオにまで体調を気遣われる有り様…。俺の体調に関心がないのは山本だけか…。そこまで考えて、桂はクスッと笑った。
「どうしました?カツラ…。料理は美味しくないですか?」
ジュリオの心配そうな声に桂は物思いから我に返った。亮の事を考えていた自分に後ろめたさを感じながら、慌ててニッコリとジュリオに笑いかける。
「いいえ。ジュリオさん。とても美味しいです」
桂の返事を聞いてジュリオが嬉しそうに笑った。
「良かったです。ここの料理、とてもヘルシーで栄養のバランス良いです。きっと桂の身体にも良いでしょう」
会ったばかりのジュリオにまで健康を心配されるようじゃ…俺もお終いだな。
そう考えて桂が自嘲するような笑みを口の端に浮かべる。
ジュリオはそんな桂をつぶらな瞳で何かを考えるような色を浮かべて見つめた。
桂はその視線にドギマギして顔を少し俯かせた。ふいにさっきジュリオが亮に「カツラを口説きます」と言ったのを思い出したからだ。
少しの沈黙の後、さっきまでの陽気な口調とはまったく違う真摯な声音でジュリオは桂に話しかけた。
「カツラ…私、本当にカツラが好きです。んー。好きになりました。私のコイビトになってください」
単刀直入なジュリオの言葉に桂がパッと顔を上げた。ジッと自分を見つめるジュリオの熱っぽい視線とぶつかって桂は困ったように顔を逸らした。
そんな桂の様子を見て、ジュリオが優しく声を掛けた。
「スミマセン。カツラが困りましたね。でも…私本当にカツラ好きです」
ジュリオの優しい言葉にふいに桂は胸の中が熱くなり込み上げる物を感じていた。目から溢れそうになる涙を慌てて拭いながら桂は顔を上げた。
ジュリオの優しい気遣いも言葉も嬉しい…ずっとこんな優しさに飢えていた…。
ジュリオに縋ってしまえば、きっと楽になれる…。不安なんか絶対感じないのだろう…。
彼の優しさに包まれていられる…。ぽかぽかとした温もりや安心感の中に浸っていられる…。
揺れる胸の内でたくさんの感情がグチャグチャになって桂を苦しめる。
それでも…
桂は顔を上げて泣き濡れた瞳でジュリオを見つめた。掠れそうになる声で…喉に引っかかってしまいそうな言葉をやっと絞り出す。
「ジュリオさん。ありがとうございます。でも…俺…俺…。山本が…好きなんです」
戦慄く唇で絶望的な亮への気持をジュリオに告げる。
絶対リナ以外には知られてはいけない想いだった…。
でもジュリオは自分と亮との間にある何かを感じとってしまっている。それなのに真摯な態度で自分が好きだと言ってくれるジュリオに嘘などつけない…。
桂の瞳からすっと涙が零れた。気付いて桂は乱暴にゴシゴシと目元を擦りながら続けて言う。
「でも…山本には健志さんと言う大切な恋人がいます。山本は彼を愛しています。俺が一人で勝手に…彼を好きなんです」
「分かっています。私、タケシに会った事あります」
ジュリオがやっぱり優しい笑みを目元に浮かべたまま桂に答えた。
「でも、私カツラが好きです。だから…カツラの気持が…んーなんて言ったら良いのかわからないですねェ…。そう…!カツラの気持がクリアーになったら、その時は私の事考えなさい。それまでは、友達で我慢します」
ジュリオの優しい、そして冗談めかした言葉にやっと桂は笑みを浮かべて黙って頷いた。
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