上 下
43 / 95
第七章 カミサマ…お願い…今だけ…俺を彼の本当の恋人でいさせて…

しおりを挟む
 コックを捻って、熱い湯を頭から浴びる。心地よい暖かさに身を任しながら、桂は亮の事を考え続ける。

 いつもみたいに亮がしっかりしていれば、こんな事を考えたり…いや考えるけど…こんなに切なく考えたりしないのに…。

 いつもみたいだったら…俺は都合の良い男を演じていられる。亮の要求を適当にかわして…自分も「ごっこ」を楽しんでいるんだ…そう言う風に見せる事が出来るのに。

 でも今日みたいに無防備な亮の姿を見せられると…「ごっこ」や「契約」や「期間限定」の事なんか忘れてしまって、なんだってしてあげたくなってしまう。

 愛しさばかりが湧きあがって、気持が押さえられなくなってしまう…。

 さっきだって、無邪気にお粥を美味しいと言う彼に、キスしたくなってしまって、その衝動を押さえるのに苦労したのに…。

 桂は全ての考えを振りきるように、頭を左右に激しく振るとシャワーを止める。どんなに色々考えても結論なんて出ない…。

 それよりも、やはり体調の良くない亮が気になって…桂は体を手早く洗うと、パジャマに着替えてバスルームから出た。

 亮の様子をそっと窺がう。微動だにせずに、こちらに背中を向けている亮に桂は苦笑した。さっきの事をまだ怒って拗ねているのか…。

 フッと笑みを零して、桂は亮の毛布をもう一度肩口まで掛けなおしてやる。そして、また亮の髪の毛を梳き上げた。途端に亮の肩がピクリと震えた。それでも亮は何も言わずに、向こうを向いてしまっている。 

 桂は自分も寝る為に蒲団を床に敷いた。

 そういや…リナはいつもこうやって寝てたっけ…。最近めっきり桂の部屋に来なくなったリナを思い出す。新しい恋人と順調らしい様子が、先日会ったときに滲み出ていた。恋人と安定していれば俺の所に来る必要はないしな…。そんな事を思いながら蒲団に入る。

 もう一度亮を見上げながら、明日熱があるようだったら、今度こそ医者に見せないと…と考える。明日は土曜日だから、午前中だったら近所の医者は開いてたな…。桂が明日の予定をあれこれ立てていた時だった。

「どうして…そっちで寝るんだよ…」

 ふて腐れた態度そのままの亮の声が頭上から響いた。

「え…?」

 言っている事が分からずに、桂が枕から顔を上げる。今度は亮が体をこちらに向けて、ベッド下の桂を覗き込んでいた。

「風邪が伝染るの嫌なのか…?」

 今度は弱気な亮の声。その言葉にやっと亮の言いたい事が分かって…桂は笑みを浮かべて答えた。

「違うよ。そのベッドで二人じゃ狭いだろ。今夜はゆっくり休んだ方が良い」

 どうして…こう直球で胸に飛び込んでくるようなことを言うんだろう。今だけだと…体調が悪くて弱気になっているから…余計いつもより甘えたがる…。それは分かっているけど…。

 亮が少し拗ねたような顔をする。

「…じゃ…俺がそっちに行く…。それも…ダメかよ…」

 拗ねた顔そのままで、やっぱり拗ねた口調で言う。甘えた口調に桂が諦めたように一つ息を吐いた。

 熱で潤んだ瞳でそんな顔をされると堪らなかった。あっさりと陥落してしまった、自分の意志の弱さに苦笑しつつ、桂は亮の瞳を見返しながら言った。

「良いよ…。山本が大丈夫なら…。こっちで一緒に寝よ。でも…絶対蒲団はぐなよ」

 桂の答えを聞いて亮が嬉しそうにベッドから滑り降りる。頼りない足取りで、桂の隣に体を横たえると、桂の体にギュッとしがみついた。

 幸せな思いで、桂も亮の体を自分の胸に抱き寄せる。亮がくぐもぐった声で囁いた。

「いつもと逆だな…。ゴメン…」

 自分の胸に顔を埋める亮の頭に、自分も顔を押し付けると桂は久し振りに亮の香りを吸い込んだ。それだけで気持が落ち着く気がして…。

「別に…良いよ。たまには良いよな…」

 亮がコクンと頷くのを、桂は愛しそうに見つめた。亮の体をあやすように優しく擦りながら、さっきの考えを訂正する。

…良いよな、たまには…。一つ目、二つ目の亮のお願いを断ったから…。今だけは…俺が亮の本当の恋人…。だから三つ目ぐらいは叶えたって…。
 
 思って、桂はもう眠りに落ちた亮の額に、ゆっくりとキスをしていた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。 それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。 俺の自慢の兄だった。 高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。 「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」 俺は兄にめちゃくちゃにされた。 ※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。 ※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。 ※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。 ※こんなタイトルですが、愛はあります。 ※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。 ※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...