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第六章 あいつはどんどん俺を蝕んでいく…甘い毒なんだ…
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今度は亮の方が驚きで瞳を見開く。
一瞬顔が怒りで赤らんだように見えた。気持を落ちつかせるように亮は一旦桂から視線を逸らすと、一つ呼吸を吐出した。手の中のキーを握り締めると桂に視線を戻す。
「…どうしてだよ…?」
低く呟くように出された言葉。まるで亮の怒りそのままのような気がして桂は胸を悲しみで震わせる。
…俺は受け取っちゃいけない…受けとってしまえば…また苦しくなる…。
桂はやっと言葉を絞り出す。
「俺が…持つべき物じゃない…よ。山本、それは健志さんが持つべきものだろ?冗談でも…そんな事するな…。俺は暑くないから…大丈夫。もし俺がロビーに居るの迷惑だったら…そこの喫茶店にでもいるから…」
…欲しい…亮の部屋の鍵…でも…。
それを持っているだけで、俺はきっと幸せを感じてしまうから…。
そして、その後にくる…鍵を手放す日を恐れてしまうから…だから…受け取っちゃいけないんだ…。
亮は、そう言い募る桂をジッと見つめていた。
何か言われるかも…と桂は一瞬怯えたが、桂の返事を聞いた亮の答えはあっさりしたものだった。
「…そうか…分かった…。この鍵は健志が帰国したら…渡すよ…」
そして、手の中の鍵をポケットに押し込んだ。桂は疼くような痛みを堪えると、亮に笑いかけながら告げた。
「俺…今夜は帰るよ。ちょっと仕事が溜まっていて…。片付けなきゃいけないんだ…」
ひどく無表情になった亮が、分かったと答える。
桂は涙腺が緩みそうになるのを必至で堪えながら帰り支度をする。
リビングの中央でなんの表情も見せずに立っている亮が…怖くて…鍵を欲しいと思ってしまう自分が嫌で…未練を断ち切るように、桂は鞄を取ると亮の横をすり抜けて玄関へ向かおうとした。
「…待てよ…」
亮が自分の横を通り抜けようとした桂の腕を、強い力で掴んだ。行きそうになるのを、許さないとばかりに強く握り締める。
「あ…。何…?」
腕を折られそうな程の強い力…亮の瞳は暗く翳って何を考えているのか桂には分からない。
「送る…。…車で送るから…」
「…え…?」
自分が聞いた亮の言葉が信じられず、桂は一瞬耳を疑う。亮に送ってもらった事など一度もなかったのに。
亮は不機嫌さを顕に顔を顰めると
「いいから…マンションの場所教えろよ。いいか?今度は、コンビニは無しだ」
いっそう桂の腕を掴む手に力を込めると、亮は威圧するような口調でそう言ったのだった。
一瞬顔が怒りで赤らんだように見えた。気持を落ちつかせるように亮は一旦桂から視線を逸らすと、一つ呼吸を吐出した。手の中のキーを握り締めると桂に視線を戻す。
「…どうしてだよ…?」
低く呟くように出された言葉。まるで亮の怒りそのままのような気がして桂は胸を悲しみで震わせる。
…俺は受け取っちゃいけない…受けとってしまえば…また苦しくなる…。
桂はやっと言葉を絞り出す。
「俺が…持つべき物じゃない…よ。山本、それは健志さんが持つべきものだろ?冗談でも…そんな事するな…。俺は暑くないから…大丈夫。もし俺がロビーに居るの迷惑だったら…そこの喫茶店にでもいるから…」
…欲しい…亮の部屋の鍵…でも…。
それを持っているだけで、俺はきっと幸せを感じてしまうから…。
そして、その後にくる…鍵を手放す日を恐れてしまうから…だから…受け取っちゃいけないんだ…。
亮は、そう言い募る桂をジッと見つめていた。
何か言われるかも…と桂は一瞬怯えたが、桂の返事を聞いた亮の答えはあっさりしたものだった。
「…そうか…分かった…。この鍵は健志が帰国したら…渡すよ…」
そして、手の中の鍵をポケットに押し込んだ。桂は疼くような痛みを堪えると、亮に笑いかけながら告げた。
「俺…今夜は帰るよ。ちょっと仕事が溜まっていて…。片付けなきゃいけないんだ…」
ひどく無表情になった亮が、分かったと答える。
桂は涙腺が緩みそうになるのを必至で堪えながら帰り支度をする。
リビングの中央でなんの表情も見せずに立っている亮が…怖くて…鍵を欲しいと思ってしまう自分が嫌で…未練を断ち切るように、桂は鞄を取ると亮の横をすり抜けて玄関へ向かおうとした。
「…待てよ…」
亮が自分の横を通り抜けようとした桂の腕を、強い力で掴んだ。行きそうになるのを、許さないとばかりに強く握り締める。
「あ…。何…?」
腕を折られそうな程の強い力…亮の瞳は暗く翳って何を考えているのか桂には分からない。
「送る…。…車で送るから…」
「…え…?」
自分が聞いた亮の言葉が信じられず、桂は一瞬耳を疑う。亮に送ってもらった事など一度もなかったのに。
亮は不機嫌さを顕に顔を顰めると
「いいから…マンションの場所教えろよ。いいか?今度は、コンビニは無しだ」
いっそう桂の腕を掴む手に力を込めると、亮は威圧するような口調でそう言ったのだった。
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