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第三章 恋人ごっこをするなら、自覚しないと...
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彼の部屋は桂の部屋からは電車で5つ目。偶然にも同じ沿線だった。
時間にすれば歩きを入れても彼のマンションまで40分足らず。
もっとも桂が住む地域は川崎市。亮の住むのは横浜市と若干の地理の違いはあったが…。
「…意外に近かったんだよな…。」
ゴトゴト電車に揺られながら桂は考える。今朝始発で帰ってきたルートをまた戻っている自分に可笑しさを感じてしまう。
亮の電話から、タップリ2時間は経っていた。あれっきり彼からは催促の電話は無い…。
着ていく洋服を色々考えたりしているうちに時間が経ってしまっていた。考えても洋服は増えたりしない…。と諦めて桂は着慣れたコットンシャツにジーンズ。それにお気に入りのスニーカーというラフな格好だった。
そして手にはスーパーのビニール袋。
いつもの服装で気分も落ち着いたのか、鼻歌交じりに亮のマンションへ向かう。
今朝、帰るときは駅までの道に迷ったが(それこそ犬の散歩をしている人に道を尋ねてしまっていたのだ!)
もともと分かりやすい道だったので、今度は難なく辿り着く事が出来た。
海にほど近い高級マンション。
エントランスも部外者が入れないようにロックが掛かっている。
訪問者は部屋のブザーを鳴らして来訪を告げ、住人にエントランスのロックを解除して貰わないと入れない。
1101号室…亮のインターフォンを押そうと指を伸ばして、一瞬桂は躊躇う。
気持を落ち着かせる様に一つ息を吸い込むと意を決したようにそれを押した。
Bu――――――.響く無機質な電子音。
そして…。
『…はい…』
やっぱり不機嫌な…電話の時よりも数段機嫌が悪そうな声音。
「すみません…伊東…桂…です」
『・・・』
返答は無し。
それでもカチャっというロックの解除される音が聞こえてきて、桂はゆっくりとエントランスのガラスドアを押した。
部屋に入り、所在なげに立ち尽くす。
彼は、苛々した態度そのままで乱暴に手を振って座るように促した。
桂は手に持っていたスーパーの袋をテーブルに置くと、ソロソロとソファーに腰掛けた。
目のやり場に困り視線を自分の足下に落とす。でも亮の事が気になってチラリと上目遣いに見た。
「…どうして…今朝…勝手に帰ったんだよ。」
亮はドスッと音をたてて乱暴に自分もソファーに座ると、膝に肘をつき両手を組んで桂を見据えて尋ねてきた。
その瞳にはまだ、不機嫌そうな色が残っている。
「…すみません…」
桂が叱られた子供のように項垂れて謝ると、亮はきつい口調で桂の謝罪を遮るように言葉を継いだ。
「俺は謝れとは言ってない…。どうして帰ったのか理由を聞きたいんだ。心配するだろう…。」
―心配するだろう—
その最後の言葉で桂がアッと顔を上げた。そう…自分は彼に心配をかけてしまっていたんだ…。
普通なら、用事があるから…とか…せめて…帰る…その一言をメモにして残しておくだろう。
自分は自分の気持に一杯一杯でそこまで相手を気遣う余裕が無かった…。
彼に無用な心配をかけてしまった…。
「…イヤだったのか…?俺と…その…付き合うのが…?」
少し言いにくそうに亮が尋ねる。
-イヤなわけなんてない…。
桂は黙って頭を振るとやっと声を絞り出した。
「すみません…仕事が残っていたの思い出して…。すぐに片付けなきゃいけなかったので…」
すみません…桂がもう一度繰り返した。言えない…言えるわけない…。
桂は続ける。
「良く眠っていらしたので起こすの悪いと思って…。メモぐらい残しておくべきでした…。すみません…。非常識でした」
言えるわけなんかないんだ…貴方が好きに…好きになりすぎそうで…怖いから…逃げ出した…なんて…。
亮が心持表情を緩めると言った。
「そう…良かった…。俺…嫌われたのかと思って…」
いつにない弱気な彼の声。慌てて桂が首を振って否定した。
「まさか…!違います…!そんな事ありません!」
彼を傷つけた…後悔が湧き起こる。自分勝手な…独りよがりな自分を桂は責めた。
必至で詫びる桂に亮はやっと微笑を見せる。その笑みは桂が好きな笑顔で、その笑顔を見るだけで胸がさざめいた。
「いいよ…ごめん…。俺も少し…大人げなかった…。怒ったりして悪かったよ」
ホッとしたような表情で亮は立ちあがると、どっか…飯でも食いに行こうか?腹減らない…?、と優しい笑顔で桂に問う。
その笑みを見詰め返しながら、桂がアッと言うような顔を見せた。
「そうだ…!忘れてた!」
叫ぶ桂を怪訝そうに亮が見詰める。桂は自分が持ってきたスーパーのビニール袋を見た。
俺は俺らしく…いよう。亮の本命と張り合う事など無駄な事だから…。
そう思って…。
ここに来る途中決めていた。10ヶ月…楽しむんだ…。
桂は自分も立ちあがると、持ってきたスーパーの袋を取り上げた。満面の笑みを亮に向けると、言った。
「俺…夕飯作りますから。台所、借りても良いですか?」
時間にすれば歩きを入れても彼のマンションまで40分足らず。
もっとも桂が住む地域は川崎市。亮の住むのは横浜市と若干の地理の違いはあったが…。
「…意外に近かったんだよな…。」
ゴトゴト電車に揺られながら桂は考える。今朝始発で帰ってきたルートをまた戻っている自分に可笑しさを感じてしまう。
亮の電話から、タップリ2時間は経っていた。あれっきり彼からは催促の電話は無い…。
着ていく洋服を色々考えたりしているうちに時間が経ってしまっていた。考えても洋服は増えたりしない…。と諦めて桂は着慣れたコットンシャツにジーンズ。それにお気に入りのスニーカーというラフな格好だった。
そして手にはスーパーのビニール袋。
いつもの服装で気分も落ち着いたのか、鼻歌交じりに亮のマンションへ向かう。
今朝、帰るときは駅までの道に迷ったが(それこそ犬の散歩をしている人に道を尋ねてしまっていたのだ!)
もともと分かりやすい道だったので、今度は難なく辿り着く事が出来た。
海にほど近い高級マンション。
エントランスも部外者が入れないようにロックが掛かっている。
訪問者は部屋のブザーを鳴らして来訪を告げ、住人にエントランスのロックを解除して貰わないと入れない。
1101号室…亮のインターフォンを押そうと指を伸ばして、一瞬桂は躊躇う。
気持を落ち着かせる様に一つ息を吸い込むと意を決したようにそれを押した。
Bu――――――.響く無機質な電子音。
そして…。
『…はい…』
やっぱり不機嫌な…電話の時よりも数段機嫌が悪そうな声音。
「すみません…伊東…桂…です」
『・・・』
返答は無し。
それでもカチャっというロックの解除される音が聞こえてきて、桂はゆっくりとエントランスのガラスドアを押した。
部屋に入り、所在なげに立ち尽くす。
彼は、苛々した態度そのままで乱暴に手を振って座るように促した。
桂は手に持っていたスーパーの袋をテーブルに置くと、ソロソロとソファーに腰掛けた。
目のやり場に困り視線を自分の足下に落とす。でも亮の事が気になってチラリと上目遣いに見た。
「…どうして…今朝…勝手に帰ったんだよ。」
亮はドスッと音をたてて乱暴に自分もソファーに座ると、膝に肘をつき両手を組んで桂を見据えて尋ねてきた。
その瞳にはまだ、不機嫌そうな色が残っている。
「…すみません…」
桂が叱られた子供のように項垂れて謝ると、亮はきつい口調で桂の謝罪を遮るように言葉を継いだ。
「俺は謝れとは言ってない…。どうして帰ったのか理由を聞きたいんだ。心配するだろう…。」
―心配するだろう—
その最後の言葉で桂がアッと顔を上げた。そう…自分は彼に心配をかけてしまっていたんだ…。
普通なら、用事があるから…とか…せめて…帰る…その一言をメモにして残しておくだろう。
自分は自分の気持に一杯一杯でそこまで相手を気遣う余裕が無かった…。
彼に無用な心配をかけてしまった…。
「…イヤだったのか…?俺と…その…付き合うのが…?」
少し言いにくそうに亮が尋ねる。
-イヤなわけなんてない…。
桂は黙って頭を振るとやっと声を絞り出した。
「すみません…仕事が残っていたの思い出して…。すぐに片付けなきゃいけなかったので…」
すみません…桂がもう一度繰り返した。言えない…言えるわけない…。
桂は続ける。
「良く眠っていらしたので起こすの悪いと思って…。メモぐらい残しておくべきでした…。すみません…。非常識でした」
言えるわけなんかないんだ…貴方が好きに…好きになりすぎそうで…怖いから…逃げ出した…なんて…。
亮が心持表情を緩めると言った。
「そう…良かった…。俺…嫌われたのかと思って…」
いつにない弱気な彼の声。慌てて桂が首を振って否定した。
「まさか…!違います…!そんな事ありません!」
彼を傷つけた…後悔が湧き起こる。自分勝手な…独りよがりな自分を桂は責めた。
必至で詫びる桂に亮はやっと微笑を見せる。その笑みは桂が好きな笑顔で、その笑顔を見るだけで胸がさざめいた。
「いいよ…ごめん…。俺も少し…大人げなかった…。怒ったりして悪かったよ」
ホッとしたような表情で亮は立ちあがると、どっか…飯でも食いに行こうか?腹減らない…?、と優しい笑顔で桂に問う。
その笑みを見詰め返しながら、桂がアッと言うような顔を見せた。
「そうだ…!忘れてた!」
叫ぶ桂を怪訝そうに亮が見詰める。桂は自分が持ってきたスーパーのビニール袋を見た。
俺は俺らしく…いよう。亮の本命と張り合う事など無駄な事だから…。
そう思って…。
ここに来る途中決めていた。10ヶ月…楽しむんだ…。
桂は自分も立ちあがると、持ってきたスーパーの袋を取り上げた。満面の笑みを亮に向けると、言った。
「俺…夕飯作りますから。台所、借りても良いですか?」
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