〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第二章  彼のために・・・自分のために・・・唇へのキスはしない・・・

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 遊びだから…契約だから…割り切った大人の関係だから…。楽しむ事だけを…考えよう…。

 彼の車で横浜へ向いながら、桂は何度もそう自分に言い聞かせる。レストランでの食事はとても楽しくて…自分が本当の彼の恋人になったかのような錯覚を感じてしまう…。

 でも…そんな事はありえないのだから…。

 良く自覚して気をつけないと…。

 車窓を流れていく夜景を見詰めながら、桂は自分を諌めつづけていた。黙りこくってしまった桂を気にしたのか亮が声を掛ける。

「どうした…?疲れた…?」

 いつもの傲慢そうな口調ではない、気遣うような優しい声音。桂はピクリと肩を震わすと亮を振り返った。

「いいえ…。済みません。夜景がとても綺麗なんで…見惚れちゃいました」

 桂の答えに亮がビックリしたような表情をチラリと向けて、クスリと笑った。

「俺…なんか…変な事言いました」

 亮に鼻先で笑われて、桂が少しムッとしたような口調で訊ねる。彼は、イヤ…と答えると続けた。

「あんまり素直なんで…俺の方がビックリした。夜景が綺麗なんて…今時言う奴がいるなんて思わなかったからさ。気分悪くしたなら謝るよ。珍しくってさ…」

…珍しい…。
 そうか俺は彼の周りにはいないタイプなのか。そうだよな。俺はダサいし、ただの日本語講師だし。バリバリ営業をこなす彼の恋人や会社の経営に携わる彼とは全然違うから。

 珍しい…彼が自分を恋人ごっこの候補に上げた理由が、その一言で納得いったような気がして桂は苦笑いを心の中で浮かべた。

 ドラマの中のような恋愛やデートを亮は健志と楽しむのだろう。

 健志がいない間、毛色の変わったことを経験したいと思うのは…当然の心理だよな。

 リナが聞いたら恐らく眼をむいて怒るような、卑屈な理由を考えて一瞬だけ桂は胸に寂しさがよぎるのを感じた。 

 もう一度車窓に眼を戻しながら、桂は「良いんだ」と自分に言い聞かせていた。
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