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教会から荘厳な弔いの鐘が鳴りはじめるのを耳にすると、サブリナは地面に両膝をついた。
神父がとうとうと今世との別れの祈りを、死者と参列者に語り始めると、サブリナも手を組み彼女への祈りを一心に捧げる。
共に過ごした穏やかさと優しさに満ちたわずかな時間が脳裏を騒がしく駆け巡り、涙が少し流れてしまう。
彼女は驚くほどたおやかで優しくて、そして自分なんかよりも遥かに慈愛に溢れた芯の強い女性だった。
「ブリーは私《ワタクシ》を癒す天使なのよ」
献身と愛情に満ちた夫人に、そう言われるたび、心が面映くなり、自分の職務に誇りが持てたものだった。
自分のしたことは、結局は彼女を騙すことになったけど、後悔はしていない。そのおかげで、彼女は旅立つまで、望んだ通りの幸福の中にいたからと信じているからだ。
そして自分だって身に余る幸福を頂いた・・・。
葬儀へ参列して欲しい、と言われたが公爵家、しかも現王政の宰相夫人の葬儀ともなれば親戚、縁者、貴族院の議員関係者等も含めて参列者も多い。
そんな中に、悪い評判もある自分がいては、目立つし公爵家の外聞も悪いからと断り、代わりに墓地の隅、奥まった木立に囲まれた姿を見られないこの場所で、見送ることを許して欲しいと願った。
その願いに優しいあの方は、一瞬、その瞳をなにか考える時と同じように眇めたが、すぐにいつも通りの表情に戻ると、分かった、許可すると答えてくれた。
神父の祈りが死者への弔いと来世への祝福になると、いよいよ別れへの時間となったようだ。
夫である公爵からはじまり、誰もが棺に花を手向け別れの言葉を述べている。
そこかしこから嗚咽が聞こえて来る。
サブリナは最後に嫡男である彼がそれを行うのを見つめ、そして立ち上がった。彼女へ別れを告げることが出来たからだ。
喪服についた土汚れを払い、トーク帽を脱ぎ手袋を外すと、傍らのバッグを持って、それらを押し込む。
ここでやれることは、もうない。自分の役割は終わった。
さあ、元の場所に帰ろう...サブリナはコートを羽織ると、心の中に居座りつづける全ての感情に蓋をして、その場を後にしたのだった。
神父がとうとうと今世との別れの祈りを、死者と参列者に語り始めると、サブリナも手を組み彼女への祈りを一心に捧げる。
共に過ごした穏やかさと優しさに満ちたわずかな時間が脳裏を騒がしく駆け巡り、涙が少し流れてしまう。
彼女は驚くほどたおやかで優しくて、そして自分なんかよりも遥かに慈愛に溢れた芯の強い女性だった。
「ブリーは私《ワタクシ》を癒す天使なのよ」
献身と愛情に満ちた夫人に、そう言われるたび、心が面映くなり、自分の職務に誇りが持てたものだった。
自分のしたことは、結局は彼女を騙すことになったけど、後悔はしていない。そのおかげで、彼女は旅立つまで、望んだ通りの幸福の中にいたからと信じているからだ。
そして自分だって身に余る幸福を頂いた・・・。
葬儀へ参列して欲しい、と言われたが公爵家、しかも現王政の宰相夫人の葬儀ともなれば親戚、縁者、貴族院の議員関係者等も含めて参列者も多い。
そんな中に、悪い評判もある自分がいては、目立つし公爵家の外聞も悪いからと断り、代わりに墓地の隅、奥まった木立に囲まれた姿を見られないこの場所で、見送ることを許して欲しいと願った。
その願いに優しいあの方は、一瞬、その瞳をなにか考える時と同じように眇めたが、すぐにいつも通りの表情に戻ると、分かった、許可すると答えてくれた。
神父の祈りが死者への弔いと来世への祝福になると、いよいよ別れへの時間となったようだ。
夫である公爵からはじまり、誰もが棺に花を手向け別れの言葉を述べている。
そこかしこから嗚咽が聞こえて来る。
サブリナは最後に嫡男である彼がそれを行うのを見つめ、そして立ち上がった。彼女へ別れを告げることが出来たからだ。
喪服についた土汚れを払い、トーク帽を脱ぎ手袋を外すと、傍らのバッグを持って、それらを押し込む。
ここでやれることは、もうない。自分の役割は終わった。
さあ、元の場所に帰ろう...サブリナはコートを羽織ると、心の中に居座りつづける全ての感情に蓋をして、その場を後にしたのだった。
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