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地下室での対話Ⅲ
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蜂谷が「そう……」と、小さく呟くのを俺は聞いていた。最後の力を振り絞って暴れかける宗二郎を蜂谷が二度三度と壁と床に投げ飛ばし完全にぐったりするのを俺は傍観していた。気を失っているようだが微かに胸が動いているから生きているのだろう。ふいに、昔の光景がフラッシュバックして気分が高揚してくるのだった。
俺はいじめをしている自分のことを、まったく肯定していなかった。
いじめを虐めとして認識して悪いことだとわかった上で実行していた。
いじめをして高揚している自分のことを嫌悪しているほどだ。だから、身体的に或いは性的にいじめをさせて、自分は傍観していた。今思っても一番タチが悪いが、当時は免罪符のように思っていた。それに、限界を見極める役目を買って出ていた。沖のことを除けば。俺は知っている。
教室の、一番後ろの掃除用具ロッカーの中に昼休み後の掃除の時間から汚れた掃除用具と一緒にずっと沖を入れており、先生には帰ったことにしていた。でも、本当はそうじゃないってことは、わかってたと思う。俺以外の人間も、クラス全員が知っていた。知っていて、黙ってるんだから、皆タチが悪いよな。ただ俺は、皆が意地悪や悪の楽しさ自分が標的になっていない安ど感の上で楽しんでいるのとは違い、性的に興奮して、たまらなかったのだった。しかし、そんなことは誰に気が付かれてもいけない。前の日に女子高生の見た目にさせて沖に買ってこさせた所謂大人の玩具というものを長箒の柄と一緒につっこみ、乳首にとりつけ、洗濯ばさみで皮膚の敏感な箇所を挟んで、陸上の奴らが使っている縄跳びで縛り、口には何もしなかった。声を上げたければ上げたらいい、と言うと既に赤みをおびた皮膚が余計に紅潮し、目の奥に悲痛なゆらめきを作っても、その瞬間からもう、唇を結び、従順に、黙って、しかし身体が震えていた。沖は頑張っているようだった。俺は一番後ろの席に座っていたから、俺にだけ、微かに聞こえるのだった。震える音や、声、軋みが。その度、背中をつつつと人差し指で沖になぞられているような感覚を覚えて、目の奥に温かな涙が溜まるのだった。今すぐにでも出して、抱きしめてやりたいと思うが、それは、今の邪悪な俺にはできないし、してはいけないことだった。五時間目の辺りで、沖が漏らしたのがわかった。臭いが教室の背後に漂って忍び笑いが聞えていた。俺だけが彼が、我慢しきれずじわじわと漏らしている音を聞いて、教科書を立て、頭を軽く伏せ、震えながら高揚し、勃起した。態度の悪さからか、先生に指名されたが、すぐに切り替えすらすらと言うべきことを答えた。はっきりと明確に、動揺しているところを露とも見せてはいけない、沖にも聞こえるように、話さないといけないから。今日の午後の先生は後ろまでは来ない先生ばかりだから漏らしても問題はない。そういう曜日を選定してやることにしているから。大体のメニューは環境とセットで考えるのだ。放課後になった。皆には、朝までそのままにしておこうぜと言って、一度家に帰ってから、俺は夜道を走り、沖を、迎えに戻った。学校が、果てしなく遠かった。
「動かなくなりましたが、生きてます。」
蜂谷は宗二郎を叩きのめし乾いていた瞳を、ふいに、こちらに向けた。記憶の中から、現在へ意識が引き戻される。同時にさっきまでなかった、蜂谷の瞳の奥の方に煩悩が立ち昇っているのが俺にはわかった。蜂谷は地下室に降りてきた途端、俺と宗二郎のやりとりを妬み、羨ましく思い興奮しているのだと思った。
肉体にとどまらず、感情の中までぐちゃぐちゃに濡れていることが、わかる。
だから、今は相手をしてやりたくない。
「ところでお前、来栖にはもう会ったか。」
「来栖?ああ、ここに来た時、一度だけ。管理人の、アルバイト、ですか?見たところ高校生か大学生くらいの方ですよね。愛嬌のある方でしたが、地元の人間ですか。」
「いや、奴の出自は全くこことは関係ない。寧ろ関係があったら困るんだよ。彼は殺人鬼なんだから。あと少し、ここがおかしい。」
俺は頭の横でくるくると指を回した。
「……。殺人鬼?」
「お前信じてないな。覚えてないかもしれないが二年ほど前にS県で立て続けに連続殺人があったろ。連続12週間、決まった曜日決まった時刻に人が殺され続けた、あれだよ。警察も無能だよな。」
蜂谷は考えるように視線を足元に落とし、その内興奮も冷めてきていたようだった。
「ああ、思い出しました。善太郎さんには奇妙なご友人が多いのですね。」
歪な笑みと共に若干吐き捨てるようにそう言って彼は一歩距離を詰め、歪な笑みで俺を見下げた。
「でぇ、それが何か、今、今、関係あるのですか?」
「今から来栖もここに来ることになってるんだよ。これから宗二郎に、『山が良いか、海が良いか』と、聞くんだ。山と言ったら、お前と。海と言ったら、来栖と始末をつけることにするんだよ。」
蜂谷が口を開きかけた時、天井の扉が開き、当の来栖が降りてきてた。
「相変わらずの蒸し暑さですね。」
来栖は手で顔を仰ぐようにしながら降り立った。蜂谷が来栖を目を細め凝視し、吟味している。
「とても殺人鬼とは思えませんね、だってガキじゃないですか。」
来栖は「そういう身なりにしてるんだよ。ガキっぽい方が警戒されないから。」と急に低い声を出し蜂谷を驚かせたようだった。俺も最初は驚いたものだが、来栖については聞けば聞く程こちらの頭が狂いそうになるので愉快だった。自分より全体的にどうかしている人間が一人でもいると非常に安心するのだ。人は下を見て、安心したいんだ。
「ああ、じゃあ実年齢は私よりずっと上かもしれないということですか。」
「年齢?僕には関係ないことですよ。好きに想像してください。」
「私には教えたくないというわけですか。」
「いえ、本当に無いに等しいんです。だって、僕は地球人が一番警戒を解きやすそうな姿態をコピーしているだけなので。」
「は?地球人?」
「あれ、舞阪さんから聞いてないんですね。僕はこの星の人間では無いんですよ。」
「……。」
「だからこの星の礼儀作法というものがよくわかっていないのです。それで事件ってことになってしまった。」
「姿態をコピーしてる、とか、言いましたよね。じゃあその姿態を今ここで解いて本当の姿を見せてくれませんか。そうしたら信じてやりますよ。」
蜂谷は俺の方をちらと見て、何か納得したような顔をした。
俺が頭の横で指を回していたのを思い出したのだろう。
「それは無理です。」
「ほら、じゃあ。」
「勘違いしないでください、今は、無理なんです。条件がそろわないと駄目だ。どうしてもというなら後から個人的にお見せできる時をお伝えします。とにかく今この場で解くと大変なことになりますし、今はそういう時間ではないでしょ、ね、舞阪さん、僕か蜂谷さんかどちらかが一緒に遊べるんでしょ?」
来栖が人懐っこい幼さの残る笑みを浮かべ、俺と蜂谷を交互に見て「ああ、蜂谷さん、舞阪さんのことがそんなにお好きなんですね、だったら身を引きますよ、僕。」と言った。
「駄目だ、”海”の場合はお前とやった方が面白いから。」
「ふぅん、そうなんですか。まあここでは舞阪さんが一番偉いんだから、従いますよ僕は。」
俺はいじめをしている自分のことを、まったく肯定していなかった。
いじめを虐めとして認識して悪いことだとわかった上で実行していた。
いじめをして高揚している自分のことを嫌悪しているほどだ。だから、身体的に或いは性的にいじめをさせて、自分は傍観していた。今思っても一番タチが悪いが、当時は免罪符のように思っていた。それに、限界を見極める役目を買って出ていた。沖のことを除けば。俺は知っている。
教室の、一番後ろの掃除用具ロッカーの中に昼休み後の掃除の時間から汚れた掃除用具と一緒にずっと沖を入れており、先生には帰ったことにしていた。でも、本当はそうじゃないってことは、わかってたと思う。俺以外の人間も、クラス全員が知っていた。知っていて、黙ってるんだから、皆タチが悪いよな。ただ俺は、皆が意地悪や悪の楽しさ自分が標的になっていない安ど感の上で楽しんでいるのとは違い、性的に興奮して、たまらなかったのだった。しかし、そんなことは誰に気が付かれてもいけない。前の日に女子高生の見た目にさせて沖に買ってこさせた所謂大人の玩具というものを長箒の柄と一緒につっこみ、乳首にとりつけ、洗濯ばさみで皮膚の敏感な箇所を挟んで、陸上の奴らが使っている縄跳びで縛り、口には何もしなかった。声を上げたければ上げたらいい、と言うと既に赤みをおびた皮膚が余計に紅潮し、目の奥に悲痛なゆらめきを作っても、その瞬間からもう、唇を結び、従順に、黙って、しかし身体が震えていた。沖は頑張っているようだった。俺は一番後ろの席に座っていたから、俺にだけ、微かに聞こえるのだった。震える音や、声、軋みが。その度、背中をつつつと人差し指で沖になぞられているような感覚を覚えて、目の奥に温かな涙が溜まるのだった。今すぐにでも出して、抱きしめてやりたいと思うが、それは、今の邪悪な俺にはできないし、してはいけないことだった。五時間目の辺りで、沖が漏らしたのがわかった。臭いが教室の背後に漂って忍び笑いが聞えていた。俺だけが彼が、我慢しきれずじわじわと漏らしている音を聞いて、教科書を立て、頭を軽く伏せ、震えながら高揚し、勃起した。態度の悪さからか、先生に指名されたが、すぐに切り替えすらすらと言うべきことを答えた。はっきりと明確に、動揺しているところを露とも見せてはいけない、沖にも聞こえるように、話さないといけないから。今日の午後の先生は後ろまでは来ない先生ばかりだから漏らしても問題はない。そういう曜日を選定してやることにしているから。大体のメニューは環境とセットで考えるのだ。放課後になった。皆には、朝までそのままにしておこうぜと言って、一度家に帰ってから、俺は夜道を走り、沖を、迎えに戻った。学校が、果てしなく遠かった。
「動かなくなりましたが、生きてます。」
蜂谷は宗二郎を叩きのめし乾いていた瞳を、ふいに、こちらに向けた。記憶の中から、現在へ意識が引き戻される。同時にさっきまでなかった、蜂谷の瞳の奥の方に煩悩が立ち昇っているのが俺にはわかった。蜂谷は地下室に降りてきた途端、俺と宗二郎のやりとりを妬み、羨ましく思い興奮しているのだと思った。
肉体にとどまらず、感情の中までぐちゃぐちゃに濡れていることが、わかる。
だから、今は相手をしてやりたくない。
「ところでお前、来栖にはもう会ったか。」
「来栖?ああ、ここに来た時、一度だけ。管理人の、アルバイト、ですか?見たところ高校生か大学生くらいの方ですよね。愛嬌のある方でしたが、地元の人間ですか。」
「いや、奴の出自は全くこことは関係ない。寧ろ関係があったら困るんだよ。彼は殺人鬼なんだから。あと少し、ここがおかしい。」
俺は頭の横でくるくると指を回した。
「……。殺人鬼?」
「お前信じてないな。覚えてないかもしれないが二年ほど前にS県で立て続けに連続殺人があったろ。連続12週間、決まった曜日決まった時刻に人が殺され続けた、あれだよ。警察も無能だよな。」
蜂谷は考えるように視線を足元に落とし、その内興奮も冷めてきていたようだった。
「ああ、思い出しました。善太郎さんには奇妙なご友人が多いのですね。」
歪な笑みと共に若干吐き捨てるようにそう言って彼は一歩距離を詰め、歪な笑みで俺を見下げた。
「でぇ、それが何か、今、今、関係あるのですか?」
「今から来栖もここに来ることになってるんだよ。これから宗二郎に、『山が良いか、海が良いか』と、聞くんだ。山と言ったら、お前と。海と言ったら、来栖と始末をつけることにするんだよ。」
蜂谷が口を開きかけた時、天井の扉が開き、当の来栖が降りてきてた。
「相変わらずの蒸し暑さですね。」
来栖は手で顔を仰ぐようにしながら降り立った。蜂谷が来栖を目を細め凝視し、吟味している。
「とても殺人鬼とは思えませんね、だってガキじゃないですか。」
来栖は「そういう身なりにしてるんだよ。ガキっぽい方が警戒されないから。」と急に低い声を出し蜂谷を驚かせたようだった。俺も最初は驚いたものだが、来栖については聞けば聞く程こちらの頭が狂いそうになるので愉快だった。自分より全体的にどうかしている人間が一人でもいると非常に安心するのだ。人は下を見て、安心したいんだ。
「ああ、じゃあ実年齢は私よりずっと上かもしれないということですか。」
「年齢?僕には関係ないことですよ。好きに想像してください。」
「私には教えたくないというわけですか。」
「いえ、本当に無いに等しいんです。だって、僕は地球人が一番警戒を解きやすそうな姿態をコピーしているだけなので。」
「は?地球人?」
「あれ、舞阪さんから聞いてないんですね。僕はこの星の人間では無いんですよ。」
「……。」
「だからこの星の礼儀作法というものがよくわかっていないのです。それで事件ってことになってしまった。」
「姿態をコピーしてる、とか、言いましたよね。じゃあその姿態を今ここで解いて本当の姿を見せてくれませんか。そうしたら信じてやりますよ。」
蜂谷は俺の方をちらと見て、何か納得したような顔をした。
俺が頭の横で指を回していたのを思い出したのだろう。
「それは無理です。」
「ほら、じゃあ。」
「勘違いしないでください、今は、無理なんです。条件がそろわないと駄目だ。どうしてもというなら後から個人的にお見せできる時をお伝えします。とにかく今この場で解くと大変なことになりますし、今はそういう時間ではないでしょ、ね、舞阪さん、僕か蜂谷さんかどちらかが一緒に遊べるんでしょ?」
来栖が人懐っこい幼さの残る笑みを浮かべ、俺と蜂谷を交互に見て「ああ、蜂谷さん、舞阪さんのことがそんなにお好きなんですね、だったら身を引きますよ、僕。」と言った。
「駄目だ、”海”の場合はお前とやった方が面白いから。」
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