堕ちる犬

四ノ瀬 了

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奴隷ってのは健康でなくちゃいけないからな。

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 小屋を出る前に、霧野は美里から問われた。

「このまま車まで行くか?着替えが必要か?」

 霧野は、そのままの姿で丘を下っていく方を選んで、美里の気分の高揚を維持させた。
 丘の下に車が見え、その横に人が立っていることに気が付き、霧野の足並みが乱れた。美里と二人だと思ったから、犬の姿で我慢することを、承諾したのだ。

 丘の下には、ライフル銃を肩に担いだ間宮(黒木)が立って、二人の様子を見ていた。首からは双眼鏡垂れ下がってた。間宮は、霧野の迎えに、川名の命令で、美里は嫌がったが、同行することになっていた。間宮は、にやにやと霧野を見下ろしながら、慣れた手つきでライフル銃に装てんされていた弾を抜き取って、ポケットに滑り込ませた。もし問題が起きれば、いつでも発砲して霧野を脅すか殺せるように支度していたのだった。双眼鏡で、間宮は一部始終を遠くからずっと見守っていた。間宮は、美里の車の後部座席にライフル銃を投げこみ、代わりに巨大なトランクケースを取り出し、どすんと地面に置いた。そして、美里の方を伺った。

「せっかくだし、これにしまっていくか?」

 美里は間宮が持ってきていたその巨大なトランクケースが、一体何のためのものか気になっていたが、行きの道中で、彼と口を聞きたくなかったため、何か聞かなかった。彼はトランクケースと一緒に美里の車の後部座席に座って、黙っていた。しかし、バックミラー越しにずーっと美里の方を見て、挑発的な笑みを見せていた。あまりにも視線がうざく、一度だけ「さっきから何か用かよ」と美里は敵意を隠さず喧嘩腰でそう聞いた。

 間宮は、表情を一切変えず、「別に。他に見ていて楽しい物もないから。見てるだけ。」と言って、また目を細めるのだった。とろんとした垂れ目の周りで、長い睫毛が影を作っていた。

「きもちわりいことをいうな。聞いたぜ、事務所でのこと。情けねぇ野郎だ。二条の野郎に頭の一つもあがらねぇんだからな。俺も今度は事務所で、またてめぇの汚ぇケツに便所ブラシつっこんでやろうか?」

 美里は、間宮が突っかかってくるかと思って吹っ掛けてみたのだが、間宮は微笑み返すだけで、何も言わず、目を逸らそうともしなかった。美里は、再会した間宮に対して、なんとも言い知れない違和感を覚えていた。

 ホテルでの、一方的な集団凌辱の後、再び事務所で顔を合わせた時、あまりにも平然とした、というか逆に見下すような超然とした様子で、小言の一つも言わないことが気味が悪かった。その顔でこっちを見るなよ、とムキになるのも嫌で無視することにした。また車内に沈黙が降りた。しばらく間を開けて、急に彼が口を開いた。

「悪かった、とは、思ってるよ。」
「……は?」
 美里は何か聞き違えたかと思って、2度と見るまいと思っていたバックミラーを見た。
「悪いことをしたとは、思ってるよ。今更謝ろうとも思わないけど。どうせ君は俺を許さないからね。でも、他にどうしようもなかったのだろう。」

 彼は表情をそのままにそう言って、トランクケースを猫にでもするように、撫でていた。美里は、美里の間宮の過去を抉る言葉に、間宮が血相を変えてホテルのあの部屋から出ていったのをよく覚えていた。それを思い出して鼻で笑った。

「しかし、随分と他人事のような言いっぷりじゃねぇか。」
「そう?美里君だって、”他人事”みたいな顔をして、皆とセックスしていたよね。」

 間宮が間髪入れずに平然とそう言い返すのに、美里は自分の頭に一瞬で血が上ったのを意識して、それ以降完全に彼の存在を無視しようと決め込んだのだった。せっかく霧野を迎えに行くのに、つまらないことで感情を乱されては、彼の前に立つ瀬がない。美里が口を閉ざすと間宮もそれ以上何も言わず、そのまま目的地である山に着いた。もともと直接迎えをするのは美里、非常事態に動くのが間宮と役割を決められていたたため、間宮は何も言わず銃の装てんをし、美里に背を向けて闇の方へ、茂みの奥の方へ消えていったのだった。

 間宮は、霧野の引き取りが問題なく終わったのを確認して、二人の前に姿を現したのだった。
 立っている美里と美里に繋がれて地に這っている霧野は、並んで、開かれたトランクケースを中を見、愕然としていた。間宮は二人の様子を面白がるように見ていた。

「霧野さんは大きいし、特注、新しく俺が作ったんだ……。試してみて、改善点があれば、またどんどんと、霧野さんの肉体向けに改良できるしアタッチメントも増やせる。しっかり、穴もとってあるから、酸欠になることはない。今日のところは栄養を積んでいないけど、積んでいれば点滴でもって、数日間でも入ってられる代物だ。」
 
 彼は嬉々として言って霧野の側にしゃがみこんだ。それから耳元に口を近づけた。
「入りたくて、堪らないだろう……」
 それは美里には聞き取れないほどの声量だった。
「なわけ……」
 トランクケースの横面からは棒、機械棒、つまり太いバイブレーション二本、突き出て聳え立ち、トランクケースの中で人が蹲った時、口と肉孔とを貫く位置に、備え付けられてた。微調整が効くよう底部がスライドして固定できるように工夫されてよく作り込まれている。
 バイブ以外にも、無造作に肉体性的に責め立てる機械が、トランクケースの中に備え付けられていた。それは肉の突起を吸ったり、摘まんだりするものであったり、機械を調整する装置であったりした。玩具はトランクケースから取り出して使うのではなく、その中で使うことを明示するように、トランクケースの大きさと対称的に殆どガラガラの空洞であった。”本当の荷物”、”肉”を収めるためのスペースが大きくとられ、中の壁は、厚いクッションばりになっていた。
「入りたいわけないだろう……」
 霧野は弁明しながら、目の前の男を見据えた。間宮の顔の上で(わかっていますよ、俺は、)といわんばかりの誠実な目が、霧野の方を見ていた。霧野が顔をしかめると彼は眉間にしわを寄せてさも嬉しそうに笑った。

「まあ……」

 間宮はため息ついた。その瞬間、霧野は微かに精液に近い香りを嗅いだ気がして、こいつ、ここに来る前に一体何をやってたんだろうか、と思い挑発しようかと思ったが、無駄な体力を使う気も無く、美里の前であることもあり、止めた。

「一応こうして、話しかけてみてはいるけれど、霧野さんには最初から選択権など、無いんだな。美里君はもしかすると、霧野さんを元の姿にして俺の代わりに助手席にでも座らして帰る気だったかもしれないが、俺は、絶対反対ですね。霧野さんのことはいかなる時も、荷物扱いすべきだと思ってるよ。だってそうじゃない??今の霧野さんは組織のお荷物以外の何物でもない、何の役にも立っていないだろう。だから、俺達がこうやってお膳立てして、役立ててやらないといけないよね。な、美里君。」
 
 霧野は、美里が、霧野の今までの忠誠に見返りして、間宮に反対するのを期待したが、美里は普段の無気力な調子で「そうだな。」と彼に同調するのだった。霧野は美里を見上げたが、美里は意にも解さない様子で「あ?何見てんだよ。きもちわりいな!」と実にそっけなく言って、あからさまに舌打ちまでするのだった。霧野は、この野郎!という気持ちが沸き上がったが、同時に美里が軽くリードを引くので、まるで心の中を読まれたような気持ちになって頭を伏せ、どうなってるんだ、と自分の気持ちの整理のつかなさに、息を荒げた。

 美里は、間宮の言う通り、霧野を状況に応じて、軽く縛って助手席か後部座席に転がすかして、連れて帰る気でいた。態度も悪くないから、彼の家から持ってきていた衣服を着せてやろうかなとまで考えていたところだった。

 しかし、間宮の取り出してきた奇妙で残酷な機械鞄に、美里は最初こそ引いたものの、見れば見る程、それは、獣を躾けるのに魅力的で妥当な品物に思えたのだった。そもそも、裏切り者で従畜の霧野をまともに、人並みに扱って座らせる必要など全く無いことを思い出させてくれた。寧ろ、今急に奴を人間らしく扱ったら、せっかく仕上がってきている霧野が、またありもしない希望を持ち始め、美里に妙な計略を持ちかけてくるのでは、とさえ、思われた。
 
 霧野が美里の意のままに、恥じながら素直に従い足元で、無邪気に雄を膨らませる様子につい騙されそうになったが、澤野とは、本来抜け目ない男である。そのことは自分が、一番理解している。そうやって繕っておいて、人の足元を掬おうと一欠片も思っていないなどということはないだろう。頭の片隅では常に人を操ろうと計略している。そういう奴なのだ。

 霧野は「嫌だ」と発言はできたが、目の前の凶器と狂気を隠し持つ男達二人に対して、今の辱められた姿、丸腰で体力の乏しい状態で食って掛かって、車を奪って逃走するなどということは到底難しく思われた。視界の隅に、乱雑に投げ置かれた弾の抜かれたライフル銃が見える。美里一人ならまだしも。間宮が、有事の際の制圧係としてきているのが厄介だった。やはり、川名の采配もまだ抜け目がない。

「……」

 霧野は頭を伏せて思考を巡らせていたが、生ぬるい、懐かしい気配を感じて顔を上げた。間宮がダボついたパンツの上からわかるほどに、”勃起”させて居るのが見えたのだ。と、同時に彼との夜の濃厚な情交の記憶が肉体の奥から蘇り、カッと身体が、美里と対面するのとは別の、肉の迸る喜びを身体が先に思い出した。

「自分で入る?俺に、無理やり、?」

 間宮は言い終わるか、言い終わらないかのところで、霧野に向かって腕を伸ばし、開け放たれたトランクの方へと、勢いよく引き寄せ、同時に美里が、さっきまでリードの端を強く握っていた手を緩めるのが、霧野の視界の端に映った。
 間宮の力は相当な物だが、霧野は取っ組み合うようにして、間宮に挑みかかった。美里は、二人から後ろ歩きに少し距離をとって、木にもたれかかり、少し離れた位置で彼らのお遊戯を、傍観することにした。それは、殆ど闘犬を見ているような気分と同じだった。
 
 以前、美里は川名と共に九州に出向いた際、闇闘技場でよく育てられた巨大な肉塊生物、土佐犬同士が血を流し死ぬまで闘い合うのを鑑賞した。野蛮だが、悪くない見世物で、川名よりも美里の方が愉しんでいたくらいだった。川名のノアには元々佇んでいるだけで戦闘犬としての美しさがあるが、あの見世物の中では、大きな肉塊同士が互いに食い合う醜さにも、美しさがあった。美里がそのような感想を川名に述べると、飼いたければ、ひとつ、貰っていくか?と優秀な子種から出来たほくほくとした仔犬を美里の前に見せた。結局、持ち帰るには至らなかったが、上手く育てればノアよりもっと大きく太ましく育っただろう。

 美里は今、目の前の彼らのお遊戯を止めることも、それこそ銃で脅して霧野をトランクを収めることも容易だったが、そんなことをする理由が少しも、みあたらなかった。

 霧野が、間宮の伸ばした腕をつきかえすようにして、間宮の方が逆にトランクのすぐ横に尻もちついて、その上に全裸の獣じみた霧野がのしかかるように、掴みかかった。

 今までのように霧野の筋肉が、犯されるのに都合の締まりの良い淫肉のクッションとしてではなく、正しく身を守り、正しく敵を制圧する戦いのために、間宮に向けられていった。霧野の中で何かが久しぶりに開き、気持ちよく、取っ組み合う中で、無意識に頭突きし、血を流し、仰向けに地面にねじ伏せた間宮と、不本意ながらも絡めるように、互いに手を握り合い、ぶるぶると腕を振るわせて、拮抗する。

 間宮は流石に軽く額に汗を浮かべながら、歯を食いしばっていたが、霧野の目を見上げ、表情に余裕をもたせた。

「うん……いいよ、霧野さん、運動不足も身体によくないから、先輩の俺が特別に付き合ってやるよ。奴隷ってのは健康でなくちゃいけないからな。」

 身体、頭を掴みあい、互いに互いをトランクの中に押し込めようとしながら、霧野は、美里の方をちらと見た。目が合った。美里はいつからか煙草をふかしていた。

「俺はもうどっちでもいいかな……」

 彼は、吐き捨てるように言って笑うのだった。
 体格的には間宮にもちょうどいいサイズにできているトランクなのだ。

 霧野は、間宮に絡めていた指、手を離し、両腕で抱きかかえるようにして、間宮の胴体をぎりぎりと締め上げ始めた。骨が締り、奥で内臓が鳴る音が聞え、霧野の血は昂った。はぁはぁと間宮の苦悶の吐息が霧野の汗で濡れた首筋にかかって混ざる。目の前で間宮の焦点が時々、おぼつかない物になった。腕の中で、このまま頸動脈を圧迫させ続け失神させるのがいい、と霧野は一層力んだ。

 しかし、調教続きの霧野に比べると、間宮の力がまだ体力を温存していた。しばらく霧野の腕の中で締め上げられ、されるがままになっていた間宮だが、霧野の持久の切れるまで、寸分でも隙を見せるまで、最小限に動かないことで、機会を伺っていたのだった。

 もともと霧野には不利な状況。持久戦の中で、霧野の力のほんの一瞬緩んだのを見過ごさず、間宮は待ってましたとばかりに、締め上げから自らの右腕を勢いよく引っこ抜き、目つぶしの形を作って殴りかかっていった。目つぶしされては致命傷だ。霧野はとっさの判断で、腕を緩めるほかなかった。ようやく霧野の身体から抜け出した間宮は、また取っ組み合う。
 ようやく、霧野の上になった間宮の肘が、霧野の喉に抉るように振り下ろされ、よくキマった。霧野が喉を抑え、咳き込みながら、地面を転がる。

「汚ぇぞ、っ、てめぇ!、さっきから゛、っ」

 間宮は、肩で息をしながら立ち上がり、汗ばんだ顔で霧野を上から覗き込んで指を立てた。

「汚いも何も。人体の急所を狙うのは当たり前だろ。」
 
 喉、目を狙うのは当たり前だ。ただし彼に対して金的は今はしない。調教の中で具合を考えてやるなら良いが、本気の戦闘中に本気の金的をして、せっかくの睾丸を自分の一存で、一発でずる向けの台無しにしてしまっては、組の者全員からひんしゅくを買うであろうし、二条から同じかもっと大変なことをされることになるだろう。

 彼はまじめな口調で言い、霧野が再び姿勢を立て直そうとする頃には、今度は腹部と胸部を勢い二発上から膝蹴りして、先ほどエルボードロップで喉にくらったせいで相当キている呼吸器官を更に苛め、霧野をべったりと地面に這わせた。

 間宮は、霧野の目の力や意識はしっかりしているが殆ど酸欠に違いなく、しばらく起き上がれぬだろうと読んだ。間宮は霧野から、後ろ歩きで軽く距離をとり、助走をつけ、跳躍と共に霧野の上に、尻から身体を落としこんで、内臓を破裂させんばかりの衝撃を与えた。全体重をかけたヒップドロップだった。

 鈍い音と声が、美里の耳にまで聞こえきた。口の中に拡がる煙草の味が、美味い。

 間宮は汗をぬぐいながら立ち上がって霧野を見下ろした。そして感嘆の目を輝かせた。

「これでまだ動く。流石、霧野さんですね。」

 間宮は大きく足を振り上げた。鋭い音と共に霧野の頭のすぐ横に突き落とされた分厚いブーツの底が突き刺さり地面が大きく抉れていた。ブーツは何度か、地面をえぐり、もう一度足が振り上げられ、今度は確実にそれは霧野の喉を狙っていた。霧野が転がり避けた先に、トランクがあり、間宮はその瞬間を狙ったように霧野に猫のように飛びついて、彼を上半身をまず、トランクの中に押し込んでしまった。はぁはぁ激しくあがった息のまま、間宮は後ろを振りかえらず「流石に疲れたな。美里君、ちょっと手伝ってくれよ。もういいだろう。」というのだった。

 霧野は、間宮の手でまず、トランクの中で手足を痛むほどきつく紐で縛られた。間宮はとろんとした瞳で、まだ戦闘の余韻の残る紅潮した顔で自由にならない霧野の縛られた手足を握ったり触ったりした。霧野は、胎児のような蹲った姿勢で、狭い空間にいれられていた。

「鬱血ぎりぎりのところだ。一日中いれておくなら工夫がいるけど、これくらい。……痛いか?痛むだろうな。だってわざと痛くなるように、してるんだからね。ただ拘束するだけだったら、ここまでぎゅっとしなくてもいい。寧ろ、しない方が正しい。だんだんと痺れてくるはずだ。感覚もなくなってきて、麻痺して、壊死するかもと、怖いかもしれないな。でも、霧野さんが悪いんだよ。俺に反抗するからだ。どうあがいても、今のアンタは最下層の奴隷だということだ。相手が俺で良かったな。お前にぎりぎりの痛みを与えてやれるのは、俺だけだ。」

 疲労で言葉も出ないまだ鼓動も早い内に、口の中にそれから、尻の中に、適度な硬さを持った物が挿入されていく。苦しさに、目の前が白黒になり、声が、音が遠くなっていった。リードの抜き取られた首輪の輪っかに紐が通され後ろに回され、トランクの中の突起に引っ掛けれ、適度に首も締るように固定されるのだった。

 苦しさに身体が震えると、肉壁が適度に刺激され、身体がビクンビクンと跳ねる。やめろ、と言い聞かせる相手はいない。強いて言えば自分に対して位だが、苦しみの震えが中を気持ちよくしてしまう。犯されるより最悪だった。何故なら自分の狂ってしまった感覚を自覚させられるから。苦しみに、身体の肉が、よく締まる。

「ん゛‥‥くぅ゛‥‥…」
「苦しい?」

 間宮はしゃがみ込んだ膝に両肘をついて手を顔にあてがって、にこにこした。微かに痙攣するように藻掻く霧野を覗き込んで、しばらく様子を見ていた。間宮の下で、まるで生きたまま、虫ピンで羽を貫かれた蝶のようだった。間宮は霧野の背中の薄っすら残る羽のような傷、腰元のタッカーで穴を開けた痕に触れた。
 指先の下で、肉が熱くなる。震え悶える。

「気持ちがいい?」

 霧野の瞳は間宮の言葉に反抗していたが、奥でも隠し切れない官能が揺れているのを間宮は感じていた。
 間宮は「そう、良かったな。」と言って穴の痕に爪を立て引っ掻いた。尻が大きく揺れ、自ら、機械棒を咥えていくようだった。

 機械のスイッチは、ひとつずついれられていった。霧野は、悶える姿を見られまいと、口にねじ込まれた、喉を犯し開き続ける陰茎玩具を食いしばった。涎が滴る。鋭い横目は、まだ外界を見ていた。太陽が、眩しい。
 
 霧野が、トランクの閉じられる前、最後に見たのは太陽とその陰になって光って、こちらを見下ろしている、4つの嗜虐的な瞳であった。脚でトランクの蓋を閉じた途端、世界が真っ暗になった。視界が遮断されたせいで、耐えられると思った責め苦がどっと身体の奥に敏感に響き渡り、肉を沸き立たせた。

「う゛ううう……っ」

 怖い、一度、開いてくれ、願ったと同時じ、錠の降りる音がすぐ目の前でして、余計に絶望の中に落ちていくというのいに、身体が燃えるように熱い。間宮も美里も声をかけてはこない。恐怖が霧野の身体の感覚を研ぎ澄まさせて、無情に感度をあげさせ、淫狂が身体全体を襲ってくる。

 少しの隙間もなく全身を包まれ、犯されている。喉の奥で声を上げても、それが中で反響して自分の中に空しく返ってくるだけ。誰の視線も感じない一方的な、無機質な責め。

 ぶ厚い壁の向こうからほんの微か間宮の声が聞こえて、一瞬、脳の中に安心感と煌めきが踊るが、また無音になり、無論再度開けられることもないまま、トランクが持ち上げられたのが分かった。

 人でなく、生物としてでさえなく、1つの単なる荷物として、乱暴に後部座席に置かれ、車の扉が閉じる音と揺れが伝わった。死体袋に詰められた時の記憶が不意にフラッシュバックして、それよりもさらに悪い状況に居て、おかしく悶えている自分のふがいなさ。わざと痛いように縛られた四肢が、罰を与えるように、よく痛んで、それから機械が、身体を強く犯した。

 「俺に反抗するから。」と言った間宮の嗜虐と同時に愛情の籠ったような謎の瞳のゆらぎを思い出す。

 車が動き出すのがわかった。車の揺れが、余計に機械達を霧野の肉の中、クッション性の壁でこすられる皮膚感覚を刺激した。

 車は、間宮が運転して助手席には、美里が座っていた。
 行きには、美里はラジオをつけていたが、今は切っていた。

 本来静寂となるはずの車内はしばらくの間うるさかった。後部座席の床に無造作に置かれたトランクケースからは常に振動音が外にまでまる聞こえで、しばらくの間、激しい何かを求めるような呻き声と、ガタンガタン跳ねるように揺れる音が五月蠅く、とても美里も間宮も、会話できる状況では無かった。

 行きと違って、今度は美里が、バックミラーから目を離さず、間宮は運転しながら、涼しげな顔をしてずっと外の景色を眺めて、耳では音を愉しんでいた。10分も車を走らせている内に、トランクケースの跳ねは小さくなり、変わらぬ強弱で身体を苛め続ける強い淫機械の音とその隙間に苦悶と欲情の声が微かに響くようになっていった。

 間宮はケースの中では、時間間隔が狂うことを身をもって知っていた。今、霧野の恐怖がどのように高まって、同時に恐怖と欲情が絡みついてたまらない感覚をきっと身をもって味わっているだろうと考え、音を聴いているだけで、口元の綻びがとまらなくなっていた。
   
 美里は、振り返ってその荷物を眺めた。空気穴としてあけられた穴から何か液体が零れおち、実際はもう微動だにしないトランクケースなのだが、肉感をもって震えている生物のようにも見えて官能的だった。耳をよく澄ませば、中からまた「ん゛‥…んぅ……くふぅ……」と機械音の隙間からくぐもった聴きなれた声がした。

「……」

 ガコンガコンと硬いバイブが一定の速さで身動きの一切取れない閉じ込められた身体を突き続けて、肉棒も乳首も霧野の肉体にぴったりの電動オナホのようなもので吸われ続け、狭くて何も見えずもがいてもどうにもならない、真っ暗い、狭いのに、逆に、感度上昇のために、体内に宇宙のような広がりを感じさせる。

 いつ終わるとも知れない責め苦を受けている霧野が、はぁはぁと時々小さな、吐息の後、絞り出すような唸り声などが美里の耳に微かに届いて、射精したか?などと美里は思うが、射精しようがしまいが、関係がない。それは1個の固形物であるのだから。

 美里はしばらくの間、うっとりとそれを見ていたため、再度前を向き直った際に、車が目的地に向かうには違う道を走っていることに気が付いた。

「おいおい、道が違ぇじゃねぇか。近道でもねぇし、戻れよ馬鹿。」
 間宮は含み笑いのような表情を浮かべ美里を見た。
「そんなにカリカリするな。ちょっと寄り道しようぜ。」
「寄り道だって?」
 間宮は前を向き直り、市街地を車で走らせながら言った。
「そうだよ、俺の家で、軽く輪姦まわそうよ。他に誰の邪魔も入らない。」
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