堕ちる犬

四ノ瀬 了

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こんな風にされても、結局気持ちよくなってるじゃねぇか。

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いつのまにか眠りに落ちていて、気が付いた時には病室全体が白く、明るくなっていた。腹が鳴る。
空腹だった。腹が減ると感じるということは、精神に余裕が出てきたということだ。霧野はベッドから起き上がり、身体に触れた。何もなかったかのように服を着せられ簡易な拘束だけ施されていた。左手首に黒いリボンが一本蝶結びで結ばれたままになっていて、腕の内側をふわふわとくすぐっていた。頭より先に身体が夜のことを思い出して、ちくちくと穴の開いた身体が泡の弾けるように痛みはじめた。

「……。」

リボンの端をつまみ、解き、指に巻いて手の中で弄んだ。くるりくるりと手の中を黒い小さなリボンが小さな蛇のように這いまわる。小さな手ごたえのようなものを感じるのだった。美里が以前より川名の支配から抜け出して動くことを厭わなくなったように、間宮も同じになればいい。それで奴らがどうなろうと知ったことではない。霧野の中で一瞬黒い炎が燃えたぎって、消えた。とにかく会話の余地が、支配の余地がある。精神の脆弱さでいったら最も責めやすいのかもしれない。
「……泣いていたな、アイツ。」
弄んでいたリボンが床に落ちかけ、慌てて手の中にしまいこむ。もう一度布団の奥にもぐり、リボンを枕の下にしまい込んだ。

身体を丸めた。惰眠を貪れる日々、何も考えずに身体を横たえていると、また瞼が下がった。空腹の次は眠気が襲ってくる。いくら寝ても寝足りないのはどうしてだろう。まるで怠惰だ。こんなことがあっていいのか。ドアの解錠される音がして、瞼が落ちる前に身体を起こした。

開かれた扉の向こう側に、にこやかな顔をして二条が立っていた。一瞬だけ後ろめたいもの、それからお前の知らぬところで、お前の物の核心に触ってやったぞという優越感に近い何かを感じて自然に顔がほころんでいった。かつて澤野だった頃に、二条に見せていた顔のように。

「おや、起きてたか。」
彼が近づいてくる。大きな身体。大きな口がゆっくりとこちらを食らうように開かれて笑った。
「身体が、なまってたまらないだろう。」

優越感など一瞬で消し飛んで、霧野の身体は反射的に強張って、布団の下で足指がきゅと丸まった。身体がなまってたまらないだろう、の次にくる言葉、彼の行動、暴力、を先取りして頭が勝手に想像して息がつまったのだった。

間宮に嬲られたちくちくとする箇所とは別の場所が勢いを持って熱く燃えるように熱を持ち始めた。背中と腕の小さな穴の痛みなど次々上書いていく。喉が詰まる感じがして、絞められていもないのに頸動脈がどくどくし、酸欠になったかのように脳の奥の方が甘美にくらくらしてくる。どくんどくんと音がする。頭の中の想像を止めようとすると、息をつく。考えてしまっている自分に対して、余計に身体が熱を持つ。怖い?いや。なんだ?

「なんだ。何を想像している。」

揶揄うような調子の低い声が響く。彼がベッドのすぐ横に立って霧野をじっと見降ろしていた。上弦の月のように笑んだ瞳がいつまでも霧野のことを隅々まで観測する。霧野は、自分の顔の神経まで不自然に強張る前に「別に、なにも、」といい捨てたが、また喉が詰まるのを隠せない。二条は意味深に笑んだまま、見覚えのあるボストンバックをベッドの上に投げ置いて笑った。

「お前の望む通りにしてやったっていいが、そいつは後にするかな。そろそろ退院してもらおうか。」

また、着替えだった。迎えに来たのだ。

「……またあそこに?」
脳裏に地下室の記憶が鮮烈に蘇る。
「嫌かな?」
「……そりゃあ」
嫌だった。しかし最早どこに連れていかれるのも嫌だった。
「お前がうまいことやれたなら、戻らなくても済むかもしれない。」
「……なにを?仕事を?」
霧野は挑戦的に二条を見上げた。
「それとも、貴方を満足させられたらいい?」

二条は意味深に微笑んで「どっちも、かな。」と小首をかしげて言う。

着替えと一緒に鍵も同梱されており、首輪以外の拘束を外して、衣服に手をかける。Tシャツに手をかけるが、二条の動かぬ視線が気になるのだった。今さら何を気にする必要がある、と言い聞かせても気になるものは気になった。寧ろ、こうなる前の方が気にならなかったのではないか。性的にみられているとわかるから、脱げない。手つきがぎこちない物になる。

「これ、誰の私物です?」
「それをお前が知って一体どうするというんだ?」

間髪入れず、二条は言った。二条の心をゆすろうと思ったが、彼は特に動じる様子も無く表情も声色も変えないので、霧野の方が軽い動揺を覚えてしまう。ふ、と彼は息をついて笑った。

「ああ~……お前は答えを知っててわざわざ俺に質問をしているな。つまらねぇことして遊んでいないで、さっさと着替えろよ。ああ、なるほど、そんなに裸で帰りたいのか。違和感あるんだろ?自分が着衣していること自体に。気が回らなくて悪かったな。返してくれ。」

二条がバッグを持ち去ろうとする腕を霧野が掴み、それを契機とするようにベッドの上でもみ合いになった。バッグは壁の方へと勢いよく投げ飛ばされて、中身が床に散乱した。

「ついに簡単な命令さえ理解できない木偶になったか!!別にいいぞ、それはそれで使いようがあるからな。組長は興味を失うかもしれないが、それではそれで都合がイイ。」

シャツが鷲掴まれて、ミシミシと嫌な音を立てはじめた。無惨に破れ裂かれるようにして剥ぎとられそうになる。その時、「待て、これは、大事なものなのではないのか?」と霧野の頭の中に意外な発想がよぎった。隙が生まれ、腹の上に膝を思い切り堕とされた。内臓がひっくり返る様な衝撃と同時に二発目が飛んでくるの転がってさけ、また交わる。抵抗をすればするほどに、遠慮のない暴力が飛んできて、彼は楽しそうにするのだった。

「どうした?元気になったんだろう?そんなものか?今だったら俺をなんとかすれば逃げられるかもしれないぞ。」
「脱ぐ、っ、脱ぎます、から……、っ」

といいながら、霧野は勢いよく二条を突き飛ばし、ちぎれかかったシャツを脱ぎ下着を脱ぎ、軽く畳んでベッドの上に投げ置いた。勢いベッドから降り、二条に背を向けて床の上に降り立った。息が上がっていた。はあはあと中腰になって息を整える。セックスじゃない、正しい息の上がり方を思い出した。

「ち、なにやってんだよ俺は……」

霧野はひとりごちながら、散らばった衣服を拾い集めた。自分の家の匂いがして胸が締め付けられる。
もみ合っている内に、汗をかいたらしい。どくんどくんと血が巡る。そういえば、さっき、太ももに尻に、勃起した彼の硬い物があたっては離れていった。彼につかまれた箇所がまだじんじんする。
「あ……?」
血の巡りが霧野の身体の突起に集まって浮かせかけ、それから背骨の末端辺りを疼かせるのだった。かぶりを振って、勢いよく立ち上がる。熱を感じて振り向くと、いつの間にかすぐ背後に二条が立っているのだった。厚い胸板が動いていた。生きた壁のようだ。思わずつばを飲み込んだ。

「すこし筋肉が落ちたようだな。」
「……そりゃあ、なまってますからね、身体。ろくな運動させてもらってないんだ。」
皮肉を言ってみたつもりで上目遣いに彼を見たのだったが、二条は黙ってによによとしているだけだった。

「柔術の段位はどこまでいったんだった?初段か?」
「え?」
そういえば、以前も彼と格闘の話をしたことがあった。

「お前の動きの基礎的な部分は空手に近いものを感じるが、警官は柔術か剣道かで最低限初段をとらんといけないんだろう?で、顕在的に暴力的で、潜在的に淫乱のお前のことだ。剣道ではなく、身体同士がもみ合う柔道の方を選択したに違いないな。そうだろ?」

「あは……それじゃ、随分他の柔道家に失礼じゃないですかね。」
「……。ああ、お前はまたつまらねぇことを言って話の腰を折り、曖昧にしようとする。言っておくが面白いのはお前だけだぞ。今はお前の選択の話をしてるんだよ。」
「……」

二条の手が、霧野に触れるか触れないかのところでとまり、ぶ厚い手から放たれる熱だけが皮膚をこすりあげ、くすぐったい。触れるか触れないかの手が、脇腹から脇、胸へと移動し、何をされたというのでもないのに、霧野の乳首は浮き始め、隠すようにして身を屈め衣服に手を通し始めた。

「一応二段までとりました。でも、全然です。」
「へぇ、そうか。」
「二条さんは?」
「……。俺は学生の頃に三段までとって止めたよ。でも、全然だな。」

三段、十分じゃないか。四段五段でプロ、オリンピックを目指すに足る段位、その一歩手前というのだから、素人では到底かなわない。学生時代に三段まで行ったならもっと上も目指せたはずなのにもったいない。霧野は改めて横目で二条の体躯を眺めながら着替えを続けた。年齢による衰えを感じさせない、今でも十分な強さ、現役、自分と同じくらいの年の頃に出会っていたら勝てる自信はもっと無い。

スーツを着ると人間性を取り戻した気になる。首輪を除けば。

「仕事に行くには首輪が邪魔だな。外してやるから顔をあげろ。」

ということは、本当に普通の仕事なのかもしれない。彼の前に立ち見上げた。見た目と反対な丁寧な手つきで久々に首輪が外された。外す時彼の親指が軽く首筋を擦った。
「……」
首輪は小さな箱にしまわれて、やはり霧野自身より丁寧に扱われているように見えた。もう一度彼の手が伸びてきて、顔を下から鷲掴み、頬をきゅ、と左右から押された。げ、と身を引こうとすると、一歩近づかれる。

「うんうん、大分顔色が戻ったな。これなら大丈夫だろう。」

近づかれて上から覗きこまれると、身体が粟立つような感じがする。怯え?そんなはずない、と、強く彼を見上げると、口の中に指が入ってきた。
「ん‥‥…」
つ、と自然と涎がこぼれてしまい、慌てて手を振り払い、口を押えて身をひいた。ヤバいかと思ったが、それ以上彼が詰め寄ってくる様子も無かった。

病院を出る前に「気合の一発だ」と姫宮から腕に一発注射を貰った。何の注射か聞いてもにやにやして教えてくれず、二条も何も言わない。

「ふふ、しかし、ちゃんとした姿で二条と並ぶと迫力があって良い。来た時なんか、危うく昇天寸前だったからな。また、病院送りにされることがあれば手厚く看病してやる。ま、まだまだあるだろうから楽しみにしてるよ。君が間宮君みたくなったら、ウチに来る頻度もあがるだろうから、組長さんには内緒だが、俺としては二条を応援してやりたいところなんだよな。……ところで、さっき君たちが病室で場もわきまえず暴れたせいで、ベッド枠の飾りが歪んだよ。勘弁してほしいね。お代はツケにしておいてやるから、今度また併せて支払ってくれ。」

「今度ぉ?」

二条が大げさな素振りで言って霧野の肩を抱いて揺さぶって、姫宮を見、霧野を見た。

「今、軽くしゃぶってやれよ、な、遥。さっきから口が寂しくて、びしゃびしゃだからなぁ。本当は俺のを口に尻にいれたくて仕方ないのに自分で言えねぇから馬鹿みてぇに一人でむらむらして盛ってだらしがないもんな!」
カッと身体が熱くなり、二条の手を振り払いたいのに、振り払えない。
「ちが……」
「海堂のところでも彫ってもらったお礼をしてから帰っただろ。ちゃんとお世話になった人にはお礼しなきゃダメじゃないか。な。」
「他にも、やり方が、」
「へぇ~、どうやって?臓器の1個でも提供していくのか~?」
「……」

姫宮は「なんだか背徳感があるなぁ」と言って霧野を見降ろしていた。霧野は診療所の玄関先でしゃがみこみ、彼の物を目の前にしていた。唯一救われる点と言えば、彼の身体が人ではないように清潔であるところだ。白衣からは薬品の香りがするし、誰かさんを彷彿とさせるところがある。口の中に含んでいると精の臭いが鼻をつき始めるのだが、必死に終わらせようと頬張るほどに逆に、姫宮ではなく霧野自身からむわむわと香りが湧き出るのだった。
診療所の薄いガラス戸の向こう側を人が通過していく気配がある。

「んん゛……」

横目で外を見てしまい、緊張したまま姫宮を見上げると彼は、赤らんだ顔をした霧野とは対称的に非常に白けた顔をしていた。ぐ、と喉の奥が鳴った。フェラチオの技術など誇れるわけないが、白けた顔をされると悔しさが湧き出てしまう。大体白けるようなら、さっさとやめさせればいいのに、左手は未練がましく頭を軽く掴んだまま離れようとしないんだから。

白けた視線は霧野から空へ、窓の外へと移って、二条の方を見た。二条は霧野の背後で玄関の上がり框に腰掛けて本を読んでいた。霧野だけが一人熱を帯びて、くぐもった声を上げていた。下半身に血が巡っていく。どうしてだろうと思うが、白けた視線を浴びるほどに情けなく、悔しいのだった。己の下半身の様子が気になって、手を伸ばそうとした時、背後で本が閉じられる音がして、手首を強く掴まれた。

二条の筋ばった大きな手が一つの枷の様になって手首に絡みついて、上から覗き込むように彼の顔が現われた。

「おいおい、手癖が悪いな。」

彼の手の中にいつの間にか縄がある。頭の後ろに手を回すようにして、手首同士を縛られた。手首から延びた縄が上へ上へと伸びて、姫宮の隣に並んだ二条の手の中に消える。縄を引かれると彼の方を見そうになるが見ないで必死に口の中の物に集中して、姫宮の様子を伺った。さっきより多少皮膚に色がついたようだ。変態め。

「あらあら霧野君。もうフェラチオだけで勃起しかけるようになってるなんて、君ってもともとそういう気があるのかな。もしかして俺より先に興奮したんじゃないのか?勝手な奴だな。そう思わないか?二条。」
「そうだな、コイツは随分と勝手なことばかりしてくれるよ。今回だってお礼だって言ってるのに姫宮を良くするより前に、自分一人勝手に勃起して、しごこうとまでしやがるからな。ほら。」

二条の革靴がごしごしと霧野の股間の辺りを擦り立て、ズボンにくっきりと劣情の形が浮き出た。

「…ぅ‥‥んん……」

霧野の瞳が誤魔化すようにあたりを彷徨って、最後に縋るように二条を見上げるのだった。

「また勝手に盛る……ちょっと持ってろよ。」

二条は姫屋に縄の末端を手渡して、霧野の背後に屈んで腕を回しベルトを外し始めた。

「んん゛!!……んんー!」
「こらこら、こっちに集中しなよ。」

暴れる兆しを見せると上から姫宮が縄を引き、頭を押さえつけるのだった。まるで耳を掴まれて持ち上げられたウサギだ。足首まで下着とズボンをずり下げられてむき出しにされて涼しくなった下半身がゆらゆらと揺れた。真っ赤になったペニスがやや天を突きかけて、しゃがんで開いた後ろ孔から昨日の分の粘液がとろ、とろ、と流れ出て、下着と床とを揺らした。

「お前がいじって良いのはこっちだけだぞ~。」
「!!!」

彼の指が勢いよく熟れた肉筒の中にぐいと挿しこまれて、ほぐされた肉の中を引っ掻くようにしてまさぐった。

「ふ…ぐっ…んんん゛…っ……」
「口で言ってもわからないから、こうしてやり方を教えておいてやるよ。」

上から引っ張られ背後から挿しこまれ、身体を逃がすこともできず、行き場を失ったエネルギーが身体の中にぐちゅぐちゅと渦巻いて、膨張する欲望と共にどんどんと身体が高まっていく。自身の股の間からの粘着質な音が大きくなると、頭の中でぐちゃぐちゃという音も大きくなって、口の中の肉に他人の肉棒がじっとりと吸い付いてくる。

「んん゛っ!!!……んんん」

じーん……と身体が暖かくなってきて感じてしまう。ちがう、ちがう、と思っても、腰から下が自分の物でないように、とろとろになっていくのがわかる。止めろ、と、身体に力を入れた時、彼の指先が、やましい場所を軽くひっかいて、それだけというのに、頭の中が一瞬白くなり、下半身から背骨をかけ上げるような快楽に身体が跳ね、崩れかけた。

「ふひ…っ゛…‥」

姫宮の下で、二条の目の前で、霧野の大きな背中とむき出しの大きな尻がびくんびくんと跳ねた。指が、ゆっくりと抜けていく。何もなくなった肉穴が名残惜しそうにひくついて、ぬちゃぬちゃと音を立てた。霧野の自らの意志で動かせぬ腕が、一瞬物欲しそうに下に下がりかけたのを、姫宮も二条もよく見ていた。
自分の中の欲望の整理に必死になった霧野の口の中が一物を舐めたてるのにおろそかになって、涎がぽたぽた垂れていき、視線がぼんやりとしていった。姫宮が霧野を覗き込んでいたが、霧野の瞳の中に姫宮は映っていないように見えた。

「あーあー、また自分だけ気持ちよくなって駄目だなぁ。」
「おい遥、さっきからお前は何やってんだよ。お前のためじゃなく姫宮のためにやってんだぜ?わかるか?」
「…‥、……。」

何やってんだよと言いながら、二条の声色は楽し気に霧野の耳に届いていた。姫宮と二条が何か上で会話し、二条が一瞬姿を消したかと思うと手に何か持って戻ってきた。キラキラと輝きが視界の隅でちらついた。

横目で確認すると、それは直径五㎝ほどの鉄をUの字型に折り曲げた重厚なアナルフックであった。中に入る側の先端に直径六センチほどの鉄球が、反対側の末端には何か通せるように円が象られている。
彼の手にあるとハンマーか何かのように見えるし、実際人を殺せるほどの重みもあるだろう。

背後に立たれ、抵抗する間も、霧野の肉門自体も抵抗するほどの圧力も無く、ずぼっと先端が身体の中に入り込み、持ち手を背骨に沿って上に引っ張られる。
「んんんん゛っ!!」
身体の中に冷たく重厚な鉄の塊がぶちこまれて、無機質な塊が霧野の身体を芯からいじめたてた。少し身体を動かすだけで、中の、重く冷たい存在が、肉筒を中から擦り、無機質な棒で穴の快楽を惨めに感じさせた。

「なんだよ、これくらい大丈夫だろ~?ほら、これをこうして……」

アナルフックの先端についた円に縄が通された。その縄は姫宮がさっきまで持っていた縄の先端である。霧野の頭の後ろに回され束ねられた手首から真っすぐに縄が垂れて、アナルフックと結合して、ジャケットの上、背中の上をピンと限界までまっすぐに張った。背が軽くのけ反り、やっていることの惨めさと反対に、堂々と胸を張るような姿勢になる。姿勢を崩そうとしたり、バランスをとろうとすれば、鉄が身体をよく突いた。

「ほら、できた。ちゃんと姫宮を気持ちよくさせるまでこのままだからな。」

手首や腕を無意味に動かせば、縄がアナルフックに連動して、上に引き上げるようにして中をぐりぐり、ゴリゴリと擦ったり、厭な動き方をするのだ。霧野の口から吐き出される息、涎の量が増え、必死の呼吸、その中で姫宮のペニスが反応するように硬く大きくなり、ようやく強い精の香りを吐き出し始めた、霧野は溺れそうな息をしながら、腕を引かないように力を抜いて、姫宮のペニスをじゅうじゅうと吸いたてた。

「へぇ~面白いじゃん。やっぱり縄って便利だよね。よし、俺も君を軽く調教してやろう。」

姫宮の手が霧野の頭から離れて、おもむろに腕を掴んだかと思うと、引っ張り上げた。精と涎とでいっぱいになった霧野の淫靡な喉の奥から苦悶と快楽の悲鳴があがって、高く啼いた。姿勢は、上半身はのけ反って、下半身は、少しでも引っ張り上げられる刺激をやわらげようと、精一杯のつま先立ちになって尻と太ももとがぶるぶる震えた。身体の中を、真っすぐな重い鉄塊がゴリゴリと、霧野の熱く柔らかくほぐされた肉を、下から上へ、左右に掻きまわし、きゅぷきゅぷと音を鳴らしていた。縄が音を鳴らし、束ねられた手が、開いて宙を引っ掻き、握られ、脱力した。

「うん、そうそう、それを続けるんだよ。君は、さっき俺がしけた顔してるのを見てムっとしたな?ソレで必死こいて吸い付いてくれるんだからさぁ……単純っていうか、いじらしいよねぇ。ふふふ、まあまあ可愛かったぜ。でも、もっとうまくなろうな。もっと身に迫る刺激が無いと成長しない。」

霧野の姫宮の一物を咥えさせられた口がまるで笑っているかのように強ばる。このまま噛み付いてやろうかと思うと、心を読まれたかのように細腕に似合わない程の力で強く腕を引かれ、中をぐいぐいと抉られ、余計に霧野に火をつける。

苛立ちと、情けがない気持ちのまま、うまく舐めていると姫宮は手を緩めるが、自分が飽きてくると上手かろうが下手だろうが結局霧野の手首や腕をとって引き、強く身体を責めたてるのだった。冷たかった鉄棒に霧野の燃えるような熱が遷り、硬く熱っせられた鉄棒となり、身体の奥深くまでを、ずぼずぼと、じっとりと、犯し始める。中で鉄が動いても動いていなくても、もう腰から下が焼けるように熱く、鉄の棒に身体全体を支えられているようにさえ思えた。おうおう、と声をあげている内、とろとろと、自分でも、誰にも触ってもらえない霧野の雄が涙を流すように濡れ、ぽつぽつと白く濁った液を流し始めた。霧野の背後で二条が壁にもたれかかり愉し気に二人の姿を眺めていた。

「くくく、こんな風にされても、結局気持ちよくなってるじゃねぇか。」
「……、……」

その時、診療所の扉が開く音がし、三人は姿勢そのまま開いた扉の方を見た。
二条の配下で諜報部の一員である黒岩と吉川が立っていた。彼らは一瞬霧野を見、姫宮を見、それから二条と姫宮に向かって頭を下げた。二条と姫宮は特に顔色を変える様子はなく、霧野ひとりがまた、戸惑うように赤らんだ顔で二人を見るのだった。

「お取込み中にすみません、まさか玄関先でとは、……」

先に頭を上げた黒岩が霧野を見下げ「澤野さん、お元気そうで何より」と笑み、二条に向き直り鞄を渡した。

「例の物です。早く渡したくて立ち寄ってしまいました。」

二条は鞄を受け取り、中を確認しながら、霧野の頭に触れた。

「何を休んでんだ?そのまま続けろよ。それともやっぱりお前には、もっと激しい調教器具が必要かな。」
二条は霧野の頭を撫でながら、黒岩と吉川に向き直る。
「……そうだ、お前ら。せっかく来たんだから、お前らも姫宮が終わったらそのまま扱いてもらえよ。遥も悦ぶだろう。」

霧野が二条の手の下で身体を強張らせると、頭を撫でていた手が髪を掴み上げた。

「あ?なんだ?まさか嫌なわけないよな?お前が早く終わらせねぇから悪いよな。その情けねぇマゾ丸出しの恰好でずーっとしゃぶってたくてちんたらやってたんだろ?新しいチンポが来たぞ、良かったな。」

「なんだ霧野君、それでのんびりやってたんだね。ハッピーだな。」

姫宮が霧野の両の手を握るようにして、ぐいと引っ張り上げ、太いうめき声が上がる。姫宮の手が力の抜けた霧野の汗ばんだ手をピースの形にした。
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