堕ちる犬

四ノ瀬 了

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膿を出すように、少しずつ出してみるといい。お前の悪徳を。

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間宮の瞳は霧野を見下げていた。おっとりとした形の眼が静かに霧野を見守りながら中の色合いを暗く濃くしていく。

どれだけそうしていただろうか、通電を止めた。人体の限界を見極めるのだ。霧野の身体の中の張りつめていた神経が一気に弛緩してゼンマイの切れた機械人形のように脱力していった。

通電も、慣れてくればもっとできるようになって求めるようにさえなるのだ、と間宮は思った。今の彼にはこれが限界だが、伸びしろがあるから大変に教育のし甲斐がある。少しずつできることを増えていくのを見守るのは愉しいものだ。自然と口角が上がっていく。

泳げるようになったものは、泳ぐことができなかった状態に戻ることができない。自転車を漕げるようになったものは、自転車を漕げなかった状態に戻ることができない。言葉を知った者は、言葉を知らなかった状態に戻ることができない。快楽を知った物は快楽を知らなかった状態に戻ることができない。

何かを失って何かを得る。霧野の中の何かを燃やし尽くしたら、一体どうなるだろうか。彼は生ぬるい奴隷とは違う。だから、皆手を緩めようとしないのだ。これがもっと簡単に音をあげれば、皆すぐに飽きよう。それから、簡単に処分されよう。だから、これは彼なりの生存戦略なのかもしれない。

間宮は、闇の仕事の中で標的をいたぶることもあったが、快楽のために人間をいたぶり試すこともあった。そして、多くが耐えられないのだった。間宮が耐えられるようになったことを、他の人間にいきなり試しても、もちろん耐えられない。頭でわかってはいる。マゾの快楽を知っている人間が、他人をいたぶる時、自分の限界、気持ちいいと想像できるラインまで責めてしまうから、下手なサディストよりも凶悪な責めを行うことがあるのだった。

先日の仕事の時、霧野に雰囲気が似ていなくもないホストが、間宮の足元を這いまわって惨めに泣き逃げようとしていたのを思い出す。間宮がどっぷりと想像に浸りながら男を追いかけていた時、彼は確かに霧野そのものに見えた。

「なぜ……っ、どうして、こんなこと、っ俺に恨みでも、」
男の声質は霧野より少し高く、耳に子気味良すぎた。先に声帯を潰した方が良いかもしれない。頭の中でカチ、カチ、と機械のような音がする。
「恨み?特にないよ。もっと気の利いた台詞を吐いてくれないか?萎えるんだよね。」
「なんでもする、、…っ、」
「なんでも?ふーん、なんでもね」

じょじょに、理想と現実とが絡まり合って、夢から覚めそうになって間宮は手を握りこんだ。夢が覚める前に早く殺さなければ。

間宮が彼の方に近づいていくと、彼は間宮の表情の変化を読み取ったのか、悲鳴を上げ、床をはい回るようにして逃げ始めた。腰が抜けて立てないらしい。
標的の女の方はとっくに始末しており、彼を殺さない方法など、いくらでもあったはずなのに、下見して、一目見た時から、下半身の疼きが止まらないのだった。勝手に脳が彼の姿を理想的に書き換えて、頭の奥の方をじくじくとさせた。
霧野を嬲り殺す代わりに代替品を嬲り殺す。殺して動かくなくなると、またそこに勝手に霧野の面影を見、心が綻び、叱られるかもしれないが、止まらず、きっと二条もこれを観たら悦ぶのではないかという都合のいい妄想、供物になるのではという邪な考えが止まらなくなったのだった。飼い猫が自慢げにネズミや昆虫を飼い主の元に運び捧げるようなものだった。

間宮はぐったりと横たわる霧野の身体の拘束を解いて、唯一着ていたTシャツを剥ぎとった。湿っていて温かいシャツを手遊びすると彼の匂いが周囲に充満した。息を吸う。霧野の匂いと誰かの匂いがする。
間宮はまた頭痛の予兆を覚えた。肉体改造、人格改造には限界がある。間宮は自分のかつてのことを知りたくないと思いつつ知りたいとも思う。今、目の前の男に集中することでなにか開けるものがあるかもしれない。忘れていた何か。

霧野はまた、生まれたままの姿に首輪一つ身に着けた最近よく見慣れた姿となった。霧野の身体の表面は暗闇でもわかるほど紅く映えて、煮え湯に漬けた後のようであった。疲労と余韻に身体をくゆらせ、震えながら悶えていた。開きっぱなしの口から涎が垂れた痕が残り、肉体に打ち込まれたピアスの装飾が微かな月明かりを受けて、触ってくれとでもいうように赤い皮膚の表面で濡れ光っていた。装飾を軽く指で弾くと、身体をのけぞらせて、何も言わぬが瞳が間宮をじっと睨み見た。睨み見ている癖に、口からはあはあと涎を垂らしながら淫靡な息を吐く。

間宮は、霧野の姿を観察しながら、彼が脱力している内に手首をロープで、前で束ねてうつ伏せに転がした。もともと重みのある身体は、抵抗がない分、土嚢のようで余計に重く感じる。手首からベッドの枠にロープを伸ばして結わえ留める。霧野の指先が何かを求めるようにぴくぴくと動いていた。

間宮は霧野の身体に覆いかぶさるようにして、霧野の手の甲の上から自身の指を絡めた。拒絶するように強張った手はすぐに弛緩した。しばらくそうして手を握っていると、互いの熱が伝わり合い、身体の震えが一層大きくなり、彼がまた息を荒げて、間宮の身体に振動が伝わる。しばらくすると今度は落ち着いたのか、動きが止まり、静かに、はらはらと涙を流すのだった。間宮の身体から流れ出た汗が、首を伝い霧野の首筋に落ちていって涙と一緒に一筋流れた。

間宮は、握りたてていた手を外し、今度は霧野の手首を強く抑え込み、顔を近づけた。頬に互いの体温を感じた。

「もっと欲しいだろう。足りないだろうね、あれくらいじゃ。」

霧野は視線をシーツの上に彷徨わせ、YESともNOとも言わないが、微かに震える唇の間、呼吸の端々に濁った、大量の唾液の絡んだような声を交えていた。間宮は手で霧野の口元を拭って指を中に入れた。
「なんだよ、口マンコをぐちゃぐちゃにしちゃって……。」
まだ喉の奥が詰まっていて声がうまく出せないようだった。再び手を握ってやると脱力していた手に力が入った。

「ふふふ、YESってことね。たっぷりサービスしてあげよう。」

間宮は霧野から手を外して起き上がり、床の上に静かに裸足で降り立ち、一つ大きく伸びをした。そして、ベッドの上で悶える肉塊を見降ろした。

霧野は頭を動かして、佇んでいる間宮を見上げていた。間宮の瞳の奥は冷ややかな蛇のようなのに、対照的に熱っぽく目の下を紅くしていた。身体を闇に溶け込ませながら、沈んだ瞳と長い手指が闇の中に浮かび上がっていた。闇が間宮にまとわりついて、彼の一部分を隠して姿を霧野に似せた。

間宮の頭の中では、霧野の上下する濡れた背中の傷がぐるぐると渦巻いて、紋様の形をとっては、ばらけていった。頭の奥の方がぼーっとしていき、気持ちが凪いでいった。しゃがみこんで霧野の顔を覗き込んだ。瞳の中に間宮が写っているようで写っておらず、霧野の視線は自分の内面に堕ちこんでいるように見えた。その奥に、欲望を求める闇を感じていた。炎ではなく暗い闇であった。

「霧野さん……」

間宮は目を細めてしばらく霧野に見入った。彼に背を向けてリュックの奥を漁る。ぎし、と背後でロープがなって、シーツのずれる音がする。

「んふふ、期待してるのか?そう焦るなよ。」

リュックの中から、大きなホチキスのような機械を取り出し、中を開いた。銀色の鋭く小さなホチキス針たちが弾丸のように中に収まっている。

背後で霧野の気配が濃くなる。意識が、浮かび上がり、間宮の手の中にある物を見て、小さく息をのむが、続けて何かを言う気力は無いようだった。

間宮はリュックの脇ポケットから錠剤のシートを取り出し、内一つを、ぷち、と、手の中に出した。ベッドに腰掛けて、手のひらを霧野の鼻先に持っていった。彼の呼吸が、ふすふす、と手のひらをくすぐって犬のようだった。わかりやすく躊躇している霧野の前で、間宮は無理に与えるでもなく彼の目の前で白い錠剤をチラつかせ続けた。

「無理に飲まなくてもいい、別に。いらないなら。」
手の中に薬を握り込む。
「……」
霧野がハッとして次に濡れた目で探るように間宮を見上げていた。
「抗生物質だ。怪しい薬じゃない。俺が普段から持ち歩いている物だよ。」
もう一度手を開く。
「今からアンタの身体に異物をたくさん打ち込もうというんだよ。化膿しても困るだろう。後で痛いのはアンタだ。病んだら病んだで放置かもしくは、ここに居る奴か、お前のことだから似鳥辺りにまた身体検査されるんだぜ。」

間宮は彼が自ら口を開くのを待っていた。霧野が小さく口を開いて舌が躊躇くするように動く。舌の上にのせてやると一瞬驚舌がこわばったが、そのままおずおずと、奥へと引っ込んでいって喉元が動いた。ふふ、とくすぐったげに間宮は笑った。

「ふーん、信用してくれんだな、俺のこと。」

濡れた霧野の肉体に手を這わせながら、指が食い込むほどに肉付きの良い腰のあたりを掴んだ。不思議だ、明らかにやつれた箇所はあるのに、ここの肉はむしろ発達したように思える。

そこに冷たい機械、タッカーを押し当てるとカチと無機質な音が鳴る。まだ飛び出していない針の先端が霧野の皮膚をちくちくと擦り、猫の爪のように引っ掻いた。

タッカーとは、簡単に言えば、大きな業務用ホチキスのようなものだった。ポスターや広告などを壁にホチキス針で縫い留める時に便利な品物だ。ホッチキスは挟まなければ打ち込めない。挟める場所となると、腕の肉や睾丸など場所が限られるが、タッカーであれば挟まずとも、肉の表面にいくらで針を打ち込むことができるのだ。

持ち手を握り、振り落とせば、細い針が肉に深く食い込み、刺さる。冷たい鉄の機械をさらに押しあてる。温かで柔らかい皮膚がぐっとへこみ、当てた周囲の皮膚が鳥肌だって伝播するように彼の大きな身体が軽く震えた。

「怖い?」と言いながら、間宮は手の中の機械の持ち手を握った。手の中が刃物で人を殺した後のようにぬる、ぬる、とし滑る。間宮はだんだんと自分が饒舌になってくるのを感じ、身体に熱い血が巡ってくるのを感じていた。

「怖いのなら、良いこと教えてやろうか。一つ打たれる毎、心の中で自分の罪を一つ唱えてみるんだ。別に俺にいちいち言わなくていいから。言いたければ聞いてやるよ、たくさん懺悔したいことがあるだろ?お前には、たくさんたくさん、やましいことがあるのだろう?普段は人前に出さない、内に秘めたやましさ。自分で自分さえも騙して忘れているのかも。お前のようないきった人間は、内側にあるものを出さない、いや、出せないんだ。全て内にしまうか、全て外に出すかだからね。いい機会だから、膿を出すように、少しずつ出してみるといい。お前の悪徳を。じゃ、まずは一つ目だ。」

バチ!という音と共に一つ目の針が霧野の腰下に打ち込まれ、身体が一度跳ねるように上下してから、くふぅ……と、食いしばる様な声吐息が漏れ出ていった。手をぎゅっと握って、頭を枕にうずめて耐えている。

二発目、三発目と続けて打ち込んでいき、腰元、背骨の左側に縦に三本、銀色の針が突き刺さり、食い込んで、ちらちらと光った。霧野が喉の奥をぐるぐる鳴らしながら、ビン!とベッドに繋がった紐が引き、引きつるようにして暴れかけた足を間宮の腕が受け止めた。

「お行儀の悪い脚だ。」

間宮は傍らにタッカーを投げおき、ロープを取り出した。ロープが霧野の左右それぞれの足首を留め、ベッドの枠に括った。霧野はうつ伏せに足を左右に開かされ、三点のロープがギシギシと鳴りたてる。

引き締まった四肢をベッドの上に縫い留められ、傷痕で鮮やかな背面を晒す姿は、さながら標本箱の中に針で留められた昆虫のようであった。間宮がつけた、捥がれた、焼かれた翼の痕のようなナイフ痕も治癒しつつあるが奇麗に残されている。
無防備に、美しく穢された身体を間宮の前に供物のように晒していた。

間宮は霧野の脚と脚との間に腰を落ちつけて、再びタッカーを押し当てた。三発目以降、息の中に小さく仔犬のような高い声が混ざり始めた。

「辛い?でも、まだまだアンタには懺悔することが山程あるはずだろ?それとも頭が悪くて言葉が出てこない?回らない?そうしたら、『ごめんなさい』だとか『気持ちがいい』だとか唱えてみるのがオススメだぜ。自分が如何に外道で最悪な人間性の持ち主か噛み締めろよ。」

五本の針が縦に並んだ。間宮は軽く血の付着した機械を担ぐように持ち上げながら、空いている方の手で、背骨の反対側、まだ何も無い右側を指でなぞった。熱っぽく指先にまで脈拍が伝わってくる。霧野の全身が潤っていたが、股間もやはり湿っていたのだった。うつ伏せになった身体の下で、一発目二発目辺りでは萎えていた霧野の雄はまたむくむくと小さな紅い膨らみを間宮の前に見せていた。

肉門は針を打ち込まれる直前、波が押し寄せるようにして収縮し、打撃する瞬間には激しく引きつるように締まるのだが、一針終わるごとに、今度は海が凪ぐように弛緩して口を開き、中を濡らしたままにして肉筒の中を淫靡にうごめかしていた。

間宮は求め滾るマグマのような雄の肉の中にまた己の欲望の塊を死ぬほど突っ込んでやりたい衝動にかられながら、霧野に静かに声を掛けた。

「こういうのは左右対称にしないとな、几帳面な霧野さんのことだから気になって仕方がないだろ……?なぁ……?」

枕の上で霧野の頭が動く前に、間宮が上から覆いかぶさり、唸る頭を押さえつけて、無理やりうなずかせるのだった。背骨の左側の皮膚が小さく腫れて赤い点が浮き、細い血の筋が幾筋も、皮膚の上を汗と混ざり合いながら伝っていってベッドを汚した。

反対側に同じ施しをされる頃には、喘ぐような小さなくぐもった声が断続的なって、握りしめられていた手が、ちょうど五本目が終わったと同時にゆっくりと開いていった。厳しい針の打ち込みが終わり、脱力した身体の左右に血が流れ垂れていく。

「痛いか?」
「……、……、ん、っ……」

霧野は身体を動かして反応しようとしたが、針がくい込んでいたいか、怖いか、大人しくしていた。

間宮はマジシャンのようにポケットの中から細い黒いリボンをスルスルと取り出した。闇の中で黒いリボンの光沢がひらめく。
リボンを、器用にホチキス針の間を通していった。霧野の腰下にコルセットをしめたように肉の上にリボンが編み込まれていく。
「い゛っ……、く」
リボンが針の間を通る度、リボンが針にあたって鋭い痛みが走るのだった。
「動くともっと痛い。」
「……、……」
飾られた。ピアスの代わりに取り外しが容易なホチキス針を使った歪な擬似コルセットピアスの完成であった。

汗ばみ血に濡れた身体の上で場違いな黒いリボンが呼吸に合わせてふわりふわりと上下に動いて、リボンの端端が敏感な霧野の身体の触り、とろけそうな程熱い表面をチリチリと擽っていた。身体をくゆらすと、小さなリボンと小さな針が霧野の身体をチクチクと陰湿にいじめるのだった。どくんどくんと鼓動に合わせて痛み、熱くなっていく。

「ふふふ、良く似合うじゃない、ぷるぷるしちゃって……そんなに気に入ったのか?可愛いぜ霧野さん。しばらくそのまま飾っておいてあげるから、痛みをゆっくり味わいながら、おとなしくしてなよ。なかなか味わい深い痛みだろ?」

間宮は病室を抜け出した。部屋の熱と湿度が随分高かったようで、廊下に出ただけで気持ちがいい。病院の裏手に回った。涼しい風が吹いて汗ばんだ身体を冷やした。頭の中も冷える。目の前の地面に鉄の扉があるのを眺めた。ただどこまでも底無しに堕ちていく感覚、這いあがろうという意思を砕く打擲、墜ちていく気持ちよさ。いつから這い上がれなくなったのか、わからない。二条は非道だとしても理想を裏切らない。

ポケットの奥に残していた一吸い分の大麻を取り出して吸った。沈んではいるが、何故だろう不思議と久しぶりに穏やかな気分だ。

病室に戻ると、思った通りに霧野が左脚をロープから抜き、もがいていた。左脚だけ抜けやすいようにロープに軽い切れ込みを入れておいたのだった。仕掛けた罠の上を思った通りに通ってくれる獲物は可愛らしい。学びにおいても幾度かそうやって間違えさせた方が効率がいい。間宮は小動物でも見るかのような目で離れた位置から霧野をしばらくの間見守った。間宮が戻ってきていることは霧野にもわかっており、尚更必死にもがき続けた。

彼が、一瞬動きをとめ、頬を枕に擦り付けるようにしながら振り向いて間宮を仰ぎ見た。間宮はその瞳の中に、自分と似た何かの片鱗を見て、まるで彼の兄にでもなったような気分になった。

「あらあら……、駄目じゃない霧野さん……。」

間宮は霧野の脚を再びとって、元の様に今度はしっかりとベッドの枠に括りつけた。

「仕置きしないとだな。」

仕置と言う単語に、間宮の手の中で、間宮にわかる程度に霧野の身体の筋が緊張したのがわかった。

タッカーを二の腕に押し当てて、腰と同じように左右10本ずつ針を打つことにした。霧野にそう宣言すると、何か言いたげに口を開いたが何も言わない。やめろと言ったら数が増えることを最早本能で理解しているらしい。頭の中でなにか唱えているのだろうか。

「女みたいに情けなくデカい声出さないでくれよ。そしたら口もこれで留めてやるからな。」

流石に身体がガタガタ震えているが、関係がなかった。震えていても耐えられる。施しを終えて、再び血に濡れた皮膚の上をまたリボンを通して飾り立てた。腕をもがかせる度に痛むだろう。

痛みに悶える霧野を慰めるように、間宮は電マをとりだした。激しい振動音に、霧野が枕から顔をあげて信じられない物を見るような赤い目で間宮と電マの間を視線を往復させていた。

「こんなにされても、感じてるんだろ?頭の奥が疼いて気持ちよくって仕方ないか?もっと感じさせてお前が根っから、どうしようもない性奴隷以下の淫靡な存在でしかないということを思い知らせてやろう。」

ロープを電マの持ち手に括り、伸ばしたロープを彼の汗ばんだ太ももに括って、電マを股間に押し当てた状態で固定した。小さく振動させると囚われた身体をキシキシと動かして、痛みと快楽にまた湿り唸り始めた。

間宮は、しばらく悦に浸った様子でにやにやと霧野を眺めていたが徐に長い指を霧野の無抵抗な後孔につっこみ、折り曲げた。ベッドがひときわ大きく音を立てて軋んだ。霧野は最初嫌がるように腰をどすどすと動かしたが、それが刺激になってしまったかのか動きを止めて、間宮の指を受け止めたまま大人しくなり、体をぴくぴくと震わせるようになる。

「こっちも寂しそうだな。欲しいんだろ?」

間宮は病室に残されていたディルドを手元に置いていた。肉棒の形をした無機質な異物を彼の淫の入口に、押し当てると、迎合するように、くちくちと音を立てながら吸い付いて何の抵抗もなくずっぽりとまるでその為の穴のように奥に飲み込まれていく。

間宮の鬼棒で散々穿たれた肉孔、ディルドを飲み込みはするが、身体への刺激で締まるたびにディルドが抜け出そうなる。間宮は最初こそ手でそれを「勝手に出すなよ」と抑えていた。抜け出し、奥へ押し込み、抜け出し、奥へ押し込む。ん゛っ、と突くたびに3回に1回程度の割合で断続的な鳴き声が出る。

間宮は溜息をつき、また、霧野の脚の間に座りこんで脚を伸ばし、霧野の両足首を掴んだ。

「だるいねぇ!こうしてやろう。」

それから、手ではなく、足の裏でディルドの底を押し、身体の奥に沈みこませた。ぎゃお!と吠えるような声がした。昔の踏み式ミシンのようだ。

ぬち!ぐち!と激しい音が鳴る。向こう側から、あっ、あっ!!と声が上がり、それから悔しそうに喘ぐ声が聞こえて、呼吸の速さが上がっていった。

間宮はしばらく裸足でいたが、ふと思考めぐらせ、ブーツを履き直して、同じ作業を続けることにした。硬い靴の底が霧野の下半身に無遠慮に押し付けられていく。まだ靴底で押し込む前から、ふっふっ、と荒い呼吸をして期待に息を荒らげているように見えた。

「くくく……おい……っ、マゾ野郎……、お前はこっちの方が屈辱感が増して堪らないんだろ?ん?」

足を、かかと落としでもするように時に強く、時に弱く踏みたてて、ずこずこと霧野の飾られた身体を背後から、脚で踏みしめ、犯し続けた。
もがけば痛いはずなのに、霧野の身体は時に求めるように勝手に、囚われた範囲でもがくように動いて自らの身体を虐めて喘いだ。リボンがゆさゆさ揺れ細い血の筋が流れ踊っている。

間宮の、霧野の脚首を握る手に、だんだんと力が入っていった。

「針まみれにされ、俺なんかに、踏まれ、犯され、こんっなにされてんのに、感じいってんだから、最低だなアンタはっ、本当に、最低の、人間だよ……。」
「……、……。」

霧野は、ぼんやりと沈んだ頭の中に入り込んでくる間宮の声が、微かに震えているのを聴いていた。
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