堕ちる犬

四ノ瀬 了

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本来、支配者と言うより、性奴隷のような役職に向いているということだよ。

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「人はなぜ非行に走ると思う。」

背後から、神崎が話しかけてきた。霧野が自席で始末書を書いている時のことだった。始末書を書くのはの小慣れたものだったが、なにせだるい。

霧野は「お金がないから、怠惰だから、人生の目標がないから」と文字を打ち込みながら答え、正解を仰ぐように神崎を振り向いた。感情に任せれば屑だからと言い切りたいところだが、物事はそう単純ではないし、神崎が求める答えでもないだろうと思った。

「なるほどなるほど。良い線いくじゃないか。ところで、お前の非行の原因はどれ?」

神崎がにやにやと目だけで笑って霧野を見降ろしていたが、霧野の心の方は何故か冷めていった。

「何?あは、失礼ですねぇ。私のは非行ではありません。正義なので。」
「行き過ぎた正義は非行を越えてただの悪だぞ。何故戦争が起きると思ってる。」
「論点ずらしですね。何にせよ、私は小さな非行をすることになど興味がありません。」

興味がないと言いながらも、自分が具体的な非行をやるのに興味がないだけで、非行、小さな悪を繰り返し行う人間は、霧野にとって、恰好の餌でもあった。今回の始末書とて新進の非行グループを執拗に追い回し、捕まえはしたものの、不必要な暴力行使、不必要な電波授受行為等々を行ったせいで書かされていたのだった。

「奴らとちょっと話をしてくるがお前も一緒にどうだよ。」
どうだ、と言いながら有無を言わせない感じがある。
「コレを優先しろと言ったのは神崎さんじゃないですか。」

コレ、始末書を指さして「じゃ、書くのやめてもいいですか?」と言って上目遣いに神崎を見てみた彼は既に霧野に背を向けそのまま執務室を出て行ってしまう。

立ち上がる。他の人員からの視線を感じた。誰?と思って振り返ると、目を逸らされる。
「……。」
神崎を追った。追いかけ捕まえることがゴールであり、その後の処理やケアについて、霧野はあまり興味が無かった。やらざる得ないからやるだけで、そこに熱意を感じたことはあまりない。

神崎の方は霧野と違って「事後処理」の方にも僅かならぬ熱意を持っている風に見えた。個室の中で神崎が彼らと向き合うのを壁際にたって眺めていた。学ぶことがないでもなく、やる気なく接していた自分を反省するところも出てくる。

責めの姿勢でなく、受ける、聴く姿勢をとり、彼らの口から言葉を引き出すのだ。本当は話したいことがある。しかし、なんと言っても頭が悪い。要領が悪い。無駄な意地やプライドがある。そのせいでうまく言葉にできないのをサポートしてやる。なかなか根気のいる作業だ。第一心を開かせるのが難しい。人の話を聞くというのは簡単に思えて難しい。

「……。」

これもある意味心の支配のひとつの形だろうかという感想と興味を霧野は持った。神崎に学ぶことは多かったし、彼のやり方を取り入れることも多かった。しかし完全に彼のようにはなれないと思った。少なくとも今はまだ。

見学を終えた頃、丁度お昼時になり二人食堂に向かった。神崎は、最近は胃がもたれてかなわないから、と、ざるそばを、霧野が生姜焼き定食を頼むのを横目に注文していた。霧野は始末書の山で胃もたれしているかと思いきや見ている側が気持ちよくなるくらいよく食べた。

「さっきの話、神崎さんの答えはなんです?非行の原因。」
「そうだな、心の弱さだろうな。」
「心の弱さ?ふーん、随分図太い神経してると思いますけどね、奴ら。」

心の弱さ。霧野は言いながら自分のことを省みた。時々自分でも、行動を自制できていないと思うことがないでもなかった。しかし、それは心の弱さが引き起こすことなのだろうか。



霧野の身体が、頭の中が、煮えるようにごぼごぼと沸騰していた。

熱さと刺激に意識が朦朧として、視界の中、闇の中で間宮の姿が二重三重になったり、身体を裏返され、寝具の上に押さえつけられることで何も見えなくなったりしていた。また、仰向けにされる。

巨大な肉鉾が身体を突く度に、脊椎の末端から頭蓋骨まで衝撃が付きぬけ、痺れた。欲望の付け根が痛む。コブラのような巨根がずるずると音を立てながら背骨の末端から、身体の外へ抜け出ていった。

「ぁぁ……」

間宮はベッドの上にあぐらをかいて、霧野を見降ろしていた。霧野は視線を間宮の方に合わせようとせず、伏し目がちにして、喘ぐように息をついた。首筋を汗がつたい、酷く部屋が蒸れた。

「霧野さん、今のアンタって素敵だ。とてもいいな。常にそうだったらいいのに。」

霧野はあらぬ方を向いていた瞳を元に戻して、間宮の方をじっと睨んだ。拘束は解いてもらえず、貞操帯も外されず、身体に打ち込まれていた凶器は無くなったが、無くなった箇所は、肉が開いたままになって、緩やかな電流が、ぱちぱちと、いつまでも身体を刺激して温めていた。

鋼鉄の貞操帯の隙間から汁が垂れシーツを濡らす。霧野が重い身体を仰向けから横にすると中に溜まっている精液がぐるぐると肉の中を鳴らした。

「う、……」

気分が悪かった。反対に霧野を見下げる間宮は嬉々として、霧野の身体に無遠慮に手を這わせながら、はあはあとしながら、またもや勃起を始めようとしてた。霧野は、性欲の化け物じゃないか、と思ったが黙っていた。黙っていると、間宮が更に嬉々として、霧野に覆いかぶさって顔を近づけた。触れてもいないのに彼の熱が身体に伝わってくる。

「……」

霧野は、間宮の顔を漠然と見上げていた。悦んでいる?顔全体としては笑っているのに、瞳の奥が暗く真意が読めず、覗き込むほど、どこか恐ろしいものがある。

「射精したくてしたくて、不機嫌になってるのか?もうっ、わかりやすいなァ。」

間宮の目には、霧野がねだっているように映ったようだった。

「霧野さんは皆に使われる穴、オナホなのだから、別に二度と射精なんかできなくたってもいいんだよ!鍵穴を溶接してやろうか?」

間宮の指が貞操帯に触れ、それから下腹部をなぞる。

「地下室も、事務所も、俺のデスクまでも、お前の垂れ流した汚汁で、汚れて、臭くて!臭くて!仕方がないんだから、アンタのためにも皆のためにもそうして、中で腐らさてやった方が良いと思うんだよ。お前がそこらへん歩いてるだけで獣臭い。そうやって雄を誘っているのか?いやらしいねぇ。」

霧野は息を整えながら、回らない頭でただ間宮の煽りを聞いていた。話を聞いてやろうと思った。誰も間宮の話を聞いてやらないのだから。外に出るために、美里とのコネクションだけではまだ弱い、美里には劣るだろうが、間宮ならまだ、通じるかどうかは置いていおいて、話ができる可能性はあり、付け入るような隙を見せる可能性も同じく大いにある。
「……」
霧野は頭を冷ましながら、月明かりの中の美里の姿を一瞬だけ思い浮かべていた。

「こーんな短小で女をブイブイ言わせて遊びまわっていたというんだから笑けてきますよねぇ澤野さん。男として恥ずかしいからやめたほうがいいぜ。人生の先輩からのアドバイスだな。まあ、もう二度と勝手にそんなことできないわけだから、お前もこれ以上恥をかくことないし、結果として良かったわけだね。」

たまには話を静かに聞いてやろうと思っても、間宮に煽られて苛立つものは苛立つのであった。抑えようと思うほどに。それから、冷静になろうとすることで、発火していた脳が冷静になり、身体の中にまだ残る肉棒の色濃い余韻に、情けなさを感じてくるのだった。

考えまいとするほどに、器官を犯された余韻がはっきりと身体の中をかけめぐり、歯噛みして、つい口を出してしまう。

「……おまえのほうこそ、」
「あ?」
「お前の、そんな化け物みたいな物で悦ぶ女がいるかい、気味悪がって然りなんじゃないの。」
霧野は間宮を真似るように、微笑んで見せた。間宮は一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに調子を取り戻すように笑った。
「ふふふ、そうだよ、だ・か・ら・アンタみたいな丈夫で、どう扱ったて構わない肉が俺達にはイイんだよ。何の気も使わなくてもいいしね。」

間宮の指が霧野の敏感な箇所を摘み、また尻をまさぐった。仕上がった身体をまさぐられるだけで、霧野の表情には余裕がなくなっていって、はあはあと発情の兆しを見せてしまう。厭、と思って身体をくゆらせても、執拗に手は、痛めつけるでもなく、陰湿に蜈蚣の様に身体の上を這いまわった。

「き…っもち、わりいんだよっ」
「ああ、そう?」

余裕の乏しい霧野と反対に、間宮は珍しく、まるで霧野の普段の精神を真似るように、挑発に対して動じることもなく余裕を持って嬉しそうにしていた。間宮は、霧野の身体をうつぶせに転がして、頭を自身の股間の方へと近づけ、Tシャツを肩甲骨の辺りまでめくり上げた。濡れた背中が呼吸に合わせて、上下している。背骨の末端の行きつくその向こう側、尻の間で、きゅ……と肉門が痙攣するように引き締まって、二度、三度と、陰湿で粘着質な音を立てていた。

間宮は、何か高まるものを感じながら、霧野の頭を掴んだ。厭がる霧野の熱い頭を、肉棒に触れさせ、頬にぐりぐりとその巨根を押し当てた。霧野が何か言おうとする口に、先端をあてがうと「う゛っ」と声を出して静かになる。

「上手に舐めれたら今度こそ、檻を外して好きに射精させてやるよ。うまくできないようなら、そうだな、またお前の好きな家畜用の電気銃を内側から撃って虚無い射精をさせてやるのがいいかな。良かったろ?あれ。全然気持ちよくないのに、生殖用の精子だけは無駄に出る。」

霧野は、間宮の雄を顔面に感じながら、電気の究極の痛みによる物理刺激で内側から射精させられた全く気持ちよさの無い、虚無の射精を身体の底で思い出していた。二度と感じたくない感覚の一つだった。

ぐに、と頬と唇にこすりつけられるようにして一物が当たる。一物と言うにはあまりに大きすぎるそれが視界全体を覆い、その向こう側から声が降りてくる。霧野が彼の一物越しに間宮の方を見上げると、また、携帯のカメラが第三の目として霧野を見下げていた。

「なにしてる……っ」
「なんだよ、黙ってすべきことをしろ。」
間宮はカメラ越しに霧野を見ながら、巨根の先端を霧野の中に押し入れた。
「む゛……!」
軽く歯が当たるが噛まれるでもなく、唇が優しく間宮を受けいれていた。
「やらないのか?今すぐケツ穴の中に電流流すかよ?おい。」

ベッドの上で、観念したように吸いたてる音が響き、間宮は息をつきながら、ゆっくりと自身を再び霧野の中に沈めていった。

「首から下の部分はまたサイトに動画をあげて俺のお小遣いにさせてもらうんだよ。良いだろ別にこれくらい。今ねぇ、霧野さんの肛門が、いや、淫乱マゾおまんこがねぇ、凄いひくついてるんだ、あっ、ほら、指摘したら余計に締まって、あーあー。ほんとうにもうアンタは……」

苦しそうな息遣いに、間宮は携帯から霧野の方へ目を向けた。目が合った。霧野が顔を赤くして苦しそうに舐めたてている。じゅるじゅる、間宮の記憶の中で、また自分がそこ重なって奇妙な気持ちの良い気分になる。ペニスもさらに著しく勃起するのだった。必死に肉棒を頬張りながら、反抗と淫蕩の光を瞳に滾らせる。

「あっ……」

霧野の頭を更に強く掴んだ。思い出してはいけないことを思い出してしまいそうになり、眼をきつく閉じて頭を振った。

それから何とか言葉を絞り出して、思い出してはいけないことを上書きする。

「そうだよっ、前撮った奴、思ったより稼げてるんだぜ。霧野さんの身体は十分変態向けに換金できるんだ。ポルノスターだよ。……。霧野さん、アンタはまだ浅いところをちゃぷちゃぷとやっているだけだが、この世界にはね、想像を絶する変態がね、多いんだよ…‥。セリにでも賭けて、一番変態な人間に売り飛ばしてやったらどうだろう。言葉が通じない外国人とかね、意志相通ができないから、すごく怖いんだよねぇ。本当に自分が人間じゃなくなった気分になる。そのうちそんな機会もあるかもね。何やってるか知らないけど最近ウチは海外との取引も多いと聞くしなぁ!」

間宮はおそるおそる目を半分ほど開いて、また霧野を見降ろし、さらに中に、ぐぐぐ、と肉棒を押し込んだ。微かに歯があたるが、ゆっくりと器官に飲み込まれていく。鷲掴みにした豊かな濡鴉色の黒髪の中に、一本白髪が目立つ。

「……、……。」

この毛束の中の黒がほとんど白になったなら、それはもう澤野でも霧野でもないモノになるだろうと間宮は思った。

半分ほど入り、また嘔吐しかける霧野だったが、酸素が足りない中で間宮の香りを嗅がされ続け、拘束され折り曲げられた脚の間で、ぽっかり開いた肉の溝、熱い噴火口のような穴が、誘うように、開いたり。閉じたり、を繰り返してさらに熱を帯びていた。間宮は、霧野の大きな背中の上で肩甲骨が蠢き、背筋が盛り上がるのを眺めていた。動くたびに赤らんだ背中に傷跡もなまめかくしく、その一本一本が紋様の形になって蠢いていた。

縛られた手首が音を立て、蛙の様に折り曲げられた太ましい筋ばった足がびくつくのを、間宮は爪を、指先を噛みながら眺める。

「文句たれながら俺のをしゃぶって感じちゃってるんだからねぇ。……。」

間宮は指先を噛みながら、霧野の口による刺激だけでなく、彼の身体の反応に、疼きを覚えていた。間宮はリュックの方に手を伸ばし、小さなカギを手元に用意した。霧野のとろんとした瞳の中にそれがうつると、わかりやすく輝きが戻って、じゅっ!とペニスをふくみながらこぼれ出そうになった涎を飲み込んだ。

「あははっ!ふん、なるほど、犬みたいにわっかりやすい反応だな、犬のおまわりさんよ。わんわん!組長や美里がアンタを犬扱いしたくなる理由も少しはわかったぜ。外してやるから、仰向けになんな。」

霧野の口からぼろんと肉棒が出て行き、ベッドの上を勢いよく転がるようにして、霧野はあおむけになった。手こそ後ろ手に縛られて前に出せないが、服従のポーズに近い姿だった。 
間宮が側に屈みこんで、貞操帯に手を近づけると、はすはすと呼吸が早くなり、無意識の内なのか狙っているのか、もう我慢できぬとでもいうように、間宮の目の前で腰をくゆらしていた。極端に意地を張らなくていい相手と無意識の奥、頭の片隅で認識したのかもしれなかった。

「おいおいおい……」
間宮は頭の奥がくすぐられる思いで霧野を見降ろしていた。
「ふふ、霧野さん、俺のおちんちんはどう?美味しかったかい。」

間宮は指先で鍵をくるくるとまわして音を鳴らし、探るように霧野を見ていた。霧野が動きを弱くして真面目腐った顔で間宮を見上げたので、間宮は鍵を手の中に隠した。それだけで、まるで鍵がこの世から消失したかのように、霧野の瞳の奥に絶望の影が過るので面白くなる。まるで赤子と同じだ。

「美味しかった?」
「……、……。」
「ちゃんと言えないなら、」
「お……、」
「お?」
「……おいし、かったです……」
「そう。良かったね。お礼は?」
「……ありがとう、ございました、っ」
「…‥‥」
間宮は、いぶかしげな顔を作って、霧野にじっと顔を近づけた。
「怒りながら感謝なんてないだろ……?笑顔は……?うれしそうにしなよぉ。」
「あ?……ちっ、」

霧野がぎこちなく笑うと、間宮も同じように微笑み返すのだった。

「くくく……必死だな。いい……。感情がどうにかなりそうかな?まあ心配しなくても、死ぬほどやってればその辺もぶっ壊れるから大丈夫だよ。」
「なにが、……、」
「何が大丈夫かって?……。あれ?まあ確かに言われてみればそうだな。なにも大丈夫じゃないのかもしれない。」

間宮は自嘲気味に笑い、それ以上何も言わず、彼の貞操帯を外して、ベッドから降りた。霧野は喜んだのもつかの間、自由にならない手では勢い勃起する一物をどうにかすることもできず、余韻、小さな電気刺激と今置かれた状況に、間宮の前にみるみる勃起していってしまう恥部を晒した。

「なんだい、貞操帯外して即欲情とは呆れた。まるで性欲の化物だな。そんなにぶちこんでほしいか、我慢のできない欲情豚め。はあ、まったく仕方のない人だ。」

霧野が反射的に言い返そうとする前に、開かれた股の間で、求めるように肉溝が音を立てたため、何も言えなくなってしまう。

「変態ドマゾの霧野さんの肉体が悦ぶようなことをしてやろうかな。飛び切り痛いヤツ。アンタはもう痛みが癖になってて戻れないんだよ。まあ、アンタは元から痛みを厭わない性格、いや、自ら求める性格、それが加速しただけのこと。元からそういう気質なんだね。ある意味俺よか遥かに天才なんだ。気持ちよくなれる天才ともいえるね。元より、本来、支配者と言うより、性奴隷のような役職に向いているということだよ。良かったね。」

間宮はにやにやと笑って霧野を見降ろし、ベッドの縁に腰掛け、引き寄せたリュックの中を漁り始めた。

「ま、だからと言って二条さんをたぶらかして良い理由にはまったくならないけどな。調子こいてた時もうそうだったけども、こうなってさえもまだ人の物や立場を獲ろうとするのだから、本当にタチ悪いよね霧野さんて。」
「……べつに、」
「別にじゃねぇだろうが!!!」

間宮が鬼のような形相で振り向いたかと思うと、霧野の方に手を伸ばし、電気機械のつまみを振り切れる位置まで回した。

「!!!!!!!」
 
容赦のない電流が流れる。細胞が爆散するような、針で貫かれ続けるような激熱の痛みになって霧野の開発され敏感になった性感帯の細かい神経をびりびりと痛めつけ始めた。

ベッドの上で霧野の大きな身体がもちあがり、ぐっとのけ反って、何度か痙攣するように跳ねた。尻穴、尻肉の周囲と胸部が桃色に熱を帯び、筋肉をビクビクと異常な痙攣をさせる。歯を食いしばって耐えようにも経験したことの無い体の内側から刺され溢れるような痛みに、食いしばった歯の隙間から泡の混じったよだれが漏れで、ついに声が上がる。1度漏れ出てしまえば、断続的に声が上がっていってしまう。声を出さず口を開けば、震えて、奥歯がカチ、カチと音を立てた。

電気刺激を外そうと、身体が勝手にベッドの上を跳ね回ろうというのを、間宮の腕が遮って、強く押さえつけた。抵抗するほどに、電撃を強く感じてしまう。喉の奥から、ごろごろと、声が出た。身体から力が抜けても、間宮の腕はどかないどころか、さらに強く立てられた爪が食い込む。

間宮が、覆いかぶさるようにしながら、霧野に対して何か続けて感情的に言っていたが、霧野には彼の言葉を聴いている余裕がなく、終わらぬ痛みに景色が遠くなり、赤くなり、遠くなっていた。苦悶に、眉をしかめられ、目は見開かれているのに、何も見えてない。間宮に言いたい放題言わせ、受け止めるだけの肉人形だった。その中で、自分の断続的な悲鳴が聞こえるだけであった。どこか必死の形相の間宮の姿が見えたり見えなくなったりする。

少しすると、間宮は何か言いながら、霧野の悶える様子を見て何か納得したように急に表情を優し気にして、手を外してまた側に座った。それから、いつの間にか天を突くように勃起した霧野の真っ赤になったペニスを掴み上げ、親指でぐりぐりと亀頭を弄り始めた。痛みからも快楽からも逃げられない。

「あ゛ぁぁ゛!が……!ああ…う゛ああ…!!ぁんん゛っ」

同時に襲ってくる壮絶な波、電撃が、波紋の様に性感帯から広がり、熱い股間が更に熱くなり、敏感に、焦らされ、そりたち、真っ赤になった亀頭は優しく刺激されているというのに、そこさえ電気を浴びているかのように、すべてのビリビリがそこへと、熱源に、集約されていく。身体の中に、痛みを快楽にかえる変換器でも埋め込まれたかのように、霧野は間宮の手の中で悶えていた。

「ううっ…ぐ、ひぃっ…」

間宮が何か言っているが聞き取れない、胸部と空になった尻の周辺に熱い電流が流れ続けるのに、勃起が止まらず、股座が熱い。がくんがくんと、身体が何度か震え、溜まっていた分の射精、精液が間宮の手と腕、霧野の腹の上に勢いよく飛び散った。

「あは、出た、出た……」

ようやく間宮の声が遥か遠くに聞こえた。霞んだ視界の中で、彼は満足そうに、手を離し、指先と手の甲を舐めていた。

通電の痛みは続く。しかし、身体が痛みに順応、慣れてきて、周囲が見えるようになってきた。濡れた瞳を何度か瞬かせて、霧野はうっすらと目を開いて周囲をさぐった。間宮も落ち着いたらしく、またリュックを漁って何かを手元でいじっていた。

まだ終わらない、これから、何をされるのだろう、と考えると、なにか、よくないことになる。じん、じん、と震え続ける体が痛みを感じる。電気に浸された身体は、もぞ、と動きシーツが身体に擦れるだけで、皮膚が発火するようになって、また、びくんと脈打つ。おかしい。本当に電気のせいだけなのか、ふるふると体の震えが止まらない。

「んん゛……っ、んぐぅ……」

霧野は目を閉じて何か別のこと、間宮、組織を出し抜く方法を考えようとしたが、激しい電流刺激、性の余韻、間宮の方から漂ってくる大きな熱とねっとりとした声、それから何かの芯をつくような間宮の言葉がまた霧野の頭をかき乱し、耳を犯した。頭の奥がじんじんする。

「痛みはいいよなぁ。それだけに身を浸していれば、他に何も考えずに済み、その上アドレナリンが際限なく噴出し気持ちがいいのだから。それで、攻撃してくる相手のことだけを考えていれば、それだけで満たされた気分になるのだから。ね、霧野さん。憎しみだって気持ちよさの、欲望の糧になってしまうのだ、飲まれてしまうんだな。俺の言ってることが理解できるだろう。できてしまうだろう?答えは言わなくていいよ。だって霧野さんは、否定したらしたでまた勝手に自分で自分の情けなさに気持ちよくなれるのだからね。ふふふ……」
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