堕ちる犬

四ノ瀬 了

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君だって気持ちよかったんだろ、淫乱捜査官君。

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自分の息遣いの五月蠅さに目を覚ました。異常に蒸し暑い。

「はぁ……はぁ……」

霧野は薄眼を開き「えっ?」と身体を強張らせた。誰かが身体の上に乗っている。仰向けで寝ていたはずが、ベッドにうつ伏せにされ、その上に誰かが乗っている。しかも…。
「んん゛ん……、っ」
誤魔化すように枕に顔を埋めた。
背後から奥まで、きっちり挿入されている。

それが、尻の中を探るように掻きまわしている、熱い何か。何か。蒸し暑いのは部屋ではなく、自身の肉体が放出させる熱と周囲の熱気だったのだ。

霧野は眉をしかめきつく目を閉じ、寝たふりを続けた。どうして、気が付いた瞬間上に乗っている何か、誰かを咄嗟に振り払わなかったのかと、自問自答した。その間にも、肉棒らしきものが身体の裂け目の中をゆっくりと探りまわし、柔らかくする。

今、振り払おう、と思うたびに、決意を打ち崩すように、裂け目の奥の滾る場所を、熱く硬いものが穿った。寝ている間にすっかりとほぐされたのであろう快楽の芯を、肉鉾がずんずんと刺激する。タイミングを逸し続ける。霧野は枕に顔を埋めながら、下唇をきゅと噛みしめた。

「ぁ……く、ぅ」

霧野の肉筒は今、ほとんど痛みも何の抵抗も無く、たやすく雄の侵入を受け入れていた。だからこそ、身体をうつ伏せられ挿れられても、すぐ起きるでもなく眠り続けていたのである。身体がゆさゆさと突かれ、揺らされ始める。

「ふ、っ……ふっ……」

これは、もう、終わるまで、待つべき、なのでは。

蕩け始めた霧野の頭の中で判断が揺れていた。また、肉棒が芯を突く。
「んぉ……っ、……ぉぉ……」
一定の速度で突かれ続け、高まっていってしまう。このままではまた何も考えられなくなる。

枕が呻き声を吸収し、濡れていった。指先が、シーツを掴むように一瞬動きかけて、とどまった。

ここまで来て今更、上に乗っている者に起きていたことを悟られたくない。突かれる度、ギシ、ギシとベッドが音を立てて揺れていた。

「……、……」

霧野が辱めに耐えていると、頭の中に闇が広がり、澤野が現れて言う。

『抵抗もせず、男にやりたい放題させるとは、やっぱりもう終わってるんだよお前は。』

霧野は無理やり、『これも捜査の一部だから、これは捜査だから、何も悪くない、俺は悪くない……』と最早自分でもわけのわからない苦しい言い訳を唱え続けた。

眠り続ける姿勢をとり、肉体は快楽を貪っていた。今までのことだって奴らの残虐性がやり方が余計によく、わかって、……。頭の中で澤野が呆れて何か、もっと卑劣なことを言いかけて止め、消えた。

しかし、誰だろうか?、霧野は、まるで「捜査」という苦し言い訳を実行するように、神経を張り詰め、肉棒の持ち主を突き止めようとした。犬歯がこりこりと舌の先を噛む。

すると、全神経が下半身の異物に極度に集中してしまい、寝息とは思えない大きなため息をつきながら、勃起したペニスの先端でシーツをほとほとと濡らしてしまった。突かれた衝動で擦れ、また、悶絶する。このサイズ感、少なくとも、間宮ではない、そして……。

「……、……」
『ここがいいんだな。』

以前今のように、温かなベッドの上で、同じ体位で美里に犯された、その記憶が霧野の中に断片的によみがえり始めていた。輪姦され、川名にトベる薬を打たれた夜、介抱ついでに、ホテルのベッドの上で美里に身体を良い様に使われた記憶だった。薬を使われていたおかげで忘れていたであろう記憶だ。

『あっ……、あああ!!』

”だめ”、と、”いい”が頭の中に同時に反響して、ただ声を上げた。自分が自分でないようだ。

美里の手が霧野の首筋を撫で上げ、髪をすき、撫でた。そうしてまた、背後から身体を突き上げてくる。逃れようとしても力が入らず、拒絶の言葉も出せず、ただ身体を背後から辱められた。

『今のお前は素直に啼いて大変よろしい。そうか。ここもいいのか。へぇ……、じゃあここは。おや、刺激が足りないかな。お前は根っからマゾだからな。ほら、一発くれてやるよ。』

尻を平手打たれ、感じうめき、『もっともっと』と盛り上がり、喚き散らしていた記憶がところどころ鮮明によみがえりはじめた。自分の身体に起きた出来事とは思えない。恥辱に悶えた。悶え、今現在されている背後からの凌辱に余計に感じてしまう。

『ふふふ、俺に打たれて感じたな。マゾ犬!今の内に、お前の身体の隅々までよく点検しておいてやる。お前のことをもっとよく理解してやらないといけない。それが、支配する側の勤めだ。』
『……、……。』
『お前は、隠し事が多すぎるよ。まずは身体から、二度と俺に嘘がつけないよう支配してやる。』

ホテルには長時間いたはずなのに、やはり美里とのことで思い出せる記憶は少なかった。すべて思い出せば何かが狂ってしまいそうだ。美里にあわせる顔が無い。
今上に乗っている者の動き方は、美里の霧野の身体を知った上での動き方ではない。衆人環視の場ならまだしも、今であれば、淡々とはせず、彼はもっとねちっこい動き方をするはずだ。

霧野が記憶と重ねながら、突きを受け続けていると、背後の動きが止まった。

「お前起きてるだろ。」
「!……、……。」

霧野が意地になって寝たふりを続けると、背後の主は黙り、再び動き始めた。なんということはない、姫宮の声だった。何故とも思わなかった。

ここに来た時からいつかこうなるだろうことは想像していたし、簡単に始まり、簡単に終わりそうだと安堵するくらいだった。姫宮とはあくまで今だけの繋がり、ずっとここにいるわけではない。出られさえすれば、闇医者のひとりふたりどうこうしてやる位簡単なことだ。

しばらくして、霧野が達するより先に、中に温かい物が広がっていった。ようやく終わった、と霧野は枕の中で息をつき、姫宮が早く去ることを願ったが、なかなかベッドの上から人がどく気配がない。

「なあ、霧野君、いい加減狸寝入りはやめないか。」

姫宮の手が霧野の尻を掴み、撫で上げた。

「可哀そうだから言うのをよしていたが、君は途中から俺を離そうとせず、突く度に感度を上げて、震え、ご丁寧にきつく締め上げてきていたぞ。途中まで死体みたいに動かなかったのに、ぶるぶる震えて、身体もみるみる熱くなって息を荒げてさ、それでよくバレてないと思ったね。滑稽だよ。そんなだから、本職の方もバレたんじゃないのか?まったく雑魚いね。次はもっとうまくやれよ、澤野。まあ、俺たちの世界では、二度目は無いということになっているがね。」
「……」
「ふーん、まだ続ける。そのお遊び。いいよ、付き合ってやるから、そのまましていなよ。」

姫宮が病室から出ていく。身体から一瞬だけ緊張が解けるが、剥き出しにされた臀と、穴の底からどくどくとした余韻が立ち上り、不快と思う程、臀の周囲の濡れた感じが気になった。誰もいなくなったベッドの上で、1人股間を濡らしている状況が嫌だった。

すぐに姫宮が戻ってくる。彼は霧野の身体をベッドの上で横向きに寝かせ、霧野の背後で何かをカチャカチャと操作し始めた。薄っすらと嫌な汗が立ち登り始める。起きて、「やめてくれ」と言えばいいのに、それができないのだった。

尻に細く硬く冷たい管のような物が挿入され、冷たい液体が中に入ってきた。浣腸だ。
霧野は薄っすらと目を開き、しばらく気持ち悪さに耐えていたが、腹がいつもよりはやくキュルキュルいい、音を上げ始め「やめてくれ、」とようやく声を出した。

「あは、ようやく起きたか。起きたと思ったらやめてくれなんて、何言ってんだ。面白いなあ。君にそんなこという権利は無いよ。ここでの治療費、入院費用はいつもなら君の組が払ってくれるが、今回分に関しては君の身体で精算されることになっているんだ。ご愁傷様だね。」

肛門を通じてぬるぬるとした液体が注入され続け、徐々に声を出すのもつらくなる。
また、川名が決めて指示したことだろう。そう思うとまた、この場に現れない彼の顔が浮かんできて頭から離れなくなる。

「ところで、ウチが君らに対しては強気な価格設定なことは知っているよな。確かに、君の身体は良かったが、たかが一発ヤったくらい、しかも、さっきのような態度では到底精算完了とはいかないな。大体、君だって気持ちよかったんだろ、淫乱捜査官君。ま、代わりに、治療費に見合う臓器の一個でもおいていってくれるというなら話は別だがね。」

金なら後でいくらでも!だから!と言ったところで一笑に伏せられるだけだろう。今では何の説得力も無かった。預金口座の中の金は一体どうなったのだろうか。

霧野は現実逃避するように、汗にまみれ、震えながら預金のことを考え始めた。黒い資金は馬鹿のように貯まっていく。別の口座に貯めていた警官としてせこせこと働いて貯めた預金と天地の差。所詮は国の犬ということだ!これらの資金は、意図的に隠さない限り、おそらく任を解かれると同時に、手元から離れていくだろう。

霧野はいけない、いけない、と思いながらも、いくらかの背徳感とスリルを覚えながら、名義を変えて口座を複数作成し、いくらかの資金を隠し口座にもいれていた。隠し口座の創り方などは、こちらの世界に来てから学んだものだった。彼らにはバレても、警察にはバレない自信がある。逆に自分が警察に戻れば、他の人間が作った怪しい資金をすぐに見つけられる自信がある。そう考えている内、また、自分の中の警察とヤクザとのボーダーラインが曖昧になってくる。罰を受けているのか、偽の口座など作らなければ、こんな目にあわなかったとでもいうのか。……馬鹿らしい。

体内で腸がソーセージかのようにパンパンに張り始め、今抵抗すれば、体内の物を外に勢いよくぶちまけることは明らかだった。苦しさにぬるぬるした脂汗が滲み始める。

普段、定期的に、美里の手によって、「いつでも使えるように」ただ中を奇麗に手入れされている、直腸だけを洗う浣腸とは違い、相手を責めることを目的としている。これ以上いれても意味がないというところまで、液体が体内にとくとくと、流し込まれていく。

入口と直腸をノズルと液体が刺激する一瞬の快の後の逆流するような苦しさ、終わらない注入、一体どこまで入るのか、腹が、腸が、破裂するのではないかという恐怖。彼が医師であるということが、皮肉なことに唯一の救いである。

「苦し、……」
「なんだ?浣腸くらい慣れたものだと聞いていたのに、もう音を上げるのか?仮にも君が、まさか、そんなしょぼいこと言ってくれないよな?まだ一般的成人男性の許容量の半分ちょっとだぜ。尚且つお前は平均以上の身体じゃないか。俺の期待に応えてくれよ。」
「は……、」

絶句し、身体を軽く起こしかけると、内臓を内側からつねられたような烈しい痛みと気持ち悪さで、動けない。腹部に手をあてると、張り、目で見てわかるくらいには膨張し始めていた。恐ろしい!気持ちが悪く、気を失いそうだ。

「俺に何も言わず、勝手に落ちて中身ぶち撒けないでもらいたいな。使えなくなったシーツ代が加算される。80万円ほどかな。」

ぼったくりじゃないか、という気持ちより、本能的に、どうだっていいから、出したい気持ちが勝つ。

「したい……もうっ、だしたい、漏、っ」
「駄目に決まってるじゃないか。何を甘えたこと言ってるんだよ。」

容赦なく中に液体が注ぎ込まれつづけ、生暖かくなった液体が、たぽたぽと身体の中から霧野を責め立てた。

まるで妊娠中期のように不自然に下腹部がつきで、重く膨らんでいた。つわりを彷彿とさせる吐き気をもよおし始める。熱病にうなされたように、顔が青くなったり、赤くなったりをいったりきたりした。姫宮が作ったような心配げな顔で霧野を見下ろしている

「う゛……ぅぅ……、」
「うーん、仕方ないな、ここまでにしておこうか?」
霧野は顔面に脂汗を浮かべながら、そうしてほしい、と、口を開いたり閉じたりしたが、声が出ず、横目で姫宮を懇願するように見あげて必死にうなずいた。「わかったよ。」の声と共に最後の一発を押し込まれた。

「う゛ぉ……!!!……、」
あまりのことに、逆に声が出た。
「何の、っ、恨みが、」
「恨み?全く無いよ。だって、俺には君たちの組織のごたごたは関係ないから。寧ろ、君のことは以前からわりかし好きな方だ。」

身体から管が抜かれ、代わりにプラグが押し込まれていった。ヒクついている濡れた肉穴をみっちりと塞いだ。霧野が軽く力んだだけで、中で液体が嵐の日の濁流のごとく暴れた。苦しさの波の中で、霧野の濡れた視線が不自然に彷徨った後上を向きかけては、また戻ってくる。対する姫宮の涼し気な目線がうるさかった。

とにかく安静に、動かないようにと、霧野はうんうん唸りながら、ベッドに張り付くようにシーツを握りしめた。さっきまでの気持ちよさからでる息遣いとは違う、ひたすら堪えるような、ざらざらした呼吸が部屋の中に響いていた。まるで出産直前の妊婦のようであった。

「じゃあ……なんで、こんなこと、っ」
身体を少しでも動かすと、辛く、身体の中に小さな赤子でもいるように下半身が重たい。
「野暮なことを聞くなよ。君のことが好きだからさ。」
「……」

理解できない。霧野は、目を見開いて姫宮を見据え、諦めたように瞼を閉じた。姫宮はよく自分には理解できないことを言うと思った。話が通じると思ったら突然、わけのわからない話をし始める。

以前、組員の見舞いついでに、銃で撃たれた際の応急処置の話をしていたのに、いつの間にか、打たれた場合一番苦しんだ上で死ぬ位置はどこなのかという話、銃弾の種類による傷口の広がり方、化膿の仕方、痛みの違いなど気分の悪い講釈を小一時間愉し気にされた記憶がある。

霧野があからさまに不快な顔をしても、一切目にも入っていないように話し続け、その時、横にいた美里は最初から最後まで何も感じていないように話を聞き続けていた。

「気分が悪くなった。なんだあのヤブ医者は。」

霧野が帰りがけに美里に愚痴ると「そんな風に言うもんじゃないな。腕は確かだ。」と珍しく霧野を諭すようなことを言ったと思えば、「おや~?意外とグロい話は無理なのかな?優紀ちゃんは。」と煽るように続けた。

足首の拘束が解かれ、自由になった。
しかし、何もできない。何もできないでいるうちに、犯された際にずりさげられていたショートパンツが取り払われた。Tシャツ一枚の姿になった。丸出しにされた下半身を少しでも隠そうと裾を伸ばそうとしても、Tシャツが小さいのと、腹部が膨張しているせいで微妙に隠せない。その様子を姫宮がニヤついた視線で眺めていた。

「へぇ、性奴隷さながらの身分にされたと聞いていたのに、まだ恥ずかしいという感情がある。心配しなくても、ぱっくり開いたケツ穴までしっかり見えてるぜ。さ、起きて。移動しよう。診察室で身体をよく診てやらないとな。外から中までよーく診てやるよ。」

「、……今動いたら、」

「さっきから弱音ばかり吐いて、君らしくないな。去勢もまだだろうが。あとから盛大に出させてやるから、少しくらい我慢しろよ、男だろ。」

姫宮の手が苦しさで小さくなった霧野の雄を掴みあげ、手の中で転がした。

「……あれれ?先の方がびっしょり濡れてるな。さっき俺に掘られて思わず濡らしたか?ふふふ……」
「さわるなよ……っ、」
「……、今すぐこれをおとして、すべて、終わらせてあげようか?」

姫宮の掴む手が一度開いて、竿も球も全てを包み込むようにして握った。

「そうしてくれるなら!それ以上何もせず、お代も結構!皆の元に返してあげるよ。殺すなとしか言われてないからな。ちょっとくらい俺の興味で身体を弄って返したって、軽く怒られるくらいで済むだろ。実績もあることだ。」

霧野は重い身体を無理やり押し上げて、ベッドから降りた。立ち上がるだけ、立っているだけで苦しく、下腹部を抱えるようにしながら身体を折った。

その時、無地だったはずのTシャツに模様が入っているのが目についた。いつ着替えさせられたのか黒いTシャツに、絡み合う五匹の蛇で構成された悪趣味な模様がプリントされていた。どうりで自分の物にしてはサイズが小さいと思ったわけだ。霧野の私物ではない、姫宮の物だろうか。それにしては彼のイメージとは合わない。

しかし、脂汗の浮き出るほどの腹痛によって考える余裕もなくなり、腹を抱え、前のめり、必死の形相で姫宮を見上げる羽目になる。気持ち悪さが逆流して、上からも出そうだ。吐く息も生臭く感じる。

せっかくスッキリしていた身体が、また重く、酔わされた時のように、何も考えられなくなってくる。

「うう゛……」
「苦しいだろ、這ってついてこいよ。患者もまだいない。」
「這う……」

お腹がぐるぐると鳴る。霧野は汗ばみ憔悴した顔を姫宮に向けた。何か懇願するような瞳が姫宮を悦ばせた。

「そうだよ、奴隷のように床に這いつくばってついて来いと言ってるんだ。……また、俺の機嫌を損ねたいのか。君もその方が楽だろうと思って親切心で言ってるのに。」

姫宮の手が霧野の張りつめた腹部を撫で、撫でるというより徐々に爪を立て、掴むような仕草になってくる。流石に立っていられず、彼の言うがまま、床に膝と手をついた。その時、霧野の視界に浣腸器と洗面器が目に入った。洗面器にはお湯でも水でもない、なにか、白い液体が溜まって、水面をぬらぬらと揺らしていた。

「う゛……!!」
「そうだ、精液だよ。君の身体にウチの患者から搾取した精液をいれてやったんだ。ああ、確か一人病気のやつが居たな。感染確率は5%未満だが、ギャンブルだね。君達はそういうこと大好きだろ。嬉しい?楽しいか?」

本格的に吐き気を催しながら、姫宮を遥か下から見上げた。姫宮はまじめな顔をして霧野を見降ろしていたが、堪えきれず、噴き出した。

「あははは!馬鹿だね!嘘に決まってるだろ!そんな面倒くさいことするわけないよ、俺が。なんだよその顔、傑作だね。マジだと思ったのか?本当に君は面白いな!中身はね……、牛乳だよ。……安堵したかもしれないが、ある意味精液よりきついかもしれない。本物のミルクは、精液よりよほど腹によく効くからね。」

冗談としても悪趣味すぎるし、やっていることも悪趣味だ。どうりで、ぐるぐると中を押し上げる感覚が異常に強いわけであった。ただでさえ大量の牛乳を経口摂取すれば腹を下すというのに、それを直接腸に、しかも大量にいれては、身体は悲鳴を上げる。浣腸液としては、アルコールに続いて最悪の部類に入るだろう。

姫宮は白いスニーカーを履いていたが、そのスニーカーが霧野の膨らんだ腹をすりすりと撫でた。彼は霧野の横に屈みこみ、ヘアゴムで束ね損ねた髪束を耳にかけ、霧野の尻の方を診察するようにじっと覗き見た。

生傷の新しい大きな白い尻の狭間で、双方の淫肉に挟まれ、黒いプラグの末端がひくひくと蠢いて、短く整えられた犬の尻尾のようにも見える。熟れた赤い肉の間から腸液と混ざり合い少し薄くなった粘ついた白いミルクが、染みでていた。

左右に開かれたむっちりとした太もも同士の向こう側に、雄がぶら下がり、ミスマッチにポッコリと腹が張って、全体的に薄っすらと汗で濡れていた。じっと見続けると、身体が軽く震え始め、また、腹をぐるぐると鳴らす。一緒になって雄が小さく揺れた。

「……ほぉ、随分エッチな身体をして。以前と同じはずなのに、随分違って見える。君がそんな身体じゃなかったら、こうならずに済んだかもしれんのにな。ははは、」

項垂れている霧野と反対側で、きゅう、と姫宮の目の前でプラグを抱くように孔が締まって、また、雄が期待するように小さく反応した。

「ふふ、これは、診察しがいがありそうだ。安産型の良い腰つき……。……じゃあ、行こうか。お前の身体がマトモになったか診てやらないと。診察室に辿り着いたら、出させてやるから、あとちょっとだけ頑張ろうな。」

姫宮は子供の患者を診ているように言った。姫宮に続き、廊下に這い出てすぐのところで、姫宮の白衣のポケットの中で携帯が鳴った。彼は後ろ手に部屋のドアを閉めながら、携帯を耳にあて、霧野に指でそのまま廊下で待つように指示した。

「もしもし……ああ、君か。」

姫宮が電話をしている間も、霧野は浣腸の苦しさに耐え続けねばならず、震えながら「はやくはやく」と待った。それなのに、姫宮は悠長に電話を続け、笑ってさえいる。

言葉を出すのもおっくうで苦しく、つい、「はやくしろよ」と言う気持ちで姫宮を睨むように見上げてしまう。姫宮はすぐさまその視線に気が付いて、四つん這いの霧野の前に冷めた目をして立ちはだかった。それから、電話を耳から離しミュートにした。

「俺の機嫌を損ねるなと言ったろう。」

姫宮は霧野の方に尻を向け、彼の後ろで束ねられた髪が揺れた。そのまま彼は、四つん這いの霧野の上にどしっと腰掛けた。椅子のようにして。

「ぅ゛……!!!」
「廊下でぶちまけたら、全部お前の口で掃除させるからな、それで腹を壊そうと知ったことじゃない。最悪、死ぬ直前に治してやるよ。」

弁明しようとする霧野の口を手で塞ぎ、姫宮はミュートを解除した。薄く開いた唇の間に姫宮の指が侵入して中を擦り立てた。

「んっ……んぅう…、……。」
「そうだよ、……え?うん。今から?別に……」

姫宮が霧野が黙ったのを確認し、手を離し、再び電話を再開しながら、脚をぶらぶらさせ始めた。

「う゛ぅ……」

霧野が悔しさと苦しさにうめくと、彼は空いている方の手で霧野の尻をまさぐり立て始めた。そうして、プラグの先端に触れ、ぐりぐりと弄り始める。

浣腸の苦しさの中に、異物によって鋭敏な肉穴の入口を刺激される甘美さが混じり始め、霧野の身体をいよいよおかしくさせ始めた。

求めるように、肛門と直腸がプラグをくぽくぽと締め付け始め、連動するように奥に続く乳汁に白く濡れた腸が艶めかしく蠢いた。身体の中で体温によって温かなミルクになり始めた真っ白な液体が、内臓を抉るように暴れ出す。ぐぎゅるるる…と激しくお腹が顫動し音を立てた。

「うぉあ゛……!!!ぁ……、ぐっ、ぅぅ、……、ぉぉ…‥」
「ん?声?気のせいじゃないか?」

掌でプラグの末端がぐりぐりと容赦なく押され、菊花が開花でもさせられるように、みちみちと、押し広げられたことで、奥に続く肉の道が、パチパチとした神経の刺激と共に顫動する。ぬこぬこ、と、またプラグが擦れる。
「んぐ……ぉっ、!!ぉ……」
呻き、啼く。身体の表面に浮いていた汗が珠になり、床に、ぽた、ぽた、と落ち始めた。奥に異物を押し込まれると、肉が反抗して異物が、液体と共に噴出しそうになり、そこを狙ったようにプラグごと尻をひっぱたかれ、再び悶絶、あまりの苦しさに涙を流しながら唸った。

責め苦に力が抜けて、筋の張った腕がぶるぶると振る始めた。普段なら耐えらえるほどの重さというのに、背中の上の姫宮の重さに耐えきれず、背骨が弓なりにしなってくる。より強く引っぱたかれて、椅子であり続けることを強要される。苦しさと惨めさの中に、僅かな快楽があり、苦痛とまじりあって、霧野の雄をまた小さく反応させてしまう。
「うぁ゛ぁ……」
蒸れた尻と異物を咥え込んだ孔、不自然に大きく突っ張った腹の間で、ネズミのように委縮していた雄が、芽吹くような膨らみを見せ始め、打たれて身体が動くたびに、股の間で飛び跳ねた。

「来たな。」
姫宮の邪悪な手遊びが終わり、ようやく彼は立ち上がった。満身創痍となった霧野が床に肘をついて腹部を守るようにしてうずくまる。もう一人の人影が現われた。
「よお、交尾できるくらいには元気になったか?」
霧野のうずくまったまま見上げた先に、姫宮と並んで二条の姿があった。彼の大きな身体が、場の空気を圧迫させる。廊下が異常に狭く感じられ、まるで排水溝の奥に追い立てられた鼠のような気持ちになる。

「…、…。」
「ん?どうした?うずくまって。お前の身体が治ったか、俺によく見せてくれよ。」
「霧野君、立つのは辛そうだから、身体を起こし、しゃがんで身体を見せてやりなよ。はやく。」

反抗する余力もなく、姫宮の言われた通りに霧野は体を起こし、爪先立ってしゃがんで見せた。しゃがんだせいで、中にぐっとプラグが食い込み、思わず小さく声が出る。

便を出す原理で、しゃがんだ姿勢のままでは、出してしまう。姫宮の手がなくなったせいで、限界を向かえていた肉穴がぬちぬちと粘着質な音を立てながら、プラグを勝手に押し出そうとする。ぷるぷると震えながら、出してはダメと、孔に力を入れると、また邪な欲を感じてしまい、身体の中に白い液体が蟲のごとく蠢き、霧野の顔は二条の方を向いていながら、完全に惚けて、何も見ることができなくなっていた。むずむずとして、気持ちがイイ、しかし、気持ちが悪い、漏れそうだ、とにかく早く出してしまいたい。

「何だその腹は。シャツをめくって見せてみろ。」

目に何も映っていなくても、言葉はすっと耳に入ってくる。霧野は、ためらう余裕も、言葉を発する余裕もなく、顔を赤らめて、ふうふうと息をしながら、Tシャツの裾をめくり上げた。シャツの下で大きく張った腹部は子を宿したように膨らんで、表面を汗でてらてらと濡らした。二条は冷めた黒い瞳でその腹部をじっとりと見下げながら、目を細め、大きな口を開いた。

「ふーん……、ちょっと見ない間にコイツにでに孕まされたのか?」

二条は横にいる姫宮を親指でさし、姫宮は涼しい顔をして霧野を見下げていた。

「ちが…っ…ちがいます……」

霧野が必死に言葉を返すと、二条は何も聞こえなかったかのように首を傾げた。

「少し目を離しただけでこれだ。外出しては子づくりして帰ってきやがる。これだからお前のような淫乱は困るんだよ。畜生腹膨らませて、何を興奮してんだよ、お前。」

罵りながらも二条は、ふふふ、と愛おしそうに笑った。

「あ゛……っ、ぁ……」

二条を見上げながら、霧野は何か得体のしれない感覚に身体をさらに紅く染め、震わせた。しゃがみ、彼に叱られる前に無意識に大きく開いていた太ももの間で、雄が、相手を恐ろしいと思うのに、期待するように隆起した。姫宮が面白げに様子を眺めている。霧野の何も映っておらず、ただ自身の焼けるように熱い尻の穴と腸の中のことだけ考えていた瞳の中に、二条の姿がはっきりと映し出された。

「堕ろしてやる。」

拒絶、懇願の声を出す前に、二条の靴先の先端が腹部にめり込み、何か炸裂するような音と主に、プラグが吹き飛び、悲鳴と共に白と茶色の混ざり合った濃い液体が勢いよく廊下に拡がった。勢い、飛沫が霧野の下半身だけレなく、姫宮と二条の靴と白衣の裾にまでびゅうびゅうと飛び散った。

霧野は、腹部、腸、逆流する上の管を同時に破裂させられたかのような強烈な痛みと共に、永遠我慢させられていた排泄を解放された感覚、まるで体の中全ての臓物が押し流されたような排泄快楽はまるで、臍から下全てが、自由の利かぬ性感帯、別の生き物になってしまったかのような異常な、禍々しい快楽を霧野に与えていた。

それから、プラグが勢いよくぬけることで孔の神経をくりぬくように刺激していった快楽、異常な羞恥心で身体を滾らせ、診療所の廊下に、単なる悲鳴だけではない、病んだ獣のような咆哮を響き渡らせ、上から下から白い汁を吐き、廊下を這いずりながら、その下で、下半身をドクドクと滾らせていた。

身体ががくがくと震えて止まらない、不自由な体は不自然に霧野を動かして、まるで狂った獣のようだ。くぱぁくぱぁと中身を失った桃色の肉筒が白く濡れた口からまた、びゅうと爛れた液体を噴出させる。

「ははははっ、豚のように鳴いてやがる。最高だな!」

「うわ……、臭いよ二条。どうしてくれんだよ。病院は清潔さが命なんだぜ。俺の服まで……」

姫宮に言われ、二条はようやく霧野の身体から、周囲の惨状に目をやって笑った。

「なんだこりゃ、どれだけ出されたらこうなるんだよ、一面真っ白じゃねぜか。穢ぇなぁ……。」

二条が、汚れるのにも構わず、Tシャツ一枚、白い汚物に穢れた大きな下半身を晒しながら、這い逃げようとする霧野の首根を掴み、壁にもたれさせるようにして座らせた。

霧野は放心したようなとろんとした顔をして、しばらくの間二条の向こう側の壁を見ていたが、じょじょに焦点が目の前の二条の顔の方に戻ってくる。意識が戻ってくると、自分の出したグロテスクな汚物、汚液がそこら中に広がり散らして、凄まじい臭いを発していることに気が付き、二条と姫宮の見下しと憐れみ、性的な視線が、霧野をさらに恥じさせ、そして怒らせた。自身のふがいなさがさそれに余計に拍車をかける。

身体は、長時間泳いだ後のようにつかれきり、まだ息がうまくできず、死にかけのような生々しい血の香りの混ざった呼吸を二条の顔に浴びせていた。その顔を、下から二条に掴み上げられ、また、霧野の口角が無理やりに上がり、笑ったようなまぬけな顔になる。

「うぐ……。……。」

疲労した感じ、上がった口角と反対に、彼の瞳、苦しさと快楽ですっかり紅く濡れているのに、形が吊り上がって、反抗的で敵意のある目が二条の方を向いた。

「うぐ、じゃあないだろ。言うことがあるな?勝手に孕んでよがってたお前を、俺が助けてやったんだぞ。それも、こんなにぶちまけて……」

霧野は溺れかけた意識の中で、二条とその周囲に目を向けていた。何か、ないだろうかと。病院には機材や家具が多く、特に姫宮の診療所は、個人経営、訳アリ患者専門なこともあり、乱雑に物が置いたままになっていることも多かった。普段ならば、整理整頓のできていない病院などあり得ないのだが、こういう時は。二条の背後に姫宮が立ち、何か察したような、哀れみを含んだ顔で霧野を見下げていた。

「悪いなあ、澤野。武器になりそうなものは事前に全て隠してしまったよ。君がいる間はしばらくしまっておくつもりだ。でないと俺が”君ら”みたく、二条に掘られちまうかもだからな。」

「……」

「いや、寧ろあえてわかりやすく置いておいた方が一戦勃発して、君の好きな感じになったかな、二条。でも君らの派手な痴話喧嘩で俺の診療所が破壊されるのはまっぴらごめんだからね。既にこんなに汚されたし、隠しておいて本当に良かった。」
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僕は平凡に生きたい

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【完結】恋の終焉~愛しさあまって憎さ1000倍~

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