堕ちる犬

四ノ瀬 了

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お前を無理やりにでも俺の犬にしてやれる方法が一つだけあるんだが、何だと思う?

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「どうだった?隅から隅まで歩きまわらされた感想は。ん?」

地下室に戻った川名が霧野に向かって乾いた声で言った。再び、首から垂れ下がった鎖の端が壁に繋がれる。鎖の長さは立つには短すぎるため、視座は永遠に立っている人間より低いままだ。今日は一度も人間の目線になっていない。暴力と恐怖、羞恥で全身がひりひりと傷んでいた。

手を前にして手首に手錠がかけられた。後ろ手にされる場合が多いのに、敢えて前にされたのには理由があり、手錠の鎖部分にさらに一本チェーンが通されて首輪に繋がれた。
寝ている分には関係がないが、床に手をつくと自然と頭が下がる。首輪から壁、手首、それから亀頭の先端に向かって橋がかかっているのは滑稽だった。勃起していようが萎えようが、身体に沿ってペニスが引っ張られ続けるため、常に勃起させているのが一番楽で、惨めだった。薬のせいか、感じいりよく勃起した。

その様子を散々事務所にいた人間達に嘲笑され、言い返したくも言い返す許可などもらえず、屈辱に濡れた霧の姿を川名がじっと見続けていた。

「いつまでも勃起して、汁を垂れ流して、よかったんだろ?どうした。感極まって言葉も出ないか?」

川名の質問に答えようと声を出そうとするが、その前に何故か嗚咽が漏れそうになり、必死に耐え、頭の中で川名やさっきまでの恥辱と関係のないこと、例えばその場にいなかった美里のこと等を考えて心を落ち着かせようとした。

「なんだ、泣くほど良かったのか?そんなにいいなら、毎日当番制にして朝晩、誰かにひっぱってもらうか。」
「……いやです」
「嫌?」

川名の靴先が霧野のふくらはぎのあたりににコツコツと軽く当たった。四つん這いの姿勢で居続けるも姿勢を崩すのも躊躇われて、固い床に軽く足を開いて正座して座っていた。椅子の無い和室などで目上の人間と対峙する場合、最初から胡坐をかくのは論外、だからといってぴったり閉じた正座をするのも見栄えが悪い、しかし全裸で大きく股を開くわけにもいかず、中途半端な正座をしていた。

「大体なんだ?その座り方は。誰にそんな風にしていいと教わった。」

川名の脚が、霧野の太ももと太ももの間に入り込み、外に押し開いていった。限界まで開いてもまだ開けと言うよう靴底が容赦なく太ももに押し当てられ続け内腿の筋肉が限界まで張り詰めた。ふとももの筋をフルフルと揺らして耐えていたが、観念して「おすわり」の姿勢をとった。床に手をつけると自然と首を垂れる姿勢になり、頭を上げるには手を一緒に腹部のあたりまで上げる必要がある。まるで動物だ。軽く丸まった姿勢に武骨な背骨が奇麗なアーチを描いて浮き出ていた。

「今更何が恥ずかしい。警察犬はもっとキビキビと動くものじゃないのか、駄犬。お前がそんな体たらくだから、役に立たないと捨てられたんじゃないのか?」
「……ない、」
「何だ?顔を上げて聞こえるように話せよ。」
頭を上げ、川名の目をしっかりと見た。彼の目が霧野の目から身体まですべてを飲み込むかのように見ていた。思わず逸らしたくなる目つきを負けじと見返した。
「俺は悪くない。」
「へぇ、じゃあ、お前に落ち度はなく、お前のお偉いさん方が悪いというわけだな、前半部分については甚だ疑問だが、後半部分については珍しく意見が合致したな。これで、ますますお前があんな場所にいる必要がなくなったじゃないか。どうするんだ?まだ警察犬としてここで辱しめを受け続けるつもりか、一生。」

どうでもいい……。いつからか、心の中に諦めの気持ちが育ちつつあった。今のあまりに凄惨な状況から抜けられるならどんなことでもしてやろうという気持ち、しかし、それで一過性の解放感を得ても、その先にあるのはまた別の地獄なのだとわかっている。それから、まだわずかに残るプライド、罪悪感、希望が気持ちを引き留めるのであった。留まるも進も地獄、そして、ある程度種をまいておいたが発芽しそうにないここから抜け出すための希望の道。

「迷いのある顔だな。情けがない。俺は優柔不断な人間は嫌いなんだ、まあ、お前は今人間じゃないから、許してやるが。お前の様な者は上の者の命令の範囲で動いているのが一番いいんだ。俺が決めてやる。」

川名が携帯で似鳥を呼ぶと、ものの2、3分もしない内にノアを伴った似鳥が部屋に入ってきた。ノアは似鳥に対してはしゃぐでも攻撃的な姿勢を見せるでもなく従順な様子でついてきていたが、川名と霧野を見定めると、のどをならして尻尾を振った。

彼らはすぐ近くまでやってきて、霧野に飛びつきそうなノアのリードを川名が短く持って抑えると、おとなしくなり、彼の横に臥せった。それでも尻尾がテンポのはやいメトロノームのよ
うに揺れ続けていた。いつも以上にノアは霧野の方をじっと透き通った愛で見据えていた。普段は可愛らしいと思っていたノアがここ数日で脅威としか感じられなくなっていた。

「お前を無理やりにでも俺の犬にしてやれる方法が一つだけあるんだが、何だと思う?」

霧野はノアや似鳥の方から再び川名に視線を戻した。それから、明らかに先ほどより彼の視線から嗜虐的な愉快な気分の様なものを感じ取った。全身に鳥肌がたち、いくつかの想像が浮かんでは消えていった。

「察したか?」
「いえ、わかりません。」
わかりたくない。六つの視線が、霧野の身体に集中していた。

「わかってるくせに。お前をノアと結婚させてやるんだよ。」
「なに……」
「似鳥、やっていいぞ。ノアの気分を普段よりもっとあげさせてやるんだ。」

川名に言われた似鳥がノアの傍らに屈みこみ、隠し持っていた注射器をノアの下肢に挿しこんだ。ノアは一瞬だけ高い声を出し身を震わせたが、おとなしく注射を受けていた。打ち終わりしばらくすると臥せっていた身体を起こし、口を大きく開いた。

「ノアは今の時期発情が酷くてな、せっかくだからお前でさせてやることにした。お前がノアの番になれば、何も考えず自動的に俺の犬になれるわけだからな。嬉しいだろ。」

「まさか、冗談だろ、」

泣き笑いの様な表情の霧野に対して、川名は一切表情を変えていなかった。
「冗談?本気に決まってるじゃないか。お前が決めきれないんだから仕方がない。」

川名がリードを緩めればすぐにでもとびかかりそうな猛犬ができあがった。ガリガリと爪が床をひっかき、こぼれた唾液が床、霧野の顔の方に飛び散った。猛る呼吸から普段以上に獣の匂いがし、普段見せる可愛らしい様子でなく、人を襲うときのようなどう猛さを見せ、牙をむきだしていた。
あまりのことに霧野は言葉を失ったが、二人と一頭から後ずさったが、鎖がピンと張るだけで、二、三歩つめられただけで、全く同じ状況になってしまう。

「ほら、ノアはお前に出したくってたまらないみたいだぞ。お前は、今朝塗られた薬を前に摂らせた薬かと同じようなものだと思っていたようだが、あれはな、雌犬が発情時に出すホルモンに似せて作った薬だ。言っている意味がわかるか?、恐怖で何も考えられないかな。……。つまり、あの薬はこうしてお前をノアと交尾させるためだけのもの。ヒトを発情させる効果はないんだよ。お前は裸で引き回されて、自分で勝手に感じて勝手にいやらしい醜態を見せつけていただけのただの淫乱というわけだ。理解したか?」

川名がリードを緩め、ノアの前足が霧野の身体にかかった。川名の言っていることを理解しようとすればするほど頭の奥の方から真っ白になっていき、何も考えられず、恐怖と屈辱感が身体を満たしていく。プラシーボ効果で発情していただけ。薬でもなんでもなく、自分はあの状況に興奮して勃起させていた。あり得ない、そんな馬鹿なこと。

「あんまり暴れないほうがいいぞ。ノアがじゃれてお前を殺してしまう。」

似鳥がすっかりできあがったノアを霧野に覆いかぶせるように手伝い始めた。まるでブリーダーが交尾を促すような仕草だ。

川名のリードを持つ位置がさらにノアから離れた位置になり、ノアの熱い体温が霧野の皮膚でもぴったりと感じられた。似鳥に覆いかぶされるように、姿勢をうつ伏せ、四つん這いの姿勢にされ、ノアが興奮を抑えきれずに、霧野の背中をガリガリと引っ掻いた。爪が傷口に引っかかって痛むがそれよりも、開かされた脚の間に当たる、異様な異物に腰が引けた。まだなにもされていないというのに、息がひいひいと上ずっていた。ノアの舌が背中と首筋を舐め上げ、甘噛みする。ノアにとっての甘噛みは出血まではしないがm人間の皮膚に赤い噛み跡を残した。

必死に川名の方を見上げようとするが、顔まで視線が届かず、代わりに彼の靴が顔面に押し当てられ、そのまま頭を踏まれる形で床に押し当てられて固定させられてしまう。

「頼むから……っ、……やめさせ…てっ、これだけは……っ、ぁ……!!!!」
似鳥の手が手伝って、ノアの勃起したグロテスクな長い生殖器が、仕上がった陰部にこすりつけられ始めて入口を探っていた。嫌悪感と恐怖、屈辱感に、身体に毛羽たつような鳥肌が立ち、余計にがくがくと震えた。
「いやだっ……!!、……なんでも、他なら、なんでもするから、っ」
背後から「お、収まりそうだ」という似鳥の暢気な声と共に、大型犬のグロテスクなペニスの先端が、霧野の陰部に食い込み始めていた。
「ああ゛!!……うそだ……っ、こんな」
「何でも?何でもってなんだよ。」
「…お前の犬にでも、なんでも、なる、から……」
一瞬の間と静けさの後、微かな笑い声が聞こえた。
「犬が何か吠えてる。」

川名が笑いながら言い捨てるのと同時にノアの怒張したグロテスクな生殖器が、いっきに挿しこまれて、身体の中を一直線にぶち抜かれた。凶悪な獣の一物は中で人間ではあり得ない形状に大きく膨張していくのだった。言葉にならない悲鳴が出て、許しを請うような言葉と恨みがましい言葉の両方を口にしていたが、人の言葉として整理しておらず、周囲から醜悪な笑い声とノアの必死な息遣いが響いた。

ノアに覆いかぶされ、抵抗もできず身体を受け渡す。散々人間に凌辱された彼の身体は獣の一物でも簡単に受け入れ、最悪なことには、何も考えられない頭とは反対に、物理的な圧迫感と思考を放棄させるほどの圧倒的な絶望感に身体がいよいよ感じてしまうのだった。

遠慮や気遣いなどなく、ただ生殖のために、激しく打ち付ける、粘着質な音。それから、息遣いと蒸されるような熱さが二頭の周囲に漂っていた。

わけもわからず、四つん這いのまま腰が揺れ、床についた顔面から呻き声と体液が流れ出て霧野の顔を汚していた。川名の脚が頭の上からどき、代わりに顔の下に突っ込まれて顔をあげさせられた。視界ぼんやりして、影の様な川名と似鳥の姿が見えた。情けない姿を見られ続けていることを意識させられ、身体がぞくぞくと震える。

「奥まで全部咥え込んで、調教の成果が見られますね。」
「すごいじゃないか、人間の小さいの一つでひいひい言ってたお前が今では人外のものまで身体になじませ悦んでいるんだ。立派になったもんだな。この姿をお前の元上司が見たら感動して泣くんじゃないのか。」

足がどけられ、再び俯きながら、交尾に集中させられることになる。ごつごつした犬の性器が開発された肉壁をこすりあげ、大きな犬に押し抱かれ出し入れされるたび、嫌と思う程霧野の奥底の方から熱い塊のような熱がせりあがるのだった。一定のリズムなどなく、ノアのペースで抉るように一突きされる度に、全身にビリビリとした衝撃が走って、指先が震えていた。
抵抗を試みると、ノアの牙や爪による脅し、姿勢が崩れそうになると、似鳥による矯正が入った。軽くもがいただけでも、鎖が音を立てて身体を戒める。

先に自らの射精の様な感覚を覚え、覗き込むようにして、下半身を見た。しっかり自身に覆いかぶさり挿入された人外の姿を見て、絶望的な気分に見舞われる。見なければよかった。

「そのまま見てろよ。」

頭を戻そうとすると同時に、見透かしたように川名が言った。しばらく言われた通り自分の身体に出入りする獣を眺め、感情を殺した。まるでテレビでも見ているかのように他人事のように。

「たくさんの男に見られて我慢汁垂れ流して勃起、犬に種付けされて射精して、終わってるよお前は。お前の様な変態異常者が警察官でいることなどあり得ないな。拾ってくれる場所なんかあるのか?」

早く終われ、終われと思う余裕もなく、気が付くと中が煮えるように熱いもので溢れていた。中に出された、と思う絶望。しかし、それで解放されるでもなく、射精の後、犬の生殖器は簡単に抜けない様に奥でバルーン状に膨らみ肉壁を圧迫するのだ。抜いてほしいと身体に力を入れても、余計に体内にいきり立った邪悪を感じるだけでビクともしない。性的に高まってほとばしっていた汗が今度は冷や汗のようになる。ノアは出して落ち着いたのか、息遣いが少しだけ落ちついたものになった。

「おお゛…ううう゛…っ、」
「しばらくこのままだな。ここからが長いんだよ犬の交尾は。」

圧迫が続くと、ふたたび霧野の身体にじわじわと、もどかしさから性的な快楽を求めるような変化が起こった。開かれた肉が再び膨張して固まった肉棒の異様な凹凸を感じ始め、動かしもいなのに、身体がビクビクと沸き立ち、軽い連続イキが起こる。

「軽くイッて。旦那様のペニスがそんなにいいか。」

なじられ、再びいきんでいもいないのに身体の奥がきゅうぅと締まり、獣の肉棒にまとわりつくように中が顫動する。自分の身体が言うことを聞かないもどかしさに苛立ちながら、何か言おうとしても喘ぎ声、鳴き声しか出てこない。そうして、交尾はつづけられ、川名はノアのリードの端を霧野の鎖が繋がっている壁に結び付けた。

「とても良い格好だぞ、霧野。しばらくそうして愉しんでいろ雌犬。俺が戻るころには終わっているといいが、ノアはなかなか好きなものを離さないからな。気に入った死体も肉塊になるまで遊んでたまらないんだ。」
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