堕ちる犬

四ノ瀬 了

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俺に逆らうとどうなるのか、お前が手本になって皆に見せてやるんだよ。

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「確かに回路が壊れてるな。しかし、早すぎる。元電源を強くしすぎたかな?」
「膣圧が強すぎて壊れたんじゃないですか。」
二条が動かなくなったバイブの電源をカチカチと動かしてからゴミ箱に放り投げた。ゴミ箱の中にグロテスクな機械が突き立った。

ロッカーの中で彼は疲れ果ててそのまま落ち、窮屈な姿勢だというのに器用に眠っているようだった。返事の代わりに寝息が返ってくる。

「どうします。担いでいくのも面倒ですね。」
「人間家具みたいなものだ、ここにそのまま置いておけよ。起こしたとして立てもしないだろ。明日にでも綺麗にしてやれ。」
「使わないんですね。」
「少しは体力を戻させないとな。嬲りがいがなくなる。」
「……わかりました。」

二条が去った後、川名に連絡した。彼はまだ帰っておらず、忙しいらしかった。簡単に報告を済ませてロッカーを施錠する。心底疲れきったのか、ホテルの時のように安らかな表情で彼は寝ているのだった。酷く穢れていた。
「おやすみ。」
電気を消して外に出た。静かだ。昼間のことが夢だったように思える。明日、落ち着いてからでも地下に戻して綺麗にしてやらないといけない。

建物を振り返った。まだいくらか電気がついている。電気の消えた応接間の窓は開いたままになっている。

窓から身を乗り出され、犯されながら公衆の面前に晒された霧野の姿が目に浮かんだ。煙草に火をつけてそのまま建物を眺めていた。煙を目で追うようにして視線を上げた。
屋上は闇に覆われ、人影はない。

「馬鹿と煙は高いところが好きだなぁ。……。」

今日の出来事がフラッシュバックのように頭の中に浮かんでは消えた。
彼の顔を見るのも飽き飽きしたと思っていたのに下腹部に熱い情欲が込み上げてきてたまらなくなっているのに気が付いた。応接間に戻りたい気分を抑えて、無理やり事務所に背を向けて車に乗り込んだ。

「最低な気分だ。」

顔を手で覆い、しばらくふさいでいたが、擦り上げるようにして髪を掻きあげた。窓に顔が写っていて思いのほか何も考えていないような、いや、寧ろ軽く笑っているような表情をしていた。

「いや……良い気分だな。もっと堕落すればいい。俺もお前も。」



「部屋が獣臭くてかなわないな、綺麗にしておけと言ったのに。換気してもこれか。」

目に光が痛かった。朝だ。朝?地下室に光は差し込まないはずだった。霧野が視線を上げた先には川名が立っていた。光が後光のように刺して眩しい。

「よく寝たか?お前に仕事を与えてやろう。」

横から別の人間の手が伸びてきてロッカーから引っ張りだされた。寝ぼけ眼で見上げると似鳥だった。サッと体から血の気が引く感じがした。しかし気持ちとは裏腹にぞわぞわとした性的な気分のようなものが立ちのぼってくらくらする。

「身体が出来上がってるのかもう熱いですよ、起きた瞬間から息まで荒らげて万年発情期だな。」

似鳥が声を出して笑っていた。

身を捩って手を払い除けようとすると、彼は怒る様子もなく笑いながら結束バンドと口元の布を外した。

手足の拘束と口が自由になったが、だるく、体が自由に動く状態ではなかった。床がベタついている。いや自分の身体が汗や誰かの何かでベタついて嫌な匂いをさせている。身体を起こそうとしても、まるで身体が磁石、床が鉄板にでもなったかのように張り付いて上手く動かない。

モタモタしているうちに、いつの間にか首元からリードが延びて、リードの先を川名が握ったままポケットに手を突っ込んでいた。

「呆れた。何をいつまでも優雅に床に寝そべってる。似鳥に身体を診てもらうんだから、そこに這えよ。」

川名から支配的な声で這えと言われると、反射的に身体が動き、似鳥の方に下半身を向けて体を起こしていた。

「なんだ?少し見ないうちにいい下半身にしてもらったじゃねぇか。飾りもそうだが突っ込まれすぎて良いところの筋肉が鍛えられたか?」

似鳥の無骨な手が無遠慮に下半身をはいまわり、指が簡単に身体の奥まで沈んでいった。瞬間身体がぞわぞわし、すぐにムラムラした気分が湧いて出た。

「ん……っ、」
「ふーん、ちんぽ欲しくてたまらんか?そんなに締め付けなくてもいいのに。」

中で何本かわからない指がバラバラに煽動して、良いところ、良いところの周辺を責め立て、昨日の雄汁があふれ出、みるみる勃起が始まった。

「あっ…うぅ、……ちがう、」
「ほしくない?じゃあ締め付けるのを止めてみろ……」
似鳥の無骨な指の節が霧野の奥の部分をコリコリと擦り上げていった。
「ああっ……」
「おい、余計に締めてどうする。組長、罵倒されて感じてますね、こいつは。先天的マゾだよ。」
「なんだ霧野、昨日あれだけしたのにまだ飽きないのか?性欲も化け物級だな。」

霧野の背後で似鳥は彼に指を挿れたまま、懐から軟膏のケースを取りだし、白いペースト状の薬を指に塗りつけて霧野の中と陰部に擦るように塗りつけていった。

「はぁ……っ、はぁ……、なに、して……、」
「こら、じっとしな。」
「おい……さっきから腰が揺れてるぞ。似鳥の指を使って勝手に自慰をするんじゃない、はしたないと思わないのか、雌犬。」

無意識に体を揺らしていたことに気がつき、霧野は身体の動きを止めたが、次は自身の一物をしごきたくて仕方がなくなり、顔を伏せて耐えた。

「……」
「別に我慢しなくていいのに、俺に許可をとれば好きなだけ似鳥の指を使ってでも自分でしごいてでも惨めにイッていいぞ。」
屈辱に耐えながら、必死に身体の疼きにも耐え、わけがわからなくなってくる。
「……、……。何を塗らせたんだ、」
「お前が知る必要は無い。」

指が抜かれたと同時に今度はリードを上に引っ張られた。
「おい、膝立ちになって手を頭の後ろで組み、降伏の姿勢で俺と似鳥にその汚らしい股間を見せてみろ。」
「……、」
無為に逆らう理由もなく、言われた通りの姿勢をとる。4つの目が身体を舐めまわすように侮蔑しきった目でこちらを見下ろしていた。長い時間がたったように思えるが、何も言われずただ家具のようにその場に膝を着いていた。

「勃ってきてますね。」

似鳥が嘲るように言った。確かに羞恥に身体は熱を帯びたがまだ勃つほどでは無いはずだ、それでもそう言われるとそうである気がして…

「本当だ、乳首が服を着ても容易に分かるほどにギンギンに勃起しているな。それで男の乳首か?」

張りのある胸の上で銀の棒に貫かれたピンク色の突起が触って欲しいと主張するように勃ち、熟れていた。自分の体を意識すればするほど、視線と共に羞恥が高まって、滾る様な感覚が渦巻いて、みるみるうちに股間も反応していく。身体に鳥肌がたち、視線が泳いで蹲りそうになるのを必死に耐えた。少しでも姿勢を崩したら、また無駄な打擲を受けるのが目に見えていた。

「もう止めたいのか?」
霧野がすがるような目をして頷くが川名は表情を変えず「じゃあ、もう行くか。」と言った。

そのまま川名がドアの方に向かって歩き始めた。引きずられるようにして動かない身体をひきずるようにして四つん這いで床を這っていると本当に犬になったような気分だ。

「そうだ、その調子だ。犬の態度がよくわかってるじゃないか。歩き方まで美里によく調教を受けたようだな。」
「………」
「勝手に立ったり吠えたりするようなら、ハンブラーを持ってこさせて歩き方を矯正させてやる。嫌だろ?またあんな恥ずかしい器具をつけられるのは。」

目の前で川名が扉を開け放ち、廊下が見えた。心臓がとびあがる
既に何人かの組員が通りかかり、川名の姿を目にすると頭を下げてから、霧野の方を凝視した。

咄嗟に霧野が後退りドアから見えない位置に移動しようとするとリードを引っ張り挙げられ、膝立ちになると同時に顔面に1発平手が飛んだ。

「うっ……」
「おい、さっそく勝手な動きをするな。このまま、外に行くんだよ。」

リードが緩められると肩に足が乗ってきてそのまま、川名の足の下、元のように床に踞る形になる。

頬を抑えながら床に踞るようにして俯いてると川名の背後でざわざわと人の声がし、複数の視線が気になった。
「頭がおかしいよ、いやだこんなの……」
状況が理解できず、直接犯されている時より理性がある分、羞恥に頭の奥がじんじんして、高まっていく。

「嫌?だと思った。だからやるんだよ。散々犯され調教されたくせにまだゴミみたいなプライドが残ってるようだ。お前がとっくに俺たちに媚びへつらっているような人間なら、こんな面白いことは出来ないからな。久々に愉快な気分だよ。」

「……趣味が悪いんだよ」

「俺に逆らうとどうなるのか、お前が手本となって皆に見せてやるんだ。それが今日のお前の仕事だよ。情けない姿のお前を引き回してやる。皆お前の正体を知らずとも、お前の行動が俺の逆鱗に触れたらしいことを察しているからな。俺に逆らった人間のほとんどはこの世にいないから、お前は本当にレアケースなんだよ。せっかく身体も出来上がってきたところだから、いい機会だと思わないか。」

「……誰が見たいんだよ、俺の身体なんか。」
霧野は言いながらも昨日の、先週の、今までの陵辱の記憶をフラッシュバックさせ、自身の身体がおかしく既に性感帯を中心に身体が脈打って汗ばみ始めているのを感じた。
「なんでだよ……」
死んだ方がマシと思うほどの羞恥とぶつけようの無い怒り、絶望に身を浸しているのに、ぞわぞわとした熱い感覚が止まらない。さっきのよく分からない薬のせいだ、そうに違いない。性欲などなくなればいい。
「最低な気分だ。」

「なんだ?昨日は真昼間から窓際で二条に抱かれて、お前ひとりで馬鹿みたく騒ぎ、果て、仕舞いにはアクメ顔晒して皆に見てもらいたがってたくせに、今更何を恥じてるのか理解に苦しむなぁ。……おい、お前も見てただろ。どうだった?」

川名が誰か別の人間に話しかけた。少しの間があった後「はい、人とは思えない高い声出して鳴いて無様でした」と返ってくる。霧野が顔を上げて声の主をじっと睨むと組員の男は笑いとも恐怖とも取れぬ表情をして、他の組員の後ろに消えた。

「皆は働いているというのに、お前だけがいつまでものんびりしているわけにはいかないだろ。怠惰な者はここには必要ない。この建物の隅から隅まで練り歩いて頭から爪先まで一人一人に見てもらえ。鞭痕と刺青で性奴隷よろしく彩られた尻、飾り立てられ勃起が治まらない万年発情期の馬鹿みたいな乳首とペニス、玉はもちろんのこと、性器と化した尻の穴の中までな。」
 
「……嫌、」

「あ?何か言ったか?ドマゾのお前には物足りない?じゃあ、最後の最後に外に出て皆の前でお前の罪状を読み上げて正体を暴き自由に強姦、リンチさせ嬲り殺してやろう。恨み持ってる奴なんてウチには山ほどいるからな。中世の処刑法みたいだ。マゾのお前のことだから、さぞ気持ちいいだろう。………ああ……そんなイイ顔するなよ……、嘘だよ嘘。後半は冗談だよ。前半は本気だから真面目に取り組めよ。」

川名は今までに無いくらい嬉々とした表情を霧野だけに向けていた。背後にいる組員らには見えないだろう。おそらく彼は頭の中で今自分で言ったことを再現して楽しんでいる。
今は本気で嘘と言っているが気まぐれな彼なら何かをきっかけにやりかねない。霧野は顔を伏せて逡巡し、川名を再度見上げた。

「もしお前の勧誘を受けたら、どういう処遇になる?」

川名は表情をゆっくり普段の何を考えているのか分からない顔に戻し、しばらく黙って霧野を見降ろしていたが、似鳥に「先に外に出てろ」と指示をして、それから扉を閉めた。

あまりの羞恥、それから昨日に引き続いて濃い死の気配に恐怖を感じたことが霧野にその言葉を吐かせた。元々が暴力的な者同士の複数でのまぐわりは、乱暴をきわめ、男の一物で窒息、精液で溺れ死ぬ、身体が真っ二つに刻まれたかと錯覚する。

死んでいた頭が目覚め始めて、昨日の衝撃を思い出していた。頭の中で情景が第三者視点で浮かぶ。天井から見ているような視点だ。あまりに衝撃が強すぎて一人称視点で再現すれば発狂しそうだ。あの陰惨を繰り返すなら、彼らは間違いなくエスカレートしていき、結局息着く先は死だろう。

もしその時既に彼らに飽きられていたら、止めないだろう。そうならないよう、彼らに対して必死に媚びるか?そうなる前に逃げるか?最早、少しのプライドは捨て、形だけ、受け入れるふりをするのは大いにアリなのではないだろうか。そして折を見て、また元の職場、元の暮らしに帰る、誰にも何も言わずどこか遠くに逃げる。しかし、どうも遠い夢のような話に感じられた。

「勧誘?お前が俺の犬にして欲しいと泣いて縋ってきたらどうしてやろうかという話か?」

川名の手が犬にするように霧野の頭を撫で始めた。しかし途中で不快なものに触れたように手を離すとハンカチで手を拭い始めた。彼の指は長く綺麗で、霧野の指と少し似ていた。その指が霧野の髪に引っ付いた誰かの体液、精液に触れたようだった。

「そうだな、少なくとも一年間はこのまま制裁を続けるが同時に多少の自由も与えて、少しずつ警察内部の情報を抜いてきてもらおう。」
「……。なるほど、いっぱいヤバい情報抜いてきたら、成果になってまた元に戻してもらえるってことです?つまり無駄死には無し?」
霧野はわざと澤野のように悪戯っぽく川名に話しかけたが彼はそれを無視するようにして続けた。

「お前の連絡手段は全て盗聴させるし、常時見張りもつける。そして、ある程度したらきっぱり警察組織とは縁を切らせ、俺の下で死ぬまで働かせてやるよ。どうだ?嬉しくて涙が出そうか?こんなことになった以上、通常業務以外の奉仕業務もしてもらうことになるだろうが。」
「奉仕?」
「散々人前で醜態晒したお前を、ここの奴らが平気でのさばらせておくと思うのか?無理だろ、そんなのは。俺が何か言わなくても奴らは勝手にお前で遊ぶだろ。」

美里のことが思い出された。彼もここまででは無いにしても同じようなことをされたはずだ。しかし、直接的に誰かに何かをされているところは見たことも、聞いたこともなかった。だからこそ、調査の中でその事実を知った時驚いたと同時につくづく嫌になった。どうして縦割り組織はどこもこんなに陰湿なのだろうか。

「美里はどうなんだよ。今は何もされてないだろ。」
「ああ、お前はそんなくだらない、はるか昔のことも調べたんだな。まさか本人にも言ったのか?可哀そうに。あんなにお前になついていたのに。良心の呵責を感じないのか?悪魔め。」
「……関係ないだろ。」
「アイツにはもう誰も手は出さないよ。俺がそう指示したからな。」
「美里の時でも同時に3人とかだったんじゃないのか、それに比べて俺は何だ?しかも勤務中に手を出さないように指示もしないとは。随分俺に厳しくない?愛の鞭?期待の差?それとも単に体が壊れにくいから?」
皮肉を言ってみたつもりだが、疲労感、声の掠れと震えが隠し切れず、皮肉にもなっていなかった。

「お前と美里ではやらかしたことの規模が違うだろ。厳しい?優しすぎるくらいだ。お前の罪は死刑10回でも足りないのにまだ1回分も終わってないじゃないか。愛の鞭だって?へぇ、そう思うなら、もっと素直に愛を受けて見せないか。……。で、どうするんだ、まさか、今すぐ気持ちを改めるとでもいうのか?お前が?」
「………。」

川名はしばらく黙って霧野が何か言う時間を与えていたが、霧野の口からそれ以上言葉は出てこず、代わりに静かな部屋の中にはぁはぁと荒れたい気遣いだけが響き渡っていた。

「言っておくが、お前が今さら口だけで何か言ったところで、散歩、引き回しを止める気は無いからな。寧ろなおさら散歩させてやらないと。まだ犬である自覚が足りないみたいだから。」

川名の指がドアノブを弄ぶようにして触っていた。

「勝手に口をきくのはもちろん、誰かに暴力を振るうなど以ての外。勝手な行動をひとつするたびに折檻の時間と距離が延びると思え。あまりに酷ければ、その場で昨日と同じ目に遭わせてやる。今度はもっとめちゃくちゃになるだろうな。その代わり最後まで真面目に仕事を完遂できたら、その時また話の続きをしてやるよ。」
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