堕ちる犬

四ノ瀬 了

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欲しいならうなずいて意思表示しろ。それくらい無能の今のお前でもできるな?

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自席に座り、救急箱を取り出し指を消毒して包帯を巻いた。霧野は手を開いたり閉じたりを繰り返して指の具合を確かめた。熱を持って痛むが大した痛みでもない。寧ろお守りのようなものだ、理性を保つための。
地下の入口、衆目の前で美里に暴力、二条に銃を向けたことが思い出された。この指で、何かしらの落とし前をつけていると周囲に思わせ、誤魔化すこともできなくはない。二条の言葉を借りれば、「ただの喧嘩」、「戯れ」なのだから。

「終わったかよ?」

美里が痛々しい物を見る目でこちらを見ていた。日頃人を遠慮なくぶっ叩いたり、死体を見て淡々と作業をしている癖に。美里に左手の甲を向けて見せた。

「いらんことをして。膿んだら面倒じゃないか。俺のやることを増やすなよ。」
美里は吐き捨てるようにそう言って、霧野のすぐ横に立った。霧野は座ったまま彼を上目遣いで見上げた。
「拘束解いて、救急セットでも置いておいてくれれば自分でやれる。飯だって」
「うるせぇな。」
口の中に指を突っ込まれて、左右に大きく広げられていた。
「お゛あ……っ」
突然のことに抵抗する間もなく、さっきの余韻からか頭の奥の方がまた熱くなってきていた。美里は物を見るような目で中を粛々と点検し始めた。
「ふん、なんだ?また灰皿させられたのか?その上、誰かの精液を飲んできたな、生臭い。後で俺ので上書いてやるからな。……おい、馬鹿、涎をそんなにだらだらと出すな、汚ぇな。何を感じてんだよ?」

言い返そうと口を動かすと、指が引き抜かれた。俯いて口元をぬぐうと、さっきまで意識していなかった生臭い臭いが口から喉にかけて張り付いていることに気が付いた。何度か浅い呼吸を繰り返して紛らわし、再び美里を見上げた。
「感じてない」
「へぇ!いつも口マンコ犯されて勃起させてる奴が何言ってんだか。説得力に欠けんだよ。」
「……」
「言い返せまい。準備が済んだならもう行くぞ。」

応接間に入る。既に部屋にいた組員達から複数の視線を感じ、霧野は嫌な汗をかいていた。誰がどこまで知っているのかわからない。自分一人、服の下で罰則を受けて、もしこれを見られ理由を問われたら何と応えよう。そして彼らはどう行動するだろう。淫乱と罵られまた宴会と同じようなことが起こるのか?それだけは嫌だ。

一方の北条と矢代は意に介した様子も無く、部屋の中心に向かい合わせに置かれたソファの片方に座っていた。

「遅かったじゃないか。」
何も知らないらしい年配の組員の男から声を掛けられた。心臓が跳ねるように動いて、目が泳ぐ。男はこちらの狼狽ぶりにキョトンとした顔をしていたため、「すみません」と会釈しながら奥に進んだ。すべての視線が気になり、疑心暗鬼になる。身体から籠った鈴の音が漏れて出るたびに歩き方に気を付けた。その度、二条の身体の感触、においを思い出して嫌な気分と同時に官能的な情感があふれ出てしまう。

途中美里に腕を掴まれ足を止められた。彼の顔が直ぐ近く、呼吸が触れるほどの距離に近づいた。良い匂いがした。彼はまじまじと霧野の表情を見て、軽く微笑んだように見えた。
「お前はここに立っているといい。下手なことをするなよ。」

彼はひそめた声でそう言った。その場所は、北条と矢代の対面の壁沿いであり、川名が座った場合川名から距離を置いて後ろ側に立っていることになる。つまり、一番警察関係者の二人から最も目につく位置だ。そこには他に、能島、中村の二人が立っていた。能島は年齢は大差ないが位として下の者、中村はもっと若い者だった。何か言い返す間もなく彼は腕を離して応接間の奥に消えた。お茶でも沸かすのだろう。

どういうつもりなのだろうか。敢えてここに立たせてくれたのか、何か作為があるのか。しかし、全てを知っている美里がいなくなり、組員であふれた部屋に取り残されたことで何か切ないような不安な気持ちが湧き、身体の戒めを余計に意識させられた。一瞬だけ放置せず、付き添っていて欲しいと思ってしまい、頭を振って気持ちの悪い思いを打ち消す。

珍しく間宮が部屋の入口の方に立っていた。嫌な笑顔をしてこちらをじっと見ていた。
じっと立っているだけなのに、一人だけだらだらと汗をかき、早くも疲れてきていた。北条の方の視線を向けると、若造にがんをつけられていると思ったのか面倒くさげに笑った。もし救出目的で来たとしたら、そのような表情ができるだろうか。演技だとしても難しくはないだろうか。やはり、何もわかっていないのだろうか。自分一人だけ空回りしているような感覚。

だんだんと疲労感で頭がぼーっとしてきて、身体の中の物までくっきりと意識させられ始める。すっかりしあがった温かいゼリーの様な穴の中で微動だにしない重みのある物たちが存在を主張した。物は脈打ってなどいないのに、霧野の身体がどくんどくんと脈打つために軽く振動しているように感じられるのだった。
「ぁぁ……」
身体を軽く絞めると、ほのかな気持ちよさが身体を満たすが、射精できるわけでもなく、もどかしい気持ちがつのった。ここがどこなのかも忘れそうだ。

「大丈夫ですか?」
隣に立っていた能島と中村が怪訝な目でこちらを見ており、我に返った霧野は自分を激しく恥じた。
そんな目で見るな。開発されたねばついた肉の径が何もしていないのに、きゅうきゅうと締まっていった。視線に感じ、羞恥だと思うほどに中が顫動した。やばいと思って左手を握りこんで冷静を取り戻そうとする。
「……なにが?」
「いえ、お加減が悪いなら、お休みになったほうが。」

ここでその通りと言って部屋を出ていこうとしたとしたらどうなる。横目で間宮の方を見た。変わらない笑顔でずっとこちらを見ていて気分が悪かった。他に、少し離れたところに久瀬と彼の舎弟が立って、視線に気が付くと無表情にこちらを見返してきた。また北条の方に視線を向ければ暢気に欠伸などしている。
おそらく勝手に出ていけば一緒に間宮が監視としてついてきて意味がなく、川名の命令に背いたと難癖付けられいびられるだけだ。しかも、面白くもないやり方だと彼を失望させるに違いない。

「心配ない、大丈夫だから。放っておいてくれ。」
「しかし……」

すぐ近くに立っている能島と中村から見た霧野は、一人熱中症のように息を熱くして、しかし病気とは違った風に淫靡に顔を軽く紅潮させ、軽く動くたびにどこからか凛凛とあやしい鈴の音を鳴らしており、不審でしかなかった。

川名が入ってきた。能島と中村も姿勢を正す。彼が北条の対面のソファに座り、やり取りが始まる。霧野は一人無駄に体力を使い、同時に緊張感と助かりたいという一縷の望みによって、半ば眩暈がし始めてまともに会話を聞いていられなくなっていた。
それから、正常な状況で自分一人だけが異常、気がつけばまた全身がむらむらと欲情してたまらない。このようなことになる以前に、自分の警官の身分を隠して組員と接していた時にも同じような感覚に見舞われたことがあったが、それ以上の直接的な性の刺激が頭をおかしくさせる。熱い。くらくらする。

八代と時たま視線が合った。彼は嫌悪感丸出しの顔でこちらばかり見てきた。もしや八代だけはわかってるんじゃないのか?ダメもとで木崎が教えてくれた合図である右手で下唇のあたりを触る仕草をしていた。「後で話したい」の意味だ。木崎としか使ったことが無いから、彼らがこの合図を知っているのかもわからない。

「おい、聞いてるのか、澤野。」
全ての視線が自分に集中しており、いつのまにか川名がこちらを振り向いていた。何か指名されて聞かれていたようだった。冷静を装うために左手を強く握りこんだ。
「は、すみません、」
「しっかりしろよ。木崎恵とかいう女が三笠組の敷地でバラバラになって見つかってた件の詳細なんて、知らないよな?俺も観たことくらいはあるが、お前はその女と面識あったみたいだから聞いてるんだよ。」
「……」
この野郎、なんてことを聞きやがる……。
「誰ですか?警察関係者ですか?婦警とか?」
川名から視線をそらして、じっと北条の方を見た。あからさまに「婦警」とまで言っているんだ、察してくれはしないだろうか。北条が同じ調子で続けた。
「本名ではわからないか、源氏名は葵だそうだ。」
「葵?ああ、確かに何度か会ってますが、最近は余り姿を見ませんでした。詳しいことを聞きたいなら個別でお話しします。長くなるので。」
そう言うと北条は何度かうなずいてもう用は無いというように視線を川名に戻した。
「……。」
絶望感が身体の中に湧いてくる。木崎が死んでいることが伝わっているなら、こちらの身も危険であるということが山崎や一部の関係者には伝わっているはずではないのか。

会話はどんどん進んでいく。冷静を装うだけで精一杯で、やはり頭に何も入ってこず、だらだらと身体を汗がつたった。目の前に警察がいるのに助けを求めらない、身体の戒め、肉の奥底から身体が燃えるようにに湧きたつ行き場のない情欲の二つのが霧野をもどかしい気持ちにさせた。

会話が終わったのか、二人が立ち上がり出ていこうとする。思わず助けを求めるように足が動きかけるが、結局出ていく二人を黙って見送ることしかできなかった。ここであからさまに追いかけて、どうなる。取り押さえられ懲罰されるだけだ。

「皆ももういいぞ、出てって。特に話すことも無いから。」
それぞれが一礼して外に出ていくが、何人かは初めから決められていたことように部屋の中に残っていた。
間宮、美里、久瀬、宮下、東郷、保坂、それから川名と霧野の八人が部屋の中に残っていた。

「五体満足じゃないですか。」
東郷が川名に向かって不満げにつぶやいて、憎々しげな眼でこちらを見ていた。横に立っていた保坂も同じである。
「別にいいだろ。多少バラしても良かったけど、案外物持ちが良かったからそのままにしてる。」
「三本目の脚を切ってるとかですか?」
保坂が軽く冗談めかして吐き捨てるように言ったが目が笑っていなかった。
「三本目の脚?ああ……洒落たこと言うな、ペニスのことだろ?」
川名の視線が保坂から霧野の方に向いて軽く笑っていた。
「落としてない。面白かったから、別に、まだいいかな、と思って」
霧野は身体の奥底の方が冷えていくのを感じ、黙っていた。

「霧野をここに置いてるのは、仕事させるためだから。な、話を聞いてただろう?どう思う?内部事情に精通しているお前なら、さっきのクソ共が言ってることの真意くらい分析できるだろ。」

突然話を振られ、頭の中が真っ白になって、何も言えなくなった。いちいち頭を働かせている余裕などなく、川名が澤野としての働きを求めて自分を配置しているつもりとは全く思えなかった。

「まさか、自分が助かることばっかり考えて話を聞いてなかったんじゃないだろうな。」
「そんなことは…」
「じゃあ、はやく、意見を言ってみろ。意見が言えない理由があるなら、説明しろ。」

川名の目が嗜虐的な色を帯びてきて、言えないことをわかって責めていることがわかる。彼が求めているのは、この服の下の恥辱を皆に見せて、自分の口で事細かに事情を説明することだろうと「わかって」しまう。しかし、わかっていはいても、躊躇してしまう。

ドアがノックされて、川名の返事と共に二条が入ってきた。
「問題なく済んだか?」
川名が言う。
「はい、特に問題なく片付きましたね。特別報告すべきことも無いです。」
二条は淡々とした口調で言った。
「ご苦労様。ところで、二条、困ったことがおきたよ。わざわざ裏切り者の霧野をここに置いて、北条と八代の真意を確認させようとしたのに、コイツは自分がどうにか助かることばっかり考えてたから、なんにも意見を言えないんだ。どう思う?あまりにも使えない、最悪の無能だと思わないか?組織に貢献して信用を取り戻そうという意思が一切ないな。」

「ああ……それは良くないですね。」
良くないですねと言いながら二条の顔つきは楽し気な顔つきに変わっていって霧野をじっと見据えた。

「二条さん、ちょっと。」
間宮が珍しく割り込むように言って、川名の前に歩み出た。彼はさっきまで八代の座っていたソファの隙間に指を突っ込んだ。引き出された指と指の間に紙切れが一枚挟まっており、何かのレシートのようだった。
「コイツ、八代とコンタクトとってましたよ、ほら。」

間宮は両手でそれを摘まみ、皆に見えるようにして開いた。開かれたレシートの中に、数字の羅列、電話番号のようなものが描かれていた。
本当に八代が?あまりにうかつではないか?間宮が今仕込んだだけなのでは?わからない……。

「ああ、もっと良くないじゃないか。」
二条がため息、いや吐息交じりに言った。ぞくぞくと背中に寒気がはしり、逃げなければと脳の奥の方が痛むのだが、逃げ場所などなく、ただ息が上がっていった。
「お前、自分が何やってるかわかってるか?」

すべてが良くない方向に無理やり進んでいくような。精神がどんどん削られていく。
「知らない、なにもしてないです。そんなの仕込みだろっ、」
霧野は必死にそう言って、二条の横でにやにやしている間宮を睨んだ。
「俺を嵌めたいからって、こんなことまでするのかよ、てめぇは……」
間宮は特に表情を変えるでもなく、寧ろさらにあからさまに笑ったように見えた。
「はァ~?何言ってんの、霧野さん。『後で話がしたい』ってコンタクトとってただろ?俺『を』嵌めたい?『に』の間違いじゃない?」
間宮は口を軽く開けて笑顔を作ると下唇を舐めるような仕草をした。
「!……、なんで、」
言葉に詰まり、呆然としている霧野の目の前に二条が立ちはだかり、黒々とした瞳でじっと見降ろしてくる。
「ほぉ~そうか~、そこまでして帰りたいのか~、奴らはさっきまだ駐車場にいたからな。声をかけさせてやろうじゃねぇか。」
「なに」
首根っこを強い力で掴まれて引きずられ、窓の方に突き飛ばされた。窓に勢いよく左手をついてその冷たさに驚いた。自分の体温が熱すぎるのである。窓に写り込んだ霧野の表情は、追い詰められ、しかめられているのにもかかわらず、目元が軽くとろんとして、軽く開いた口から漏れた息が窓を濡らしていた。
「……」
「ほら、そこだ。見えるだろ。」
窓越しに事務所の庭と駐車場が見え、何人かの組員が煙草を吸いながらたむろしているのと、その向こう側で車の横に立って二人何か話し込んでいる北条と八代の姿が見えた。北条は煙草を吸いながら手帳を、八代は北条を見ていた。確かにここから大声を出せば彼らには聞こえるかもしれないが……、近いのにあまりにも遠い。

カチャカチャと金属のこすれる音がして、二条の手が霧野に回りこんでベルトを片手で器用に外していた。無駄と思いながら、戒めと発情でろくに自由にならない身体でもがいた。腕をとられて身体全体で窓に押し付けられる。そのまま簡単に下を降ろされ、脱がされてしまった。一瞬全身を締めつけられるような感覚の後、ぷつっと縄の切れる音がして、身体が楽になった。縄がはらはらと床に落ちていく。靴も脱がされ下半身は一糸まとわぬ状態になった。

「全身が熱くすっかり発情していい具合の肉だ。肉体的にも精神的にも追い詰められて、興奮して仕方が無いんだろ。自分が死ぬかもしれないというのに、良い度胸してるな。」
「なに……ああっ、……!」
二条の右手が溜まりに溜まった霧野の股間をしごきあげ、霧野の両足の間に足を入れて、肉圧で抜けかけてたディルドを太ももで押しいれていた。中の鈴が苦悶の声を上げる霧野とは対照的に涼し気に気持ちよさそうな音を立てる。
「ふっ……あうう゛っ、!」
散々もどかしい状態の身体で引き回され溜まっていた快楽、大きくうねる波の様な快楽が、軽く身体を触られ、いじられただけでぞくぞくと沸き上がり、抑えようとすればするほど大きな声が出てしまう。背後から組員達の嘲笑が聞こえてくるのが、余計に霧野の身体を惨めに欲情させた。

「ほら、鳴き声を聞かせてやるといい。」

目の前で勢いよく窓が開けられた。行き場を失った左手がバランスをとるように窓枠にかかり、右手が自然と口元を抑えていた。

「ん゛ん゛ーっ!!」
「おいおい、何をしてんだよ?せっかく声を掛けていいと言ってわざわざ窓際に立たせてやってんだぞ。……美里、手錠と首輪を貸せ。」

「はぁ~」と面倒くさそうなため息と共に美里が近づいてくる気配がした。横目で美里の方を見ると気まずいような表情をしながら黙って二条に手錠を手渡す。

美里は霧野のすぐ横から窓から乗り出すようにして下を見て「まあまあ高いな」と言って、霧野の身体を抱えるようにして抑えた。冷たい風が吹き込んで、美里と霧野の髪を揺らした。

「この高さで頭から落ちたらシャレにならないっす。殺さないで下さいよ。」
美里の細い指が霧野の汗ばんだ首元を宥める様にさすっていた。彼の頭が霧野の耳元まで近づいて、息が拭きかかる。くすぐったさに、全身に鳥肌が立ち、出来上がった身体が更に欲情、ゾクゾクとした感覚に目頭が熱くなる。
「だから下手なことをするなと言ったのに……、せめて苦しくない程度に嵌めといてやるよ。」
首元に首輪が嵌まり、軽く首元が締まった。美里に何か言いたくとも、言葉の代わりに喘ぎ声しか出ず、すぐに顔が引っ込んでしまった。

「おとなしく手を後ろに回せ。このまま落とすとお前は下半身むき出しのまま落下死して、実に無様な死に様になる。それでもいいならそのまましてろよ。一本ずつ指を剥がしていってやるから。」
その間も二条の手が、太ももが霧野の下半身を責め立てていた。耐え切れず、口元から手を離す。
「わ゛かっ、たっ、わかったから、止め゛、…ああっ!、っ」
「何故?やめるわけねぇだろ。理由がないな。」

徐々に身体に力が入らなくなってきて、仕方なく、窓枠から手を離した。一瞬浮遊感があって窓枠の外に腹から上がしな垂れるようにして飛び出た。美里と二条が身体を抑え、腕を引いているため、落ちることはないが安定しない姿勢だった。後ろ手にされ、手首に冷たい金属が音を立てて嵌められる。
「何回目の逮捕かな?」
「……。」
視線の先の北条と八代を見ていたが、何一つ気が付く様子はなく会話を続けている。その間も下半身をまさぐられ続け、漏れ出る声を必死に抑えた、抑えれば抑えるほど、出てしまった時の声が大きく、咳払いのようにして誤魔化す。美里の手がゆっくり離れていき、二条だけに支えられる形になった。
同時に足の間に差し込まれていた二条の足がどけられて、下半身から張り型が自然に抜けていく感覚があった。

「中にもう二個あるだろ、先にそれを産んでみせろ。」
「……」
軽く身体をいきませると音を立てて、固い物が体内を下っていく感じがし、床にローター、それから鈴が可愛げな音を立てて転がった。何人かが笑っている声が聞こえ、あまりの羞恥に涙が出てきた。代わりに熱い脈拍をもった大きな塊が尻にこすりつけられていた。邪悪な肉欲が肉穴の入口にねちねちと音を立てながら突きつけられていた。

「くそ、理解できない……サイコが」
「何?」
二条の手の力が弱まった。身体が浮く感じがし身体が更に窓枠の外にずり落ちそうになる。
「うわ……!!!!ぐっ!」
落ちると思った身体を首輪が支えていた。二条の指先がこりこりと皮膚の上をくすぐっていたが、くすぐったいどころではなく、殆どの体重がそこにかかっているため苦しく、元々早くなっていた脈拍がさらに早くなって、血管が圧迫されたせいで耳元のすぐ近くでよく聞こえた。後ろから押され、身体が宙ぶらりんになって安定しない。

「これだけで支えが足りるのかァ~?心もとないだろ?もう一個欲しいな?」

酸素が足りないせいで海の底にいるように何重にもくぐもった二条の声が頭の中に入ってくる。ねちねちと尻に彼の雄がこすりあてられる感覚だけははっきりとわかる。

「支えが欲しいだろ??欲しいならうなずいて意思表示しろ。それくらい無能の今のお前でもできるな?」
「ぐ……っ、ううぅ……」
このままでは窒息死するか転落死するしか選択肢がなかった。霧野が顔面を濡らしながら激しくうなずくと、首元が緩み、身体を抱えられたかと思うと、勢いよく体内に二条のいきり立った雄が突き立てられた。

「あ゛ああ!!……」
二度、三度と強く、すっかり仕上がり熱く滾っていた肉を抉られた。濡れそぼった肉は貪るように二条の熱い凶器に吸い付いて、中の襞という襞が熱を持って、こすり付けられる度に既に絶頂の前兆の火花のような、甘美な陶酔のうねりが巻き起こっていた。
「お゛!ぉぉ、、ぐあううぅ…っ…」
落下死の恐怖によって締まりに締まった体に、肉棒の一突きは強い、今までに感じたことの無いような擦れと官能の衝撃を与えていた。最早声を抑えようという理性など吹き飛び、猛るような声が霧野の身体の奥底から求めるように漏れ出ていた。

「ああ……初めての感じだ、いいぞ……おい、もっと「膣」を締めないと落ちるぞ。死にたくなきゃちゃんとつかまってないとな。」

二条は身体を抱えてはくれたが、時にわざと体の支えを緩めた。その度に命乞いのごとく必死にいつも以上に秘所を締め上げる必要があった。しかし、時に耐えられず、二条の肉棒がずるずると外に出ていってしまう。同時に身体も支えを失って、心臓が締めあげられるような恐怖に見舞われる。視界が歪む、心音が爆音で聞こえ、全身の筋肉が強張って自分の物じゃないように感じられた。誰が目の前にいようが、最早関係ない、死にたくない。

「ほらほら、このままじゃ死んじまうぞ。もっと膣を締め上げて惨めに命乞いして誠意を見せないか。」
こすり付けられるように中を雑に擦られ、ぐちゃぐちゃと粘着質な音が立った。
「ああ…っ、う゛あお‥…ぉ」
「なんだ?こんなもんか?こんなガバガバな穴じゃ使い物にならない、お前の今の最低限の役目さえも果たせなくなるわけだから、死んでも一向に構わないな?ウチに使えない人間はいらねぇんだよ。」
浮遊感が増し、死の恐怖、羞恥に理性が塗り込められて、ひたすらに喘ぐ、限界状況だというのに、いつのまにか霧野の一物は激しく勃起していた。
「あーあー、このままじゃ死ぬぞ?いいのかよ?もっとしっかり締めないか。もしこれが全部抜けたら俺はこの手を離すからな。」

嗚咽するような声と共に必死で中を締めあげ、唸りをあげた。徐々に感応するように打ち込まれた楔がさらに大きく形を変えて、悔しくも身体が安定するものの、肉欲の中心、霧野の快楽の座を容赦なくぐいぐいと押し上げた。

「はひぇ…っ」
「いい具合になったじゃねぇか、お前はやればできるんだから、最初からちゃんとやれよ。」

ぴったりと中に嵌りこみ、肉が絡みついていた。少し動かれるだけで高い掠れるよな声と共に息が詰まる。動かないでくれ、と思うのが伝わったのか、再び身体をしっかり抱えられ、一点めがけて大きな津波の様な突きが繰り返された。頭の中が閃光弾の弾けたように真っ白になり、チカチカと光のようなものが舞った。突かれるたびに身体が跳ね、力が抜けてしまい、熱い息がひいひいと漏れ出た。再びずるずると身体がずり下がる。

「またガバついてきているぞ、しっかりしないか。」
「い゛っ、む、むり゛、ぃ…‥お゛おお‥…」
「無理?じゃあ死ね。」
「あああ゛…っ」

無理にでも意識的に中を締め上げざる得ずなかった。力が入る、入らないが繰り返され、卑猥な音を立てて二条の肉の欲望に貪るようにして霧野の淫靡な肉が絡まっていった。それは二条を愉しませたが、同時に霧野の中にごぼごぼと沸き立つ熱湯の様な異常な熱と振動を発生させ、じんじんと激しく性感帯を刺激、揺らすのだった。全身が脈打って、脈打ちと同時に快楽が身体を中心に、内臓をつたい、脳天を突き、皮膚を震わせ、指先にまでパチパチと電気の貫通するように広がっていく。文字通り電気のように快楽と苦しみが入り混じった痺れ泡立つような感覚だった。

腹の奥底から、突かれるたびに死に瀕した獣の呻きの様な濁った声が体液と共に漏れ出た。目が自然と上を向いていき、だらしなく開いた口から出た舌が出て、淫靡な表情を作ってしまう。身体を貫かれながら、何も考えないようにすると肉棒がひきぬかれ、本当の意味で死ぬので、とにかく二条の一物を身体、全身を使って吸い上げることだけ考えていた。そうすると、彼の肉棒の形がよりはっきり意識させられ、濡れた臓物にじんじんと響き、肉棒の形を学習したかのようにぴったりと張り付く。

身体の支えをゆるめられる、中を締める、再び支えられる、これを続ける。
いつからか、霧野の陰茎からゆるゆるとした射精が続いていた。応接間の壁に霧野の大量の精液がぶちまけられ、すさまじい性の臭いを放った。わけのわからない快楽に霧野の身体は跳ねるように痙攣し、光が目を刺し、視界には奇麗な青空が見えて幾何学模様のような光がちらついた。よくわからない、自分の物ではない、ケダモノの声と共に、力が完全に抜けていく。

後ろから弾ける様な大きな笑い声と共に、しっかりとした支えが戻った。首輪で軽く首を締められ、吐こうとしていた息がいき場所を失って強くむせた。むせると同時に中が強く締まったらしく、中の物がより一層大きくなって、事後のようにぐったりした霧野の身体をさらに容赦なく責め立てた。事後の身体を抱きかかえなおされ、最早人形のようにされるがままになっていた。

されるがままになりながらも、溜まり溜まった物を射精させられたこと、身体がしっかりと安定したことで理性が戻りつつあった。放心し、閉じかけていた目を開いた。力が入らず、ぐったりと頭を下げていたため、建物のすぐ下しか見えてない。地面に自分の顔面からこぼれ出た液体が、突かれるリズムと一緒にぽろぽろと垂れ堕ちていくのが見えた。しばらく液体がこぼれていくのをボーっと見続けていると、聴覚が戻ってきて背後のざわめきや肉を打つ音が聞こえてくる。それから、まだ自分の喉から声が出続けていることに気が付いて、口を無理やり閉じた。頭に血が上っていて頭が痛い。
「…、……。」
視線をゆっくり上げていった。庭が視界に入る。まず、組員らと目があった。庭でたむろしていた組員のほとんどがこちらをじっと見ていた。彼らは驚くでもなく、死んだ目で、しかし、にやにやと嘲笑するような目つきでこちらを眺めながら美味しそうに煙草を吸っていた。中に能島が何かを悟ったような目をして立っていた。

「あああ……」

公開レイプじゃないか。羞恥に再びゾクゾクと身体が湧きたって震えた。耐え切れず、絶望に再び俯きたい気持ちをこらえて、無理やり駐車場の方に視線を変えた。駐車場にもやはり何人か同じような表情の組員、そして北条と八代はいなかった。否、よく見れば車に乗りこんだ八代が運転席から無表情に、まるで景色でも見るようにぼーっとこちらを見ており、はっきりと目が合った。

一瞬頭が真っ白になったが、これでいいんだ、と無理やり言い聞かせた。八代も一応警察官だ、ここにいる異常な奴らとは違う人種、このことを言いふらすほどモラルの無い人間でもないだろう。最悪な伝達方法になってしまったが、こちらの状況が多少なりともわかっただろう。しかし、今すぐにでも、傍観していないで、来てほしい。どうしてこんな目に遭っているのを無表情に見ていられるのだろうか。わかっていないのか?もう、わからない……。

耐え切れず、再び死んだように目を閉じて頭を伏せて恥辱に耐えていた。しばらくして、中に熱い物が吐き出され、反射的に身体がきゅう……と精液を搾り取るように締まってしまう。硬く締り続けていた体から脈打つ肉棒が抜かれると、身体の一部が無くなったかのような嫌な空しさが体内に残された。
身体を抱え上げられるようにして、部屋の中に入れられる。足腰が立たず、股を開いた状態でつま先立ちでしゃがみ込んで、紛らわすように腹に力を入れた。身体がぶるぶると震え、ぼとぼとと、開いた穴から精液がこぼれ出て床を汚した。
「ん゛んん…っ…」
性の余韻に声が出てしまう。背後から複数の視線を感じ、身体が固まった。それなのに、自分の熱く荒い息がはへはへと吸っては吐いてを続けて、止まらない。酷い生臭いにおいがすると思って視線を上げると、丁度目の前の壁に放出した大量の精液がこびりついて、壁をつたっていた。

「良い訓練になったな。次から俺とするときは今の動きを思い出せよ。」
「……。」
「あ~可哀そうに。これだけ鳴き声上げても奴ら来もしねぇじゃないか。冷たいな。俺ならすぐに駆け付けてやるのに。本当に奴らはお前の仲間なのか?薄情すぎるぜ。」
上から二条が心の底から憐れむような声を出していた。
「……。」
「しかし恥もなくデカい声出して、外にいた他の奴らにも自らの醜態を見せつけてやって。必死さが伝わってきてとても良かったぞ。多少興奮した。」
二条の手が霧野の頭をなでた。霧野の中に苛立ちと共に微かに甘美な感覚がくすぐって、返答する代わりに余計にはあはあと息が上がった。

放心状態の霧野をよそに、霧野の周囲には人の気配が集まってきていた。霧野が視線を上げると、二条のすぐ横に川名が立っていた。

「外だけに限らず、中の皆にも淫らなデカい尻を隠そうともせず、いつまでも見せつけて、誘っているのか?」

川名のすぐ側には霧野を囲むようにして間宮や美里、部屋にいたすべての組員が立ってにやにやとした嫌な視線で霧野を見降ろしていた。
「ちがいます……」
声が震えていた。俯いて脱がされた衣服を探すがどこにも見当たらない。

「何が違うんだ。自分から欲しがり挿れてもらい、壁もこんなにべたべたに汚して。後できれいにしておけよ。いつまでも壁の方を向いてないで、こっちに身体を見せてみろ。」
霧野が姿勢を崩そうとすると、川名が太ももの上に足を置いて、股を閉じるのを阻止する。
「誰が股を閉じていいと言ったんだ。そのままこっちを向いてみろ。」

壁に背を向けて、身体を見せた。再び川名の脚が股を押し開くようにして内腿を押した。
開かれた脚の中心部で霧野の意志に反して肉棒が再びいきり立って反り返るようにして天井の方を向き、濡れ紅く染まった亀頭の中心で精子で半ば白く濡れたピアスが光っていた。

「言い訳するならせめてその勃起を鎮めないと、一ミリの説得力も無いぞ。ん?」
川名は馬鹿にしたように鼻で笑うと、脚を霧野の身体からどかした。それから、東郷と保坂の方を見た。

「な?面白いだろコイツ。あれだけここでやりたい放題偉そうにやっておいて中身は警官と言うだけでなく、とんでもない淫乱マゾだからな。あれだけ無様な醜態晒して射精しておいて、まだ足りないらしい。……おい、霧野、勝手に姿勢を崩そうとするな。二回目だぞ。次に勝手なことをしたら、その恰好で廊下に立たせるからな。それから、上ももう脱がせておけ、熱そうだ。これからもっと熱くなるわけだしな。」
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