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お前だってもっと気持ちがいい、更なる快楽の底を見ることができるようになるんだ。
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屋上は春の風が吹いており、裏山の山桜から剥がれ、飛んできた桜の花びらがいくらか地面に落ちていた。屋上の隅の方で風に当たりながら、街の向こう、海の方を見ている男がいた。煙草も吸わず物憂げな瞳をしていた。
二条は彼の方に歩いていった。
「またここにいたか。」
「もう今日暇なんですよ、何か仕事くれません?」
澤野の彼のすぐ背後にまで近づいて、彼はようやく振り向いた。
「近いな、圧迫感あるんですよ。いいですね俺もそのくらい厳つくなりたいです。」
彼はにへらと笑うとわざとらしく口角を上げながら話した。本当はそんなふうに笑うのが苦手なのだろうが、その不器用な顔がまた良かった。
「仕事か、暇なら付き合うか?」
そう言うと彼は今度はわざとらしくない、鋭い煌めきを持った瞳を細めて「いいんですか?」と言った。
「お前が好きな仕事かはわからないが。」
「いいんですよ!そんなの!なんでもやりますよ。」
珍しく無邪気に食い入るように言う様子は、少し間宮に似ていた。真似をしているのか?一瞬そう思ったが、彼は間宮のことを嫌っており真似をする意味がわからない。
澤野を後ろに連れて事務所を出た。丁度間宮がクロスバイクに乗って戻ってくるところだった。面倒だな、と気が付かないふりをして駐車場へ向かうが、どんどんクロスバイクの車輪が地面を擦る音と上がった息が近づいてくる。
「二条さん、報告が」
ちょうど車にたどり着いたところで、車の目の前に彼がクロスバイクを止め、跨ったまま二条、それから澤野を一瞬だけ見て、再び二条を見た。
「報告?そんなの後でいいだろ。その調子じゃ、ちゃんとできたんだろ。」
「はい、特に問題なく」
「じゃ。澤野お前は助手席でいいぞ。」
「え?運転しますよ。」
「俺の車だし、横に座ってろよ。」
「本当です?じゃ、お言葉に甘えます。」
間宮をあからさまに無視していると、間宮の視線がどんどん澤野の方を向いていって面白い。わかりやすく嫌な顔をして、クロスバイクのハンドルを握る手が震えていた。
「そこにいたら邪魔だろ。轢き殺すぞ。」
運転席の窓を開けて彼を怒鳴りつけるとようやく目線がこっちに戻ってきた。自転車で一気に事務所までの坂をあがってきたせいか、身体が湿って汗ばんでおり、アレではこの前つけてやった傷や新しい刺青にしみてさぞ痛いだろうなと思った。
エンジンをふかし、軽くアクセルに足をかけゆっくりと動かし始めても彼がどかない。
「おい、いい加減にしろよ。」
「なんで……」
彼は絞り出すような声を出した。
「あ?」
「俺は助手席なんて座らせてもらったことないよ。」
「だから?」
「だから、って……。」
横目で澤野の方を見ると間宮の方を見ながら、欠伸をするように口を覆い隠すところだった。
寸前見えた口元は、極めて自然に口を開いて笑っていた。前から見る時は整っていてよく分からないが、横から見ると尖った犬歯が覗いていた。
車を発進させ、ほとんど間宮に接着させると、彼は泣き怒ったような面白い顔をしてどいた。すれ違いざま身を乗り出すようにして、間宮がこちらを見ていた。
「そいつは俺なんかよりずっと異常ですよ、なんでわからないんですか?」
「自己紹介ありがとう、じゃ。」
バックミラーを見ると見えなくなるまでずっと奴はこちらを見ていた。澤野が口元から手を離し、こちらを見た。
「なんなんですか?あの人は。」
「知らねぇよ。変態だろ。」
横で小さな声を出して澤野が笑っていた。
暫くして信号待ちになり煙草をくわえると横から火が差し出され、直ぐに火がついた。車内に紫煙が充満し、窓を開けた。
「やめたらどうです?」
「なんだ?」
「煙草、流行んないすよ。」
街から高級住宅街に車を進めると澤野は珍しそうに車に乗せられた犬のように好奇心にゆれた瞳で窓の外を見始めた。
「こんなとこ?債務者でもいるんですか。」
車を止めるとさらに澤野は怪訝な、だるそうな顔を装っているが、しかし好奇心を抑えきれないという気持ちが抑えきれず、当たりを見ていた。知らない場所に散歩に連れて期待にソワソワしている犬のようだ。
大抵の者はだるそうな顔を隠そうとするのだが、彼の場合は逆だった。
事務所の中にいる時は機嫌が悪そうだがこうして外に連れ出してやると意気揚々とするところなど、犬そのもので可愛らしい。
彼がもっと仕事ができない木偶であれば、いびりがいもあるのだが、仕事が出来てしまうのでなかなかそういう機会が無いのが残念だ。
『澁澤ピアノ教室』
木製の看板が傭洒な煉瓦造りの家の入口にかけられている。相応しくないナリの2人がその前に立つと一段と大きな春風が吹いて花の香りが漂った。
澤野が風上の方を見ていた。そこに大きな桜の木が植わっており、半ば散り桃色の盛り上がりが芝のそこかしこに出来ていた。
「入るぞ。」
「ええ……?」
何か言いたげな澤野を後ろに連れて、インターホンを押して名乗るとすぐに中に通された。応接間には妙齢の女性が1人立ち、待ち受けていた。
応接間の奥にもうひとつ扉があり、開いたままになっていた。
「調子はどうです?」
二条はソファに座ることもせずに奥の部屋に向かい、澤野、女が続いた。
「順調に、特に問題なく経営できています。」
女がドアを閉めて、二条は奥の棚から帳簿を取りだし中を確認し始めた。
「はい、了解。またしばらく外してもらっていいですか。レッスンもあるでしょう。」
「はい、それでは私は外しますので、お帰りの際はいつもの通りに。」
「あ。そうだ。」
二条は当たりを見回している澤野の腰の当たりを抱いて、女の方に向けて突き放した。
「次からコイツにも一部引き継ぎますから顔覚えておいてやってください。挨拶しろ。」
「澤野です、宜しくお願いします」
状況が読めていない彼は普段にもましてぎこちない挨拶し頭を下げた。無表情だった女が薄らと笑ったのが見えた。
「澤野さん、宜しくお願いします。澁澤です。薫さん、随分品がいい子連れてくるのね。」
「そうでしょう、うちで一等マシな雄です、お気に召しました?これなら俺の代わりにもなるでしょう。」
「そんな言い方しなくても。」
彼女はさらに、笑みを浮かべてから軽く頭をさげ、「それでは、ごゆっくり。」と言って部屋から出ていった。
「ここはなんだと思う?」
ドアの方を向いていた澤野は二乗の方を振り向いて見上げ、「そうですね」と部屋を歩き回り始めた。それから開きっぱなしになった帳簿に目を通し始めた。
「ふーん、ヤクザってこんなこともやるんですね。」
「最近はどこも金欠でな。何でも屋みたいなところがあるんだよ。昔はクソ度胸が物を言ったようだが、今やそれだけで稼げる時代でもない。」
「なるほど、ここは嘘会社で本当はピアノ教室なんかじゃない。馬鹿高いレッスン料、出張レッスン、楽器の調律、転売、屋敷の改修と帳簿にはあるが、これは全て嘘、この金で闇のものを調達、物やヤバイ資金を隠したりするにはもってこい。そういうわけですか。」
「半分当たりだな。」
澤野はあからさまにむっとした顔をした。腰に手を当て、ムキになってなにか言い出しそうであった。
「ピアノ教室は本当に経営している。経営の出資はうちがしているんだ。超低金利で返してもらい、赤の時には協力もする。彼女は元々俺のプライベートな友人だ。出資の幅はどんな企業でも良い。土建屋、クリーニング屋、不動産、特殊風俗、タトゥースタジオ、なんでもござれだ。銀行が貸してくれない会社でも、将来性があると判断できれば、出資する。ついでにたまにやばい仕事を手伝ってもらうのさ。もし奴らがそれでヘマしてもウチの名前は絶対に出さない。信頼関係も必要だ。」
「それで一等マシな雄の私を連れてきて、信頼関係を継続しようという訳ですか。ありがたいことですね。」
澤野は帳簿を閉じて意味深な笑い方をした。
「枕営業でもしろってか?まあ、いいですけど。ただで寝れんでしょ。」
「そんなこと言ってない。変なの連れてくると機嫌悪くなるからだよ。お前は大丈夫そうだが、求められたらまぁ応えてやれ。」
「はぁ、わかりました。」
気の抜けた返事だった。澤野の女に浮いた噂をあまり聞いたことがなかった。この職業では箔をつけるために、女のもしくは男の二三は囲っているものだ。そっちの気についても探りを入れたがその気もないようだ。この男が川名に守られていなければ、すぐに”そう”することもできるのだが、川名が目をかけるよりもっと早い段階で、彼をどうにかしておくべきだった。何度か彼が暴力仕事をして、事務所に帰ってくるところに居合わせ、見えるところに痣を作っているのをもいると、たまらなかった。
「ここ以外にもいくつかお前でも回せそうなとこは引き継いでやる。お前もこの事業になら出資していいという物を見つけたら知らせてみろ。良いものが見つかれば検討するし、お前に担当を任せよう。」
「ありがとうございます。ご期待に応えられるよう精進します。」
また彼はぎこちない、どこか媚を売るような可愛らしい表情をして微笑んだ。
「似合ってないぞその顔。馬鹿にしてるのか?」
彼はゆっくり表情を消した。目がどんどん暗く沈んでいく。
「いえ、練習です。笑う機会、無いし。それに、貴方なら俺がどんな異常な行動とったとしても怖がらないでしょう。気分を害したならもう止めます。」
「ああ、そう。いいよ好きにしろよ。」
川名の信頼を維持、そしてこの組の成長のためには、将来性のある澤野と信頼関係を築き正規のルートで可愛がって、育ててやるべきなのだ。彼は自分の言葉の通り、期待に応える仕事をした。随分とホワイト寄りの仕事ばかり好んでやった。
◆
目を覚ますと、白い天井と無機質なライトが見えた。見たことがあるような天井だが、思い出せない。後頭部がガンガンと痛む。
「起きたか。」
すぐ右横から声がして頭を向けた。二条が読んでいた本を閉じてこちらを見ていた。サドの「悪徳の栄え」であった。彼はそれをすぐ横にあった手術室にあるような銀色の台の上に置いた。そこには、小さな宝石箱のような布地でコーティングされた赤い箱が2つ並べられている。彼はキャスターの着いた椅子のうえで、軽く伸びをした。
「趣味悪い本読んでますね。」
「お前も読んだんだろ。」
「一般教養としてですよ。趣味じゃない。」
霧野は意識がはっきりしてくるにつれ、自分が奇妙な歯医者の椅子よのうな革張り椅子に座らされ、椅子の手すりに手首が、脚を載せる台に足首が革ベルトで括り付けられていることがわかってきた。椅子の背は軽く寝かせられている。
無機質な小さな個室で、窓のようなサイズの鏡。その他に壁際にキャスターの着いた銀色の医療器具を載せるような棚があった。
「そんなにきょろきょろして、ここがどこかまだわからないのか?俺が引き継いで、お前がいやいや面倒を見ていただろ。」
身体から血の気がひいていくのがわかった。ここは『Hell's Caretaker』、組が出資をしていた店であり、ピアス、タトゥースタジオだった。二条から引き継がれて、定期的に様子を見、報告していた。最初はあまりに異質な世界や店の人間の異様なビジュアルから、いやいややっていたが、徐々に面白くなって、稼ぎを上げるために店舗の拡張、改良なども援助した。店の人間ともそれなりに話せるようになった。
「い、嫌です……。」
勝手に声が出て、震えていた。そんなことを言えば余計に彼を刺激することはわかっているのに、ありとあらゆる種類の刺青、ピアスがあることをここで初めて学んだのであった。興味深く面白い世界ではあり、店長や技師と話をするのは楽しかったが、自分がするのは、話が違う。
「嫌じゃないんだよ。ここは俺達は無料で使えるからな、使わない理由はない。」
話が噛み合わない。
「そういう話では」
「ついでに、ケジメをつけないといけないからな。」
「ケジメ?」
「お前は俺に対して発砲しやがった、しかもあんなに大勢いる前でだ。お前がそんなに愚かな人間だったとは失望した。いくつ罪を重ねれば気が済むんだ?また組長に怒られ、しごかれても知らねぇぞ。」
二条は最初は凄みながら、最後は子供をあやすような口調でそう言った。
ぼんやりする頭の中で、美里を抱えたまま指に力を入れた。発砲する直前、美里の手が霧野の手首を掴んで逸らして、二条の足元の床に被弾した。直後に後頭部に強い衝撃を受けて身体が浮く感じがし、このまま死ぬのだろうかと思ったところまで覚えていた。
「当てなかっただろ!」
「1番最悪だ!ビビりやがって。撃つならちゃんと撃てよ、腑抜け野郎が。お前には心底がっかりだ。」
二条は霧野を恫喝してから、一呼吸おいて委縮した霧野に向かって今度はゆっくり微笑んだ。
「今からいくつかお前に施してやる。これでますますお前は警察官からは程遠い存在になっていくわけだ。お前は、男の肉棒で発情し、痛めつけられてイキ狂うマゾのくせに、まだ自覚が足りないようだからな、わかりやすく印をつけておいてやるんだよ。見るたびに思い出せよ、自分が何なのか。」
彼は台の上の2つある箱の内手前の箱を手に取って、まるで婚約指輪を見せるような仕草で霧野の前に開いて見せた。銀のシンプルなニップルピアスが2つ赤いクッションの上に鎮座していた。
「可愛いだろ、俺が選んだ。きっとよく似合うぞ。まずはこれからやろう。」
「いやだ、」
「いいね、もっと嫌がっていいぞ。その方が興奮する。」
二条の指が霧野のはだけたシャツを大きく開いて露出した右乳首を軽く指ではじいた。
「んっ……」
彼の両の乳首は既に勃起しており、弾かれた右側はとくにぷっくりと腫れ、天に向かっていた。
「最初からこれだもんな。なにもされなくても、この状況に興奮してんだろ。」
「違う!」
「マゾは嘘つきだからな」
「マゾじゃねえ」
「ほら、またそうやって嘘をつく。」
二条の左の指が霧野の乳首をつまみ上げ転がし、右手でニードルをつまんで一気に乳首の裏を貫通するように突き刺した。
「い゛っ……!!、あぁ……」
太い注射器を乳首に刺されたような感覚に、涙が出そうになり、視線を下げると貫通した針の根元に血の球がぷつぷつと浮いていた。ピンク色の蕾は萎えることなく一層熟れて厭らしく膨らんだ。
ニードルで開けられた穴になんなく一つ目のニップルピアスが貫通し、完成した。蛍光灯の光に照らされて銀のピアスの2つの丸い留め金が輝き、性感帯を彩った。
「うぅ…‥」
「簡単なもんだろ。次は反対側だ。」
同じ要領で乳首をつままれて、ピアスが貫通した。二条の手が体から離れても、じんじんと2つの突起が痛み、しかし妙な感覚を維持し続けた。まるでずっと誰かにころがされているように。息が上がり、熱くなっている。ずっとこれが続くのだろうか。もしそうならば、コレ以外に集中して仕事をできる自信がない。
「よく似合ってるぞ。エロい顔して、イイんだろ。イイと素直に言ってみろ。」
「……」
「よし、そういうところだぞ。次だ。」
「……次?」
二条がもう一つの小さな箱を開くと、直径3センチ程度の円の金属が鎮座していた。金属の軸は3ミリ程度であり、それが何か、霧野の頭の中で、ピアスカタログや種類の記憶が参照され、それが何かすぐに理解して、身体がガタガタと震え始めた。二条の手がそれをつまみ上げて手の中で転がした。
「おお、期待で身体が震えてるな。武者震いか?顔が真っ青だな。」
「違う場所にっ‥‥!いやだ……!」
「これ見ただけで何かわかるんだな。流石よく勉強している。褒めてやるよ。」
二条はピアスを箱に戻し、霧野のパンツのベルトを外し始めた。脚をばたつかせたくとも、足首にむなしく革ベルトが食い込むだけだ。チャックを下げられた先に、すっかり委縮したペニスがあった。
「なんだこれは、こんなんじゃできねぇだろ。勃起させろよ。」
二条の手が尻を叩き、叩かれるたびに軽く声が上がった。
「そこはっ、嫌だ、頼むから……!」
「そうだろ、だからやるんじゃねぇか。こんなもん邪魔だな。」
二条は銀色の台の下の方からハサミを取り出して、パンツの裂け目からチャックまでの布地を切ってしまった。最早ただの布となった残骸が、足首に向かってずり下げられていく。
椅子の角度が変わっていった。再度レバーで椅子の背もたれと、脚の部分を調整できるのだ。
背もたれがさらに後ろに倒れて、逆に足が開かされ軽く上に上がった。産婦人科の検査台に近い動きをして、股間部に施術をする際にこうして調整できる。
二条が椅子と銀色の台を移動させて、霧野の目の前に座った。二条のにやついた視線がゆっくり霧野の顔から股間部へと移っていった。と二条からはあらわになった霧野の陰茎から陰嚢、肛門までが良く見えるだろう。
「なんで、こんなっ……変態がっ」
「すっかり遊ばれたマンコした野郎が何を言ってやがんだよ。お前が動揺しているのを見るのは楽しいな。」
「うっ……」
ずぼずぼと二条の指先が簡単に中に入ってきてぐにぐにと中をいじった。
「ふっ……、んんっ」
「このまま勃起するまで中をいじっててやるよ。」
より激しく中をかき回され、2本だった指が簡単に3本になって厭らしい音を立て始めた。
「う゛っ……うう……」
「どんどん精液が出てくる。なんだこれ、精液タンクか?お前は。ちゃんと洗っておけよ。誰のだ、言ってみろよ。」
「……」
「誰のだって聞いてんだ、答えられねぇか?他のもつけられたいか?いいぞ、選んできてやる。」
指が暴力的に引き抜かれ、二条が立ち上がった。必死で彼を見上げて「……間宮とっ、竜胆、」と叫んだ。
「随分な奴らに種付けさせられたな。俺にもされたいだろ。な?どうなんだ?」
彼は立ったまま上から冷徹な動物のような瞳で見下げてくる。
「……………‥、さ、されたい、です」
霧野は鏡に映った自分が媚びたような表情で二条を見ているのに気が付き愕然とした。ここでこういえば、やめてくれるかも、と言う気持ちが先に出た。そして言わなければ、新しい物を選んでこられるかもしれないという恐怖が湧きたっていた。
二条は馬鹿にしたような霧野が見たことのない嫌な笑い方をして、再び椅子に座り、再び霧野の秘所を押し開くようにして嬲り始めた。二条の視線は霧野の秘所に注がれていた。
「ついに媚を売り始めたな。最低な奴だ。お前のような雑魚に俺のを簡単にやるわけにはいかん。欲しけりゃもっとしっかり頼み込まんとだめだ。俺に犯される妄想でもして惨めに勃起してな。」
「……、」
霧野は絶望の中で呆然と、川名と似たようなことを言うな…‥と思った。欲しいわけがないのに勝手なことを勝手に言う連中だ。
「おう、元気を取り戻してきたじぇねぇか。その調子で頑張れ。」
勃起してしまえば、ピアスをつけられるための準備が完成する。目を閉じて、必死で耐えようとすればするほど、身体の性感帯は欲望を求めて、高まっていく。
「よし、そろそろいいな。だが、施術中も勃起していてもらわなきゃ困る。」
身体の中に冷たい異物が挿入される感覚がし、目を開くと尻から管のような物がはみ出ていた。二条が管から続くポンプのような物を手で握ると、中で何かが大きくなり、身体の中から圧迫された。その圧迫は好い所を押し上げ、こすり潰すように膨張していった。快楽の座が一定のサイズの物で常に圧迫され、ずっとなにか気持ちがいい状態が続く。息が荒くなり、勃起が止まらない。
「ん‥‥…うう‥‥…やめ、」
「やめて欲しいか?勃起をずっと抑えてられればこっちだってできねぇんだ。10秒待ってやるから、抑えてみろよ。」
「そんな……」
二条が10からゆっくりカウントを始めた。必死に別のこと考えようとしたり、無感覚になろうと試みるが、全く効果がなく0になってしまう。
「淫乱マゾです、と、自分でちゃんと証明してくれるな。自己紹介か?直腸を中から拡張されて、普通の人間はこんなので勃起しねぇんだよ。」
「……。」
「じゃ、このあたりだな。」
二条がマジックで孔をあける箇所に印をつけた。本当にやるんだ、ともう抵抗する気も起きなかった。ただ身体が震えて頭の奥が何も考えられず真っ白になった。閉じていた目を開いて歪んだ視線の先で、二条の指が器用に亀頭のあたりを掴み上げて針をあてがっていた。
見るのをやめてもよかったが、ここで目をそらしたらそれこそ負けなような気がした。今更何を勝ち負けにこだわるのだろうと自分で自分が愚かに思えた。二条もこちらの視線に気が付いたのが軽く目を合わせてくる。その目は馬鹿にしたような目でなく、悦んでいるような目だった。言葉に出していないが明らかにこちらを誉めている。それは霧野を何か妙な気分にさせた。
今からされるのはプリンス・アルバート・ピアッシングだろう。陰茎小帯の外側から尿道口へと貫通させる男性器ピアスだ。手でオッケーマークを作った程度のリング状の太いピアスが裏筋から亀頭にかけて貫通する。ちょうどペニスの先端に小さな輪状の取っ手が一つつくようなものだ。太いニードルの先端が肉棒にコリコリとあてられチクチクと痛むが、今からそんなものではない壮大なものがやってくる。
「あぁ……」
「そろそろ見納めだな。これが通ればもっと遊びがいがある身体になり、お前だってもっと気持ちがいい、更なる快楽の底を見ることができるようになるんだ。よくその目で見ておけ。」
一筋涙がこぼれた。悔し涙でも快楽の涙でもなく、悲しかった。ただ目にはっきり見える形で、自分の身体が自分でなくなってしまうのが悲しかった。ずっとわかっていたことなのに。
二条は彼の方に歩いていった。
「またここにいたか。」
「もう今日暇なんですよ、何か仕事くれません?」
澤野の彼のすぐ背後にまで近づいて、彼はようやく振り向いた。
「近いな、圧迫感あるんですよ。いいですね俺もそのくらい厳つくなりたいです。」
彼はにへらと笑うとわざとらしく口角を上げながら話した。本当はそんなふうに笑うのが苦手なのだろうが、その不器用な顔がまた良かった。
「仕事か、暇なら付き合うか?」
そう言うと彼は今度はわざとらしくない、鋭い煌めきを持った瞳を細めて「いいんですか?」と言った。
「お前が好きな仕事かはわからないが。」
「いいんですよ!そんなの!なんでもやりますよ。」
珍しく無邪気に食い入るように言う様子は、少し間宮に似ていた。真似をしているのか?一瞬そう思ったが、彼は間宮のことを嫌っており真似をする意味がわからない。
澤野を後ろに連れて事務所を出た。丁度間宮がクロスバイクに乗って戻ってくるところだった。面倒だな、と気が付かないふりをして駐車場へ向かうが、どんどんクロスバイクの車輪が地面を擦る音と上がった息が近づいてくる。
「二条さん、報告が」
ちょうど車にたどり着いたところで、車の目の前に彼がクロスバイクを止め、跨ったまま二条、それから澤野を一瞬だけ見て、再び二条を見た。
「報告?そんなの後でいいだろ。その調子じゃ、ちゃんとできたんだろ。」
「はい、特に問題なく」
「じゃ。澤野お前は助手席でいいぞ。」
「え?運転しますよ。」
「俺の車だし、横に座ってろよ。」
「本当です?じゃ、お言葉に甘えます。」
間宮をあからさまに無視していると、間宮の視線がどんどん澤野の方を向いていって面白い。わかりやすく嫌な顔をして、クロスバイクのハンドルを握る手が震えていた。
「そこにいたら邪魔だろ。轢き殺すぞ。」
運転席の窓を開けて彼を怒鳴りつけるとようやく目線がこっちに戻ってきた。自転車で一気に事務所までの坂をあがってきたせいか、身体が湿って汗ばんでおり、アレではこの前つけてやった傷や新しい刺青にしみてさぞ痛いだろうなと思った。
エンジンをふかし、軽くアクセルに足をかけゆっくりと動かし始めても彼がどかない。
「おい、いい加減にしろよ。」
「なんで……」
彼は絞り出すような声を出した。
「あ?」
「俺は助手席なんて座らせてもらったことないよ。」
「だから?」
「だから、って……。」
横目で澤野の方を見ると間宮の方を見ながら、欠伸をするように口を覆い隠すところだった。
寸前見えた口元は、極めて自然に口を開いて笑っていた。前から見る時は整っていてよく分からないが、横から見ると尖った犬歯が覗いていた。
車を発進させ、ほとんど間宮に接着させると、彼は泣き怒ったような面白い顔をしてどいた。すれ違いざま身を乗り出すようにして、間宮がこちらを見ていた。
「そいつは俺なんかよりずっと異常ですよ、なんでわからないんですか?」
「自己紹介ありがとう、じゃ。」
バックミラーを見ると見えなくなるまでずっと奴はこちらを見ていた。澤野が口元から手を離し、こちらを見た。
「なんなんですか?あの人は。」
「知らねぇよ。変態だろ。」
横で小さな声を出して澤野が笑っていた。
暫くして信号待ちになり煙草をくわえると横から火が差し出され、直ぐに火がついた。車内に紫煙が充満し、窓を開けた。
「やめたらどうです?」
「なんだ?」
「煙草、流行んないすよ。」
街から高級住宅街に車を進めると澤野は珍しそうに車に乗せられた犬のように好奇心にゆれた瞳で窓の外を見始めた。
「こんなとこ?債務者でもいるんですか。」
車を止めるとさらに澤野は怪訝な、だるそうな顔を装っているが、しかし好奇心を抑えきれないという気持ちが抑えきれず、当たりを見ていた。知らない場所に散歩に連れて期待にソワソワしている犬のようだ。
大抵の者はだるそうな顔を隠そうとするのだが、彼の場合は逆だった。
事務所の中にいる時は機嫌が悪そうだがこうして外に連れ出してやると意気揚々とするところなど、犬そのもので可愛らしい。
彼がもっと仕事ができない木偶であれば、いびりがいもあるのだが、仕事が出来てしまうのでなかなかそういう機会が無いのが残念だ。
『澁澤ピアノ教室』
木製の看板が傭洒な煉瓦造りの家の入口にかけられている。相応しくないナリの2人がその前に立つと一段と大きな春風が吹いて花の香りが漂った。
澤野が風上の方を見ていた。そこに大きな桜の木が植わっており、半ば散り桃色の盛り上がりが芝のそこかしこに出来ていた。
「入るぞ。」
「ええ……?」
何か言いたげな澤野を後ろに連れて、インターホンを押して名乗るとすぐに中に通された。応接間には妙齢の女性が1人立ち、待ち受けていた。
応接間の奥にもうひとつ扉があり、開いたままになっていた。
「調子はどうです?」
二条はソファに座ることもせずに奥の部屋に向かい、澤野、女が続いた。
「順調に、特に問題なく経営できています。」
女がドアを閉めて、二条は奥の棚から帳簿を取りだし中を確認し始めた。
「はい、了解。またしばらく外してもらっていいですか。レッスンもあるでしょう。」
「はい、それでは私は外しますので、お帰りの際はいつもの通りに。」
「あ。そうだ。」
二条は当たりを見回している澤野の腰の当たりを抱いて、女の方に向けて突き放した。
「次からコイツにも一部引き継ぎますから顔覚えておいてやってください。挨拶しろ。」
「澤野です、宜しくお願いします」
状況が読めていない彼は普段にもましてぎこちない挨拶し頭を下げた。無表情だった女が薄らと笑ったのが見えた。
「澤野さん、宜しくお願いします。澁澤です。薫さん、随分品がいい子連れてくるのね。」
「そうでしょう、うちで一等マシな雄です、お気に召しました?これなら俺の代わりにもなるでしょう。」
「そんな言い方しなくても。」
彼女はさらに、笑みを浮かべてから軽く頭をさげ、「それでは、ごゆっくり。」と言って部屋から出ていった。
「ここはなんだと思う?」
ドアの方を向いていた澤野は二乗の方を振り向いて見上げ、「そうですね」と部屋を歩き回り始めた。それから開きっぱなしになった帳簿に目を通し始めた。
「ふーん、ヤクザってこんなこともやるんですね。」
「最近はどこも金欠でな。何でも屋みたいなところがあるんだよ。昔はクソ度胸が物を言ったようだが、今やそれだけで稼げる時代でもない。」
「なるほど、ここは嘘会社で本当はピアノ教室なんかじゃない。馬鹿高いレッスン料、出張レッスン、楽器の調律、転売、屋敷の改修と帳簿にはあるが、これは全て嘘、この金で闇のものを調達、物やヤバイ資金を隠したりするにはもってこい。そういうわけですか。」
「半分当たりだな。」
澤野はあからさまにむっとした顔をした。腰に手を当て、ムキになってなにか言い出しそうであった。
「ピアノ教室は本当に経営している。経営の出資はうちがしているんだ。超低金利で返してもらい、赤の時には協力もする。彼女は元々俺のプライベートな友人だ。出資の幅はどんな企業でも良い。土建屋、クリーニング屋、不動産、特殊風俗、タトゥースタジオ、なんでもござれだ。銀行が貸してくれない会社でも、将来性があると判断できれば、出資する。ついでにたまにやばい仕事を手伝ってもらうのさ。もし奴らがそれでヘマしてもウチの名前は絶対に出さない。信頼関係も必要だ。」
「それで一等マシな雄の私を連れてきて、信頼関係を継続しようという訳ですか。ありがたいことですね。」
澤野は帳簿を閉じて意味深な笑い方をした。
「枕営業でもしろってか?まあ、いいですけど。ただで寝れんでしょ。」
「そんなこと言ってない。変なの連れてくると機嫌悪くなるからだよ。お前は大丈夫そうだが、求められたらまぁ応えてやれ。」
「はぁ、わかりました。」
気の抜けた返事だった。澤野の女に浮いた噂をあまり聞いたことがなかった。この職業では箔をつけるために、女のもしくは男の二三は囲っているものだ。そっちの気についても探りを入れたがその気もないようだ。この男が川名に守られていなければ、すぐに”そう”することもできるのだが、川名が目をかけるよりもっと早い段階で、彼をどうにかしておくべきだった。何度か彼が暴力仕事をして、事務所に帰ってくるところに居合わせ、見えるところに痣を作っているのをもいると、たまらなかった。
「ここ以外にもいくつかお前でも回せそうなとこは引き継いでやる。お前もこの事業になら出資していいという物を見つけたら知らせてみろ。良いものが見つかれば検討するし、お前に担当を任せよう。」
「ありがとうございます。ご期待に応えられるよう精進します。」
また彼はぎこちない、どこか媚を売るような可愛らしい表情をして微笑んだ。
「似合ってないぞその顔。馬鹿にしてるのか?」
彼はゆっくり表情を消した。目がどんどん暗く沈んでいく。
「いえ、練習です。笑う機会、無いし。それに、貴方なら俺がどんな異常な行動とったとしても怖がらないでしょう。気分を害したならもう止めます。」
「ああ、そう。いいよ好きにしろよ。」
川名の信頼を維持、そしてこの組の成長のためには、将来性のある澤野と信頼関係を築き正規のルートで可愛がって、育ててやるべきなのだ。彼は自分の言葉の通り、期待に応える仕事をした。随分とホワイト寄りの仕事ばかり好んでやった。
◆
目を覚ますと、白い天井と無機質なライトが見えた。見たことがあるような天井だが、思い出せない。後頭部がガンガンと痛む。
「起きたか。」
すぐ右横から声がして頭を向けた。二条が読んでいた本を閉じてこちらを見ていた。サドの「悪徳の栄え」であった。彼はそれをすぐ横にあった手術室にあるような銀色の台の上に置いた。そこには、小さな宝石箱のような布地でコーティングされた赤い箱が2つ並べられている。彼はキャスターの着いた椅子のうえで、軽く伸びをした。
「趣味悪い本読んでますね。」
「お前も読んだんだろ。」
「一般教養としてですよ。趣味じゃない。」
霧野は意識がはっきりしてくるにつれ、自分が奇妙な歯医者の椅子よのうな革張り椅子に座らされ、椅子の手すりに手首が、脚を載せる台に足首が革ベルトで括り付けられていることがわかってきた。椅子の背は軽く寝かせられている。
無機質な小さな個室で、窓のようなサイズの鏡。その他に壁際にキャスターの着いた銀色の医療器具を載せるような棚があった。
「そんなにきょろきょろして、ここがどこかまだわからないのか?俺が引き継いで、お前がいやいや面倒を見ていただろ。」
身体から血の気がひいていくのがわかった。ここは『Hell's Caretaker』、組が出資をしていた店であり、ピアス、タトゥースタジオだった。二条から引き継がれて、定期的に様子を見、報告していた。最初はあまりに異質な世界や店の人間の異様なビジュアルから、いやいややっていたが、徐々に面白くなって、稼ぎを上げるために店舗の拡張、改良なども援助した。店の人間ともそれなりに話せるようになった。
「い、嫌です……。」
勝手に声が出て、震えていた。そんなことを言えば余計に彼を刺激することはわかっているのに、ありとあらゆる種類の刺青、ピアスがあることをここで初めて学んだのであった。興味深く面白い世界ではあり、店長や技師と話をするのは楽しかったが、自分がするのは、話が違う。
「嫌じゃないんだよ。ここは俺達は無料で使えるからな、使わない理由はない。」
話が噛み合わない。
「そういう話では」
「ついでに、ケジメをつけないといけないからな。」
「ケジメ?」
「お前は俺に対して発砲しやがった、しかもあんなに大勢いる前でだ。お前がそんなに愚かな人間だったとは失望した。いくつ罪を重ねれば気が済むんだ?また組長に怒られ、しごかれても知らねぇぞ。」
二条は最初は凄みながら、最後は子供をあやすような口調でそう言った。
ぼんやりする頭の中で、美里を抱えたまま指に力を入れた。発砲する直前、美里の手が霧野の手首を掴んで逸らして、二条の足元の床に被弾した。直後に後頭部に強い衝撃を受けて身体が浮く感じがし、このまま死ぬのだろうかと思ったところまで覚えていた。
「当てなかっただろ!」
「1番最悪だ!ビビりやがって。撃つならちゃんと撃てよ、腑抜け野郎が。お前には心底がっかりだ。」
二条は霧野を恫喝してから、一呼吸おいて委縮した霧野に向かって今度はゆっくり微笑んだ。
「今からいくつかお前に施してやる。これでますますお前は警察官からは程遠い存在になっていくわけだ。お前は、男の肉棒で発情し、痛めつけられてイキ狂うマゾのくせに、まだ自覚が足りないようだからな、わかりやすく印をつけておいてやるんだよ。見るたびに思い出せよ、自分が何なのか。」
彼は台の上の2つある箱の内手前の箱を手に取って、まるで婚約指輪を見せるような仕草で霧野の前に開いて見せた。銀のシンプルなニップルピアスが2つ赤いクッションの上に鎮座していた。
「可愛いだろ、俺が選んだ。きっとよく似合うぞ。まずはこれからやろう。」
「いやだ、」
「いいね、もっと嫌がっていいぞ。その方が興奮する。」
二条の指が霧野のはだけたシャツを大きく開いて露出した右乳首を軽く指ではじいた。
「んっ……」
彼の両の乳首は既に勃起しており、弾かれた右側はとくにぷっくりと腫れ、天に向かっていた。
「最初からこれだもんな。なにもされなくても、この状況に興奮してんだろ。」
「違う!」
「マゾは嘘つきだからな」
「マゾじゃねえ」
「ほら、またそうやって嘘をつく。」
二条の左の指が霧野の乳首をつまみ上げ転がし、右手でニードルをつまんで一気に乳首の裏を貫通するように突き刺した。
「い゛っ……!!、あぁ……」
太い注射器を乳首に刺されたような感覚に、涙が出そうになり、視線を下げると貫通した針の根元に血の球がぷつぷつと浮いていた。ピンク色の蕾は萎えることなく一層熟れて厭らしく膨らんだ。
ニードルで開けられた穴になんなく一つ目のニップルピアスが貫通し、完成した。蛍光灯の光に照らされて銀のピアスの2つの丸い留め金が輝き、性感帯を彩った。
「うぅ…‥」
「簡単なもんだろ。次は反対側だ。」
同じ要領で乳首をつままれて、ピアスが貫通した。二条の手が体から離れても、じんじんと2つの突起が痛み、しかし妙な感覚を維持し続けた。まるでずっと誰かにころがされているように。息が上がり、熱くなっている。ずっとこれが続くのだろうか。もしそうならば、コレ以外に集中して仕事をできる自信がない。
「よく似合ってるぞ。エロい顔して、イイんだろ。イイと素直に言ってみろ。」
「……」
「よし、そういうところだぞ。次だ。」
「……次?」
二条がもう一つの小さな箱を開くと、直径3センチ程度の円の金属が鎮座していた。金属の軸は3ミリ程度であり、それが何か、霧野の頭の中で、ピアスカタログや種類の記憶が参照され、それが何かすぐに理解して、身体がガタガタと震え始めた。二条の手がそれをつまみ上げて手の中で転がした。
「おお、期待で身体が震えてるな。武者震いか?顔が真っ青だな。」
「違う場所にっ‥‥!いやだ……!」
「これ見ただけで何かわかるんだな。流石よく勉強している。褒めてやるよ。」
二条はピアスを箱に戻し、霧野のパンツのベルトを外し始めた。脚をばたつかせたくとも、足首にむなしく革ベルトが食い込むだけだ。チャックを下げられた先に、すっかり委縮したペニスがあった。
「なんだこれは、こんなんじゃできねぇだろ。勃起させろよ。」
二条の手が尻を叩き、叩かれるたびに軽く声が上がった。
「そこはっ、嫌だ、頼むから……!」
「そうだろ、だからやるんじゃねぇか。こんなもん邪魔だな。」
二条は銀色の台の下の方からハサミを取り出して、パンツの裂け目からチャックまでの布地を切ってしまった。最早ただの布となった残骸が、足首に向かってずり下げられていく。
椅子の角度が変わっていった。再度レバーで椅子の背もたれと、脚の部分を調整できるのだ。
背もたれがさらに後ろに倒れて、逆に足が開かされ軽く上に上がった。産婦人科の検査台に近い動きをして、股間部に施術をする際にこうして調整できる。
二条が椅子と銀色の台を移動させて、霧野の目の前に座った。二条のにやついた視線がゆっくり霧野の顔から股間部へと移っていった。と二条からはあらわになった霧野の陰茎から陰嚢、肛門までが良く見えるだろう。
「なんで、こんなっ……変態がっ」
「すっかり遊ばれたマンコした野郎が何を言ってやがんだよ。お前が動揺しているのを見るのは楽しいな。」
「うっ……」
ずぼずぼと二条の指先が簡単に中に入ってきてぐにぐにと中をいじった。
「ふっ……、んんっ」
「このまま勃起するまで中をいじっててやるよ。」
より激しく中をかき回され、2本だった指が簡単に3本になって厭らしい音を立て始めた。
「う゛っ……うう……」
「どんどん精液が出てくる。なんだこれ、精液タンクか?お前は。ちゃんと洗っておけよ。誰のだ、言ってみろよ。」
「……」
「誰のだって聞いてんだ、答えられねぇか?他のもつけられたいか?いいぞ、選んできてやる。」
指が暴力的に引き抜かれ、二条が立ち上がった。必死で彼を見上げて「……間宮とっ、竜胆、」と叫んだ。
「随分な奴らに種付けさせられたな。俺にもされたいだろ。な?どうなんだ?」
彼は立ったまま上から冷徹な動物のような瞳で見下げてくる。
「……………‥、さ、されたい、です」
霧野は鏡に映った自分が媚びたような表情で二条を見ているのに気が付き愕然とした。ここでこういえば、やめてくれるかも、と言う気持ちが先に出た。そして言わなければ、新しい物を選んでこられるかもしれないという恐怖が湧きたっていた。
二条は馬鹿にしたような霧野が見たことのない嫌な笑い方をして、再び椅子に座り、再び霧野の秘所を押し開くようにして嬲り始めた。二条の視線は霧野の秘所に注がれていた。
「ついに媚を売り始めたな。最低な奴だ。お前のような雑魚に俺のを簡単にやるわけにはいかん。欲しけりゃもっとしっかり頼み込まんとだめだ。俺に犯される妄想でもして惨めに勃起してな。」
「……、」
霧野は絶望の中で呆然と、川名と似たようなことを言うな…‥と思った。欲しいわけがないのに勝手なことを勝手に言う連中だ。
「おう、元気を取り戻してきたじぇねぇか。その調子で頑張れ。」
勃起してしまえば、ピアスをつけられるための準備が完成する。目を閉じて、必死で耐えようとすればするほど、身体の性感帯は欲望を求めて、高まっていく。
「よし、そろそろいいな。だが、施術中も勃起していてもらわなきゃ困る。」
身体の中に冷たい異物が挿入される感覚がし、目を開くと尻から管のような物がはみ出ていた。二条が管から続くポンプのような物を手で握ると、中で何かが大きくなり、身体の中から圧迫された。その圧迫は好い所を押し上げ、こすり潰すように膨張していった。快楽の座が一定のサイズの物で常に圧迫され、ずっとなにか気持ちがいい状態が続く。息が荒くなり、勃起が止まらない。
「ん‥‥…うう‥‥…やめ、」
「やめて欲しいか?勃起をずっと抑えてられればこっちだってできねぇんだ。10秒待ってやるから、抑えてみろよ。」
「そんな……」
二条が10からゆっくりカウントを始めた。必死に別のこと考えようとしたり、無感覚になろうと試みるが、全く効果がなく0になってしまう。
「淫乱マゾです、と、自分でちゃんと証明してくれるな。自己紹介か?直腸を中から拡張されて、普通の人間はこんなので勃起しねぇんだよ。」
「……。」
「じゃ、このあたりだな。」
二条がマジックで孔をあける箇所に印をつけた。本当にやるんだ、ともう抵抗する気も起きなかった。ただ身体が震えて頭の奥が何も考えられず真っ白になった。閉じていた目を開いて歪んだ視線の先で、二条の指が器用に亀頭のあたりを掴み上げて針をあてがっていた。
見るのをやめてもよかったが、ここで目をそらしたらそれこそ負けなような気がした。今更何を勝ち負けにこだわるのだろうと自分で自分が愚かに思えた。二条もこちらの視線に気が付いたのが軽く目を合わせてくる。その目は馬鹿にしたような目でなく、悦んでいるような目だった。言葉に出していないが明らかにこちらを誉めている。それは霧野を何か妙な気分にさせた。
今からされるのはプリンス・アルバート・ピアッシングだろう。陰茎小帯の外側から尿道口へと貫通させる男性器ピアスだ。手でオッケーマークを作った程度のリング状の太いピアスが裏筋から亀頭にかけて貫通する。ちょうどペニスの先端に小さな輪状の取っ手が一つつくようなものだ。太いニードルの先端が肉棒にコリコリとあてられチクチクと痛むが、今からそんなものではない壮大なものがやってくる。
「あぁ……」
「そろそろ見納めだな。これが通ればもっと遊びがいがある身体になり、お前だってもっと気持ちがいい、更なる快楽の底を見ることができるようになるんだ。よくその目で見ておけ。」
一筋涙がこぼれた。悔し涙でも快楽の涙でもなく、悲しかった。ただ目にはっきり見える形で、自分の身体が自分でなくなってしまうのが悲しかった。ずっとわかっていたことなのに。
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