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失望しましたよ、俺は。でも、こうなってもアンタは奇麗ですね。そこだけは、変わらない。
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半年弱の準備期間、任務について二か月を経た。霧野は川名の信用を勝ち取り始め、初めて事務所内の川名の部屋に連れられてきた。後に頻繁に出入りするようになるその部屋は、事務所の最上階北面に位置した。
川名は部屋の奥にいた人物に向かって声をかける。何故川名の部屋に彼以外の人物がいるのか。
「お前が基本的なことを教えてやれ。」
その男は窓の前に佇み、縁に両手をついて外を見ていた。
よく晴れており、開け放たれた窓からは山が見えた。山肌を雲の影が穏やかに流れていく。
森の匂いと甘い香水の匂いが鼻をかすめた。なにか異質なものが混ざっている。霧野の頭の中で少し警戒したほうがいいぞとアラームがなった。
「はあ、また何か拾ってきたんですか。」
淡々として低く、怠く、感情が感じられないのに、やけに一音一音がはっきりした声だった。
「そうだ、お前がお世話してやれ。」
彼は聞こえるか聞こえない程度かの大きさの舌打ちをした。川名に対してそのような態度をとれる人間は初めて見た。
「そういうことしてるから……」
彼は無気力な口調で何か言いながら、こちらを振り向いた。頭の中でさらに警戒したほうがいいぞとアラームが鳴り響いた。
色が白く、一見すると気の強い女のような顔だが、よくみれば骨格がはっきりとし、凛とした眉、そして何よりも無気力な瞳の底に怒りと殺意を隠さず煌めかせていた。それは、殺人者の顔だ。もしくは自分の魂を殺された者の顔だ。
「じゃあ、置いていくから好きにしていいぞ。最低限使えるようにしておけよ。」
川名がそう言うと彼は開きかけた口を閉じて、川名がさっさと出ていこうとするのを止めるようにこちらに速足で近づいてきた。
「なにができるんですか、こいつ。」
「こいつは割となんでもできるぞ。適当にやらせてみろ。」
「なんすかそれ、あやしいですよ。」
「そういうのがいいんじゃないか。ただの死にたがりや馬鹿ばっかり集めても仕方がない。俺は使える奴が欲しいだけだよ。」
川名はそう言って煙を払うような仕草をして部屋から出ていった。
「どうやってあの人に取り入ったか知らないが、こんなところまでのこのこついてきて、馬鹿なのか?あんな見た目してるけど、なめたことしてると痛い目に遭うぞ。」
彼は自分のすぐ近くに立って、出ていった川名の後ろ姿を見送っていた。
「黙ってないで何か言ったら?」
彼の口内からやはり、若干の煙草の匂いが漂うのが残念だが、柑橘のような良い香りが混ざっており、不思議と不快な気がしなかった。射るような目線が再び自分に向けられる。精一杯の威嚇のつもりだろうか、面白い。こういう場合は目を先に反らした方が負けだ。こちらもじっと見つめ返して口を開いた。
「敬語で話したほうがいいですか。組長からはどちらでも良いと言われてる。」
彼は一瞬虚を突かれたような顔をして、元の表情に戻った。しかし、さっき窓の方から自分を見ていた時より瞳の底のぎらつきのようなものが薄まっていた。
「わざわざご丁寧にそんなことを聞いてくるのかい。ますますあやしいぞお前。いいよ、普通にしゃべれよ。気持ち悪い。」
「じゃあ普通に話してやるよ。これでいいか。」
「……。急に偉そうだな。まあいいさ。ちょうど今から集金行こうとしてたんだ、ついてこいよ。いちいち説明しねぇから、勝手に見て学べ。なんでもできるんだろ。」
彼の方が先に目を逸らし、奥の方に鞄をとりに行った。その後ろ姿は男にしてはやけに扇情的な雰囲気を醸し出していた。会ったことのないタイプの人間だ。少なくとも自分の仲間の中にはいない。女の木崎でさえ見た目に反して精神性はむさい男のソレと変わらなかった。
スーツのサイズがちょうどいいのか歩き方がいいのか、歩く度に腰から下の筋肉がしなやかに動き、一瞬目が離せなくなる。瞼の前に手をやり頭を軽く振って無理やり目を離した。
「名前は?」
彼は鞄をもってこちらに向かってきた。だいぶ慣れたが初めて名前を聞かれるたび冷や汗をかくような気分になる。
「澤野優紀。」
「ふーん、見た目より可愛い名前してんな、ユーキちゃん。」
彼は嘲るようにそう言って手に持った鞄をぶらぶらと揺らした。腹が立つ奴だ。
「……。」
「……そんな怖い顔するなよ、澤野よ。煽り耐性がない奴はここではやっていけないぞ。俺は美里涼二だ。」
「ふーん、見た目通り可愛い名前してるな、ミサトちゃん。」
そう言うと、美里は特に怒った様子もなく、無表情でこちらを見て「なるほど、こりゃあ川名さんも気に入るわけだわ」と言ってから軽く眉をしかめた。
「でも、二度とその呼び方をするなよ、澤野。次やったらもうお前とは仕事しない。」
◆
サイドテーブルの上で携帯が震え、うとうとしていた目が覚まされる。
美里はソファに座ったまま軽く眠ってしまっていた。
「はい俺ですが……」
『どうだ調子は。』
川名の背後は、喧騒が聞こえ舎弟の誰かと外にいることが分かった。眠気眼でヘッドボードの時計を見ると朝の10時を指していた。ヘッドボードからは鎖が垂れ下がり、ベッドの布団の中に続いていた。布団が軽く上下していて、彼がまだよく寝ていることが分かった。本当は霧野を床に寝させて自分がベッドで寝る気でいた。しかし、自分がベッドに入ってしまうと本気で寝てしまい、起きられる自信がなかった。
「寝させていますが……」
『寝ている?いつからだ。』
「……二時間くらい前からです。」
『そうか。ところでお前、何してんだ?』
「は?」
『午後一で、山野組の者がくるだろ。お茶出しは?その後だって溜まってる仕事があるだろ。そこで寝ている奴が回してた仕事がな。』
「………」
お茶出しなど、誰だってできるだろと口元まで出かかるが黙っていた。確かに霧野が回していた仕事を分配された者はたまったものではなく、てんやわんやしていた。
『昼頃に交代要員を向かわせるから、自分の仕事しろよ。そいつの世話はお前が空いてる時間にしろ。好き好んでやってることだろ。』
「………クソだるいですね。」
『何か言ったか?』
「いえ、了解です。」
川名にホテルの場所と部屋番号を教えてから電話を切った。ホテルの主人に軽く圧をかけながら事情を説明し、嵩を増しに増した料金を前払いしておいた。普通のホテルで五日間くらいは泊まれる額を渡しておいた。
「……。」
眠すぎて頭が回らない。携帯で三島に電話をかけた。昨日の宴席で末端席に座っていた方の一人で、面識がある方だ。
『はい、三島です。』
電話の向こうで若干声が震えていた。自分から電話がかかってきて嫌な気持ちになるのもわかる。しかし、この状況で一番使いやすいのが彼だ。事情も知っているし、自分の言うことをよく聞く。もっといえば、澤野の言うこともよく聞いていた人間だ。彼があそこに呼ばれていた理由はひとつしかない。澤野が可愛がっていた人間の中で秘密を知っている人間であるからだ。どうせ二条あたりが呼んだと思ったらその通り、嗜虐性の塊だ。
彼はあの宴会での最初の霧野に対するしごき、前菜としての精液摂取で、八人の中で唯一挙手をしなかったという。態度に反して意志が強い人間だ。怯えていて挙手できなかったという見方もできるが、それは、ある意味川名や二条の機嫌を損ねる可能性もあった。
昨夜、三島は霧野に出してはいたが、最初はかなり嫌がっており、他の組員に脅されてほとんど無理やりやっていた。しかし、場の異様な盛り上がりや酒の力もあり、三島も三島で徐々に嗜虐性を発揮させていた。彼も一端の構成員だ。しかし、今頃、我に返って沈んでいたところだろう。
「お前暇だろ。」
『手は動かせますが。』
「今から言うもの買ってこいよ。」
三島にホテルの住所を知らせて、大量の水やスポーツ飲料、大量のタオル、軽食などを買ってくるように命じた。ホテルのサービスだけでは限界があるし、向こうだってこんな怪しい客と接触したくないだろう。
ソファを立とうとした時、タオルが体から落ち、自分がバスローブ一枚であったことを思い出した。雑に着替えて、ベッドの回りに散乱するものを片付け始めた。
急に吐き気が襲ってくる。寝不足のせいだ。結局クスリで覚醒した身体というのは、どれだけ肉体や精神が限界を迎えていたとしても、すぐさま眠れないのだ。寝ろと言ったって身体が疼くと唸って寝かせてくれない。
最後の方の記憶はこうだ。
「てめぇは、いつまでも発情して、いい加減にしないか。自分の立場も忘れ、淫乱面しやがって、その顔写真に撮って、てめぇの仲間に見せてやる。そうだ、交番の前にでも写真撒いておいてやるよ……。」
美里の脚下で蹲って踏まれていた霧野は、自分が何故こうなっているかも何もかもすべて忘れて、淫靡な誘うような表情をして、こちらをかいがいしく見上げていた。
何故なら彼は今、「霧野」でも「澤野」でもなく、「美里の犬」をやっているからだ。そういう風に命じ、刷り込みを与えて彼を軽く壊したのは自分だし、薬の力がかなり大きいのもあるが、彼にはそういった天才的状況適応能力がある。警察連中はこういった特性を見抜いていたのだろうか。だとしたら大した適材だ。警察など無能だが、中には少しは彼のことを分かっている人間がいたかもしれない。そういう人物となら少し話してみたい気もする。
足をどかしてベッドの上に乗るように指示すると素直にその通り動き、座った。
彼の手脚を拘束してベッド上に寝かせた。手枷から鎖を通してヘッドボードに固定する。万が一彼が我に返り脱出を図ろうとしても逃げないように、そして薬の禁断症状に耐え切れず、妙なことをさせないようにするためだ。
彼はそうされても誘うようなまなざしでこちらを見て、ハアハアと息をあらげた。
「その目をやめないか‥‥…」
目を隠し、口に枷を噛ませるとおとなしくなったが、疼いてたまらない身をベッドに擦るようにして動かし始め、自分の昂ぶりを隠そうともしない。
「まじサイテーだぞ、今のお前。」
何度かスマホのカメラを回しておいた。これを後から正気に戻った本人に見せてやる。
「最早俺が何言っても聞こえちゃないんだろうが。これじゃあ折檻にもなりはしねぇ。勝手に落ちてろ馬鹿が。」
玩具を固定してスイッチを入れてそのまま布団をかけ、上から座って抑えつけた。自分の尻の下で彼の身体がビクビクとはね、甘い、うめき声が聞こえはじめる。
そのまま無視してテレビをつけた。こちらまで寝てしまうと、何かあった時に対処できないし、抑え込まれてはいるが彼の心の奥は殺意で満ちている。テレビ画面には通販番組が映し出され、ウォームウェアが二枚で半額だと謳っていた。尻の下にいる馬鹿がうるさいのでどんどんテレビの音量を上げていった。
彼の覚醒した身体は、勿論常人より長くもち、結局朝までかかり、動かなくなったのが朝八時だ。
目隠しを外してみると、いつものように顔をしかめることもなく、純粋な体力の限界を迎え、すやすやと眠っていた。口に咥えさせた枷も外してやる。それは、初めて見る顔だった。
「…………。」
何を暢気にと思ったが、束の間の休息だ。
その他、彼から動いている道具を取りはらい、ベッドの周りに投げ置いた。そこで力尽きて自分もソファで寝てしまったというわけだ。
自分や霧野の精液やら体液やらがまとわりついた物を回収し、まとめて鞄に隠した。他にも散乱したゴミや付着物などを片付け、他の者が来てもいい様に片付けていく。
一通り片づけを終え服を整えてから、再びソファに座り煙草に火をつけた。上下する布団を見ながら、これからやってくる最悪の地獄について考えた。一、禁断症状、二、禁断症状を利用したキツイ洗脳、三、人としての終わり。一まではまだいい。三に進んでしまった場合自分では最早どうにもならず、本当であれば、完全に回復しきるまで信用できない他の人間を側によらせたくはなかった。
三本目の煙草が終わる頃、ホテルのドアが外から叩かれる音がした。今一度部屋を見回して、妙なものが落ちたままになっていないことを確認してから、ドアを開けた。
「お疲れ様です。」
軽く作り笑いをした三島が顔を出し、手に大きなビニール袋を二つ抱えていた。足でドアを押し開けて、身体を乗り出し荷物を受け取った。片方の袋に二リットルペットボトルが二本入っており、持ち手がちぎれそうになっている。もう片方の袋に食料品やタオルなどが詰め込まれていた。
「ごくろうさん。」
そのままドアを閉めようとすると、何か物欲しそうな顔で三島がこちらを見ていた。大体何が言いたいのかは分かったが、敢えて聞くことにした。
「なんだ?言いたいことがあるなら言ってみろ。口を開いていいぞ。」
「さ、霧野さんは?」
「いるよ。」
「いえ、そうではなく大丈夫ですか。」
一瞬、携帯の中にある無様な霧野を見せてやろうかという気分になったが、止めた。
「大丈夫だ。いや、今からが問題と言ったほうがいいな。ようやく抜け始めて寝てるよ。」
「……」
三島は納得しかねるような表情をしたままこちらを見ていた。
「なんだ?見たいのか?だったらそう言えよ。お前だったらまだマシだ。」
そう言ってドアを大きく開けてやると彼はわかりやすく明るい表情をして中に入ってきた。ドアを閉めて、三島の後ろに続いて部屋の中に戻った。
「なんか……すごい臭いですね……」
「は?」
「換気しておきますね。」
三島は黙って風呂場の換気扇などすべての換気扇を回し始めた。意味を理解して一瞬だけ身体が発火するように熱くなったが、すぐに冷静になる。仕方がないことだ。換気にまで気が回らなかったの自分が憎い。部屋中の換気扇が回り始める。
三島は戻ってくるとベッドのすぐ横に立ち、「めくっていいですか?」と聞いてくる。軽くうなずくと、彼はそれをめくりあげた。ちょうどこちらに背中を向けており、蚯蚓腫れになった鞭痕が軽く汗で濡れていた。三島はさらに身を乗り出して彼の寝顔を見ていた。
「……。いつもこんな感じで飼ってるんですか?」
「……。」
一瞬何か聞き間違いかと思ったが、確かにそう言った。クソガキのくせに何を言ってるんだ。
三島は、まだ20にもなっていない。病んだ白い顔を軽く紅潮させていた。
路地裏にいる黒猫のような顔、飢えと愛嬌両方を持つ不思議な顔つきだ。彼は半グレ上がりの典型的な元ヤンキーなのだが、オラついた調子がほとんどなく、髪も青黒い。落ち着いた黒髪と対照的に銀のピアスが複数個耳に散っているのがよく目立った。
宴席で三島の向かいに座っていた吉川は、霧野に認識されていなかった。三島と逆のタイプでオラついた武闘派タイプだ。二条の諜報部にいるならば、末端とはいえただの馬鹿ではないはずだが、霧野が嫌いなタイプなのはわかる。
「どういう意味だ?『飼ってる』とか言った?ソイツは懲罰中なだけだ。言葉に気をつけろよ。」
三島は自分が失言したことに気が付き、あからさまに落ち込んだ表情をした。
「すみません……」
「どこまで聞いているか知らないが、奴はキツイ懲罰中、なめた人格を矯正して使えるようにしてやってるんだ。まあ、うまくいかなければ、殺処分かお前の言ったように飼うことになるのかもしれないが。」
三島は表情を元に戻し、なるほどと感心したような表情を作ってからまた最初の表情で霧野を見始めた。
「そうですか。」
「なんだお前は、そんな目でソイツを見て。どういう気持ちなんだ。」
強い口調で責め立てたが、彼はそのままもじもじとし始めたので、気分が悪くなってくる。
◆
昨夜、美里が飯を食べながら見ていたところ、三島は最初こそ主に竜胆などにねちねちと叱られていた。
「全然勃ってねえな、なんだ?インポのくせにこんなとこ来んじゃないよ。ガキ。席戻ってな。」
彼は薬物常習者なので、いつまでも勃起を持続でき、抜群の感度でいつまでも感じることができた。それで何人もの女を虜にしてきたのも事実、三人のこれまた美人な愛人がいる。
「ハルちゃんは、今日から、俺の四号だからな。俺のチンポの形はもう覚えたか?ん?」
「……。」
霧野はその時点で薬は打たれていなかったが、半ばぐったりし始めながら、二条の物を口に入れていた。
「遥、元気がないぞ、しっかり舐めろ。……おい、三島ちょうど今右手が空いているぞ、しごいてもらえ。」
「しかし……」
「お前が可愛がってたこともある三島だぞ。気持ちよくさせてやれよ。」
二条の手が霧野の手を掴み上げて、そのまま三島の股間のあたりに持っていった。人形のようにだらしなく力がない。二条の手が霧野の腕を離し、そのまま霧野の頬をはたき、くぐもったうめき声が漏れる。
「気持ちよくさせてやれよ。」
霧野は目線を二条の方から、三島の下半身に向け、震える指先で必死に彼のベルトを外してやろうとしていた。三島がそれを察して、ベルトを外し、自らの下半身を露出させた。
「あははは!おい三島!何だソレ!せっかくハルちゃんが握ってくれんだぞ、もっと元気出せよ~。まるで娼婦を前にした童貞だぜ。」
竜胆の笑っている前で、霧野の手がそれを握り手の中で転がし始めた。その時に三島の表情はほとんど無表情、顔面が真っ青で、身体を固まらせていた。その様子が二条と竜胆には余計に面白かったらしく、地獄が生まれていた。
それでも霧野が三島の方をほとんど見ずに、竜胆や二条によって辱められ感じさせられていたため、間近でその様子を観させられ続けることで、なにか三島の中で性的なものの種子が芽吹き始めた。そうしてじょじょに縮こまっていた彼の一物も使えるようなサイズに凶悪に形を変えていった。
美里がトイレから戻るころにはポジションが変わっており、ついに三島が霧野の喉に自身の肉棒を突き刺していた。三島の表情は、陰鬱だがどこか紅潮しており、徐々に三日月のように口角が上がっていくのが見えた。その様子を近くで二条が見ており、竜胆の物はまだ突き刺さったままだった。
「霧野さん、アンタは最低ですね……。」
「ん゛っ……んん……」
「失望しましたよ、俺は……。でも、こうなってもアンタは奇麗ですね。そこだけは、変わらない。」
彼は自身が絶望的な表情をしながら、そのような陰湿な責め言葉を霧野に投げかけていた。
その後またポジションが変わる頃には、三島は完全にできあがり、上から覆いかぶさって彼を責めはじめた。ちょうどその時タイミングよく彼の口が空きになった。
「今のアンタはみんなのゴミ箱だ。」
彼はそう言って口の中に貯めた唾を霧野の顔面に吐いた。 ほとんど感情が死んでいた霧野が嫌そうな表情を取り戻し、生き返った。頬の辺りに垂れたソレを三島の指が広げるようにして擦り付け、最後にその指を彼の口の中に押し込んでいく。
開かされていた彼の口が軽く閉じ、三島の薬指を噛んだ。
◆
「どういう気持ち、ですか?わからないです。でも、俺はもう許しました。」
三島はこちらを見ず、霧野の方を見ながら話し始めた。
「美里さんの前だから言いますけど、そもそも俺はこの人が警官だと聞いても正直どうでもよかった。別に俺が直接迷惑をこうむったわけでもないですし、それよりこの人が死んじゃうのか~とか考えているほうがきつかったです。……。これはオフレコにしてくださいね。」
「……。」
「でも、死んだほうがいいんですかね。こんなにされて。俺は何か知らないモノに目覚めそうです。」
川名は部屋の奥にいた人物に向かって声をかける。何故川名の部屋に彼以外の人物がいるのか。
「お前が基本的なことを教えてやれ。」
その男は窓の前に佇み、縁に両手をついて外を見ていた。
よく晴れており、開け放たれた窓からは山が見えた。山肌を雲の影が穏やかに流れていく。
森の匂いと甘い香水の匂いが鼻をかすめた。なにか異質なものが混ざっている。霧野の頭の中で少し警戒したほうがいいぞとアラームがなった。
「はあ、また何か拾ってきたんですか。」
淡々として低く、怠く、感情が感じられないのに、やけに一音一音がはっきりした声だった。
「そうだ、お前がお世話してやれ。」
彼は聞こえるか聞こえない程度かの大きさの舌打ちをした。川名に対してそのような態度をとれる人間は初めて見た。
「そういうことしてるから……」
彼は無気力な口調で何か言いながら、こちらを振り向いた。頭の中でさらに警戒したほうがいいぞとアラームが鳴り響いた。
色が白く、一見すると気の強い女のような顔だが、よくみれば骨格がはっきりとし、凛とした眉、そして何よりも無気力な瞳の底に怒りと殺意を隠さず煌めかせていた。それは、殺人者の顔だ。もしくは自分の魂を殺された者の顔だ。
「じゃあ、置いていくから好きにしていいぞ。最低限使えるようにしておけよ。」
川名がそう言うと彼は開きかけた口を閉じて、川名がさっさと出ていこうとするのを止めるようにこちらに速足で近づいてきた。
「なにができるんですか、こいつ。」
「こいつは割となんでもできるぞ。適当にやらせてみろ。」
「なんすかそれ、あやしいですよ。」
「そういうのがいいんじゃないか。ただの死にたがりや馬鹿ばっかり集めても仕方がない。俺は使える奴が欲しいだけだよ。」
川名はそう言って煙を払うような仕草をして部屋から出ていった。
「どうやってあの人に取り入ったか知らないが、こんなところまでのこのこついてきて、馬鹿なのか?あんな見た目してるけど、なめたことしてると痛い目に遭うぞ。」
彼は自分のすぐ近くに立って、出ていった川名の後ろ姿を見送っていた。
「黙ってないで何か言ったら?」
彼の口内からやはり、若干の煙草の匂いが漂うのが残念だが、柑橘のような良い香りが混ざっており、不思議と不快な気がしなかった。射るような目線が再び自分に向けられる。精一杯の威嚇のつもりだろうか、面白い。こういう場合は目を先に反らした方が負けだ。こちらもじっと見つめ返して口を開いた。
「敬語で話したほうがいいですか。組長からはどちらでも良いと言われてる。」
彼は一瞬虚を突かれたような顔をして、元の表情に戻った。しかし、さっき窓の方から自分を見ていた時より瞳の底のぎらつきのようなものが薄まっていた。
「わざわざご丁寧にそんなことを聞いてくるのかい。ますますあやしいぞお前。いいよ、普通にしゃべれよ。気持ち悪い。」
「じゃあ普通に話してやるよ。これでいいか。」
「……。急に偉そうだな。まあいいさ。ちょうど今から集金行こうとしてたんだ、ついてこいよ。いちいち説明しねぇから、勝手に見て学べ。なんでもできるんだろ。」
彼の方が先に目を逸らし、奥の方に鞄をとりに行った。その後ろ姿は男にしてはやけに扇情的な雰囲気を醸し出していた。会ったことのないタイプの人間だ。少なくとも自分の仲間の中にはいない。女の木崎でさえ見た目に反して精神性はむさい男のソレと変わらなかった。
スーツのサイズがちょうどいいのか歩き方がいいのか、歩く度に腰から下の筋肉がしなやかに動き、一瞬目が離せなくなる。瞼の前に手をやり頭を軽く振って無理やり目を離した。
「名前は?」
彼は鞄をもってこちらに向かってきた。だいぶ慣れたが初めて名前を聞かれるたび冷や汗をかくような気分になる。
「澤野優紀。」
「ふーん、見た目より可愛い名前してんな、ユーキちゃん。」
彼は嘲るようにそう言って手に持った鞄をぶらぶらと揺らした。腹が立つ奴だ。
「……。」
「……そんな怖い顔するなよ、澤野よ。煽り耐性がない奴はここではやっていけないぞ。俺は美里涼二だ。」
「ふーん、見た目通り可愛い名前してるな、ミサトちゃん。」
そう言うと、美里は特に怒った様子もなく、無表情でこちらを見て「なるほど、こりゃあ川名さんも気に入るわけだわ」と言ってから軽く眉をしかめた。
「でも、二度とその呼び方をするなよ、澤野。次やったらもうお前とは仕事しない。」
◆
サイドテーブルの上で携帯が震え、うとうとしていた目が覚まされる。
美里はソファに座ったまま軽く眠ってしまっていた。
「はい俺ですが……」
『どうだ調子は。』
川名の背後は、喧騒が聞こえ舎弟の誰かと外にいることが分かった。眠気眼でヘッドボードの時計を見ると朝の10時を指していた。ヘッドボードからは鎖が垂れ下がり、ベッドの布団の中に続いていた。布団が軽く上下していて、彼がまだよく寝ていることが分かった。本当は霧野を床に寝させて自分がベッドで寝る気でいた。しかし、自分がベッドに入ってしまうと本気で寝てしまい、起きられる自信がなかった。
「寝させていますが……」
『寝ている?いつからだ。』
「……二時間くらい前からです。」
『そうか。ところでお前、何してんだ?』
「は?」
『午後一で、山野組の者がくるだろ。お茶出しは?その後だって溜まってる仕事があるだろ。そこで寝ている奴が回してた仕事がな。』
「………」
お茶出しなど、誰だってできるだろと口元まで出かかるが黙っていた。確かに霧野が回していた仕事を分配された者はたまったものではなく、てんやわんやしていた。
『昼頃に交代要員を向かわせるから、自分の仕事しろよ。そいつの世話はお前が空いてる時間にしろ。好き好んでやってることだろ。』
「………クソだるいですね。」
『何か言ったか?』
「いえ、了解です。」
川名にホテルの場所と部屋番号を教えてから電話を切った。ホテルの主人に軽く圧をかけながら事情を説明し、嵩を増しに増した料金を前払いしておいた。普通のホテルで五日間くらいは泊まれる額を渡しておいた。
「……。」
眠すぎて頭が回らない。携帯で三島に電話をかけた。昨日の宴席で末端席に座っていた方の一人で、面識がある方だ。
『はい、三島です。』
電話の向こうで若干声が震えていた。自分から電話がかかってきて嫌な気持ちになるのもわかる。しかし、この状況で一番使いやすいのが彼だ。事情も知っているし、自分の言うことをよく聞く。もっといえば、澤野の言うこともよく聞いていた人間だ。彼があそこに呼ばれていた理由はひとつしかない。澤野が可愛がっていた人間の中で秘密を知っている人間であるからだ。どうせ二条あたりが呼んだと思ったらその通り、嗜虐性の塊だ。
彼はあの宴会での最初の霧野に対するしごき、前菜としての精液摂取で、八人の中で唯一挙手をしなかったという。態度に反して意志が強い人間だ。怯えていて挙手できなかったという見方もできるが、それは、ある意味川名や二条の機嫌を損ねる可能性もあった。
昨夜、三島は霧野に出してはいたが、最初はかなり嫌がっており、他の組員に脅されてほとんど無理やりやっていた。しかし、場の異様な盛り上がりや酒の力もあり、三島も三島で徐々に嗜虐性を発揮させていた。彼も一端の構成員だ。しかし、今頃、我に返って沈んでいたところだろう。
「お前暇だろ。」
『手は動かせますが。』
「今から言うもの買ってこいよ。」
三島にホテルの住所を知らせて、大量の水やスポーツ飲料、大量のタオル、軽食などを買ってくるように命じた。ホテルのサービスだけでは限界があるし、向こうだってこんな怪しい客と接触したくないだろう。
ソファを立とうとした時、タオルが体から落ち、自分がバスローブ一枚であったことを思い出した。雑に着替えて、ベッドの回りに散乱するものを片付け始めた。
急に吐き気が襲ってくる。寝不足のせいだ。結局クスリで覚醒した身体というのは、どれだけ肉体や精神が限界を迎えていたとしても、すぐさま眠れないのだ。寝ろと言ったって身体が疼くと唸って寝かせてくれない。
最後の方の記憶はこうだ。
「てめぇは、いつまでも発情して、いい加減にしないか。自分の立場も忘れ、淫乱面しやがって、その顔写真に撮って、てめぇの仲間に見せてやる。そうだ、交番の前にでも写真撒いておいてやるよ……。」
美里の脚下で蹲って踏まれていた霧野は、自分が何故こうなっているかも何もかもすべて忘れて、淫靡な誘うような表情をして、こちらをかいがいしく見上げていた。
何故なら彼は今、「霧野」でも「澤野」でもなく、「美里の犬」をやっているからだ。そういう風に命じ、刷り込みを与えて彼を軽く壊したのは自分だし、薬の力がかなり大きいのもあるが、彼にはそういった天才的状況適応能力がある。警察連中はこういった特性を見抜いていたのだろうか。だとしたら大した適材だ。警察など無能だが、中には少しは彼のことを分かっている人間がいたかもしれない。そういう人物となら少し話してみたい気もする。
足をどかしてベッドの上に乗るように指示すると素直にその通り動き、座った。
彼の手脚を拘束してベッド上に寝かせた。手枷から鎖を通してヘッドボードに固定する。万が一彼が我に返り脱出を図ろうとしても逃げないように、そして薬の禁断症状に耐え切れず、妙なことをさせないようにするためだ。
彼はそうされても誘うようなまなざしでこちらを見て、ハアハアと息をあらげた。
「その目をやめないか‥‥…」
目を隠し、口に枷を噛ませるとおとなしくなったが、疼いてたまらない身をベッドに擦るようにして動かし始め、自分の昂ぶりを隠そうともしない。
「まじサイテーだぞ、今のお前。」
何度かスマホのカメラを回しておいた。これを後から正気に戻った本人に見せてやる。
「最早俺が何言っても聞こえちゃないんだろうが。これじゃあ折檻にもなりはしねぇ。勝手に落ちてろ馬鹿が。」
玩具を固定してスイッチを入れてそのまま布団をかけ、上から座って抑えつけた。自分の尻の下で彼の身体がビクビクとはね、甘い、うめき声が聞こえはじめる。
そのまま無視してテレビをつけた。こちらまで寝てしまうと、何かあった時に対処できないし、抑え込まれてはいるが彼の心の奥は殺意で満ちている。テレビ画面には通販番組が映し出され、ウォームウェアが二枚で半額だと謳っていた。尻の下にいる馬鹿がうるさいのでどんどんテレビの音量を上げていった。
彼の覚醒した身体は、勿論常人より長くもち、結局朝までかかり、動かなくなったのが朝八時だ。
目隠しを外してみると、いつものように顔をしかめることもなく、純粋な体力の限界を迎え、すやすやと眠っていた。口に咥えさせた枷も外してやる。それは、初めて見る顔だった。
「…………。」
何を暢気にと思ったが、束の間の休息だ。
その他、彼から動いている道具を取りはらい、ベッドの周りに投げ置いた。そこで力尽きて自分もソファで寝てしまったというわけだ。
自分や霧野の精液やら体液やらがまとわりついた物を回収し、まとめて鞄に隠した。他にも散乱したゴミや付着物などを片付け、他の者が来てもいい様に片付けていく。
一通り片づけを終え服を整えてから、再びソファに座り煙草に火をつけた。上下する布団を見ながら、これからやってくる最悪の地獄について考えた。一、禁断症状、二、禁断症状を利用したキツイ洗脳、三、人としての終わり。一まではまだいい。三に進んでしまった場合自分では最早どうにもならず、本当であれば、完全に回復しきるまで信用できない他の人間を側によらせたくはなかった。
三本目の煙草が終わる頃、ホテルのドアが外から叩かれる音がした。今一度部屋を見回して、妙なものが落ちたままになっていないことを確認してから、ドアを開けた。
「お疲れ様です。」
軽く作り笑いをした三島が顔を出し、手に大きなビニール袋を二つ抱えていた。足でドアを押し開けて、身体を乗り出し荷物を受け取った。片方の袋に二リットルペットボトルが二本入っており、持ち手がちぎれそうになっている。もう片方の袋に食料品やタオルなどが詰め込まれていた。
「ごくろうさん。」
そのままドアを閉めようとすると、何か物欲しそうな顔で三島がこちらを見ていた。大体何が言いたいのかは分かったが、敢えて聞くことにした。
「なんだ?言いたいことがあるなら言ってみろ。口を開いていいぞ。」
「さ、霧野さんは?」
「いるよ。」
「いえ、そうではなく大丈夫ですか。」
一瞬、携帯の中にある無様な霧野を見せてやろうかという気分になったが、止めた。
「大丈夫だ。いや、今からが問題と言ったほうがいいな。ようやく抜け始めて寝てるよ。」
「……」
三島は納得しかねるような表情をしたままこちらを見ていた。
「なんだ?見たいのか?だったらそう言えよ。お前だったらまだマシだ。」
そう言ってドアを大きく開けてやると彼はわかりやすく明るい表情をして中に入ってきた。ドアを閉めて、三島の後ろに続いて部屋の中に戻った。
「なんか……すごい臭いですね……」
「は?」
「換気しておきますね。」
三島は黙って風呂場の換気扇などすべての換気扇を回し始めた。意味を理解して一瞬だけ身体が発火するように熱くなったが、すぐに冷静になる。仕方がないことだ。換気にまで気が回らなかったの自分が憎い。部屋中の換気扇が回り始める。
三島は戻ってくるとベッドのすぐ横に立ち、「めくっていいですか?」と聞いてくる。軽くうなずくと、彼はそれをめくりあげた。ちょうどこちらに背中を向けており、蚯蚓腫れになった鞭痕が軽く汗で濡れていた。三島はさらに身を乗り出して彼の寝顔を見ていた。
「……。いつもこんな感じで飼ってるんですか?」
「……。」
一瞬何か聞き間違いかと思ったが、確かにそう言った。クソガキのくせに何を言ってるんだ。
三島は、まだ20にもなっていない。病んだ白い顔を軽く紅潮させていた。
路地裏にいる黒猫のような顔、飢えと愛嬌両方を持つ不思議な顔つきだ。彼は半グレ上がりの典型的な元ヤンキーなのだが、オラついた調子がほとんどなく、髪も青黒い。落ち着いた黒髪と対照的に銀のピアスが複数個耳に散っているのがよく目立った。
宴席で三島の向かいに座っていた吉川は、霧野に認識されていなかった。三島と逆のタイプでオラついた武闘派タイプだ。二条の諜報部にいるならば、末端とはいえただの馬鹿ではないはずだが、霧野が嫌いなタイプなのはわかる。
「どういう意味だ?『飼ってる』とか言った?ソイツは懲罰中なだけだ。言葉に気をつけろよ。」
三島は自分が失言したことに気が付き、あからさまに落ち込んだ表情をした。
「すみません……」
「どこまで聞いているか知らないが、奴はキツイ懲罰中、なめた人格を矯正して使えるようにしてやってるんだ。まあ、うまくいかなければ、殺処分かお前の言ったように飼うことになるのかもしれないが。」
三島は表情を元に戻し、なるほどと感心したような表情を作ってからまた最初の表情で霧野を見始めた。
「そうですか。」
「なんだお前は、そんな目でソイツを見て。どういう気持ちなんだ。」
強い口調で責め立てたが、彼はそのままもじもじとし始めたので、気分が悪くなってくる。
◆
昨夜、美里が飯を食べながら見ていたところ、三島は最初こそ主に竜胆などにねちねちと叱られていた。
「全然勃ってねえな、なんだ?インポのくせにこんなとこ来んじゃないよ。ガキ。席戻ってな。」
彼は薬物常習者なので、いつまでも勃起を持続でき、抜群の感度でいつまでも感じることができた。それで何人もの女を虜にしてきたのも事実、三人のこれまた美人な愛人がいる。
「ハルちゃんは、今日から、俺の四号だからな。俺のチンポの形はもう覚えたか?ん?」
「……。」
霧野はその時点で薬は打たれていなかったが、半ばぐったりし始めながら、二条の物を口に入れていた。
「遥、元気がないぞ、しっかり舐めろ。……おい、三島ちょうど今右手が空いているぞ、しごいてもらえ。」
「しかし……」
「お前が可愛がってたこともある三島だぞ。気持ちよくさせてやれよ。」
二条の手が霧野の手を掴み上げて、そのまま三島の股間のあたりに持っていった。人形のようにだらしなく力がない。二条の手が霧野の腕を離し、そのまま霧野の頬をはたき、くぐもったうめき声が漏れる。
「気持ちよくさせてやれよ。」
霧野は目線を二条の方から、三島の下半身に向け、震える指先で必死に彼のベルトを外してやろうとしていた。三島がそれを察して、ベルトを外し、自らの下半身を露出させた。
「あははは!おい三島!何だソレ!せっかくハルちゃんが握ってくれんだぞ、もっと元気出せよ~。まるで娼婦を前にした童貞だぜ。」
竜胆の笑っている前で、霧野の手がそれを握り手の中で転がし始めた。その時に三島の表情はほとんど無表情、顔面が真っ青で、身体を固まらせていた。その様子が二条と竜胆には余計に面白かったらしく、地獄が生まれていた。
それでも霧野が三島の方をほとんど見ずに、竜胆や二条によって辱められ感じさせられていたため、間近でその様子を観させられ続けることで、なにか三島の中で性的なものの種子が芽吹き始めた。そうしてじょじょに縮こまっていた彼の一物も使えるようなサイズに凶悪に形を変えていった。
美里がトイレから戻るころにはポジションが変わっており、ついに三島が霧野の喉に自身の肉棒を突き刺していた。三島の表情は、陰鬱だがどこか紅潮しており、徐々に三日月のように口角が上がっていくのが見えた。その様子を近くで二条が見ており、竜胆の物はまだ突き刺さったままだった。
「霧野さん、アンタは最低ですね……。」
「ん゛っ……んん……」
「失望しましたよ、俺は……。でも、こうなってもアンタは奇麗ですね。そこだけは、変わらない。」
彼は自身が絶望的な表情をしながら、そのような陰湿な責め言葉を霧野に投げかけていた。
その後またポジションが変わる頃には、三島は完全にできあがり、上から覆いかぶさって彼を責めはじめた。ちょうどその時タイミングよく彼の口が空きになった。
「今のアンタはみんなのゴミ箱だ。」
彼はそう言って口の中に貯めた唾を霧野の顔面に吐いた。 ほとんど感情が死んでいた霧野が嫌そうな表情を取り戻し、生き返った。頬の辺りに垂れたソレを三島の指が広げるようにして擦り付け、最後にその指を彼の口の中に押し込んでいく。
開かされていた彼の口が軽く閉じ、三島の薬指を噛んだ。
◆
「どういう気持ち、ですか?わからないです。でも、俺はもう許しました。」
三島はこちらを見ず、霧野の方を見ながら話し始めた。
「美里さんの前だから言いますけど、そもそも俺はこの人が警官だと聞いても正直どうでもよかった。別に俺が直接迷惑をこうむったわけでもないですし、それよりこの人が死んじゃうのか~とか考えているほうがきつかったです。……。これはオフレコにしてくださいね。」
「……。」
「でも、死んだほうがいいんですかね。こんなにされて。俺は何か知らないモノに目覚めそうです。」
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