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どこまでが演技でどこまでが本当の自分だったか思い出せるか?
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川名と二条は地下室の入口に立って、地面に突っ伏したまま動かない霧野を見下げていた。
「酷い臭いですね。ケツにあんなもの突っ込んで土下座待機とは。可愛いじゃないですか。あとからいっぱい突っ込んでやるからな。」
「臭いな、一体どうすればこんなになるんだ、だらしのない奴だな。まぁいい。とりいそぎ今は金のことだ。」
「おい、遥。楽しんでるとこ悪いけど、お前に任せてた件どうなってんだ。」
「………、……、」
「駄目ですね、完全に飛んでますよコイツ。」
二条は足元にしゃがみ込み、地面に突っ伏したまま動かない霧野の髪を掴み、顔をあげさせ何発かはたいた。
「ん……」
霧野は回らない頭で、視線を泳がせた。
意識がはっきりしてくると共に身体の感覚が戻ってきて、はあはあと息があがってくる。
まだ状況を思い出せるほど意識がはっきりしておらず、目の前にいる二条の顔を呆然と眺めていた。
「一回とめてやったらどうだ?まともにしゃべれそうもない。」
「大丈夫ですよこんなもん。なあ遥、ちゃんと喋れるよな。」
口の中に親指をつっこまれ舌を出される。
「しゃべれるな?何のためについてる舌だ。二枚に割るか?」
霧野の漠とした意識の中で、ヤクザを演じていた人格と本来の警察官であった人格が混ざり合い、二条の前でかつて自分のような態度をとってしまう。
「……は、はひ。しゃべれます。」
口から指が引き抜かれ、頭を下げさせられる。
「そのままでいいからこれを見ろ。」
床の上にiPadが置かれ、わけのわからないまま画面を眺めた。暗号化された取引メモだ。
一か月ほど前に大きな麻薬取引があり、手に入れた現金を綺麗な金に洗浄する仕事が霧野に割り当てられていた。
犯罪行為でやりとりされた金をそのまま使えば足が着く。これを足がつかない金に換金して行くのが資金洗浄の仕事である。
「お前が資金洗浄途中までやってた件だよ、今どこにあんだよこの金は。しょうもない嘘はつくなよ。」
「……これは、シンガポールの8番口座に移動させました。もう、そのまま引き出して使える、金です。」
「了解。ありがと。じゃあ引き続きそのまま頑張んな。」
目の前からiPadが抜き取られると、再び頭を押さえつけられ額が床に着いた。
「意識飛ばして楽してんじゃねえぞ。お前自分が何故こんなことさせられてんのかわかってんのか?」
二条の大きな手が頭を乱雑に撫で回す。
「……」
霧野の意識は寝ぼけた状態からはっきりとした物に戻り、再び自分の状況をはっきりと自覚した。
「霧野、黙っていないで二条の質問に答えろ。」
「……………。俺を辱めるため。」
「はぁ。なるほど呆れた。何もわかっていないということがよくわかったよ。お前を辱める?その格好の一体どこが恥ずかしいというんだ。お前にはよくお似合いの姿だろ。言うべき答えがわかってるくせにわざとそんなことを言ったな。仕方ないな、軽く躾てやる。」
川名の靴音が霧野の頭の向こうから横を通って移動し、地下室の奥の方へ向かっていく。しばらく奥でモノを動かすような音がし、再び足音が戻ってくる。
ヒュンッと風を切る音がし、背中から臀にかけて今まで感じたことの無いような肉が避け弾けるような鋭い痛みが走った。
「!」
棒状の鞭、おそらく乗馬鞭のような鞭で打たれた痛みだ。
「目は覚めたか?そのまま動くなよ。下手なところにあたるともっと痛いぞ。」
打たれた箇所が熱を帯びて軽く痙攣する。
屈辱的な姿勢のまま背後から鞭打たれていると、自分が誰で何をしているのか考えたくなくなってくる。
自分が何者かということを考えれば考えるほど、絶望的な状況に心が耐えきれず、身体が興奮して頭の中が真っ白に消されていく。
頭の中の葛藤が消されると、純粋な気持ちよさが身体の中を満たす。目の前にチカチカと見えないはずの光が煌めいた。
臀部を中心に繰り返し打たれると筋肉が締まり、中に入れられた異物がより肉の良い場所をえぐり蠢くようになる。
体内の快楽の座のようなものが打たれることで揺らされて、痛いはずなのに溢れる快楽が下半身から背骨を貫通し、脳を貫くように響いた。
だらしなく口から唾液がこぼれおち、吐息とともに喉の奥から絞り出されたような高い声が漏れでた。
「あ゛っ…は…うう……」
鞭は臀だけでなく股ぐらも直撃し、萎えずに勃起し続けている陰茎や陰嚢を直接嬲った。頭の中が弾かれたような衝撃に思わず悲鳴をあげた。
「あ゛あ゛!!!」
「流石のお前でもこれは応えるだろう。」
撃たれる度に悲鳴とともに身体が浮きガクガクと震えるのを二条に上から押さえつけられ、強い衝撃を直に機械的に股間に与え続けられた。自分のものと思えないくぐもった悲鳴が出続ける。
痛めつけられたその次にやってくる快楽を身体が覚えていて、期待する。
「すごい力だな遥、動くと危ないんだからじっとしてろよ。金玉潰されてもいいのか。」
最悪なことに、どれほど性器をいたぶられても自分の性的衝動がおさまらない。
何度もいたぶられているうちに感覚が鈍り、脳が痛みや恐怖を刺激と捉え、勃起が止まらないどころか、熱くなりだらだらと汁がこぼれた。
今まで感じたことの無いような熱が下半身に溜まっていく。
衝撃で全身の筋肉がきゅんきゅんと締まり、身体が脈打ち股間の熱と脈拍がどんどん高まった。
鞭が身体の上を跳ねる度に我慢しようとしても声が漏れ出てしまう。
「お゛っ……!へっ!、うぅ…、」
「鞭入れられて、気持ちがいいのはまだわかるが、こんなにされても勃起が止まらねぇじゃねぇか。天性のマゾホモ野郎だな。よく今までこんな変態性癖隠して平気な面して暮らしてやがったな。」
「ちっ…、ちが、う……これは…」
「何が違うんだよ。いい声出てるじゃねぇか。さっきから身体が熱く、悦びにうち震えているぞ。」
心拍数が跳ね上がり、意識ははっきりと覚醒しているのに、痛みと快楽のこと以外何も考えられなくなってくる。
鞭打ちの手が弱められると、鞭の先端が打たれて蚯蚓脹れになっているであろう傷痕ををなぞりあげ、全身にゾクゾクと鳥肌がたった。荒れた呼吸が止まらず視界の先で指先の震えが止まらない。
「わかっていないようだから教えてやるが、お前は今俺と二条に自らの裏切り行為を直接謝罪するチャンスを自ら棒にふったんだよ。そうだな、後でまた来てやるからそれまでに俺が満足する回答を作っておけ。お前の得意分野だろ。また同じようになめた回答をしたらこの程度じゃ済まさんぞ。」
最後に一発臀に鞭が入るとそのまま軽くイッてしまい、床を汚していた。
身体の中が絶望的な気分で満たされていく。
◆
呼吸と身体の調子を整えるまでに随分時間をかけた気がする。
気が付くと、川名も二条もおらず、身体の中を穿ち凌辱し続ける機械的な音と自分の喉から発せられる暑い日に散歩させられた犬のような呼吸音だけが響いていた。このまま性的な気分に浸っているとまた落ちてしまう。
下半身に加えられ続ける刺激にはもう慣れ、意識さえしなければ問題ない。なるべく性的なことから離れたことを考えようとすると、木崎や上司、こうなる前のことが頭の中に浮かんできてしまい、非常に惨めな気分になるが、機械で辱められ続けて惨めな気分になるよりまだマシだ。
背中から下半身、局部にかけて、じくじくと痛みが続き、自身の心音に合わせて、身体を蝕み苛んだ。ありがたい痛みだ。
擦れた痕から微かに血が出ているのか、もしくは汗なのか背中の表面を熱い液体が伝り落ちる感覚がくすぐったい。
もっと意識をはっきりさせる必要がある。
頭を軽く浮かせ、そのまま床に二度三度とたたきつけた。
額の端が切れ、鉄くさい臭いが鼻先に充満した。眉、瞳、頬を伝って口元に流れてくる血を舌で舐めとった。
生臭い鉄の香りが口の中を満たし乾いた喉を潤わせた。呼吸をするたびに鼻腔と喉の奥から湧き出るような血の匂いがする。そうして血の匂いを感じ続けた。
扉がきしむ音がし、一人分の足音が部屋の中に入ってきた。自分の呼吸が荒くなるのが分かった。
「何か言いたいことがあるだろう。言ってみろ。」
上から川名の淡々とした声が降ってきた。
「……はい」
血の味のする唾を飲み込み、目を閉じた。
それでもまたま息が上がり、惨めな状況と身体を蝕む軽い刺激に言葉をつっかえながら、次のように言った。
「私は自分の身分を偽り、諜報活動を行った上、警察組織に秘匿情報を横流ししていました。完全な裏切り行為、言い逃れできることはなにもありません。申し訳ございませんでした。」
言葉を一言紡ぐ度に体の奥の方をナイフで刺されているような気分になる。自分に対する完全な裏切り行為。もしもう1人の自分がこの場にいて、この状況を見たら怒り狂うだろう。
「貴様のせいで逮捕された構成員や駄目になった取引の額を今計算させている。一億二億の話じゃないな。どう責任とる気なんだ?」
「私の命でよければ、喜んで差し上げます。」
「お前の薄汚れた命などそんな価値はないが、そこまで言うならその命を使ってやる。顔を上げろ。」
霧野が頭を上げ体を起こすと、川名は最初冷めた目をしてこちらを見降ろしていたが、徐々に目を細めて微かに笑い、霧野の前にしゃがみこんだ。
「ああ……、お前が心の底ではそんなことを一ミリも思っていないことがよく分かったよ。だが、お前が言葉の上だけでも上手に謝罪できたことは認めてやろう。鞭は無しにしてやる。言葉というのは面白いからな。思っていないことでも何度も繰り返していると骨の髄まで染み込んで消えなくなるんだよ。そうすると体の中に矛盾する思考が同時に存在するようになり、どちらも本物になる。……心当たりがあるだろう。お前、どこまでが演技でどこまでが本当の自分だったか思い出せるか?」
「……」
「俺としゃべりたくないようだな。じゃあここからは俺の独り言だ。ちょうど半年前、少し大きな取引があって俺はそれを若いが将来の期待できる構成員二人に任せることにした。片方がちょっとしたへまをしでかし、すぐ近くで張っていた警官にパクられかける。そこにもう一人がやってきて、警官の方をどこかにひっぱっていってそのまま警官は戻ってこなかった。結局取引自体は流れてしまったが、逮捕者はひとりもでなかった。」
「……」
「得意の、泳がせていただけか?それにしては随分大胆な行動だ。俺がお前を特に怪しいと思ったきっかけがこの件だからな。今のお前の言葉は真実と嘘が入り混じった状態だ。それはとても苦しいことだろう。早く俺に屈服して楽になったらどうだ?」
川名がそう言って立ち上がったのと同じくらいのタイミングで、肩に黒いショルダーバックをかけた美里が扉を開けた。半開きの扉から半身だけだした状態で川名の姿を見つけると、脚をとめる。
「……。出直しましょうか。」
「大丈夫だ。入っていい。」
美里は中に入ってくると肩にかけていたショルダーバックを霧野の目の前に投げ置いた。
それから顔の半分を血に濡らした顔をした霧野の姿を見、心の奥が毛羽立つような恐怖と高揚感の入り混じった感情を抱いた。
霧野は自身が計画した行為ならどんな残忍な行為でも躊躇わず実行した。
美里はやむ終えず暴力行使が必要な場合、腹部や首などを柔らかな局所を狙ったが、霧野は人の頭や顔を的確に狙うか敢えて殴り合いをするような野蛮な戦闘方法を好んでおり、よく自分の顔面も血濡れにしていた。
川名は煙草に火をつけくわえてから、霧野の顔を撫でるようにして触り親指で血をぬぐった。
「お前、あんまり飯食えてないんだって?食わせてやるから早く着替えな。そんなつまらんことで死なせてやる気はないからな。死にたければ俺か下の奴に頼むか、俺の下からできるだけ遠くに必死になって逃げてみろ。逃げ延びた距離に応じて、処遇を考えてやる。」
「酷い臭いですね。ケツにあんなもの突っ込んで土下座待機とは。可愛いじゃないですか。あとからいっぱい突っ込んでやるからな。」
「臭いな、一体どうすればこんなになるんだ、だらしのない奴だな。まぁいい。とりいそぎ今は金のことだ。」
「おい、遥。楽しんでるとこ悪いけど、お前に任せてた件どうなってんだ。」
「………、……、」
「駄目ですね、完全に飛んでますよコイツ。」
二条は足元にしゃがみ込み、地面に突っ伏したまま動かない霧野の髪を掴み、顔をあげさせ何発かはたいた。
「ん……」
霧野は回らない頭で、視線を泳がせた。
意識がはっきりしてくると共に身体の感覚が戻ってきて、はあはあと息があがってくる。
まだ状況を思い出せるほど意識がはっきりしておらず、目の前にいる二条の顔を呆然と眺めていた。
「一回とめてやったらどうだ?まともにしゃべれそうもない。」
「大丈夫ですよこんなもん。なあ遥、ちゃんと喋れるよな。」
口の中に親指をつっこまれ舌を出される。
「しゃべれるな?何のためについてる舌だ。二枚に割るか?」
霧野の漠とした意識の中で、ヤクザを演じていた人格と本来の警察官であった人格が混ざり合い、二条の前でかつて自分のような態度をとってしまう。
「……は、はひ。しゃべれます。」
口から指が引き抜かれ、頭を下げさせられる。
「そのままでいいからこれを見ろ。」
床の上にiPadが置かれ、わけのわからないまま画面を眺めた。暗号化された取引メモだ。
一か月ほど前に大きな麻薬取引があり、手に入れた現金を綺麗な金に洗浄する仕事が霧野に割り当てられていた。
犯罪行為でやりとりされた金をそのまま使えば足が着く。これを足がつかない金に換金して行くのが資金洗浄の仕事である。
「お前が資金洗浄途中までやってた件だよ、今どこにあんだよこの金は。しょうもない嘘はつくなよ。」
「……これは、シンガポールの8番口座に移動させました。もう、そのまま引き出して使える、金です。」
「了解。ありがと。じゃあ引き続きそのまま頑張んな。」
目の前からiPadが抜き取られると、再び頭を押さえつけられ額が床に着いた。
「意識飛ばして楽してんじゃねえぞ。お前自分が何故こんなことさせられてんのかわかってんのか?」
二条の大きな手が頭を乱雑に撫で回す。
「……」
霧野の意識は寝ぼけた状態からはっきりとした物に戻り、再び自分の状況をはっきりと自覚した。
「霧野、黙っていないで二条の質問に答えろ。」
「……………。俺を辱めるため。」
「はぁ。なるほど呆れた。何もわかっていないということがよくわかったよ。お前を辱める?その格好の一体どこが恥ずかしいというんだ。お前にはよくお似合いの姿だろ。言うべき答えがわかってるくせにわざとそんなことを言ったな。仕方ないな、軽く躾てやる。」
川名の靴音が霧野の頭の向こうから横を通って移動し、地下室の奥の方へ向かっていく。しばらく奥でモノを動かすような音がし、再び足音が戻ってくる。
ヒュンッと風を切る音がし、背中から臀にかけて今まで感じたことの無いような肉が避け弾けるような鋭い痛みが走った。
「!」
棒状の鞭、おそらく乗馬鞭のような鞭で打たれた痛みだ。
「目は覚めたか?そのまま動くなよ。下手なところにあたるともっと痛いぞ。」
打たれた箇所が熱を帯びて軽く痙攣する。
屈辱的な姿勢のまま背後から鞭打たれていると、自分が誰で何をしているのか考えたくなくなってくる。
自分が何者かということを考えれば考えるほど、絶望的な状況に心が耐えきれず、身体が興奮して頭の中が真っ白に消されていく。
頭の中の葛藤が消されると、純粋な気持ちよさが身体の中を満たす。目の前にチカチカと見えないはずの光が煌めいた。
臀部を中心に繰り返し打たれると筋肉が締まり、中に入れられた異物がより肉の良い場所をえぐり蠢くようになる。
体内の快楽の座のようなものが打たれることで揺らされて、痛いはずなのに溢れる快楽が下半身から背骨を貫通し、脳を貫くように響いた。
だらしなく口から唾液がこぼれおち、吐息とともに喉の奥から絞り出されたような高い声が漏れでた。
「あ゛っ…は…うう……」
鞭は臀だけでなく股ぐらも直撃し、萎えずに勃起し続けている陰茎や陰嚢を直接嬲った。頭の中が弾かれたような衝撃に思わず悲鳴をあげた。
「あ゛あ゛!!!」
「流石のお前でもこれは応えるだろう。」
撃たれる度に悲鳴とともに身体が浮きガクガクと震えるのを二条に上から押さえつけられ、強い衝撃を直に機械的に股間に与え続けられた。自分のものと思えないくぐもった悲鳴が出続ける。
痛めつけられたその次にやってくる快楽を身体が覚えていて、期待する。
「すごい力だな遥、動くと危ないんだからじっとしてろよ。金玉潰されてもいいのか。」
最悪なことに、どれほど性器をいたぶられても自分の性的衝動がおさまらない。
何度もいたぶられているうちに感覚が鈍り、脳が痛みや恐怖を刺激と捉え、勃起が止まらないどころか、熱くなりだらだらと汁がこぼれた。
今まで感じたことの無いような熱が下半身に溜まっていく。
衝撃で全身の筋肉がきゅんきゅんと締まり、身体が脈打ち股間の熱と脈拍がどんどん高まった。
鞭が身体の上を跳ねる度に我慢しようとしても声が漏れ出てしまう。
「お゛っ……!へっ!、うぅ…、」
「鞭入れられて、気持ちがいいのはまだわかるが、こんなにされても勃起が止まらねぇじゃねぇか。天性のマゾホモ野郎だな。よく今までこんな変態性癖隠して平気な面して暮らしてやがったな。」
「ちっ…、ちが、う……これは…」
「何が違うんだよ。いい声出てるじゃねぇか。さっきから身体が熱く、悦びにうち震えているぞ。」
心拍数が跳ね上がり、意識ははっきりと覚醒しているのに、痛みと快楽のこと以外何も考えられなくなってくる。
鞭打ちの手が弱められると、鞭の先端が打たれて蚯蚓脹れになっているであろう傷痕ををなぞりあげ、全身にゾクゾクと鳥肌がたった。荒れた呼吸が止まらず視界の先で指先の震えが止まらない。
「わかっていないようだから教えてやるが、お前は今俺と二条に自らの裏切り行為を直接謝罪するチャンスを自ら棒にふったんだよ。そうだな、後でまた来てやるからそれまでに俺が満足する回答を作っておけ。お前の得意分野だろ。また同じようになめた回答をしたらこの程度じゃ済まさんぞ。」
最後に一発臀に鞭が入るとそのまま軽くイッてしまい、床を汚していた。
身体の中が絶望的な気分で満たされていく。
◆
呼吸と身体の調子を整えるまでに随分時間をかけた気がする。
気が付くと、川名も二条もおらず、身体の中を穿ち凌辱し続ける機械的な音と自分の喉から発せられる暑い日に散歩させられた犬のような呼吸音だけが響いていた。このまま性的な気分に浸っているとまた落ちてしまう。
下半身に加えられ続ける刺激にはもう慣れ、意識さえしなければ問題ない。なるべく性的なことから離れたことを考えようとすると、木崎や上司、こうなる前のことが頭の中に浮かんできてしまい、非常に惨めな気分になるが、機械で辱められ続けて惨めな気分になるよりまだマシだ。
背中から下半身、局部にかけて、じくじくと痛みが続き、自身の心音に合わせて、身体を蝕み苛んだ。ありがたい痛みだ。
擦れた痕から微かに血が出ているのか、もしくは汗なのか背中の表面を熱い液体が伝り落ちる感覚がくすぐったい。
もっと意識をはっきりさせる必要がある。
頭を軽く浮かせ、そのまま床に二度三度とたたきつけた。
額の端が切れ、鉄くさい臭いが鼻先に充満した。眉、瞳、頬を伝って口元に流れてくる血を舌で舐めとった。
生臭い鉄の香りが口の中を満たし乾いた喉を潤わせた。呼吸をするたびに鼻腔と喉の奥から湧き出るような血の匂いがする。そうして血の匂いを感じ続けた。
扉がきしむ音がし、一人分の足音が部屋の中に入ってきた。自分の呼吸が荒くなるのが分かった。
「何か言いたいことがあるだろう。言ってみろ。」
上から川名の淡々とした声が降ってきた。
「……はい」
血の味のする唾を飲み込み、目を閉じた。
それでもまたま息が上がり、惨めな状況と身体を蝕む軽い刺激に言葉をつっかえながら、次のように言った。
「私は自分の身分を偽り、諜報活動を行った上、警察組織に秘匿情報を横流ししていました。完全な裏切り行為、言い逃れできることはなにもありません。申し訳ございませんでした。」
言葉を一言紡ぐ度に体の奥の方をナイフで刺されているような気分になる。自分に対する完全な裏切り行為。もしもう1人の自分がこの場にいて、この状況を見たら怒り狂うだろう。
「貴様のせいで逮捕された構成員や駄目になった取引の額を今計算させている。一億二億の話じゃないな。どう責任とる気なんだ?」
「私の命でよければ、喜んで差し上げます。」
「お前の薄汚れた命などそんな価値はないが、そこまで言うならその命を使ってやる。顔を上げろ。」
霧野が頭を上げ体を起こすと、川名は最初冷めた目をしてこちらを見降ろしていたが、徐々に目を細めて微かに笑い、霧野の前にしゃがみこんだ。
「ああ……、お前が心の底ではそんなことを一ミリも思っていないことがよく分かったよ。だが、お前が言葉の上だけでも上手に謝罪できたことは認めてやろう。鞭は無しにしてやる。言葉というのは面白いからな。思っていないことでも何度も繰り返していると骨の髄まで染み込んで消えなくなるんだよ。そうすると体の中に矛盾する思考が同時に存在するようになり、どちらも本物になる。……心当たりがあるだろう。お前、どこまでが演技でどこまでが本当の自分だったか思い出せるか?」
「……」
「俺としゃべりたくないようだな。じゃあここからは俺の独り言だ。ちょうど半年前、少し大きな取引があって俺はそれを若いが将来の期待できる構成員二人に任せることにした。片方がちょっとしたへまをしでかし、すぐ近くで張っていた警官にパクられかける。そこにもう一人がやってきて、警官の方をどこかにひっぱっていってそのまま警官は戻ってこなかった。結局取引自体は流れてしまったが、逮捕者はひとりもでなかった。」
「……」
「得意の、泳がせていただけか?それにしては随分大胆な行動だ。俺がお前を特に怪しいと思ったきっかけがこの件だからな。今のお前の言葉は真実と嘘が入り混じった状態だ。それはとても苦しいことだろう。早く俺に屈服して楽になったらどうだ?」
川名がそう言って立ち上がったのと同じくらいのタイミングで、肩に黒いショルダーバックをかけた美里が扉を開けた。半開きの扉から半身だけだした状態で川名の姿を見つけると、脚をとめる。
「……。出直しましょうか。」
「大丈夫だ。入っていい。」
美里は中に入ってくると肩にかけていたショルダーバックを霧野の目の前に投げ置いた。
それから顔の半分を血に濡らした顔をした霧野の姿を見、心の奥が毛羽立つような恐怖と高揚感の入り混じった感情を抱いた。
霧野は自身が計画した行為ならどんな残忍な行為でも躊躇わず実行した。
美里はやむ終えず暴力行使が必要な場合、腹部や首などを柔らかな局所を狙ったが、霧野は人の頭や顔を的確に狙うか敢えて殴り合いをするような野蛮な戦闘方法を好んでおり、よく自分の顔面も血濡れにしていた。
川名は煙草に火をつけくわえてから、霧野の顔を撫でるようにして触り親指で血をぬぐった。
「お前、あんまり飯食えてないんだって?食わせてやるから早く着替えな。そんなつまらんことで死なせてやる気はないからな。死にたければ俺か下の奴に頼むか、俺の下からできるだけ遠くに必死になって逃げてみろ。逃げ延びた距離に応じて、処遇を考えてやる。」
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