堕ちる犬

四ノ瀬 了

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罵られてさらにでかくしやがって、本当に最低な野郎だな。

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二条の家に鍵を返しに行く必要があり、間宮はクロスバイクに跨った。

絶対にコピーを作るなと言われて作らないわけはなく、石膏粘土に鍵を押し付け鍵の型をとっておいた。これで時間帯さえ把握すればいつでも地下に入ることができる。二条と川名の大体のスケジュールは把握しやすいが、美里だけはよくわからず、彼に見つかった場合が一番問題という気がした。

組の中でクロスバイクを使っているのは間宮のみで美里でさえ厳つい自分の車を持っていた。威圧的な車を乗り回す必要があるような仕事は間宮にはほとんど回ってこず、単独での調査、殺しが主な仕事である彼にはその方が活動しやすかった。

スピードをあげながらクロスバイクを走らせることは嫌いではなかった。嫌な記憶を一瞬でも忘れることができる。
散々犯しておいたとはいえ、先ほどの霧野の言葉が頭の中を反復しそうになると、一層脚の筋肉に力を込めた。

高層マンションのエレベーターに乗りこむと、ちょうど母親と小さな子供がエントランスに入ってくる。一瞬迷ってから「開」ボタンを押したままにすると、彼女らは会釈をしながら乗り込んできたが、子供が不快感をあらわにした顔で間宮を見上げてくる。母親のほうが子どもの頭をよそに向けるようにして苦笑いで会釈をした。そんなことは初めてだった。

インターホンを押すと、しばらく間をおいて鍵が開く音が聞こえ、その向こうに知らない男が立っていた。長身でスーツを着込みサラリーマン風の見た目だが、着こなしには異常な高級感と清潔感のある男であった。

「あの……二条さんは?」
「ああ、僕はちょうど帰るところだったから。あがりなよ。」

男は名乗ることもせず、間宮の横をすりぬけるようにして男は足早にでていってしまう。間宮は怪訝な表情でしばらくその後姿を見ていたが、そのままマンションにあがりこんだ。3LDKのデザイナーズマンションで二条の住む階にはその広さから2つしか部屋がなかった。

玄関から足を三歩ほど踏み入れたところで、二条が玄関の方にゆっくりした歩調で歩いてきた。
間宮はポケットからカギを取り出し、二条のほうに差し出した。

「二条さん、鍵」
「誰が勝手に入っていいと言ったんだ。」
「え?、今出ていった人が」
「葉山のことか?アレはうちの顧問弁護士だ。ところでお前は見ず知らずの人間に何か言われたら何であれすぐに言うことを聞くのか?もしアイツが悪意のある人間だったらどうするんだ?」
「……すみません。」
二条は鍵をひったくるようにして取り返してから距離をとるように3歩ほどあとずさり、目を細めて間宮を眺めた。

「お前血の匂いがするぜ。生理か?」
「いえ、ちがいます。」
「……。ちがいますじゃないんだよ。お前は馬鹿か?話が通じない野郎だな。そんなことわかってる。なんでそんなことになってるのか理由を聞いてんだよ。」
「霧野さんの皮膚の一部を切ったからですね。あ、殺してはないです。」
「は~、そう。どうせあいつに挑発されて頭に血が上ったんだろ。図星か?」
「……」
「わかりやすい奴だな。どうしてお前はそうなんだ?あんなもの適当に吠えさせておけばいいだろ。それくらいの時期が一番かわいいんだ。そんなことより問題なのはそんな臭ぇ身体でここに来たことだな。なんだその酷い臭いは。血と汗とお前らが仲良く出したゴミ汚物の臭いまみれだぞ。そんなナリの人間が俺の家に出入りしてるとなった時のことを考えろよ。本当にいつまでたっても頭のまわらない奴だな。」
「……二時間でかえしにこいと」
「ははぁ、お前はいつから俺に口答えできるようになったんだ?自分より立場が上だった霧野に一発キめたせいで自分も偉くなったとでも勘違いしたのか?お前の立場を分からせてやるからまずはその穢れた身体を洗ってこい。臭いがうつるから俺の半径5メートル以内に入るなよ。」



間宮はシャワーを浴びている間に、二条が入ってくることを期待したがそのようなことはなく、身体を拭いてショルダーバックの中に入れていた予備の服に着替えリビングに戻った。

ローテーブルの上に小さな段ボール箱と工具が用意されており、二条はローテーブルの近くのソファに腰掛けて説明書のような物を読んでいた。彼は間宮に気が付くと手元の冊子から一瞬だけ目を上げ、テーブルの前の床に座るように、手だけで指示した。

間宮がテーブルの前に胡坐をかいて座ると二条は自分の持っていた冊子をローテーブルの上に投げた。
『無駄吠え防止首輪 取扱説明書』

「間宮、お前今からそれを改造して電圧を上げてみろ。」
上から二条の冷めた声が降ってきた。シャワーを浴びたばかりだというのに背中にだらだらと汗が伝い始める。
「……」
「どうした?早く手を動かせ。できないのか?」
「いえ、できます。」

汗ばんだ手で工具箱を開き、段ボールの中から緩衝材に梱包された首輪を取り出した。
犬の調教に使う首輪で、昨今では動物愛護団体により規制されはじめている代物だ。犬が無駄吠えすると犬の体格に合わせて微弱な電流が流れ、犬が自ら口を閉ざすように矯正する。

何重にも包まれた紙をはがし、黒く無機質なデザインの首輪を点検する。電気が放出される機械部分をドライバーで開く。説明書に目を通しながら、ニッパーと銅線を使い増幅回路を改造する。

電圧は三段階にわかれており、一番刺激が弱いものが小型犬、中くらいが中型犬、強いものが大型犬用である。すべての出力について1.5倍程度の出力が出るように改造した。スライド式のスイッチで3段階を切り替えることができる。
「1.5倍程度にあげました。」
顔を上げて二条の方を見ると、彼は文庫本を読んでおりそれからゆっくりと目をあげた。
「じゃあ、それを自分の首に嵌めろ。」
「……」
嫌な予感が的中し、ためらっていると二条がさっきとは打って変わった優しい声で言った。
「できないなら俺がつけてやろうか。」

二条が立ち上がり、ゆっくりとした歩調でこちらに近づいてきた。
間宮は急いで目の前にある首輪を手に取り、電源が入った状態で自身の首にはめ込んだ。声を出してはいけないと思えば思うほど自分の呼吸が荒くなる。首輪に搭載されたセンサーがちかちかと点滅している。

「モードが1になっているが、1は小型犬用じゃなかったか?3にしろよ。」
震える指先で自分の首元を探った、突起を見つけカチカチとスイッチを上にあげる。

「吠えてみろ。」

声を出そうとするが、恐怖が先行して声が出せない。
口を開けたり閉じたりしながら二条を見上げていると、彼の脚が間宮の下半身を上から軽く踏みつけた。
胡坐をかいて座っている状態から動くことができず、自身の下半身に徐々に体重をかけられていく様子を呆然と眺めていた。喉の奥から小さく声が出る。

「もっと大きな声を出せ。反応しないじゃないか。」

思い切り股間を踏みつけられ、反射的に声を上げると、バチンッという小さな音と共に首元に鋭い痛みを感じ身体がビクンと震えた。下半身は踏みつけられたままぐりぐりと踏みしだかれており、喉奥から自分のか細い声が漏れ出るたびに連続して電流がチクチクと首元を刺し続けた。一回目の衝撃に比べればまだ耐えられるレベルだ。
「間宮、大丈夫か?」
脚はどかされることなくぐりぐりと動かされ続けており、涙目で上を見上げると全く興味のなさそうな目がこちらを見下していた。
「だいじょうぶです」
と微弱な電流を浴びながら返すと、脚がどかされた。下半身が軽く反応し、勃起しかかっていた。
「そうか、大丈夫か。じゃあさらに電圧をあげてもう一度だ。」
「…………。わかりました。」

二条がソファに戻っていくのを眺めながら、汗ばんだ手で首輪を外した。
首元に触れると機械に接触していた部分が軽く熱を持っている。再び首輪の機械部分を開き、中をいじった。

いじっている最中恐怖に耐えられず涙がとまらなくなる。ニッパーを持つ手を先ほどより伸ばし、自分から離れた位置で改造を続けた。機械が涙に濡れて壊れてしまったらそれこそ何をされるかわからない。

「二条さん、できました。2倍です!」
気分を紛らわすために極めて明るい口調でそう言いながら、二条の方を見ると彼は文庫本から目を上げることもせず
「お前がこっちにこいよ」
と言った。笑顔がひきつる。再び首輪を自分で嵌めて二条の足元に正座して座った。
「何黙ってるんだ、お前が黙ってたら意味がないだろ。」
「……」
初めて二条が本から目を上げてこちらを見下げた。
「聞こえなかったのか?」

息が喉をつっかえて、やはり声を上げることができない。一回目の痛みより確実に大きな痛みが来ることが分かっているため、本能が声を上げることを拒否する。

「お前は相変わらずしょうがねぇやつだな。」
二条はソファに座ったまま、すぐ下に座り込んでいる間宮の下半身に足を置いた。
再び下半身を二条の脚が這い、ゆっくりとこすり上げるようにしていたかと思うと重圧が加えられる。快楽と痛みが股間から全身に波及し、恐怖と被支配感に呼吸がはやくなる。一層強く下半身に体重をかけられ、喉が震えた。

パチという間抜けな音に反比例して、喉元を針が貫通したような衝撃が走った。

それは背中にボディピアスを開けたときの痛みによく似ていた。息が犬のようにあがり、だらだらとよだれが出た。
それでも下半身は痛みと恐怖の快楽に一回目よりさらに勃起を続けていた。
「大丈夫か?」
間宮が勢いよく首を横に振ると、股間を上から思い切り踏みつけられ喉元から嗚咽するような声が漏れ出、針を3本一気に刺されたような衝撃が首元に刺さった。一瞬息ができなくなり、それからかすれたような息が喉を通過した。

「外していいぞ。最後に3倍にしてみろ。どうなるか見てみたい。それが終わったら2倍に戻しておけ。」

首輪を外し懇願するように、二条を見上げると彼は間宮に笑いかけた。
「なんだ?何か言いたいことがあるなら言っていいぞ。」
「……構造上、これ以上あがりません」
自分の知らない声が喉元から出ていた。
「なぜそんな誰にでもわかるようなつまらない嘘をつくんだ。嘘をつくならもっとましな嘘をつけ。」
「……、嫌です、もう、し、死んでしまう」
「そんなもんで死ぬわけねぇだろ。はやくやれよ。」

震える手で改造を終え、首輪を嵌めた状態で二条の足元に正座して座った。
既に身体が震えており、その振動でセンサーが反応するのではないかと思うとそれだけで気が遠くなった。

「なんだお前そんなに息を荒げて。その調子でずっとやってれば反応するんじゃないか?ソレ。」
「……」
視線の先に二条の下半身が衣服の下で著しく勃起しているのが見えた。
「もっと足を開け。ズボンの前をあけて下着を下ろして薄汚い下半身を見せてみろ。」
二条の脚が膝の上に乗せられ、言われた通りにパンツと下着を少しずつおろし、足を開いた。

「お前のクソの役にも立たない巨根がこんなに縮み上がってるのは久しぶりに見たな。」

強い衝撃が下半身にくわえられ、思わず声をあげそうになるが、口の中によだれが溜まるだけで、声が出せない。
だらだらと汗が首筋を伝い、視線を下げると足先でペニスが踏まれ擦られている。
ペニスだけが心理状態に反比例するように元気を取り戻そうとし、発狂しそうであった。

「こうしてやるとどんな状況でもお前の下半身は惨めに反応するんだな。ほら、すぐにでかくなってきたぞ。」
「……」
「はは、頑張るなぁ間宮。そんなに痛いのが嫌か?お前は昔から口ではそんなことを言っているな。だがさっきから電流が走るたびにお前の馬鹿ペニスは入れる穴もねぇのに萎えるでもなくさらに勃起してはりきってたぞ。この変態が。……なんだ罵られてさらにでかくしやがって、本当に最低な野郎だな。反吐が出る。お前のような底辺サイコドマゾがよくも遥を使おうなんて気になれたな?あ?調子に乗るんじゃねぇぞ。身体能力も下、見た目も下、知能も下、ユーモアも下、痛めつけられて勃起する雑魚マゾちんぽのデカさ以外一体何が勝てるんだ?言ってみろ。屑が。」

屈辱と恐怖の感覚に身体が一層震える。二条の脚から目を離すことができない。
下半身に強い刺激が加えられ続け、荒げていた息がざらつき、声が混じってくる。

間宮の首元に焼けるような痛みが走り、二条の脚に縋りつくようにしてしがみつくと同時に射精してしまう。ドロドロした液体が彼の脚を穢し、つづけてびしゃびしゃと尿が漏れ出た。身体の震えに首輪をはずこともできず、犬のように喘ぎながらその場にうずくまる。

「あーあー、しょうがないなあ。この服もマットも高かったんだぞ。クリーニング代はお前の給料から天引きしておくからな。」

二条は片手で自身のペニスをしごき間宮の頭の上から精液をかけ、熱を持った首輪を外してやった。足元でよだれを吐きながら震えている間宮の身体を起こすと、テーブルの前に引きずり戻した。

「後始末をして電圧を2倍に戻したらさっさと消えろ。俺はもう寝る。」
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