堕ちる犬

四ノ瀬 了

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痛みを快楽で順応させるんだぜ。

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川名はテーブルの上に指を組んで手を置き、向かいのソファに座る二条を見据えている。二条は眼鏡越しに手元の資料を眺め、川名を上目がちに見た。川名はどうぞ続けて?というように片眉をあげた。

「澤野優希、本名霧野遥は、警察のデータベースからは巧妙にデータが消されていますが、警察学校時代の記録が残っていました。東応大学の政経学部卒で卒業と同時に入学しています。」

「はぁ、高卒だとのたまわっていたくせにお前の後輩じゃないか。」

「そうなります。組長もご存知の川鍋も私の同期で、彼は警視庁で警視正、エリートコースを邁進してます。霧野は知能的には優秀ですが、私と同じで家柄が悪い。権威の巣窟に入るなんて馬鹿なことをしたものだ。」

川名は喉の奥の方でくくくと笑って、組んでいた指を解いた。

「今はコピー済みの携帯データと自宅にあったPCを業者に解析させてる最中です。速報レベルの中身はこちらになります。古いものは入念に削除されていましたが直近の記録はまだ残っていました。」

二条は持っていた資料をめくり、ひとつのページを開いた状態でテーブルに置いた。そこには霧野が警察の人間や木崎ととっていた会話内容の一部が印刷されていた。
川名は報告書を手に取り、目を通した。報告書に隠れてよく見えないが目を細めて笑っているようだ。
それから別のページもめくりながら川名は続けた。

「あいつ……俺の愛人との通話記録まで抜いてるじゃないか。引き続き調査を頼む。時間が空いているならお前も様子を見にいくといい。なかなか気分がスッとするぞ。」

「はい、明日にでも。それでは失礼します。」

二条は川名の部屋を後にした。
二条は若くして実質組のNO.2にまで上り詰めている。それも川名が年功よりも実力を重視し、少数精鋭を謳っているからであった。

国内最高峰の大学を出、法律、経済、商業法についての知識や抜け道のやり方について彼ほど精通しているのは組の中はおろか、元締の組にさえ存在しないと言える。
知識だけでなく優れたリーダーシップと体躯を兼ね備えており、その見た目は川名より反社会的勢力らしくあった。

今回の霧野の身バレについても、彼が大いに貢献している。本来ならば自分も霧野を拘束する場面に居合わせたかったところだが、川名からお前が来ると勘づかれる可能性があるから同行するなと言われ別の仕事を遂行していた。

霧野は最初からどこかあやしいところがあった。
二条は入ったばかりの人間に混みいった話をするのはほとんどやめていた。話が通じないことがわかっていたからだ。時に年次が上の人間の方が話を聞かず、融通の聞かない点もあったが、その点川名とその周辺の人間には比較的話が通じた。

最初、霧野が入ったてきた時、その外見から美里と同じコースで上がってきたのではないかと思っていた。しかし、しばらく付き合っていると、話し方、頭のキレ方、感情の抑え方からそうではないと気がついた。どこかの良い家の勘当された次男が三男ではないかと思われ、その場合は厄介なのですぐに組みを抜けさせる必要があった。

組に入る際、基本的な身辺調査が実施される。調査の結果、彼の出自は豊かなものとは言えず、少し遠い親類には生活保護受給者や犯罪者、精神障害者もいることがわかった。高校卒業後の記録は表面上は残っていない。本人の口から、恐喝と詐欺で食っていたというよくできた話を聞いただけだった。

彼が時折ヘマをする際は、それがあまりにも完璧なヘマなのである。最初から計算していたような。
それらが二条の疑念をより一層深めたのであった。

二条は限りある話が出来る人間として霧野のことを可愛がっており、一緒に行動することも多かった。それだけにその疑念が本当のものでないことを祈っていたが、結果は現在の通りだ。

霧野の処遇について、すぐにでも消すべきだと言うのが大半の意見で二条も当初はそれしかないと思っていた。消すための計画の直前になって、計画を知った美里が二重スパイとして寝返らせることが可能ではないかという突拍子もない意見を出したのだった。

消す計画は木崎だけに変更し、霧野にはしばしの猶予期間が与えられた。そのためには1度人格から叩き直す必要があり、国の犬から組の犬にするという。駄目だったら引き出せるだけ情報を引き出して殺せばいいという方針だ。それでこの件を知っている者の意見は一致した。

二条は今回の計画にあまり賛同できなかった。その一番の理由は自分のタガが外れてしまうことを恐れたからだった。亡き者にしてしまえばそれ以上手出しできることがない。永遠に遊べる玩具ほど怖いものは無いのだ。

二条はここ3ヶ月、女とも男とも寝るのをやめていた。それより前はSM風俗を呼んで使い、プレイの激しさから半分程度の店から出禁とされていた。3ヶ月前はちょうど霧野の本格的な調査を始めた時期だった。
美里が生かす案を提示する直前まで、二条が単独で霧野を殺害する予定になっていたからだった。
強引にでも犯してから殺す予定だった。殺しながら犯してもよかった。人は苦しめられると全身の筋肉がそれにあらがって硬直する。だから、殺しながら犯す時、一番中がしまって気持ちがいい。
二条が数ある仕事からこのヤクザな商売を選んだ理由の一つがコレであった。

翌日の午後15時頃、二条は仕事を早めに終え事務所に戻った。美里がデスクでなにか作業をしており、川名も不在であった。二条はアタッシュケースを手に、事務所の階段を下っていった。



二条が地下室に向かう時間から7時間ほど前の朝8時、美里は霧野の様子を見に来ていた。
部屋は若干肌寒かったが、霧野は椅子に座ったまま器用に寝ているようであった。
その姿を見て美里は以上に自分がいら立っていることに気が付いた。この男は何を暢気に寝ているのだろうか。
川名が去った後、美里は霧野にかけるべき声が見つからず、部屋の隅にあった毛布を一枚投げつけて部屋を後にしたのであった。

美里は、膝に乱雑にかかったままになっている毛布をはぎ取り、愕然とした。
大量の精液がこぼれ出て太ももとパイプ椅子に固まって張り付き、異臭を放っていた。美里は一瞬やろうかためらったが、パンツから自身のペニスを取り出し、放尿した。
ビチビチと音を立てながら、尿が霧野の太もも、腹、脚にかかった。
「…ん、」
霧野は寝ぼけた目で自分の下半身を見、驚いた顔を上げる。尿はまだ半分しか出していなった。
「この公衆便器が」
美里は霧野の頭を押さえつけて尿を顔面にぶちまけ、口の中に残りを吐き出した。
霧野がえずいているのを横目に、ペニスをしまい霧野の足元の手錠を外した。

「お前臭いんだよ、洗ってやるから立て。」
霧野は素直に立ち上がったが、脚に力が入らないのかぎこちない歩き方をした。
死体をバラすための空間には、水の出るホースが備え付けられている。

タイルの上に立たせて、全身に水を浴びせる。それから近くの作業台をひきよせ、その上に霧野の上半身をうつぶせに倒し、尻に直接ホースの先端を突っ込んだ。足が反射的に反応し、今日初めてはっきりとした悲鳴をあげた。それから小刻みに震え、それ以上声を上げるのをこらえているようだ。赤黒い液体や黄色い液体の混ざったものが、また股の間から零れ落ちていた。
「もう、いいだろっ!」
「それはお前が決めていいことじゃない。」
水圧を強くすると面白いくらいに身体をしならせて黙った。しばらくそうしてからホースを抜いてやると脱力するようにぐったりしたまま少しはマシな色をした液体を垂れ流していた。
「まだ水に色があるな、もう一回だな」

三回ほど同じことを繰り返すと、水はほとんどきれいな透明になった。霧野は目覚めたときほどの元気がなくなり、立てといってもぐったりしたままになっている。
仕方がないので霧野の顔の目の前にをまだ投棄していない死体パックをどんと置くと、驚いた小動物のように跳ね起き、タイルの上に尻もちをついた。それから、俯いていたかと思うとタイルの上でまたえずいている。出せるようなものなど身体に残っていないというのに。
「狂ってる……」



霧野の脚を再度拘束し、床に転がした。目も合わせようとしなくなった。
「昨日は5センチで拡張したから、今日は6センチをいれてみよう。少し早すぎる気がするけど、大丈夫だよな?」返事がないことを分かった質問をした。

アタッシュケースをいくつか持ち出し、作業台の上に開いた。6センチのプラグと一緒にピンクローターを3つほど取り出した。
「まだ痛いだろうから、麻酔みたいなもんだ。ところで、中世ヨーロッパではなぜ香水が発達したと思う?」
「……汚物をそのまま地面に捨てていて、町中が腐っていたからだろ」
「はは、急に饒舌になるな。まだ理性をたもっていたいんだな。その通りだよ。痛みを快楽で順応させるんだぜ。なくすんじゃなくて刺激の上に刺激を加えるんだ。」

美里は昨日と同じように塗り薬をローション代わりにし、先にローターを2つ尻の奥に差し入れた。その際にいくらか尻の中を指でさぐると、軽く筋肉が硬直する箇所があった。
その上から、プラグをさしこんだ。プラグはやはり一番太いところでつまるが、無理やり押し込んでしまう。少し大きすぎるくらいのほうが抜けづらくていい。
それから軽く陰茎をこすって勃起させてから、亀頭の裏部分に医療テープで残りのローターを張り付けた。
霧野の息があがっていた。

「どうした?まだ動かしてもないのに期待してるのか?マゾ野郎。」

霧野は先ほどの死んだ目から若干立ち直ったのか、嫌そうな顔でこちらを見返してきた。
美里は霧野の横にしゃがみ込み、三つのリモコンをゆっくりとひねり電源をつけた。
初めの数秒、びっくりして身体を幾度かくねらせたがその後は何事もないように耐えている。
強度をあげると、尻の中の振動がプラグに伝わって音が漏れ出てきた。

「……!、う……」

霧野は声を出すのを抑えようとするが、抑えようと意識するたびに身体がはねた。

「俺しかいないんだから、声出してもいいのに。」

美里はしゃがんだまま両手で頬杖をつき様子を見ていた。
時計を見ると30分以上もそうしていたことに気が付き、慌てて立ち上がった。

「やっば、あと10分しかねえじゃん」

美里はそう言いながらアタッシュケースの中から目隠しと口枷を取り出し、霧野の顔の近くにしゃがみこんだ。
霧野は懇願するような目で美里を見上げていた。

「なんだよ、言いたいことあるなら言えよ」
「……そのまま、いくのか?いつ戻る」
「質問1の答えはYES、質問2の答えはわからない」
目隠しで霧野の目を覆い隠す。
「余分な情報は遮断したほうが、感じやすくなるからな。気持ちがいいだろう」
「……」
「お前はこんなになってもまだプライドが高いからな。そういう人間を喘がせるには、口をふさいだほうがいい、存分に叫ぶことができる。」

それは特殊な口枷だった。美里は霧野の舌を引き出すとそれを口枷の並行した棒の間に挟み固定した。こうすると舌を出したまましゃべれなくすることができる。犬のように。
「ところで、犬はどうして舌を出すのだと思う?」
「……」
霧野は息を強く荒げるだけで答えることができない。美里は、ハアハアと息をする霧野の頭を撫でた。
「そうかわからないか、あれは体温調節で水分を蒸発させて身体の温度を下げてるんだ。」
美里は立ち上がると作業台の上にあった深めの皿を手に取り、中に水をためて霧野のすぐ横に置いた。
「お前は身体の構成は人間だから喉が渇く。ここに水を置いておくから、飲んでいいぜ。犬のようにな。」
立ち上がり、霧野を見下げた。勃起しかけていたが、突っ込んでやる時間がない。
「俺には俺の仕事があるから、またあとで面倒みてやるよ。せいぜいお前はお前の仕事に集中するんだな。」
今朝最初に感じたいら立ちはほとんど消えかけていた。犬のようなうめき声を後ろに聞きながら、地下室のドアを閉めた。そういえばちゃんとした餌をやっていない。次に来るときは、持ってこようと、そう思えた。

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