上 下
109 / 120
第2部 アリス・ボークラール

第37話

しおりを挟む
 かくして、帝都近郊において大規模な巻狩りが行われることになった。
 もっとも、巻狩りに直接参加する人数にしても、騎士約1000騎、従者約4000人が参加することになる。
 更に様々な物資を運ぶ人夫等まで数に入れれば、参加者が1万人を超えるのではないか、という巻狩りだ。
 帝都近郊といっても、エドワード殿下が腰を据えたいわゆる本陣でさえ、帝都から徒歩で丸1日は掛かる遠距離に置かれることになり、狩場の端から端までとなると、ほぼ同様に徒歩だと丸1日は掛かるという代物になった。

 ここまで大規模な巻狩りとなると、参加者の食べる食料を始めとする物資の調達、運搬もトンデモナイ事になる。
 私自身は、結果的に帝都でアイラ様の面倒を見るため、という事情から帝都内に止まったので、現場で何が起きたか等については、エドワード殿下や、兄のダグラス等からの伝聞という形でしか把握できなかったが。
 本当に、実際の戦場並みの混乱といってもよかったらしい。
 しかし。

 エドワード殿下は、見事にそういったいわゆる兵站の問題を、やり遂げてしまった。
 兄曰く、
「1万人もの人数の食料を確保して、適宜の場所に送り届けて等々。自分では中々困難な話だ。マイトラント伯爵等の助言があったとはいえ、それを聞き入れて、実行できるとは、エドワード殿下は末恐ろしいよ。いっておくが、お前と同年齢なんだぜ。流石、メアリー大公妃殿下の甥御、とラウルも唸っていた」

 そして、そういった後方に対する配慮を行ったうえで、実際の巻狩りは実行された。
 私の聞く所によると、従者3000人がいわゆる勢子役を務め、騎士1000人と従者1000人が出てくる獲物を狩る役を務めたらしい。
 その中で。

「ボークラール殿。賭けをいたしませんか」
「どんな賭けでしょう」
「私ども、マイトラント家と、ボークラール家とどちらの獲物が多いかです」
「よろしいでしょう」
 マイトラント伯爵と、兄は巻狩りの獲物を競い合った。
 どちらが勝ったのか、私には分からない。
 何故かというと。

「いや、よい獲物を競い合うように獲ったものだな。私は、ウサギ2羽と小鳥2羽しか射止められなかった」
 とエドワード殿下が、巻狩りが終わった後で言い出して、それとなく勝負を有耶無耶にしたからだ。
 というよりも、エドワード殿下の弓矢の腕に、兄もマイトラント伯爵も絶句して毒気を抜かれ、無言のうちに、エドワード殿下の言葉に従う気にさせられてしまったそうだ。
 この時、エドワード殿下は5本しか矢を放たれていなかったそうだ。

「そんなに凄いの」
 私は弓の腕の善し悪しが、よく分からないので、兄に尋ねたら。
「エドワード殿下は、まだ16歳なんだぞ。それなのに、そこまでの腕を誇るとは。ボークラールの騎士の中でも、そんなにはいないよ。そもそも、俺では、そんなにウサギや小鳥を射止められないよ」
 と、兄は本当に背筋が寒くなった、とまで言った。
 勿論、マイトラント伯爵も同様で、思わず背筋を伸ばす態度を執ったらしい。

 ともかく、この巻狩りの結果。
 エドワード殿下の武芸の腕、更に巻狩りの水際立った運営の上手さからくる手腕は、軍事貴族の間に広まった。
 その結果。
「エドワード殿下の命とあらば、ボークラールの騎士の多くが、俺よりもエドワード殿下に従うだろうな」
 とまで、兄は私に言う有様になった。

 そして。
「ちょっと色々とケジメをつける。お前を幸せにしないとな」
 そう兄ダグラスは、私に言い置いて、暫く姿を私の前から消した。
 私は心配になったが、エドワード殿下は、兄の行動について知らされていたらしい。
「心配することは無い。お兄さんは、アリスの事を想って行動している」
 エドワード殿下は言われた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...