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第2部 アリス・ボークラール
第37話
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かくして、帝都近郊において大規模な巻狩りが行われることになった。
もっとも、巻狩りに直接参加する人数にしても、騎士約1000騎、従者約4000人が参加することになる。
更に様々な物資を運ぶ人夫等まで数に入れれば、参加者が1万人を超えるのではないか、という巻狩りだ。
帝都近郊といっても、エドワード殿下が腰を据えたいわゆる本陣でさえ、帝都から徒歩で丸1日は掛かる遠距離に置かれることになり、狩場の端から端までとなると、ほぼ同様に徒歩だと丸1日は掛かるという代物になった。
ここまで大規模な巻狩りとなると、参加者の食べる食料を始めとする物資の調達、運搬もトンデモナイ事になる。
私自身は、結果的に帝都でアイラ様の面倒を見るため、という事情から帝都内に止まったので、現場で何が起きたか等については、エドワード殿下や、兄のダグラス等からの伝聞という形でしか把握できなかったが。
本当に、実際の戦場並みの混乱といってもよかったらしい。
しかし。
エドワード殿下は、見事にそういったいわゆる兵站の問題を、やり遂げてしまった。
兄曰く、
「1万人もの人数の食料を確保して、適宜の場所に送り届けて等々。自分では中々困難な話だ。マイトラント伯爵等の助言があったとはいえ、それを聞き入れて、実行できるとは、エドワード殿下は末恐ろしいよ。いっておくが、お前と同年齢なんだぜ。流石、メアリー大公妃殿下の甥御、とラウルも唸っていた」
そして、そういった後方に対する配慮を行ったうえで、実際の巻狩りは実行された。
私の聞く所によると、従者3000人がいわゆる勢子役を務め、騎士1000人と従者1000人が出てくる獲物を狩る役を務めたらしい。
その中で。
「ボークラール殿。賭けをいたしませんか」
「どんな賭けでしょう」
「私ども、マイトラント家と、ボークラール家とどちらの獲物が多いかです」
「よろしいでしょう」
マイトラント伯爵と、兄は巻狩りの獲物を競い合った。
どちらが勝ったのか、私には分からない。
何故かというと。
「いや、よい獲物を競い合うように獲ったものだな。私は、ウサギ2羽と小鳥2羽しか射止められなかった」
とエドワード殿下が、巻狩りが終わった後で言い出して、それとなく勝負を有耶無耶にしたからだ。
というよりも、エドワード殿下の弓矢の腕に、兄もマイトラント伯爵も絶句して毒気を抜かれ、無言のうちに、エドワード殿下の言葉に従う気にさせられてしまったそうだ。
この時、エドワード殿下は5本しか矢を放たれていなかったそうだ。
「そんなに凄いの」
私は弓の腕の善し悪しが、よく分からないので、兄に尋ねたら。
「エドワード殿下は、まだ16歳なんだぞ。それなのに、そこまでの腕を誇るとは。ボークラールの騎士の中でも、そんなにはいないよ。そもそも、俺では、そんなにウサギや小鳥を射止められないよ」
と、兄は本当に背筋が寒くなった、とまで言った。
勿論、マイトラント伯爵も同様で、思わず背筋を伸ばす態度を執ったらしい。
ともかく、この巻狩りの結果。
エドワード殿下の武芸の腕、更に巻狩りの水際立った運営の上手さからくる手腕は、軍事貴族の間に広まった。
その結果。
「エドワード殿下の命とあらば、ボークラールの騎士の多くが、俺よりもエドワード殿下に従うだろうな」
とまで、兄は私に言う有様になった。
そして。
「ちょっと色々とケジメをつける。お前を幸せにしないとな」
そう兄ダグラスは、私に言い置いて、暫く姿を私の前から消した。
私は心配になったが、エドワード殿下は、兄の行動について知らされていたらしい。
「心配することは無い。お兄さんは、アリスの事を想って行動している」
エドワード殿下は言われた。
もっとも、巻狩りに直接参加する人数にしても、騎士約1000騎、従者約4000人が参加することになる。
更に様々な物資を運ぶ人夫等まで数に入れれば、参加者が1万人を超えるのではないか、という巻狩りだ。
帝都近郊といっても、エドワード殿下が腰を据えたいわゆる本陣でさえ、帝都から徒歩で丸1日は掛かる遠距離に置かれることになり、狩場の端から端までとなると、ほぼ同様に徒歩だと丸1日は掛かるという代物になった。
ここまで大規模な巻狩りとなると、参加者の食べる食料を始めとする物資の調達、運搬もトンデモナイ事になる。
私自身は、結果的に帝都でアイラ様の面倒を見るため、という事情から帝都内に止まったので、現場で何が起きたか等については、エドワード殿下や、兄のダグラス等からの伝聞という形でしか把握できなかったが。
本当に、実際の戦場並みの混乱といってもよかったらしい。
しかし。
エドワード殿下は、見事にそういったいわゆる兵站の問題を、やり遂げてしまった。
兄曰く、
「1万人もの人数の食料を確保して、適宜の場所に送り届けて等々。自分では中々困難な話だ。マイトラント伯爵等の助言があったとはいえ、それを聞き入れて、実行できるとは、エドワード殿下は末恐ろしいよ。いっておくが、お前と同年齢なんだぜ。流石、メアリー大公妃殿下の甥御、とラウルも唸っていた」
そして、そういった後方に対する配慮を行ったうえで、実際の巻狩りは実行された。
私の聞く所によると、従者3000人がいわゆる勢子役を務め、騎士1000人と従者1000人が出てくる獲物を狩る役を務めたらしい。
その中で。
「ボークラール殿。賭けをいたしませんか」
「どんな賭けでしょう」
「私ども、マイトラント家と、ボークラール家とどちらの獲物が多いかです」
「よろしいでしょう」
マイトラント伯爵と、兄は巻狩りの獲物を競い合った。
どちらが勝ったのか、私には分からない。
何故かというと。
「いや、よい獲物を競い合うように獲ったものだな。私は、ウサギ2羽と小鳥2羽しか射止められなかった」
とエドワード殿下が、巻狩りが終わった後で言い出して、それとなく勝負を有耶無耶にしたからだ。
というよりも、エドワード殿下の弓矢の腕に、兄もマイトラント伯爵も絶句して毒気を抜かれ、無言のうちに、エドワード殿下の言葉に従う気にさせられてしまったそうだ。
この時、エドワード殿下は5本しか矢を放たれていなかったそうだ。
「そんなに凄いの」
私は弓の腕の善し悪しが、よく分からないので、兄に尋ねたら。
「エドワード殿下は、まだ16歳なんだぞ。それなのに、そこまでの腕を誇るとは。ボークラールの騎士の中でも、そんなにはいないよ。そもそも、俺では、そんなにウサギや小鳥を射止められないよ」
と、兄は本当に背筋が寒くなった、とまで言った。
勿論、マイトラント伯爵も同様で、思わず背筋を伸ばす態度を執ったらしい。
ともかく、この巻狩りの結果。
エドワード殿下の武芸の腕、更に巻狩りの水際立った運営の上手さからくる手腕は、軍事貴族の間に広まった。
その結果。
「エドワード殿下の命とあらば、ボークラールの騎士の多くが、俺よりもエドワード殿下に従うだろうな」
とまで、兄は私に言う有様になった。
そして。
「ちょっと色々とケジメをつける。お前を幸せにしないとな」
そう兄ダグラスは、私に言い置いて、暫く姿を私の前から消した。
私は心配になったが、エドワード殿下は、兄の行動について知らされていたらしい。
「心配することは無い。お兄さんは、アリスの事を想って行動している」
エドワード殿下は言われた。
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