108 / 120
第2部 アリス・ボークラール
第36話
しおりを挟む
そんな動きが、私やエドワード大公世子殿下の周りであったことを、当時の私は知らなかった。
私は、エドワード大公世子殿下と同棲し、事実上の養女となったアイラの面倒を見られるだけで、手一杯で、更に幸せを覚えたまま、秋を迎えることになったのだ。
そして。
秋の園遊会が終わり、エドワード大公世子殿下発案の巻狩りが行われる時期が来た。
相次いで、地方から多くの騎士が帝都に駆けつけていることから、何となく帝都全体が騒然とした雰囲気に包まれることになった。
また、私は上京してきた兄ダグラスから、久々に逢おう、という連絡を受け、エドワード大公世子殿下の許可を受けて、例の帝都内の邸に赴くことにもなった。
「よく来たな」
「何か物騒なことを企んでいるのではないでしょうね」
邸内で兄妹で顔を合わせて早々に、兄の歓迎の言葉に対して、私は開口一番、釘を刺さざるを得なかった。
何故かというと。
「エドワード大公世子殿下の邸内にいる私の耳にまで届いているわよ。ダグラス・ボークラールが、200もの騎士を完全武装させて、上京させてきた、また、帝都が焼け野原になるのではないか、という噂が帝都内部で流れているとのことよ」
私の半ば嫌味を、兄は笑い飛ばして言った。
「本当にやってもいいかもな。実際に、それだけの騎士を集めてきたからな」
「本当にやるつもりなの」
兄の言葉を、流石に冗談として、私は聞き逃す訳には行かない。
私は、思わず兄の胸ぐらをつかみそうな勢いで、問い質すことになった。
「冗談に決まっているだろう。だが、お前が不幸になりそうなら、兄としてやるつもりではあるが。ボークラールの共食い。その真の意味を分からせるためにもな」
兄の言葉は、私を一時的にだが沈黙させた。
ボークラールの共食い、これは肉親間といえど、容赦なくボークラール一族が、弓矢を向けあって来た、という事実から産まれたものだが、ボークラール一族が単に私利私欲に塗れていたから、という訳では必ずしも無いのだ。
ボークラール一族が盤踞する東国において、普通の農耕以外の主な産業となると、牛馬等を産する牧畜業と、金銀銅等の鉱山業になるが、これらは他者と争いになった際に、そう気軽に利益を分け合える産業ではない。
お互いに中々譲り合えない産業なので、どうしても事業を行おうとする者は、有力者の庇護下に入り、更なる利益獲得を望むことになる。
そして、庇護を求められた有力者は、彼らに対して、きちんと庇護する姿勢を積極的に示さないと、逆に庇護を求める者を失うのだ。
ボークラール一族は、そう言った点で、徹底した姿勢を伝統的に示してきた。
庇護を求められたら、親兄弟が敵に回ろうとも、国府が敵であろうとも、庇護してやる、という姿勢を長年、一族で示し続けたので、庇護を求める者が後を絶たず、東国にボークラール一族が盤踞するということになったのだ。
兄の言葉は、それを暗に言うと共に、私に完全に味方する、つまり、帝室を見限り、エドワード大公世子殿下の側に立つ、ということも言っているのだ。
私は、兄がそこまでのことを言ってくれたことに、内心で頭を下げざるを得なかった。
そして。
「難しい話は後にしよう。お前を、東国のボークラール一族の有力者に紹介せねばな」
兄は、自分が連れてきたボークラール一族の有力者、ラウル等に私を紹介してくれた。
彼らは、私の姿、言葉を見聞きして、感涙に多くがむせんだ。
「何としても巻狩りを成功させるぞ」
「応」
彼らは、兄の呼びかけに呼応し。
私は、彼らの様子を見て、色々と安心感を覚えた。
これなら、彼らをバックにして、私はエドワード殿下と、無事に結婚にまでこぎ着けられるのではないだろうか。
私は、エドワード大公世子殿下と同棲し、事実上の養女となったアイラの面倒を見られるだけで、手一杯で、更に幸せを覚えたまま、秋を迎えることになったのだ。
そして。
秋の園遊会が終わり、エドワード大公世子殿下発案の巻狩りが行われる時期が来た。
相次いで、地方から多くの騎士が帝都に駆けつけていることから、何となく帝都全体が騒然とした雰囲気に包まれることになった。
また、私は上京してきた兄ダグラスから、久々に逢おう、という連絡を受け、エドワード大公世子殿下の許可を受けて、例の帝都内の邸に赴くことにもなった。
「よく来たな」
「何か物騒なことを企んでいるのではないでしょうね」
邸内で兄妹で顔を合わせて早々に、兄の歓迎の言葉に対して、私は開口一番、釘を刺さざるを得なかった。
何故かというと。
「エドワード大公世子殿下の邸内にいる私の耳にまで届いているわよ。ダグラス・ボークラールが、200もの騎士を完全武装させて、上京させてきた、また、帝都が焼け野原になるのではないか、という噂が帝都内部で流れているとのことよ」
私の半ば嫌味を、兄は笑い飛ばして言った。
「本当にやってもいいかもな。実際に、それだけの騎士を集めてきたからな」
「本当にやるつもりなの」
兄の言葉を、流石に冗談として、私は聞き逃す訳には行かない。
私は、思わず兄の胸ぐらをつかみそうな勢いで、問い質すことになった。
「冗談に決まっているだろう。だが、お前が不幸になりそうなら、兄としてやるつもりではあるが。ボークラールの共食い。その真の意味を分からせるためにもな」
兄の言葉は、私を一時的にだが沈黙させた。
ボークラールの共食い、これは肉親間といえど、容赦なくボークラール一族が、弓矢を向けあって来た、という事実から産まれたものだが、ボークラール一族が単に私利私欲に塗れていたから、という訳では必ずしも無いのだ。
ボークラール一族が盤踞する東国において、普通の農耕以外の主な産業となると、牛馬等を産する牧畜業と、金銀銅等の鉱山業になるが、これらは他者と争いになった際に、そう気軽に利益を分け合える産業ではない。
お互いに中々譲り合えない産業なので、どうしても事業を行おうとする者は、有力者の庇護下に入り、更なる利益獲得を望むことになる。
そして、庇護を求められた有力者は、彼らに対して、きちんと庇護する姿勢を積極的に示さないと、逆に庇護を求める者を失うのだ。
ボークラール一族は、そう言った点で、徹底した姿勢を伝統的に示してきた。
庇護を求められたら、親兄弟が敵に回ろうとも、国府が敵であろうとも、庇護してやる、という姿勢を長年、一族で示し続けたので、庇護を求める者が後を絶たず、東国にボークラール一族が盤踞するということになったのだ。
兄の言葉は、それを暗に言うと共に、私に完全に味方する、つまり、帝室を見限り、エドワード大公世子殿下の側に立つ、ということも言っているのだ。
私は、兄がそこまでのことを言ってくれたことに、内心で頭を下げざるを得なかった。
そして。
「難しい話は後にしよう。お前を、東国のボークラール一族の有力者に紹介せねばな」
兄は、自分が連れてきたボークラール一族の有力者、ラウル等に私を紹介してくれた。
彼らは、私の姿、言葉を見聞きして、感涙に多くがむせんだ。
「何としても巻狩りを成功させるぞ」
「応」
彼らは、兄の呼びかけに呼応し。
私は、彼らの様子を見て、色々と安心感を覚えた。
これなら、彼らをバックにして、私はエドワード殿下と、無事に結婚にまでこぎ着けられるのではないだろうか。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
【本編完結】聖女は辺境伯に嫁ぎますが、彼には好きな人が、聖女にはとある秘密がありました。
彩華(あやはな)
恋愛
王命により、グレンディール・アルザイド辺境伯に嫁いだ聖女シェリル。彼には病気持ちのニーナと言う大事な人がいた。彼から提示された白い結婚を盛り込んだ契約書にサインをしたシェリルは伯爵夫人という形に囚われることなく自分の趣味の薬作りを満喫してながら、ギルドに売っていく。ある日病気で苦しむニーナの病気を治した事でシェリルの運命は変わっていく。グレンディールがなにかと近づくようになったのだ。そんな彼女はとある秘密を抱えていた・・・。
都合のいい女は卒業です。
火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。
しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。
治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。
どちらが王家に必要とされているかは明白だった。
「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」
だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。
しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。
この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。
それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。
だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。
「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」
【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。
夜乃トバリ
恋愛
シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。
今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。
※他の作品と書き方が違います※
『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。
もう愛は冷めているのですが?
希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」
伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。
3年後。
父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。
ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。
「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」
「え……?」
国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。
忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。
しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。
「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」
「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」
やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……
◇ ◇ ◇
完結いたしました!ありがとうございました!
誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる