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第2部 アリス・ボークラール
第32話
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「よく来てくれたね」
エドワード殿下は、私が邸宅に着いて、挨拶を交わしてすぐにそう言われた。
更に。
「キャサリンは、先日、修道院に正式に入った。だから、君がこの家の女主人として、行動してくれても構わない」
そこまで、エドワード殿下に言われては、話が急過ぎて、私には理解できません。
「あの、話が急過ぎます。私に、分かるように言っていただけませんか」
私は、止む無く半ば口答えをする羽目になった。
「そうだね。順を追って話すべきだった」
エドワード殿下は、そう謝られて、私への説明を始めた。
エドワード殿下は、先日の1月の除目で、兵部卿(ようするに帝国の国防省長官だ)に就任された。
また、左近衛大将(帝国に二つある近衛軍の1つのトップ)も兼務された。
併せて侯爵に陞爵もされている。
名実ともに、帝国の軍務を、エドワード殿下は掌握されることになった、といえる。
それに伴い、帝国軍の再編を、エドワード殿下は考え、色々と改革案を兵部省内に提起し、検討されている。
「その一環として、近衛軍の幹部に、軍事貴族の面々を採用する一方で、各地方に散在している半独立の騎士団を中央政府の統制下に置こうとすることになった。その最大の標的が、どこになるのか、分かるかい」
エドワード殿下は、笑みを浮かべながら、私に言った。
エドワード殿下は、私には分からないだろう、と思われているのかもしれない。
だが、前世の記憶のある私には、すぐに分かってしまった。
「私の実家と言えるボークラール一族の面々ですね」
私は、生意気と思われそうだが、そう答えた。
「その通りだ。東国各地に盤踞し、それこそ一族同士の武力衝突も辞さない、ボークラール一族が最大の標的だ」
エドワード殿下は、そう認めた。
「君自身に魅力を感じ、好意を抱いているのは、私の本当の気持ちだ。でも、それだけでは、君に好意を示す訳にはいかないんだ。それこそ、マイトラント伯爵を筆頭とするマイトラント一族等は、君に反感を抱いている。だから、それなりの理由を示して、君を厚遇しないといけないんだ。それは分かってくれ」
エドワード殿下のその言葉を聞いた私は、すぐに頭を下げながら言った。
「いいです。そんなことを言われなくとも。上級貴族になる程、政治的思惑から、結婚等を考えないといけないのは重々分かっていることですことから」
「君は聡いな」
「同い年相手に何を言っているのですか」
「そうだね」
私とエドワード殿下は、更にそう会話を弾ませた。
「ともかく、キャサリンが、私との夫婦生活に耐えかねて、修道院に入ってしまったのは事実だ。従って、この家に女主人は不在ということになる。そうなると、女主人がいなくて、色々と不便でね。それに娘のアイラも、自分にはいることだし」
エドワード殿下は、そこで言葉を濁したが、私にはエドワード殿下の言いたいことが分かった。
娘アイラのこともあり、要するにこの邸宅の女主人を決めた方が色々と便利なのだが、これまでに邸宅にいた誰かから選ぶと角が立ちかねない。
だから。
私は少し意地悪な気持ちになって言った。
「私は、そのために呼ばれた、という訳ですか」
エドワード殿下もさる者だ。
「そう君が想うのなら、そういうことになるかな」
そう笑いながら言ったが、流石に私の気分を害し過ぎる、と思われたのか、フォローに入った。
「自分としては、君を正式な後添え、第二夫人に迎えたい、と想っている。でも、最初の結婚で失敗したからね。君には申し訳ない話になるが、君をこの家の女主人にし、その様子を見てから、結婚については決めたいんだ。それにボークラール一族の件もある」
エドワード殿下の言葉は、私を納得させるものだった。
エドワード殿下は、私が邸宅に着いて、挨拶を交わしてすぐにそう言われた。
更に。
「キャサリンは、先日、修道院に正式に入った。だから、君がこの家の女主人として、行動してくれても構わない」
そこまで、エドワード殿下に言われては、話が急過ぎて、私には理解できません。
「あの、話が急過ぎます。私に、分かるように言っていただけませんか」
私は、止む無く半ば口答えをする羽目になった。
「そうだね。順を追って話すべきだった」
エドワード殿下は、そう謝られて、私への説明を始めた。
エドワード殿下は、先日の1月の除目で、兵部卿(ようするに帝国の国防省長官だ)に就任された。
また、左近衛大将(帝国に二つある近衛軍の1つのトップ)も兼務された。
併せて侯爵に陞爵もされている。
名実ともに、帝国の軍務を、エドワード殿下は掌握されることになった、といえる。
それに伴い、帝国軍の再編を、エドワード殿下は考え、色々と改革案を兵部省内に提起し、検討されている。
「その一環として、近衛軍の幹部に、軍事貴族の面々を採用する一方で、各地方に散在している半独立の騎士団を中央政府の統制下に置こうとすることになった。その最大の標的が、どこになるのか、分かるかい」
エドワード殿下は、笑みを浮かべながら、私に言った。
エドワード殿下は、私には分からないだろう、と思われているのかもしれない。
だが、前世の記憶のある私には、すぐに分かってしまった。
「私の実家と言えるボークラール一族の面々ですね」
私は、生意気と思われそうだが、そう答えた。
「その通りだ。東国各地に盤踞し、それこそ一族同士の武力衝突も辞さない、ボークラール一族が最大の標的だ」
エドワード殿下は、そう認めた。
「君自身に魅力を感じ、好意を抱いているのは、私の本当の気持ちだ。でも、それだけでは、君に好意を示す訳にはいかないんだ。それこそ、マイトラント伯爵を筆頭とするマイトラント一族等は、君に反感を抱いている。だから、それなりの理由を示して、君を厚遇しないといけないんだ。それは分かってくれ」
エドワード殿下のその言葉を聞いた私は、すぐに頭を下げながら言った。
「いいです。そんなことを言われなくとも。上級貴族になる程、政治的思惑から、結婚等を考えないといけないのは重々分かっていることですことから」
「君は聡いな」
「同い年相手に何を言っているのですか」
「そうだね」
私とエドワード殿下は、更にそう会話を弾ませた。
「ともかく、キャサリンが、私との夫婦生活に耐えかねて、修道院に入ってしまったのは事実だ。従って、この家に女主人は不在ということになる。そうなると、女主人がいなくて、色々と不便でね。それに娘のアイラも、自分にはいることだし」
エドワード殿下は、そこで言葉を濁したが、私にはエドワード殿下の言いたいことが分かった。
娘アイラのこともあり、要するにこの邸宅の女主人を決めた方が色々と便利なのだが、これまでに邸宅にいた誰かから選ぶと角が立ちかねない。
だから。
私は少し意地悪な気持ちになって言った。
「私は、そのために呼ばれた、という訳ですか」
エドワード殿下もさる者だ。
「そう君が想うのなら、そういうことになるかな」
そう笑いながら言ったが、流石に私の気分を害し過ぎる、と思われたのか、フォローに入った。
「自分としては、君を正式な後添え、第二夫人に迎えたい、と想っている。でも、最初の結婚で失敗したからね。君には申し訳ない話になるが、君をこの家の女主人にし、その様子を見てから、結婚については決めたいんだ。それにボークラール一族の件もある」
エドワード殿下の言葉は、私を納得させるものだった。
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