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第2部 アリス・ボークラール
第22話
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そんなことを私が考えていると、兄ダグラスは青眼になって言った。
「ところで、キャロライン皇貴妃殿下の私的な侍女にお前はなっているが。エドワード大公世子殿下の通いの愛人にもお前がなった、という噂が、東国にまで流れているぞ。本当なのか」
「何で、そんな噂が流れているのよ。大嘘よ」
「ほう。流石、ボークラール宗家の娘、親の仇であっても、自分の利益のためなら、身体までも差し出すとは、とまで東国では言われているが」
「すぐに打ち消すように指示を出して。冗談じゃない」
私は怒りながら言ったが。
内心で想わず、私は考えた。
本当に、そんな関係に、私とエドワード殿下がなれたらいいのに。
兄は、私の内心を読んだのだろう。
「ブラッディ・マリー」で口を湿らせた後で、兄は言葉を継いだ。
「お前が、そうなりたいのなら、俺は止めないぞ。むしろ、俺としては大歓迎だ。何だったら、自分としては、お前がエドワード大公世子殿下の第二夫人になって欲しいくらいだからな」
妹の私としては、兄のこの言葉を素直に喜ぶべきだろう。
だが、何となく引っかかるものを、私は感じる。
兄の本音の半分しか明かされていない気がする。
兄は、私とエドワード殿下が結ばれることで、利益を得るつもりなのではないか。
私は、斜めにかわした会話を敢えてすることにした。
「妹の私の幸せを願ってくれるとは、本当にありがとう。でも、裏を感じるのだけど」
私は、口元に薄笑いを敢えて浮かべながら言った。
「流石だな。それでこそ、ボークラール宗家の娘よ」
兄は、苦笑いの表情を浮かべながら、言葉を継いだ。
「本音を言おう。エドワード大公世子の義兄に、自分が成れば、東国でボークラール宗家の財産を横領して、私腹を肥やしていたボークラール一族等が、自分の威令に服するようになると思わないか」
「確かにその通りね」
私は、兄に与するような表情を浮かべながら、兄に同意する言葉を発したが。
内心は微妙に異なっていた。
何だか、兄が素直過ぎる気がしてならないのだ。
教会の孤児院に私がいた際に、私が聞かされていた兄の悪評とは違い過ぎる気がする。
勿論、噂、悪評と、実際が違うというのは、よくある話ではある。
だが、ここは用心して対応した方が良い気がする。
現在の私にとって、最も大事なのは、エドワード大公世子殿下だ。
それと比較すれば、兄、ダグラスが大事なのか、と言われると、私としては重要性が極めて低い。
とは言え、そうそう、私は兄を斬り捨てる訳には行かない。
何しろ、ボークラール一族の中で、私が濃い血縁として唯一、頼れるのが、兄、ダグラスだからだ。
それに、兄から私を斬り捨てるのならともかく、私から兄を斬り捨てては、
「流石にボークラール宗家の娘、兄といえど容赦なく斬り捨てるとは」
と私に対する悪評が、下手をすると立ちかねない。
そんなことになったら、エドワード大公世子殿下は、私との関係を見直され、私を棄てるだろう。
「分かったわ。でも、期待しないで。何しろ、エドワード大公世子殿下のご両親を、事実上殺したのは、私達の父親なのよ。東国のボークラール一族を始めとする軍事貴族同士なら、そこまで根に持たない話かもしれないけど、帝都の上級貴族間では違うわ」
「だろうな」
私は、兄に半ば媚びるように薄笑いを浮かべながら答え、兄も薄笑いを浮かべながら言った。
「ともかく、この邸宅は、今は俺のモノだ。横領していたボークラールの分家から買い叩いて、全面補修した。お前も時々、宿下がりで使うといい。管理人に話は通しておく」
「ありがとう」
そこは、兄の好意を私は素直に受けることにする。
やはり、宮中にずっと住み込み、というのは私も神経を使うからだ。
「ところで、キャロライン皇貴妃殿下の私的な侍女にお前はなっているが。エドワード大公世子殿下の通いの愛人にもお前がなった、という噂が、東国にまで流れているぞ。本当なのか」
「何で、そんな噂が流れているのよ。大嘘よ」
「ほう。流石、ボークラール宗家の娘、親の仇であっても、自分の利益のためなら、身体までも差し出すとは、とまで東国では言われているが」
「すぐに打ち消すように指示を出して。冗談じゃない」
私は怒りながら言ったが。
内心で想わず、私は考えた。
本当に、そんな関係に、私とエドワード殿下がなれたらいいのに。
兄は、私の内心を読んだのだろう。
「ブラッディ・マリー」で口を湿らせた後で、兄は言葉を継いだ。
「お前が、そうなりたいのなら、俺は止めないぞ。むしろ、俺としては大歓迎だ。何だったら、自分としては、お前がエドワード大公世子殿下の第二夫人になって欲しいくらいだからな」
妹の私としては、兄のこの言葉を素直に喜ぶべきだろう。
だが、何となく引っかかるものを、私は感じる。
兄の本音の半分しか明かされていない気がする。
兄は、私とエドワード殿下が結ばれることで、利益を得るつもりなのではないか。
私は、斜めにかわした会話を敢えてすることにした。
「妹の私の幸せを願ってくれるとは、本当にありがとう。でも、裏を感じるのだけど」
私は、口元に薄笑いを敢えて浮かべながら言った。
「流石だな。それでこそ、ボークラール宗家の娘よ」
兄は、苦笑いの表情を浮かべながら、言葉を継いだ。
「本音を言おう。エドワード大公世子の義兄に、自分が成れば、東国でボークラール宗家の財産を横領して、私腹を肥やしていたボークラール一族等が、自分の威令に服するようになると思わないか」
「確かにその通りね」
私は、兄に与するような表情を浮かべながら、兄に同意する言葉を発したが。
内心は微妙に異なっていた。
何だか、兄が素直過ぎる気がしてならないのだ。
教会の孤児院に私がいた際に、私が聞かされていた兄の悪評とは違い過ぎる気がする。
勿論、噂、悪評と、実際が違うというのは、よくある話ではある。
だが、ここは用心して対応した方が良い気がする。
現在の私にとって、最も大事なのは、エドワード大公世子殿下だ。
それと比較すれば、兄、ダグラスが大事なのか、と言われると、私としては重要性が極めて低い。
とは言え、そうそう、私は兄を斬り捨てる訳には行かない。
何しろ、ボークラール一族の中で、私が濃い血縁として唯一、頼れるのが、兄、ダグラスだからだ。
それに、兄から私を斬り捨てるのならともかく、私から兄を斬り捨てては、
「流石にボークラール宗家の娘、兄といえど容赦なく斬り捨てるとは」
と私に対する悪評が、下手をすると立ちかねない。
そんなことになったら、エドワード大公世子殿下は、私との関係を見直され、私を棄てるだろう。
「分かったわ。でも、期待しないで。何しろ、エドワード大公世子殿下のご両親を、事実上殺したのは、私達の父親なのよ。東国のボークラール一族を始めとする軍事貴族同士なら、そこまで根に持たない話かもしれないけど、帝都の上級貴族間では違うわ」
「だろうな」
私は、兄に半ば媚びるように薄笑いを浮かべながら答え、兄も薄笑いを浮かべながら言った。
「ともかく、この邸宅は、今は俺のモノだ。横領していたボークラールの分家から買い叩いて、全面補修した。お前も時々、宿下がりで使うといい。管理人に話は通しておく」
「ありがとう」
そこは、兄の好意を私は素直に受けることにする。
やはり、宮中にずっと住み込み、というのは私も神経を使うからだ。
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