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第1部 メアリー・グレヴィル
第31話
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私は、1人でこの世界流の「ブラッディ・メアリ」を作っては飲んでいた。
ウオッカもトマトもある、この世界ならではだった。
(なお、細かく言えば、この世界には「ブラッディ・メアリ」というカクテルは無い。
私のオリジナルカクテルということになる)
私の腹心の侍女、ジュリエット・マイトラントは、私がウオッカを飲むのを、それとなく諫めた。
「ウオッカは下賤な者が、本来は飲む酒です。メアリ様のようなお方が飲む酒ではありません」
そのことは、私とて知っている。
私のような上級貴族が飲む酒は、基本的にワインか、(日本)酒だ。
だが、私は、どうにもウオッカを手に入れ、「ブラッディ・メアリ」を飲まねばいられない気分だった。
私は「ブラッディ・メアリ」の入ったグラスを見つめながら呟いた。
「アン、あなたは悪魔に喧嘩を売ったのよ。その報いを受け、これと同じ色に染まってもらうわ」
同時に昏い笑いが、肚の底からこみ上げてくる。
まさか、原作展開が、このような形で起ころうとは。
原作者である私にとっては、予想外もいいところだった。
原作だとチャールズが暴走して、アンと再度、関係を持つのだが。
この世界では、アンが暴走してしまい、チャールズと再度、関係を持つとは。
私は、アンの内心を推測した。
アンとしては、ヘンリーの子を孕めるか、心の奥底で不安があるのも一因なのだろう。
何しろ、ヘンリーには、マーガレットという一人娘しかいない。
また、私が知る限り、現在、(原作設定の上でも)召人も通いの愛人もいないのだ。
40歳が近いとはいえ、この世界では、珍しい堅物だ。
勿論、10代後半から20代前半までは、この世界流に、何人も召人を替え、通いの愛人も同様という人物だったが、20代後半になってからは、愛妻一筋といってよくなり、30歳の時に、マーガレットの出産事故で、愛妻を亡くしてからは、愛妻の菩提を弔いたい、と周囲から持ち込まれる再婚の勧めを断ってきた。
だから、アンとしては、ヘンリーが自分と関係を持ってくれるのか、また、子を孕めるのか、不安なのだ。
それもあって、身体の相性がいい、チャールズとの密通を、アンは考えたのだ。
それに、この時期ならば、ちょっと早産でした、で十二分に周囲を誤魔化せる。
2週間程、予定日より早く生まれたから、といって不義密通だ、と周囲が疑えるものではない。
原作展開からいって、多分、アンは、大公家の跡取りとなるエドワードを妊娠出産するフラグは立ったか。
私は、7杯も飲んだ「ブラッディ・メアリ」の酔いのせいで、そこまで考えを進めた。
これで大公家の跡取り問題は、一代は安泰になったとみていいのかもしれないが。
その一方では。
さて、アンには、どんな報いを受けてもらおうか。
私は、そう内心でうそぶかざるをえなかった。
勿論、その報いは、私一人では決められない。
ヘンリー大公や、チャールズにも相談して、全員が承知してもらわないといけないし、細かく言えば、父の暗黙の内諾も要る話になるだろう。
だが、私が一番大きな声を挙げ、周囲を揺り動かす力をもっているのは間違いない話だ。
私は、そう内心で冷たくアンを見る一方で、そもそもの発端、チャールズと自分が結婚したい、と想い、そう自分が行動したのが、今回の一因であるとも思わざるを得なかった。
もし、この世界に転生してきたのが分かった最初の時に私が想ったように、チャールズとアンを素直に結婚させていれば、今回のような事態は無く、皆が幸せになれたのだ。
確かにアンの暴走、自業自得なのは確かだが、最初に私が決めたように自分が行動していれば。
そんな想いが、私の内心で沸き起こるのを、どうにも私は止められなかった。
ウオッカもトマトもある、この世界ならではだった。
(なお、細かく言えば、この世界には「ブラッディ・メアリ」というカクテルは無い。
私のオリジナルカクテルということになる)
私の腹心の侍女、ジュリエット・マイトラントは、私がウオッカを飲むのを、それとなく諫めた。
「ウオッカは下賤な者が、本来は飲む酒です。メアリ様のようなお方が飲む酒ではありません」
そのことは、私とて知っている。
私のような上級貴族が飲む酒は、基本的にワインか、(日本)酒だ。
だが、私は、どうにもウオッカを手に入れ、「ブラッディ・メアリ」を飲まねばいられない気分だった。
私は「ブラッディ・メアリ」の入ったグラスを見つめながら呟いた。
「アン、あなたは悪魔に喧嘩を売ったのよ。その報いを受け、これと同じ色に染まってもらうわ」
同時に昏い笑いが、肚の底からこみ上げてくる。
まさか、原作展開が、このような形で起ころうとは。
原作者である私にとっては、予想外もいいところだった。
原作だとチャールズが暴走して、アンと再度、関係を持つのだが。
この世界では、アンが暴走してしまい、チャールズと再度、関係を持つとは。
私は、アンの内心を推測した。
アンとしては、ヘンリーの子を孕めるか、心の奥底で不安があるのも一因なのだろう。
何しろ、ヘンリーには、マーガレットという一人娘しかいない。
また、私が知る限り、現在、(原作設定の上でも)召人も通いの愛人もいないのだ。
40歳が近いとはいえ、この世界では、珍しい堅物だ。
勿論、10代後半から20代前半までは、この世界流に、何人も召人を替え、通いの愛人も同様という人物だったが、20代後半になってからは、愛妻一筋といってよくなり、30歳の時に、マーガレットの出産事故で、愛妻を亡くしてからは、愛妻の菩提を弔いたい、と周囲から持ち込まれる再婚の勧めを断ってきた。
だから、アンとしては、ヘンリーが自分と関係を持ってくれるのか、また、子を孕めるのか、不安なのだ。
それもあって、身体の相性がいい、チャールズとの密通を、アンは考えたのだ。
それに、この時期ならば、ちょっと早産でした、で十二分に周囲を誤魔化せる。
2週間程、予定日より早く生まれたから、といって不義密通だ、と周囲が疑えるものではない。
原作展開からいって、多分、アンは、大公家の跡取りとなるエドワードを妊娠出産するフラグは立ったか。
私は、7杯も飲んだ「ブラッディ・メアリ」の酔いのせいで、そこまで考えを進めた。
これで大公家の跡取り問題は、一代は安泰になったとみていいのかもしれないが。
その一方では。
さて、アンには、どんな報いを受けてもらおうか。
私は、そう内心でうそぶかざるをえなかった。
勿論、その報いは、私一人では決められない。
ヘンリー大公や、チャールズにも相談して、全員が承知してもらわないといけないし、細かく言えば、父の暗黙の内諾も要る話になるだろう。
だが、私が一番大きな声を挙げ、周囲を揺り動かす力をもっているのは間違いない話だ。
私は、そう内心で冷たくアンを見る一方で、そもそもの発端、チャールズと自分が結婚したい、と想い、そう自分が行動したのが、今回の一因であるとも思わざるを得なかった。
もし、この世界に転生してきたのが分かった最初の時に私が想ったように、チャールズとアンを素直に結婚させていれば、今回のような事態は無く、皆が幸せになれたのだ。
確かにアンの暴走、自業自得なのは確かだが、最初に私が決めたように自分が行動していれば。
そんな想いが、私の内心で沸き起こるのを、どうにも私は止められなかった。
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