上 下
40 / 120
第1部 メアリー・グレヴィル

第31話

しおりを挟む
 私は、1人でこの世界流の「ブラッディ・メアリ」を作っては飲んでいた。
 ウオッカもトマトもある、この世界ならではだった。
(なお、細かく言えば、この世界には「ブラッディ・メアリ」というカクテルは無い。
 私のオリジナルカクテルということになる)

 私の腹心の侍女、ジュリエット・マイトラントは、私がウオッカを飲むのを、それとなく諫めた。
「ウオッカは下賤な者が、本来は飲む酒です。メアリ様のようなお方が飲む酒ではありません」
 そのことは、私とて知っている。
 私のような上級貴族が飲む酒は、基本的にワインか、(日本)酒だ。
 だが、私は、どうにもウオッカを手に入れ、「ブラッディ・メアリ」を飲まねばいられない気分だった。

 私は「ブラッディ・メアリ」の入ったグラスを見つめながら呟いた。
「アン、あなたは悪魔に喧嘩を売ったのよ。その報いを受け、これと同じ色に染まってもらうわ」
 同時に昏い笑いが、肚の底からこみ上げてくる。
 
 まさか、原作展開が、このような形で起ころうとは。
 原作者である私にとっては、予想外もいいところだった。

 原作だとチャールズが暴走して、アンと再度、関係を持つのだが。
 この世界では、アンが暴走してしまい、チャールズと再度、関係を持つとは。

 私は、アンの内心を推測した。
 アンとしては、ヘンリーの子を孕めるか、心の奥底で不安があるのも一因なのだろう。

 何しろ、ヘンリーには、マーガレットという一人娘しかいない。
 また、私が知る限り、現在、(原作設定の上でも)召人も通いの愛人もいないのだ。
 40歳が近いとはいえ、この世界では、珍しい堅物だ。
 勿論、10代後半から20代前半までは、この世界流に、何人も召人を替え、通いの愛人も同様という人物だったが、20代後半になってからは、愛妻一筋といってよくなり、30歳の時に、マーガレットの出産事故で、愛妻を亡くしてからは、愛妻の菩提を弔いたい、と周囲から持ち込まれる再婚の勧めを断ってきた。
 だから、アンとしては、ヘンリーが自分と関係を持ってくれるのか、また、子を孕めるのか、不安なのだ。

 それもあって、身体の相性がいい、チャールズとの密通を、アンは考えたのだ。
 それに、この時期ならば、ちょっと早産でした、で十二分に周囲を誤魔化せる。
 2週間程、予定日より早く生まれたから、といって不義密通だ、と周囲が疑えるものではない。

 原作展開からいって、多分、アンは、大公家の跡取りとなるエドワードを妊娠出産するフラグは立ったか。
 私は、7杯も飲んだ「ブラッディ・メアリ」の酔いのせいで、そこまで考えを進めた。
 これで大公家の跡取り問題は、一代は安泰になったとみていいのかもしれないが。
 その一方では。

 さて、アンには、どんな報いを受けてもらおうか。
 私は、そう内心でうそぶかざるをえなかった。
 勿論、その報いは、私一人では決められない。
 ヘンリー大公や、チャールズにも相談して、全員が承知してもらわないといけないし、細かく言えば、父の暗黙の内諾も要る話になるだろう。
 だが、私が一番大きな声を挙げ、周囲を揺り動かす力をもっているのは間違いない話だ。

 私は、そう内心で冷たくアンを見る一方で、そもそもの発端、チャールズと自分が結婚したい、と想い、そう自分が行動したのが、今回の一因であるとも思わざるを得なかった。
 もし、この世界に転生してきたのが分かった最初の時に私が想ったように、チャールズとアンを素直に結婚させていれば、今回のような事態は無く、皆が幸せになれたのだ。
 確かにアンの暴走、自業自得なのは確かだが、最初に私が決めたように自分が行動していれば。
 そんな想いが、私の内心で沸き起こるのを、どうにも私は止められなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。 当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。 私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。 だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。 そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。 だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。 そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。

勘違いは程々に

蜜迦
恋愛
 年に一度開催される、王国主催の馬上槍試合(トーナメント)。  大歓声の中、円形闘技場の中央で勝者の証であるトロフィーを受け取ったのは、精鋭揃いで名高い第一騎士団で副団長を務めるリアム・エズモンド。  トーナメントの優勝者は、褒美としてどんな願いもひとつだけ叶えてもらうことができる。  観客は皆、彼が今日かねてから恋仲にあった第二王女との結婚の許しを得るため、その権利を使うのではないかと噂していた。  歓声の中見つめ合うふたりに安堵のため息を漏らしたのは、リアムの婚約者フィオナだった。  (これでやっと、彼を解放してあげられる……)

【完結】婚約者の母が「息子の子供を妊娠した」と血相変えてやって来た〜私の子供として育てて欲しい?絶対に無理なので婚約破棄させてください!

冬月光輝
恋愛
イースロン伯爵家の令嬢であるシェリルは王族とも懇意にしている公爵家の嫡男であるナッシュから熱烈なアプローチを受けて求婚される。 見た目もよく、王立学園を次席で卒業するほど頭も良い彼は貴族の令嬢たちの憧れの的であったが、何故か浮ついた話は無く縁談も全て断っていたらしいので、シェリルは自分で良いのか不思議に思うが彼の婚約者となることを了承した。 「君のような女性を待っていた。その泣きぼくろも、鼻筋も全て理想だよ」 やたらとシェリルの容姿を褒めるナッシュ。 褒められて悪い気がしなかったが、両家の顔合わせの日、ナッシュの母親デイジーと自分の容姿が似ていることに気付き少しだけ彼女は嫌な予感を抱く。 さらに婚約してひと月が経過した頃……デイジーが血相を変えてシェリルの元を訪ねた。 「ナッシュの子を妊娠した。あなたの子として育ててくれない?」 シェリルは一瞬で婚約破棄して逃げ出すことを決意する。

不倫がしたいのですね、いいですよご勝手に。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられたのは不倫の承諾。 結婚三年目の衝撃的な出来事に私は唖然となる。 その後、私は不倫を認めるが……

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

三度の飯より犬好きな悪役令嬢は辺境で犬とスローライフがしたい

平山和人
恋愛
名門貴族であるコーネリア家の一人娘、クロエは容姿端麗、文武両道な才女として名を馳せている。 そんな彼女の秘密は大の犬好き。しかし、コーネリア家の令嬢として相応しい人物になるべく、その事は周囲には秘密にしている。 そんなある日、クロエに第一王子ラインハルトとの婚約話が持ち上がる。王子と婚約してしまったら犬と遊ぶ時間が無くなってしまう。 そう危惧したクロエはなんとしても婚約を破棄し、今まで通り犬を飼える立場になろうと企む。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...