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第1部 メアリー・グレヴィル

第22話

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 だが、そう私が考えたその日の夜、チャールズの方から、アンについての話が切り出された。
 あくまでも結果的にだが、ある意味、私はキャロラインのことにかまけすぎて、アンのことを後回しにし過ぎており、アンの行動が先んじてしまっていたのだ。

「アンが、私の叔父、ヘンリー大公に嫁ぎたい、ヘンリー大公に想い人はいるの?と尋ねてきたんだ。メアリ、君はどう想う?」
「どう想う、と言われても、すぐには答えられないわ」
「そうだよね」
 チャールズは、私の答えに、自分でも予期していたのだろう、半ば自問自答してしまった。

 私は、考えを巡らせた。
「ちょっと、一晩、独りで考えさせてくれない。あなたは、サマンサかエスメラルダのところに泊まって」
 私は、そう言って、チャールズを夫婦の寝室から追い出しながら、事の重大さから、却って別のことを想った。
 何で、こんな世界に来たのだろう。
 自分の作った世界だが、正妻の私が、夫に愛人のところに泊まれ、と勧める世界なんて、とち狂っている。

 さて、何で、私がそこまで、このことを突き詰めて考えたか、というと。
 原作世界でも、ヘンリー大公とアンは結婚しているが、前提条件がまるで異なっているからなのだ。
 原作世界なら、ヘンリー大公とアンの結婚は祝福されたのだが、この世界では祝福されない。

 原作世界では、アンの産んだ娘、キャロラインは、チャールズの母が引き取って育てることになり、アンの視界の中でキャロラインは育たなかった。
 実母として、アンはキャロラインのことが心配で、チャールズとキャロラインのことで手紙のやり取りをし、そのことを、メアリが知ってしまい、メアリは、アンがチャールズを誘惑したと誤解し、騒ぎ立てるのだ。
 更に、アンもチャールズも、その手紙の内容(言うまでもなく、キャロラインが二人の間の娘と書かれている)をメアリに見せなかったから、その騒ぎが本当だ、と周囲も想ってしまう。
 かと言って、チャールズもアンも真実は、と話す訳には行かない。
 何しろ、二人の関係は、メアリがいる限り、タブー、禁忌とされる関係だからだ。

 結局、アンは、メアリに絶縁宣言を受けて、実父の下に身を寄せ、ほとぼりが冷めるのを待つ身となる。
(チャールズは、メアリに表面上は詫びを入れ、冷たい夫婦関係になる)
 そして、アンに同情した実父は、ヘンリー大公に、どうしたものか、と相談を持ち掛けるのだ。

 ヘンリー大公は、アンの美貌を、チャールズとメアリの結婚式の際に見ていたこともあり、アンに同情して、アンと自分の結婚を申し出る。
 ただ、アンが醜聞塗れであることから、取りあえずは第二夫人として迎える、と言い出し、アンも、醜聞を晴らすのにそれがいいのでは、と想ってヘンリー大公との結婚を受け入れる。

 その後、叔父との結婚を聞いたチャールズが暴走して、アンに半ば強引に再度の関係を迫った結果、秘密の子、エドワードをアンが妊娠出産し、ヘンリーは、自分とアンとの間の子として、エドワードを披露する等の事態が展開していくことになるのだが。

 今の状況は、それとはまったく異なっている。

 アンは全く醜聞に塗れておらず、逆に求婚者が門前に市をなす、といってよい有様なのだ。
 その求婚者の中には、元皇帝ジェームズや皇帝ジョンもいる、という有様にもなっている。
 そして、そのことを聞いた求婚者の一部は、帝室に逆らっている、と誤解されては、と求婚を諦める事態が巻き起こりつつあるのだ。

 そうした中で、ヘンリー大公に対し、アンが結婚したい、と言い出すとは。
 帝室と大公家の対立、埋火に大量の油をぶちまける事態になりかねない。
 私は酷い頭痛を覚え、チャールズも同様なのだろう、と推察した。
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