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第1部 メアリー・グレヴィル
幕間(チャールズー3)
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僕は、密やかに思いつく限りの伝手を使って、彼女、アンにお詫びの手紙を送った。
決して君を傷つけるつもりはなかった。
君に対して、できるかぎりのことをする。
でも。
彼女、アンに対して、残酷なことを、どうしても書かざるを得なかった。
君とは、それこそ妻のメアリが死んだとしても、再婚はできない、そうメアリとの結婚の際に誓ったと。
彼女からの手紙、返事は、僕を強く責めるものではなかった。
それが、却って僕にはつらかった。
更に。
彼女は、たった1回の僕との関係で妊娠してしまった。
彼女も、中々信じたくなかったらしい。
だから、そのことを僕が知ったのは、皮肉にも、妻のメアリが妊娠したのとほぼ同時だった。
そうだ、メアリだ。
どうして、彼女の希望を、僕は受け入れなかったのだろう。
もし、彼女の希望通り、僕が15歳になった時に、すぐに彼女と結婚、いや、同棲していれば、アンがメアリの妹だということが分かっていた筈なのだ。
更に、彼女が素晴らしい女性だということも分かっていた筈だ。
それなのに。
手紙でのやり取りで、僕は彼女を誤解していて、彼女から逃げ回ってしまったのだ。
その失敗は、余りにも大きかった。
そのために、アンもメアリも結果的に傷つけることになってしまったのだ。
僕は嘆かざるを得ず、更にどうにも取り返しのつかない現実に直面せざるを得なかった。
そして。
メアリは妊娠したものの流産してしまった。
一方、アンは無事に出産までこぎつけ、娘のキャロラインを産んだ。
だが。
メアリの妊娠は、共に安産のお祈りを教会に行って盛大にする等、祝福されるものだったのに。
アンの妊娠は、完全に日陰のこととなり、教会で密やかに祈ってもらうしかなかったのだ。
アンが僕を責める態度を、手紙で示さないのが、却って僕にはつらかった。
妻のメアリの疑念を呼ばないように、僕とアンは手紙のみで連絡を取るしかなかったのだ。
アンが産んだキャロラインについて、散々、僕は悩んだ末に、妻のメアリに相談することにした。
勿論、キャロラインの本当の母、アンについては伏せた上でだ。
メアリは本当に理想的な妻で、僕が愛人や召人を持つことを寛大に認める、というし、もし、子どもができたら、自分の子、つまり、僕とメアリの間の養子にしたい、という程だ。
それで、相談してみたところ。
メアリは、すぐにその子を僕との間の養子にしたい、と言い出した。
「だって、あなたの子は、私の子でもあるのよ」
とメアリは笑って言ってくれた。
僕は本当に驚いた。
建前では、そう言っていても、実際にそうなったら、そういった子ども、自分が産んだ以外の子どもを拒絶する妻は、実際には珍しくない話だ。
それなのに、メアリは。
僕は、何てことをしてしまったのだろう。
本当にメアリの希望通り、早くメアリと結婚すべきだった。
そうしていれば、こんなことにはならなかったのに。
でも、今更、時を戻すことはできない。
アンへの僕の恋情は、永遠に封印して、永訣せねばならない。
それが、お互いの為なのだ。
そして、キャロラインは、僕とメアリの間の子として育てよう。
(なお、キャロラインの贋の母親は、マイトラント家がでっち上げてくれた。
マイトラント家にしてみれば、大公家に恩を着せられる絶好の話だったのだ)
アンに対しては、彼女の希望を最大限に叶えることで、せめてものお詫びにするしかない。
僕は、このキャロラインが産まれた前後、そう考えて行動した。
アンも現実を踏まえて、それで納得してくれる、と僕は想っていた。
でも。
アンは表面上は納得したように振舞ったが、実際には納得していなかった。
そのために。
後々、アンに僕やその周囲は振り回されてしまうことになった。
決して君を傷つけるつもりはなかった。
君に対して、できるかぎりのことをする。
でも。
彼女、アンに対して、残酷なことを、どうしても書かざるを得なかった。
君とは、それこそ妻のメアリが死んだとしても、再婚はできない、そうメアリとの結婚の際に誓ったと。
彼女からの手紙、返事は、僕を強く責めるものではなかった。
それが、却って僕にはつらかった。
更に。
彼女は、たった1回の僕との関係で妊娠してしまった。
彼女も、中々信じたくなかったらしい。
だから、そのことを僕が知ったのは、皮肉にも、妻のメアリが妊娠したのとほぼ同時だった。
そうだ、メアリだ。
どうして、彼女の希望を、僕は受け入れなかったのだろう。
もし、彼女の希望通り、僕が15歳になった時に、すぐに彼女と結婚、いや、同棲していれば、アンがメアリの妹だということが分かっていた筈なのだ。
更に、彼女が素晴らしい女性だということも分かっていた筈だ。
それなのに。
手紙でのやり取りで、僕は彼女を誤解していて、彼女から逃げ回ってしまったのだ。
その失敗は、余りにも大きかった。
そのために、アンもメアリも結果的に傷つけることになってしまったのだ。
僕は嘆かざるを得ず、更にどうにも取り返しのつかない現実に直面せざるを得なかった。
そして。
メアリは妊娠したものの流産してしまった。
一方、アンは無事に出産までこぎつけ、娘のキャロラインを産んだ。
だが。
メアリの妊娠は、共に安産のお祈りを教会に行って盛大にする等、祝福されるものだったのに。
アンの妊娠は、完全に日陰のこととなり、教会で密やかに祈ってもらうしかなかったのだ。
アンが僕を責める態度を、手紙で示さないのが、却って僕にはつらかった。
妻のメアリの疑念を呼ばないように、僕とアンは手紙のみで連絡を取るしかなかったのだ。
アンが産んだキャロラインについて、散々、僕は悩んだ末に、妻のメアリに相談することにした。
勿論、キャロラインの本当の母、アンについては伏せた上でだ。
メアリは本当に理想的な妻で、僕が愛人や召人を持つことを寛大に認める、というし、もし、子どもができたら、自分の子、つまり、僕とメアリの間の養子にしたい、という程だ。
それで、相談してみたところ。
メアリは、すぐにその子を僕との間の養子にしたい、と言い出した。
「だって、あなたの子は、私の子でもあるのよ」
とメアリは笑って言ってくれた。
僕は本当に驚いた。
建前では、そう言っていても、実際にそうなったら、そういった子ども、自分が産んだ以外の子どもを拒絶する妻は、実際には珍しくない話だ。
それなのに、メアリは。
僕は、何てことをしてしまったのだろう。
本当にメアリの希望通り、早くメアリと結婚すべきだった。
そうしていれば、こんなことにはならなかったのに。
でも、今更、時を戻すことはできない。
アンへの僕の恋情は、永遠に封印して、永訣せねばならない。
それが、お互いの為なのだ。
そして、キャロラインは、僕とメアリの間の子として育てよう。
(なお、キャロラインの贋の母親は、マイトラント家がでっち上げてくれた。
マイトラント家にしてみれば、大公家に恩を着せられる絶好の話だったのだ)
アンに対しては、彼女の希望を最大限に叶えることで、せめてものお詫びにするしかない。
僕は、このキャロラインが産まれた前後、そう考えて行動した。
アンも現実を踏まえて、それで納得してくれる、と僕は想っていた。
でも。
アンは表面上は納得したように振舞ったが、実際には納得していなかった。
そのために。
後々、アンに僕やその周囲は振り回されてしまうことになった。
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