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第1部 メアリー・グレヴィル

第15話

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 自分が考えた苛めを、自分が受ける、ということは中々無い体験だ。
 私は、そんなことを内心で考えざるを得なかった。
 今、私は、宮中の秋の園遊会に、夫のチャールズと共に出席している。

 そして、園遊会に出席している貴族の方々と挨拶を交わすことになるのだが。

「妹が、先日来、お見えにならない、と嘆いておりました。せめて、お手紙なりとも」
「私の娘を宮中女官に推挙していただけないでしょうか。ご無理なら、お傍の侍女でも構いません。勿論、それなりのことは受け入れる、と娘は言っております」
 チャールズに、男性の下級貴族が、相次いで声をかけてくる。
 更に、その傍らにいる女性、つまり、その妻も。

「私の義妹を、どうか疎んじないで下さい」
「私の可愛い娘ですので、どうかよろしくお願いします」
 等々の声を、掛けてくる。

 21世紀の日本生まれの私としては。
 もう少し、妹や娘を大事にしろ、と怒鳴りたくなってくる。
 要するに、妹や娘に、チャールズと愛人関係を続けるなり、愛人関係を持つなりして欲しいのだ。
 しかし、これが自分の考えた、この世界の現実なのだ。
 自分のしたことが、自分にブーメランとして直に還ってくる不快感を、私は覚えざるを得なかった。

 さて、園遊会の場が、何でこんな事態を引き起こすかだが。

 この世界は、基本的に身分制社会であり、貴族は、それなりに体面を保つ必要がある。
 しかし、実際問題として、そうそう仕事が皆にある訳ではない。
 そして、仕事にあぶれてしまうと、体面が保てなくなる訳だ。
 だから、それこそ、自分の妹や娘を、上級貴族、具体的に言えば、帝室や大公家に差し出してても、下級貴族は求職活動をすることになるのだ。
 貴族は食わねど高楊枝、等、口が裂けても言える話では無いのだ。

 そして、チャールズは10代後半の若い盛りということもあり、私と結婚するまで、それなりに遊んでいた。
 原作者として私の知る限りだが、延べにして召人2人に、通いの愛人5人といった所か。
 そのことから、その女性の身内は、就職等で、それなりの見返りを得ていたのだ。

 更に言うなら、チャールズは、結婚後も暫くはそんなことをすると周囲から見られていた。
(なお、この世界の感覚で言えば、チャールズは、そんなに酷いことはしていない。
 10代後半の若い独身男性の上級貴族なら、よくあるレベルだ)

 ところが、そういった男女間でのお互いに割り切った関係(相手の女性も、チャールズに他の女性がいることを知った上で、関係を結んでいる)を、チャールズは、私と結婚して以来、一切止めてしまったのだ。
 言うまでもなく、私に溺れてしまったせいだ。
 勿論、召人も同居させていない。

 それ故に、かつて関係を持っていた女性の親族は、慌てふためき、再度、関係を持って欲しい、と暗にチャールズに働きかける事態等が起きているのだ。
 このままチャールズに、身内が捨てられては、自分が甘い汁が吸えなくなる、と想うからだ。


 私は(内心で)溜息を吐いた。
 こんなことは言いたくない、だが、礼儀としては。
「あなた、それなりのことは引き続きしてください」
 全く何で妻の私が、夫に愛人を引き続き持つように勧めねばならないのだ。
 
 もっとも、私にもある程度の必要性がある。
 原作設定通りなら、私には子どもが産めないのだ。
 そして、大公家を絶やさない、となると。
 他の女性にチャールズとの子を産んでもらうしかない。
 貴族社会の宿命に、私は溜息しかでない。

 21世紀の日本なら、赤の他人でも養子を迎えれば済むが、この世界では濃い血縁者しか養子にできない。
 そして、チャールズの周囲で、濃い血縁者は年長のヘンリー大公だけだ。
 つまり、大公家は、お家断絶の危機にあるのだ。
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