3 / 120
第1部 メアリー・グレヴィル
第1話
しおりを挟む
「メアリー、今日は婚約が調った証として、婚約者に逢いに行くよ」
「はい」
父の言葉に、私は表面上は、素直に返事をしたが。
その時の内心では、どうにも気が進まなかった。
何しろ、私はどうせ表面上の妻にしかなれない気がしてならないのだ。
チャールズか、彼女の画のとおりなら、文句なしの美少年の筈。
だから、その姿を見て、妻として寄り添って、と考えれば、心が浮き立つはずなのだが。
原作通りなら、チャールズの心は私を向いてくれない。
私ではなく、妹のアンに惚れ込んでしまうのだ。
それが、分かっている私は、(内心に留めたが)溜息しか出なかった。
だが。
馬車に乗り、大公家の大邸宅の一つに私達が到着して。
更に、大公家の次期当主であるチャールズの姿を私が見た瞬間、私の想いは吹き飛んだ。
無理なのは分かっている、でも。
彼が、私を女、彼女として見てくれなくてもいい。
名目上の妻としてでも、私を彼が重んじてくれるならば、と夢見てしまったのだ。
彼が私の婚約者である、ということが嬉しくてならなかった。
断じて、妹のアンに譲ってなるものか。
と、心の想いが暴走を始めた瞬間、私は我に返った。
私のバカ、大バカ。
私は、子どもが産めない身ではないか。
後悔、先に立たずとはいえ、何と自らに酷い設定を、かつての私はしてしまったのだ。
この世界の人間の誰一人、私がそんな身とは思わないだろう。
実際、普通に生理は来るし、かつての前世、21世紀の日本であれば、将来、私は水着モデルが務まる程の抜群のスタイルと、更に美人コンテストに出場できるくらいの美貌を、15歳ながらも持っている。
(もっとも、将来、妹のアンには見劣りしてしまうだろう。
原作通り、妹のアンは、まだ9歳だが、私自身が自認する程、将来、有望な美貌を持っている)
しかし。
私は、前世の記憶が蘇った瞬間。
更に、自分の願いが叶ったとはいえ、それが自業自得とは言え、それが自分が地獄に飛び込んだことに気付いた瞬間だったのを、あらためて想い起こした。
「メアリー。グレヴィル公爵家の長女として、将来は、幸せを掴むのだ」
「もう、3歳の誕生日を迎えたばかりの女の子にそんなことを言って、理解できるものですか」
「全くだが。皇帝の孫娘として、皇族公爵であるグレヴィル家の長女として、自覚を持ってもらわねばな」
「確かにその通りですけどね」
私の誕生日を、私の両親とその召使いたちが祝ってくれる楽しいパーティーの最中だった。
そう、私の3歳の誕生日は、私にとって、とても楽しい日だった筈なのに。
この私の目の前での両親の会話が、私の前世の記憶と、この世界の知識を取り戻させるキーワードになった。
「私の名前、メアリー・グレヴィル」
「そうだよ」
父の答えに、私は真っ青になった。
皇帝の孫娘、皇族公爵家の長女、どう考えても、私が原作者だった「暁星に願いを」の世界のメアリー・グレヴィルに、私は転生している。
このまま原作通りの人生を、私がたどるなら、私の目の前に待っているのは、狂い死にするという、ある意味、最悪の運命だ。
何としても、運命を変えないといけない。
でも、どうやって。
「メアリー、どうしたの。顔色が急に悪くなったわ。気分が悪いの」
「ごめんなさい。折角の私の誕生日パーティーの最中なのに。何だか急に気分が悪くなって。ベッドで寝ていい?」
「そうなのか。それなら、パーティーは、ここまでにしよう。メアリー、乳母に付き添ってもらって、ベッドでゆっくり寝なさい。早く気分が良くなるといいね」
「はい」
母と父の言葉を聞き、私は。両親や周囲を誤魔化しつつ、ベッドに潜り込んで、自分が原作を描いた漫画「暁星に願いを」のことを思い起こしていった。
「はい」
父の言葉に、私は表面上は、素直に返事をしたが。
その時の内心では、どうにも気が進まなかった。
何しろ、私はどうせ表面上の妻にしかなれない気がしてならないのだ。
チャールズか、彼女の画のとおりなら、文句なしの美少年の筈。
だから、その姿を見て、妻として寄り添って、と考えれば、心が浮き立つはずなのだが。
原作通りなら、チャールズの心は私を向いてくれない。
私ではなく、妹のアンに惚れ込んでしまうのだ。
それが、分かっている私は、(内心に留めたが)溜息しか出なかった。
だが。
馬車に乗り、大公家の大邸宅の一つに私達が到着して。
更に、大公家の次期当主であるチャールズの姿を私が見た瞬間、私の想いは吹き飛んだ。
無理なのは分かっている、でも。
彼が、私を女、彼女として見てくれなくてもいい。
名目上の妻としてでも、私を彼が重んじてくれるならば、と夢見てしまったのだ。
彼が私の婚約者である、ということが嬉しくてならなかった。
断じて、妹のアンに譲ってなるものか。
と、心の想いが暴走を始めた瞬間、私は我に返った。
私のバカ、大バカ。
私は、子どもが産めない身ではないか。
後悔、先に立たずとはいえ、何と自らに酷い設定を、かつての私はしてしまったのだ。
この世界の人間の誰一人、私がそんな身とは思わないだろう。
実際、普通に生理は来るし、かつての前世、21世紀の日本であれば、将来、私は水着モデルが務まる程の抜群のスタイルと、更に美人コンテストに出場できるくらいの美貌を、15歳ながらも持っている。
(もっとも、将来、妹のアンには見劣りしてしまうだろう。
原作通り、妹のアンは、まだ9歳だが、私自身が自認する程、将来、有望な美貌を持っている)
しかし。
私は、前世の記憶が蘇った瞬間。
更に、自分の願いが叶ったとはいえ、それが自業自得とは言え、それが自分が地獄に飛び込んだことに気付いた瞬間だったのを、あらためて想い起こした。
「メアリー。グレヴィル公爵家の長女として、将来は、幸せを掴むのだ」
「もう、3歳の誕生日を迎えたばかりの女の子にそんなことを言って、理解できるものですか」
「全くだが。皇帝の孫娘として、皇族公爵であるグレヴィル家の長女として、自覚を持ってもらわねばな」
「確かにその通りですけどね」
私の誕生日を、私の両親とその召使いたちが祝ってくれる楽しいパーティーの最中だった。
そう、私の3歳の誕生日は、私にとって、とても楽しい日だった筈なのに。
この私の目の前での両親の会話が、私の前世の記憶と、この世界の知識を取り戻させるキーワードになった。
「私の名前、メアリー・グレヴィル」
「そうだよ」
父の答えに、私は真っ青になった。
皇帝の孫娘、皇族公爵家の長女、どう考えても、私が原作者だった「暁星に願いを」の世界のメアリー・グレヴィルに、私は転生している。
このまま原作通りの人生を、私がたどるなら、私の目の前に待っているのは、狂い死にするという、ある意味、最悪の運命だ。
何としても、運命を変えないといけない。
でも、どうやって。
「メアリー、どうしたの。顔色が急に悪くなったわ。気分が悪いの」
「ごめんなさい。折角の私の誕生日パーティーの最中なのに。何だか急に気分が悪くなって。ベッドで寝ていい?」
「そうなのか。それなら、パーティーは、ここまでにしよう。メアリー、乳母に付き添ってもらって、ベッドでゆっくり寝なさい。早く気分が良くなるといいね」
「はい」
母と父の言葉を聞き、私は。両親や周囲を誤魔化しつつ、ベッドに潜り込んで、自分が原作を描いた漫画「暁星に願いを」のことを思い起こしていった。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる