土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第10章 城山における最後の戦い

第3話

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「馬鹿者、逃がしましたで済むか」
 西郷軍の突破について報告に来た三好重臣第2旅団長を、山県有朋参軍は、開口一番に烈火の如く叱り飛ばした。
 可愛岳突破に西郷軍が成功したのは、三好第2旅団長が西郷軍の奇襲に際し、油断していて部下の掌握に失敗したのが最大の要因だったから、山県参軍が叱り飛ばすのも無理はない話だった。

「ともかく西郷軍がどこに行ったのか、速やかに探せ」
 山県参軍の厳命が下った。
 だが、突破に成功した西郷軍の行方は、少数でばらばらになっていたこともあり、中々掴めなかった。
 それで、山県参軍は、西郷軍の進出先として疑われる大分、熊本、加治木等に部隊を先回りさせるために分散させざるを得ず、政府軍は拡散した。
 更に、政府軍には悪いことがあった。

 この時代、有線通信はあったが、無線通信はないのだ。
 従って、一旦、部隊を乗船させてしまうと、下船するまで部隊に連絡をとる手段がないのである。
 後の鹿児島攻防戦に際し、結局、その場の政府軍が、海兵旅団しかいなかったのは、これが最大の要因だった。

 山県参軍に、可愛岳の突破に成功した西郷軍の確実な動向が把握されたのは、8月23日のことだった。
 8月21日に三田井の補給処が、西郷軍に襲撃された。
 更に、そこに現れた西郷軍の兵力から類推して、西郷軍の残存兵力の全てが集まっている、と山県参軍は考えざるを得なかった。
 それでは、このまとまった西郷軍はどこに行こうとしているのか。

 三田井に西郷軍が現れたということは、熊本に西郷軍が向かう公算が最も高い、と山県参軍は判断した。
 そのため、更に一部の部隊を乗船させ、熊本へと、山県参軍は向かわせた。
 そのうえで、乗船できない部隊で、西郷軍の追撃を政府軍は開始することになったが、大部隊のために山間部の進軍は中々進まない。
 一方の西郷軍は、皮肉なことに小部隊なので、山間部の進軍が相対的に速かった。
 陸路を進む政府軍は、西郷軍の進軍速度に追いつけず、徐々に引き離されてしまった。
 そして。

 海路、加治木に配置されていた政府軍は、第2旅団の約2000名だった。
 万が一、西郷軍が鹿児島方面に向かった際に、阻止できるようにということで配置されていた。
 実際に西郷軍は500名余りになっていたから、普通に考えれば、第2旅団によって阻止できる筈だった。
 だが、鹿児島に向かっていた西郷軍の兵は死兵だった。
 何としても鹿児島に西郷さんを帰らせる、その思いに駆られていた。
 8月29日の早朝、朝焼けの中、辺見十郎太らを先頭に、西郷軍は錐のように加治木の第2旅団に突入した。

「何としても西郷さを連れて鹿児島へと帰りもんそ」
 西郷軍の兵はその想いで、第2旅団の兵に喚きかかったのだ。

「あれは人間ではありませんでした。
 死を覚悟した西郷軍の兵は、関が原の島津の退き口を想わせるものでした」
 加治木の戦いを経験した第2旅団の兵の1人は、後に取材に来た犬養毅に語ったという。
 西郷軍は、第2旅団をたちまちのうちに突破し、鹿児島へと向かった。

「鹿児島の灯りが見えるぞ」
 8月31日の夜の内に、鹿児島へ入ろうと急行する西郷軍の先頭の兵の1人が叫んだ。
 後に続く西郷軍の兵の目にも、徐々に鹿児島の灯りが見えてきた。
 だが、彼らの目に次に映ったのは、西郷軍の鹿児島突入を阻止するために、主に稲荷川を盾として構えられた海兵隊の堅陣だった。
 更に夜目にも、その陣地の中央に白地に誠の旗が、高々と翻っているのが見えた。

「最後まで、我らの前に立ち塞がろうというのか、新選組は」
 この光景を見た桐野利秋をはじめとして、西郷軍の幹部が兵が口々に叫ぶことになった。
 その中には、辛うじてここまでついてきた小倉処平もいた。
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