土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第9章 鹿児島上陸作戦と鹿児島占領

第7話

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 そんな風に、鹿児島では第4海兵大隊が苦戦を強いられていた頃。

 それ以外の海兵隊は、人吉攻防戦で勝利を収めた後、6月1日に、山県有朋参軍の命令により、人吉から鹿児島へと転進することになった。
 だが、人吉から鹿児島への最短の陸路は、未だに西郷軍にほぼ制圧されている状況下にあった。
 そのため、土方歳三少佐は、人吉に駐屯している海兵隊の最高司令官として、長崎にいる海兵旅団長の大鳥圭介大佐と電信で協議した末、八代港までは陸路で移動し、八代港からは海路で鹿児島へと向かうことにした。

 人吉から八代港までは、60キロ近くある上に、早急に進軍するのには向かない山道が大半だった。
 6月2日朝に、人吉からの移動を開始した海兵隊は、そういった事情から、6月4日の夕刻に八代港に到着した。
 八代港に到着した土方少佐は、思わず目を見張った。
 そこには、事前連絡なく、大鳥大佐が補充兵と共に、人吉からの海兵隊の到着を待っていたのだ。
 やや遅れて八代港に到着した林忠崇大尉も、大鳥大佐がいることに驚く羽目になった。

「驚かせてすまない。だが、いよいよ海兵隊も指揮官がいないのだ」
 林大尉まで揃った段階で、開口一番に大鳥大佐は言った。

「滝川充太郎少佐まで戦死するとはな。
 荒井郁之助海兵局長も電信でのやり取りだが、苦慮されているのが分かった。
 今、一番妥当な大隊長人事は、土方少佐を第1海兵大隊に大隊長として転属させ、本多幸七郎少佐を第2海兵大隊長に、林大尉を少佐に昇進させたうえで第3海兵大隊長に、北白川宮大尉も少佐に昇進させて第4海兵大隊長にするあたりだろう。

 だが、土方少佐は子飼いともいえる第3海兵大隊から離れたくないだろうし、第3海兵大隊の兵も、幾ら後任が林大尉とはいえ難色を示すだろう。
 短期間で3人目の指揮官を迎える第1海兵大隊の兵も似たようなものだ。
 本多少佐に至っては鹿児島で奮戦中だしな。

 そういったことから、第1海兵大隊長は不在として、私が第2海兵大隊長を兼務することになった。
 最も鹿児島解放までの一時的なものだ。
 鹿児島の第4海兵大隊と合流できたら、第2海兵大隊長は本多少佐にして、第4海兵大隊長は少佐に昇任のうえで北白川宮大尉が就任することになっている」
 大鳥大佐は、土方少佐と林大尉に、長々と事情を説明した。

 お手玉みたいな人事異動だな、と土方少佐は内心で想わざるを得なかった。
 だが、ある意味、最善の人事異動だろう。
 幾ら林大尉が、実戦で奮闘して、抜群の功績を挙げているとはいえ、林大尉より年長の北白川宮大尉を差し置いて林大尉が少佐に昇任して大隊長というのは無理筋だろう。
 海兵隊に入隊したのも、北白川宮大尉の方が先になる。

 これが滝川少佐のように、北白川宮大尉よりも先に、林大尉が海兵隊に入っていたのなら、まだ言い訳が立つが。
 それに加えて、宮様で更に先任でということなので、どうしようもない。
 北白川宮様を、基本的に先に、せめて同時に大隊長にするしかない。
 土方少佐は自分でそう納得した。
 林大尉も内心ではどうかわからないが、表面上は納得のいった顔色をして、大鳥大佐の話を聞いている。

「安心しろ。実戦指揮は土方少佐に一任するから」
 大鳥大佐は更に言った。
 その一言を聞いて、土方少佐は笑いが堪えきれなくなった。

「戊辰戦争でのことを気にしておられますな」
 笑いながら、土方少佐は言った。

「まあな、わしは運の悪い指揮官だからな」
 大鳥大佐は真面目くさった顔で言った。
 戊辰戦争での大鳥大佐の実戦指揮は、悪くはなかったが、勝てずじまいだった。
 今の土方少佐の評価が高いのと大違いだ。

「謹んで実戦指揮を司らせていただきます」
 土方少佐も真面目くさった顔で答えた。
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