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第9章 鹿児島上陸作戦と鹿児島占領

第3話

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「青服がいるな」
 5月5日、桂久武は、舌打ちしながら呟いていた。
「これは苦労しそうだ」
 桂の眼前では、第4海兵大隊が胸壁等を築き上げ、西郷軍の鹿児島奪還作戦を阻止しようとしていた。

 鹿児島に政府軍が上陸してきたのを、西郷軍が把握したのは、4月27日当日のことだった。
 桂らは西郷軍の兵を募ることと、鹿児島県庁に対して、西郷軍に協力するように要請(恫喝)することのために、鹿児島に滞在していたのだが、鹿児島港の沖合に政府軍の船団が現れたのに自分達から気づき、速やかに鹿児島を脱出し、人吉の西郷軍司令部に、政府軍が鹿児島に上陸したことを急報するために向かったのだった。
 何故かというと。

 島津久光の横槍等のために、桂らの手元には、兵はいないといっても過言では無い有様で、命からがら桂らは鹿児島から逃げ出すしかなかったのである。
 人吉の西郷軍司令部は、政府軍が鹿児島に上陸したとの桂らからの急報を受け、鹿児島奪還のために、別府晋介を総司令官とする振武隊、行進隊等の部隊を急きょ派遣した。
 桂らはそれに同行して、鹿児島奪還作戦に従事することになった。
 また、政府軍が鹿児島に上陸したと聞きつけ、郷土防衛のために、新たに西郷軍に志願する者もおり、彼らをかき集めた部隊も、西郷軍において急きょ編制された。

 こういった動きに対処することや、鹿児島の街では上陸してきた政府軍に対する反発が強く、西郷軍に陰に陽に協力しようとする者が多数いると見られたことから、鹿児島に上陸した政府軍を指揮する川村純義参軍も至急、増援を山県有朋参軍に求めることになった。
 山県参軍は、これに対して第4旅団を中核とする増援部隊を鹿児島に急派した。
 結果的に5月4日に、第4旅団等は海路から鹿児島に到着し、5月5日から始まった西郷軍の鹿児島奪還作戦に、この増援部隊は辛うじて間に合った。
 そして、5月5日から。

 桂の率いる部隊は、甲突川で第4海兵大隊と対峙して交戦することになったが、桂の敵は、前面の第4海兵大隊だけではなかった。
 海からは、政府軍の軍艦による艦砲射撃が、支援砲撃として行われたのだった。
 海岸に西郷軍の堡塁は無く、桂の部隊には、数少ない西郷軍の砲兵が、別府から回されなかったので、その点でも桂は苦戦を強いられることになった。

 最も仮に桂らに砲兵を回されていても、数十門単位で回されなかったら、艦砲射撃には対抗できないし、鹿児島奪還作戦に投入された西郷軍全軍を集めても、そんな大砲はどこにもなかったから、総司令官の別府の判断は、やむを得ないものと言える。

「開陽と甲鉄、いや東だったな、による艦砲射撃か。
 旧幕府海軍の軍艦から、我々に対する艦砲射撃を浴びせるとは。
 我々に対する嫌がらせだな」
 桂は呟かざるを得なかった。

 更に、単なる嫌がらせならまだしも、一方的に艦砲に撃たれるというのは、西郷軍の兵にとっては、たまったものではない。
 前面の陣地からの防御射撃もあり、桂の指揮下にある西郷軍の兵には、死傷者が続出してしまう。
 これでは、第4海兵大隊の陣地を攻撃するのは、無理筋である、と桂は判断せざるを得ない事態となった。

「やむを得ん、甲突川河口方面からの鹿児島奪還は断念する。
 艦砲の届かない内陸に迂回して、鹿児島奪還を目指す」
 桂は2日余り、甲突川河口方面からの甲突川渡河を策したが、続出する損害に耐えかねて、別府に対して、そのように意見を上申し、別府もそれを認めざるを得なかった。

 これ以降、甲突川河口方面の戦線は、平静を保つことになり、第4海兵大隊長の本多幸七郎は、1個中隊を監視に残し、残りの部隊を他方面に転出させて、他の陸軍等の支援に当たることが可能になった。
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