土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第9章 鹿児島上陸作戦と鹿児島占領

第1話

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 またも、時が戻る。

 4月24日、川村純義参軍は、山県有朋参軍と協議の上、4月27日を期して、鹿児島上陸作戦を行うことを正式に決定した。
 従前から川村参軍は、鹿児島上陸作戦案を海兵局の発案もあり、山県参軍に打診していたのだが、熊本城救援作戦が喫緊の課題であるとして優先されてきた経緯があった。
 だが、熊本城が完全に解放され、城東会戦にも政府軍が勝利した現在、政府軍の海軍力の優位を生かして、いよいよ西郷軍の根拠地である鹿児島を衝くべきである、という川村参軍の主張は筋が通っていた。

 この鹿児島上陸作戦には、別働第1旅団と警視隊に加え、海兵隊の最後の予備兵力ともいえる第4海兵大隊も加わることになった。
 第4海兵大隊は、弾薬補給の不足や長崎方面の治安維持のために、長崎に残置されていたのだが、弾薬事情の好転や警視隊が治安維持にも投入されたことにより、鹿児島上陸作戦に参加することが可能になったのだ。

「この光景をあの世から古屋佐久左衛門少佐らも見ておられるでしょうか」
 鹿児島上陸へと向かう輸送船団の中で、第4海兵大隊の副大隊長、北白川宮大尉は周囲を見回しながら言った。

「きっと見ている。
 そして、涙にむせんでいる。
 本当に、滝川充太郎少佐や土方歳三少佐らがこの場にいたら、きっと涙をこぼすぞ」
 第4海兵大隊長の本多幸七郎少佐が、自分も涙目になりながら、周囲を見回して言った。
 実際、第4海兵大隊に所属していて、戊辰戦争に参加して生き残った面々は、大なり小なり涙を浮かべていた。
 何故かというと。

 鹿児島上陸作戦を支援するために、旧幕府海軍の主力艦、「開陽」と「東(元の名は甲鉄)」が、鹿児島上陸作戦を行う輸送船団の側を航行していたのだ。

「開陽と甲鉄が、幕府海軍において、その実力を存分に発揮できていたら、戊辰戦争で、薩長の海軍に幕府海軍に対する勝算は全く無かったでしょう。
 もし、榎本提督が、慶喜公の命を盾に取られることなく、開陽と甲鉄を引き連れて、蝦夷地に移動して、そこに幕府軍の根拠地を築いていたら、薩長は蝦夷地の徳川家領有を認めるしか無かったでしょう」
 本多少佐は言った。

「そう考えると本当に夢のような光景ですね。
 かつての幕府海軍の最精鋭艦が鹿児島湾に乗り込むのですから、ここに慶喜公がおられたら完璧です」
「いや、今でも完璧に近いかもしれません」
「どういうことです」

「ここには、宮様がおられまする」
 本多は笑みを浮かべながら言った。
「奥羽越列藩同盟の盟主である輪王寺宮殿下を護衛しながら、鹿児島上陸作戦を実行するために、鹿児島へと向かう幕府海軍。
 講談話のタネになりそうな情景ですよ」

「はは、確かにそうですね」
 元は奥羽越列藩同盟の盟主、輪王寺宮であった北白川宮大尉は、苦笑いを浮かべながら、そう言った。

「冗談はそれまでにして、大尉は実戦は初めてです。
 私の傍で実戦の機微を学んでください。
 古屋佐久左衛門少佐でさえ戦死されています。
 どうかご注意を」
 本多少佐は、真顔になって言った。

 本音をいうと、海兵隊の総意としては、北白川宮大尉を、実戦には参加させたくなかった。
 旅団司令部等、やや安全なところに配置するのならともかく、第4海兵大隊副大隊長である以上、第1海兵副大隊長の林忠崇大尉と同様、最前線に近い位置に北白川宮大尉を配置せざるを得ない。
 当然、戦死の可能性も高いが、北白川宮大尉自身の希望や、明治天皇陛下からの勅命もあって、鹿児島上陸作戦に北白川宮大尉は、参加されていた。

「分かっています。充分に気を付けます」
 本多少佐の言葉に、北白川宮も表情を引き締めた。

 4月27日、第4海兵大隊は他の部隊と共に、鹿児島への上陸作戦を決行した。
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