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第8章 城東会戦と人吉攻防戦
第9話
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島田魁が、土方歳三少佐から醸し出される隔意を自覚したのは、八代から人吉への政府軍、海兵隊の侵攻が始まる直前のことだった。
それから10日余りが経ち、人吉へ難戦しながらも近づきつつある今も、土方少佐の隔意を島田は感じていた。
隔意というのとは、微妙に違う話かもしれない。
土方少佐、いや土方副長と呼ぶ方が自分には呼び慣れている、が自分たちから離れて遠くへ行きたがっている、いや死にたがっている気が、島田にはするのだった。
そして、幕末から今まで生きてきた自分の勘が、これは気のせいではない、大したことではないという考えは、絶対に誤りだという想いを、島田にさせていた。
そういったことから、幕末以来の新選組の仲間である永倉新八や斎藤一に、まずは自分の感覚を話すことを、島田は決めたのだった。
「やっぱり、島田もそう思ったか」
島田の問いに対する斎藤の第一声は、そうだった。
「自分もそう思ったが、自分の気のせいだと思いたかった。
だが、島田もそう思っているのなら、自分の気のせいではないな」
永倉も異口同音だった。
かといって、ことがことである。
島田、永倉、斎藤の3人は、こっそり集まって話し合うことにした。
「やはり、相馬主計ら、それに市村鉄之助の死が、直接的なきっかけだろうな」
永倉がまず言った。
相馬主計や市村鉄之助は、元新選組の隊員で、永倉達と同様に、西南戦争に海兵隊員に志願して参戦していたが、横平山の戦闘で奮戦の末に戦死していた。
「どういうことです」
斎藤が聞き返した。
「つまり、戊辰戦争で近藤局長をはじめとして多くの知人を失って、自分も戦場に散る、と想いながら、土方副長は戦ったのだろう。
だが、戊辰戦争が終わった際に、自分は生き延びていた。
その際に自決も考えたが、周囲の説得もあって、自分も生きようと思った。
だが、この戦争で、相馬主計ら多くの知人を、またも失った。
特に市村に至っては、事実上の小姓として、土方さんは可愛がっていたからな。
自分も戦場に散るべきではないか、と土方副長が、また思い出したのではないか、ということさ」
永倉は、しみじみと言った。
「分かりたくない気もしますが、分かる気がしますね」
それを聞いた島田が、ぽつんと言った。
「恐らく、林忠崇大尉は、土方副長の想いを、薄々察しているのだろう。
だから、第3海兵大隊を最前線に出すことを、土方副長の要望にも関わらず、避けるようにしているのだ」
永倉が更に言った。
「それでは、どうしたらいいと思います」
斎藤が言った。
「そうだなあ」
永倉は考え込んでしまった。
他の2人も同じだった。
「とりあえず、土方さんが最前線に立って、敵陣に飛び込んでいくというのは、この3人で押しとどめませんか」
島田が、意を決して言った。
「現実問題として、あの京で新選組として戦った時から10年余りが経ちます。
土方さんの最前線での腕が、あの頃からは落ちているのは事実です。
それは、土方さんも自認しているでしょう。
それを理由に、土方さんが最前線に立つのを押しとどめませんか」
「それが自分たちのできる精一杯でしょうね。
土方副長を、死出の旅路に送り出したくはありませんから」
斎藤が言った。
「確かにな、何とか、土方副長を奥さんの琴さんのもとに帰してあげないと。
子ども4人を抱えて、夫の土方副長を亡くしては、琴さんが気の毒だからな」
永倉が言った。
「それでは、その方向で皆で努力していきましょう」
島田が言った。
島田の言葉に、永倉や斎藤も肯いた。
だが、3人共、口には出さなかったが、内心では思っていた。
土方副長が死にたがっているのを、自分達が止められるだろうか。
いや、土方副長の想いを叶えるべきではないか。
それから10日余りが経ち、人吉へ難戦しながらも近づきつつある今も、土方少佐の隔意を島田は感じていた。
隔意というのとは、微妙に違う話かもしれない。
土方少佐、いや土方副長と呼ぶ方が自分には呼び慣れている、が自分たちから離れて遠くへ行きたがっている、いや死にたがっている気が、島田にはするのだった。
そして、幕末から今まで生きてきた自分の勘が、これは気のせいではない、大したことではないという考えは、絶対に誤りだという想いを、島田にさせていた。
そういったことから、幕末以来の新選組の仲間である永倉新八や斎藤一に、まずは自分の感覚を話すことを、島田は決めたのだった。
「やっぱり、島田もそう思ったか」
島田の問いに対する斎藤の第一声は、そうだった。
「自分もそう思ったが、自分の気のせいだと思いたかった。
だが、島田もそう思っているのなら、自分の気のせいではないな」
永倉も異口同音だった。
かといって、ことがことである。
島田、永倉、斎藤の3人は、こっそり集まって話し合うことにした。
「やはり、相馬主計ら、それに市村鉄之助の死が、直接的なきっかけだろうな」
永倉がまず言った。
相馬主計や市村鉄之助は、元新選組の隊員で、永倉達と同様に、西南戦争に海兵隊員に志願して参戦していたが、横平山の戦闘で奮戦の末に戦死していた。
「どういうことです」
斎藤が聞き返した。
「つまり、戊辰戦争で近藤局長をはじめとして多くの知人を失って、自分も戦場に散る、と想いながら、土方副長は戦ったのだろう。
だが、戊辰戦争が終わった際に、自分は生き延びていた。
その際に自決も考えたが、周囲の説得もあって、自分も生きようと思った。
だが、この戦争で、相馬主計ら多くの知人を、またも失った。
特に市村に至っては、事実上の小姓として、土方さんは可愛がっていたからな。
自分も戦場に散るべきではないか、と土方副長が、また思い出したのではないか、ということさ」
永倉は、しみじみと言った。
「分かりたくない気もしますが、分かる気がしますね」
それを聞いた島田が、ぽつんと言った。
「恐らく、林忠崇大尉は、土方副長の想いを、薄々察しているのだろう。
だから、第3海兵大隊を最前線に出すことを、土方副長の要望にも関わらず、避けるようにしているのだ」
永倉が更に言った。
「それでは、どうしたらいいと思います」
斎藤が言った。
「そうだなあ」
永倉は考え込んでしまった。
他の2人も同じだった。
「とりあえず、土方さんが最前線に立って、敵陣に飛び込んでいくというのは、この3人で押しとどめませんか」
島田が、意を決して言った。
「現実問題として、あの京で新選組として戦った時から10年余りが経ちます。
土方さんの最前線での腕が、あの頃からは落ちているのは事実です。
それは、土方さんも自認しているでしょう。
それを理由に、土方さんが最前線に立つのを押しとどめませんか」
「それが自分たちのできる精一杯でしょうね。
土方副長を、死出の旅路に送り出したくはありませんから」
斎藤が言った。
「確かにな、何とか、土方副長を奥さんの琴さんのもとに帰してあげないと。
子ども4人を抱えて、夫の土方副長を亡くしては、琴さんが気の毒だからな」
永倉が言った。
「それでは、その方向で皆で努力していきましょう」
島田が言った。
島田の言葉に、永倉や斎藤も肯いた。
だが、3人共、口には出さなかったが、内心では思っていた。
土方副長が死にたがっているのを、自分達が止められるだろうか。
いや、土方副長の想いを叶えるべきではないか。
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