土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第8章 城東会戦と人吉攻防戦

第4話

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 林忠崇大尉は地形を按じて、第1海兵大隊を西郷軍の陣地に突撃させた。
 無闇に突っ込むだけなら、素人でもできる、軍人なら巧みに地形を見て、被害を軽減するべきだ、と林大尉は内心で考えていた。
 それにしても死角が少ない良い陣地を西郷軍は作っているな、と林大尉は、舌打ちする思いをした。
 本当に、そう簡単に陣地が抜けないようにしてある。

 林大尉が、右手を遠望すると、第2海兵大隊も苦戦していた。
 砲兵が足りないからだな、と林大尉は考えた。
 ここに持ち込めた砲兵は、海兵隊自前の山砲中隊1個のみで、わずか6門に過ぎない。
 陸軍の砲兵の支援を、海兵隊は仰ぎたかったが、それぞれの直属の部隊の支援に忙しいので、海兵隊に回せる砲兵はない、と言われてしまっていた。
 最終的には白兵戦頼みになるな、林大尉は気が重かった。

 一方、海兵隊を迎え撃っている西郷軍の方は別の思いを抱えていた。

「さすがは海兵隊、重厚な攻めをしてくる」
 河野主一郎は素直に感嘆していた。
 海兵隊は、こちらが知恵を絞って作り上げた陣地の僅かな隙さえ突いて攻めてきており、下手にこちらが逆撃をかけると飲みこまれかねないような巧みさも垣間見せていた。
 こうなってくると、こちらの兵の少なさが恨めしくなってくる。
 目の前にいる海兵隊の総兵力は約2500程度、一方、こちらは1000に満たない寡兵である。
 延岡隊と連携して守備に努めているが、幾らなんでも限度というものがあった。

 滝川充太郎少佐は戦況を按じていたが、西郷軍に疲れの色が見えだしたことに気づいた。
 西郷軍の陣地も1、2か所が崩れだし、海兵隊が白兵戦に持ち込みだしたところもある。

「寡兵の悲しさだな。
 こちらは後方の新規の部隊を投入できるが、西郷軍にはそんな部隊はない」
 滝川少佐は、土方歳三少佐率いる第3海兵大隊の最前線投入を決め、崩れだした西郷軍の陣地突破を下令した。

「よし、突撃するぞ」
 土方少佐は欣喜雀躍の態を示した。
 ここまで、林大尉や滝川少佐により、後方で待機していたのだ。
 これまで溜まっていた鬱憤を晴らす絶好の機会だった。

「わしが先頭に立つ、異論はないな」
「大いにあります」
 永倉新八や斎藤一らは、声を揃えて反論した。
 永倉や斎藤は臨時に少尉に任官し、小隊長に任じられていたが、その階級以上に、これまでの土方との付き合いの長さから、土方に対して遠慮がなかった。

「土方少佐は、第3海兵大隊長です。
 指揮官として、私達の後についてきてください」
 永倉がいい、斎藤らも永倉に賛同した。

「わしの腕が信用できないのか、今の鬼の副長の腕は」
「はい、最前線指揮官としては」
 きっぱりと斎藤が言い放ち、永倉も肯いた。
 ここまで、言われては流石に土方も鼻白んだ。

「上官の命令に逆らうとはいい度胸だ、と言いたいが、そこまで言われては仕方ない。
 お前たちの後についていかせてもらう」
「ありがとうございます」
 永倉や斎藤は声をそろえて言った。

「第2海兵大隊が開けた、あの崩れた陣地に突っ込むぞ」
 永倉が先頭に立って、第3海兵大隊は突撃を開始した。

「畜生、こちらには予備はもうない」
 河野は呻いた。
 800名余りの疲労の無い部隊が、新たに敵に加わったのだ。
 今のこちらのほぼ全兵力に匹敵する。
 これでは防ぎようがない。
 そこに御船から急報が届いた。

「御船陥落、坂元隊は算を乱して敗走中、更にその政府軍が健軍を目指す模様だと。
 いかん、このままでは包囲殲滅される」
 ことここに至っては是非もなく、河野は自ら殿に立って、健軍を放棄し、退却を始めた。
 
 海兵隊は健軍を無事に占領したが。
 日没が近づいたこと、地理に不案内なことから追撃を断念した。
 ここに海兵隊にとって、城東会戦は終結した。
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