土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第8章 城東会戦と人吉攻防戦

第3話

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 西南戦争終結後、西南戦争の帰趨を完全に決めた一大会戦であり、政府軍と西郷軍がお互いに事前に計画を練り、総力を尽くし合った会戦であった、と城東会戦は一般に謳われている。
 だが、実際にその戦場にいた林忠崇は、この会戦後に海兵局に提出した報告書において、政府軍も、西郷軍も、お互いに事前計画を練っていたようだが、結果的には、大軍に作戦なしとばかりに政府軍が西郷軍に襲い掛かり、西郷軍もそれに対処しただけだ、と記載している。

 これは、余りにも酷い評価ではないか、と思われそうだが。
 この林忠崇の報告書を、裏から見せられた山県有朋自身が、苦笑しながらも、
「林め、間違ったことは書いておらんな」
 といったという根強い噂がある。
 それに、実際の城東会戦における各部隊の配置と戦況の推移を見る限り、林忠崇の評価も当たっているようだ。
 以下、実際の城東会戦における各部隊の配置を説明する。

 北から順に説明すると、政府軍の第1旅団、第2旅団、第3旅団が、大津を守る西郷軍の野村隊に襲い掛かり、第5旅団が長嶺を守る貴島隊に、第4旅団が保田窪を守る中島隊に、熊本鎮台隊と海兵隊が健軍を守る河野隊に、別働第1旅団、別働第2旅団、別働第3旅団が御船を守る坂元隊に、と(厳密に言えば、各部隊がきちんと対応しているわけではなく、大体の配置)政府軍は、西郷軍に対して攻撃を仕掛けている。
 しかし、政府軍は、十分な準備を整えて西郷軍に会戦を挑んだとはいえなかった。
 また、西郷軍も意見の分裂を引きずっていたこともあり、各部隊が半分遭遇戦を行うような形となったのだ。

 そして、海兵隊の城東会戦における戦いを主に述べるならば。

「海兵隊は第1海兵大隊を左翼の前線に、第2海兵大隊を右翼の前線に、第3海兵大隊を予備として配置のうえ、健軍攻略を目指す」
 4月20日黎明、滝川充太郎少佐は、隷下にある海兵隊の諸部隊に命令を発した。

 それまでは、熊本鎮台兵が、健軍奪還のための攻撃の主力を担っていたが、熊本鎮台兵は、籠城による飢餓等の消耗から完全には回復しておらず、更にその3日前には、参謀長の樺山資紀が負傷する等の損害も被っていたため、海兵隊が増援として、山県有朋参軍により健軍奪還に差し向けられ、熊本鎮台兵は後方に回されたのだった。
 そして、熊本鎮台兵に代わり、海兵隊が、健軍奪還の先陣を切ることになった。
 だが、この命令に対しては。

「待ってくれ、第2海兵大隊と第3海兵大隊は、逆にすべきだ。
 総指揮官の滝川少佐が、前線に近いのはまずい」
 第3海兵大隊長の土方歳三少佐から異論が出た。
 しかし、この異論に対しては。

「第2海兵大隊が一番損耗していないので、激戦が予想される右翼に置いた方がよいと考えます。
 第1海兵大隊と第3海兵大隊は再編制直後であり、練度に不安があります」
 第1海兵副大隊長(とはいえ大隊長が事実上不在なので、大隊長と言える)の林大尉が、滝川少佐に味方した。

「林大尉のいうとおりだと思う。
 それに、この場の最高指揮権は私にある」
 滝川少佐は、最終的にそう断じた。
 土方少佐は内心、不満を覚えたが、最高指揮権のある滝川少佐に最終的に従った。

「行くぞ」
 林大尉が、左翼の第1海兵大隊の先陣を切った。
 それを遠望した後、滝川少佐は隷下の第2海兵大隊に突撃を下令した。
 さすがに、指揮権を持つ以上、林大尉のように滝川少佐は先陣を切れない。
 配下の3個中隊が突撃していくのを、予備の1個中隊と共に見守るしかない。

「さすがに堅いな。熊本鎮台兵が苦戦しただけのことはある」
 滝川少佐は独語した。
 河野隊は、巧みに陣地を構えており、それを生かしていた。
 海兵隊にとり、城東会戦が始まった瞬間だった。
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