土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第7章 背面軍の奮闘と熊本城完全解囲

第9話

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 3月30日、林忠崇大尉は指揮下の第1海兵大隊を率いて植木に向かった。
 土方歳三少佐の率いる第3海兵大隊もそれに追随する。
 土方少佐は自分が先に行きたがったのだが、林大尉がそれを止めたのだった。

「土方少佐の方が上官です。
 上官を先に行かせて、部下が後に続くというのは不自然です。
 部下の私が先に行くので、土方少佐は後に続いてください」
 林大尉は、先日の抜刀隊編制直前の土方少佐との会話以来、土方少佐が内心で逝きたがっているのではないか、と何となく不安になっていた。
 古屋佐久左衛門少佐の戦死は、林大尉の内心の不安を増大させており、それもあって、第1海兵大隊を林大尉は先に行かせていた。

「待っていたぞ」
 植木に第1海兵大隊等が到着すると、山県有朋参軍が、川村純義参軍と共に、再編制が成った海兵隊2個大隊を出迎えた。
 土方少佐と林大尉は思わず恐縮した。
 事実上のトップともいえる参軍が2人揃って出迎えるなど、本来はあり得ないことだからだ。

「そう固くなるな。
 戦線が半分固定化してしまったので、積極的に動きようがないのだ。
 それに田原坂での最初の戦闘から横平山での戦闘、田原坂の突破までよく海兵隊は奮闘している。
 それに正直に言うと1か月近く再編制にはかかると思っていたのに、早、最前線に復帰とは嬉しい誤算だ。
 今後の奮闘に期待すると言いたいが、最前線は陸軍で既に固めてしまった。
 海兵隊には後方警備と予備の任務を与えたい」
「分かりました、全力を尽くします」
 山県参軍の言葉に、土方少佐らは答えたが、正直に言って拍子抜けする話だった。
 特に林大尉の思いは強かった。
 何のために、我々はあれだけ過労死寸前の状況に追い込まれたのだろう。

「ところで、新聞記者が君たちを取材したいと言って来ている。
 その許可を与えたので、君達は共に取材を受けてほしい」
「分かりました」
 土方少佐らはそう答えて、山県参軍の前を辞去した。

「郵便報知新聞の犬養毅です。
 どうかよろしくお願いします」
 林大尉の目の前の男はそう言った。

「はい、取材したいことがあるそうで」
 林大尉は、取りあえずは当たり障りのない答えをした。
 ちなみに、林大尉の横では、土方少佐がどう見ても仏頂面としか見えない顔をして座っていた。
 無理もない、と林大尉は思った。
 最前線に急行したら、後方警備の任務を与えられ、記者の取材を受けろと言われては、自分も仏頂面をしたい。

「海兵隊の多くは、旧幕府の方だとか。
 戊辰の復讐とか叫ばれているのでしょうか」
「京の復讐と西郷軍に叫ばれて困っているな。
 全くそこまで、我々が恨まれているとは思わなかった」
 土方少佐が、いきなり吐き捨てるように言った。

「いや、戊辰の復讐と叫んでいるのかと」
「そんなふうに復讐心をあおりたくないですな」
 思わず林大尉も言っていた。
 フランスでの経験も相まって、林大尉はそう言っていた。
 同じ日本の民ではないか、復讐心を新聞があおってどうするのだ。
「もし、部下がそう言っていたら私は止めます。
 この内戦が終わったら、同じ日本の民です」

「はあ」
 犬養と名乗った男は、毒気が抜かれたような顔をしてしまっていた。

「それでは失礼する」
 土方少佐はいきなり立ち上がり、林大尉にも随行するように身振りで示した。
 犬養と名乗った男が、呆然としている間に2人は去った。

「失礼だったのでは」
 林大尉は土方少佐に言った。

「どうにも気に食わなかった。
 最初に結論ありきみたいな取材だったからな。
 叫んでいないと言っても聞く耳を持ちそうになかった。
 京の復讐と言われているのは事実だがな」
 土方少佐は言った。

「私は京にいなかったのですがね。
 京の復讐と言われると微妙な気になりますな」
 林大尉も言った。
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