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第7章 背面軍の奮闘と熊本城完全解囲

第6話

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「突撃」
 4月8日黎明、奥保鞏少佐は、突囲隊に指名された部下の第13連隊第1大隊に対して号令をかけていた。

 奥少佐率いる第1大隊は、他の籠城している部隊の支援を受けつつ、突撃を開始した。
 熊本城を攻囲していた西郷軍は、完全に不意を突かれ、一時的に混乱した。
 これなら何とか突破できるな、と奥少佐が気を緩めた瞬間、頬に火箸を当てられたような感覚が走った。
 奥少佐が、左手で頬を抑えると被弾していて、そこから出血していた。

 左手で出血を迎えつつ、奥少佐は右手で第1大隊の指揮を執り、西郷軍を突破していった。
 その勢いのまま、その日のうちに第1大隊は、背面軍の陣地にたどり着くことに成功した。
 奥少佐は傷の手当てを受ける時間を惜しみ、黒田参軍に熊本城の現状を報告した後で、傷の手当てを受けた。

 一方、突囲隊を支援する部隊の一部には、別の任務が与えられていた。
 それは、熊本城近くの住民の家から、熊本城に食料を運び込むという任務である。
 ただ、問題があった。
 大抵、戦闘を怖れて、熊本城近くの家からは、住民がいなくなっているのだ。
 住民が残していった食料を、無断で熊本城内に運び込む事態が多発した。

「これって略奪って言いませんか」
「ちゃんと後で支払うのだから、略奪にはならない」
「そういうものなのですか」
 そんな問答が、一部では交わされる事態が起きた。

 しかし、やはり後で、略奪では、と大問題になった。
 実際、後で帰宅した住民が申告した量と、支援隊が熊本城に運び込んだ量が、一致しない事態が起きたのだ。
 結局、食い違った量は、西郷軍が持ち去ったということで、政府からの支払いはなく、その結果、充分な代価を受け取れなかった一部の住民から、後々まで籠城軍は恨まれることになった。
 その一方で。

 滝川充太郎少佐は、第2海兵大隊が御船を占領した後、永山弥一郎を手厚く葬るように、御船の住民にお金を渡して、遺体の埋葬を依頼した。
 そして、御船の警備を後続の別働第1旅団の一部に任せた後、川尻攻防戦に参加するために、滝川少佐率いる第2海兵大隊は急行した。
 4月13日の川尻攻防戦に、第2海兵大隊は増援として参加したが、その横では熊本城から突出してきた奥少佐が率いる第13連隊第1大隊が共に戦うことになった。

「奥少佐、ご無事だったのですか」
 滝川は、奥を見つけて声をかけた。
 滝川と奥は台湾出兵の際、共に戦った仲だったのだ。

 滝川は、台湾出兵の際に、台湾の現地で、海兵隊と陸軍の交渉の窓口となったこともあり、滝川は陸軍の間に知己を増やしていた。
 特に滝川と奥は年齢も近く、また、滝川は旧幕臣、奥は譜代大名の小笠原家の元家臣といったこともあり、陸軍と海兵隊の立場の違いもあるし、戊辰戦争の敵味方といった因縁もあるものの、お互いに親近感を覚える仲ともなっていたのだ。

「ご無事と言われると皮肉に聞こえるな」
 奥は頬に出血を迎えるための布を張り付けた顔で、滝川の言葉に答えた。
「銃創のおかげで声も出しづらく、ひどく痛む。
 だが、指揮を執るには問題ない」

「本当に気丈ですな」
 滝川は、熊本城からの突出の際に負傷したにも関わらず、最前線に赴こうとする奥に素直に驚嘆した。

「知っているとは思うが、台湾で共に戦った谷干城や樺山資紀が、熊本鎮台司令官と参謀長だ。
 そして、熊本城は食料が欠乏しつつあり、少しでも早く熊本城を救援する必要がある。
 かつて、共闘したことのある海兵隊に全面的に協力してほしい」
「分かりました。
 できる限り、海兵隊も奮闘します。
 それにしても。
 奥の言葉に対して、滝川は答えながら想った。

 昨日の敵は今日の友か。
 戊辰戦争時には敵だった谷や樺山と、自分が共闘するとは思わなかった。
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