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第7章 背面軍の奮闘と熊本城完全解囲
第5話
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その頃、熊本城では、谷干城と樺山資紀が語り合っていた。
「西郷軍の城攻めは、兵糧攻めに水攻め、秀吉公の城攻めのようだ。
三木の干殺し、鳥取の飢え殺し、備中高松の水攻め。
秀吉公子飼いの名将、加藤清正公が築いた熊本城を、秀吉公が用いた城攻めの方法で、島津軍の末裔たる西郷軍が攻めるとは。
何とも言えない気がしてくるな。
しかも、熊本城守備にあたる鎮台司令長官のわしは、山内家の元家臣で、先祖は土佐藩祖、山内一豊の家臣としてその3つの城攻めに参加した、と父に聞いておる、
何とも重い因縁に思えてくる」
谷の言葉を、樺山は混ぜ返した。
「この城攻めが始まる前に、私が聞いた話と違いますな。
谷司令長官の先祖は、長宗我部家の家臣で、山内一豊の土佐入りに伴い、山内家の家臣になったと聞きましたぞ。
どちらが本当なのですか」
「覚えていたか」
谷は樺山の言葉に苦笑いした。
「そこまで余裕があるのでしたら、まだ大丈夫ですな。
それに熊本城は水没まではしていません。
城の外側の一部が水に浸かっただけで突出は可能です」
樺山も笑い返した。
「熊本城内の兵糧が、間もなく尽きるのは事実だ。
4月17日には熊本城内の兵糧は尽きてしまい、三木城や鳥取城と同様になりかねない。
この際、籠城している一部の兵力を突出させ、熊本城内の糧食を節約すると共に、城内の状況を城外に知らせるべきだ、とわしは思うが、どう考える」
谷は樺山に問いかけた。
熊本城攻防戦は、4月に入って末期的状況に陥っていた。
2月22日黎明から始まった西郷軍の熊本城攻撃は、最初は西郷軍の猛攻の前に、すぐに熊本城が陥落するのではないか、と攻防共に錯覚する有様だった。
しかし、さすがは清正公が築いた名城、熊本城である。
熊本城攻防戦直前に起こった火災によって、熊本城内の主要施設は焼失していたが、それにも関わらず、熊本城内からの銃火は、よく西郷軍の猛攻を阻止した。
特に法華坂を巡る攻防では、後に生き残った西郷軍の兵の1人が、すぐに上れるはずの法華坂が、坂を取り囲む両面からの籠城軍の銃火の前に、誰1人として上りきれず、西郷軍の死体の山が築き上げられた、と証言する惨状を呈する有様となったのだ。
その損害の多さと熊本城救援軍の接近により、西郷軍は激論の末に23日には攻囲作戦に熊本城攻めを変更した。
それ以降、籠城軍は時折、城内から突出して西郷軍に損害を与えたが、多勢に無勢である。
また、熊本城の火災により、兵糧の多くが失われていたのも、籠城軍にとっては痛かった。
西郷軍の監視の目をかいくぐって、熊本城外から少量の糧食が届くこともあったが、焼け石に水である。
だが、西郷軍とて余裕があるわけではない。
田原坂等で行われた激闘は、熊本城攻囲軍からの兵力の抽出を、西郷軍に余儀なくさせた。
その対策として、熊本城への水攻めを西郷軍は併用したのだ。
そのために、熊本城は、冒頭で記したような状況となっていたのである。
「熊本城から突出するのは、熊本城に生きて還らぬ決死隊となりかねませんな」
樺山は谷に言った。
「わし自らが、その決死隊を率いようとも考えている」
谷は答えた。
「それは、止めてください。
熊本城主が、自ら敵前逃亡を図ったように、下手をすると敵味方双方から見られますよ」
樺山は、谷に苦言を呈した。
「それもそうか」
谷は、決死隊である以上、自らが司令官になろう、と考えており、樺山のような視点を欠いていたのだ。
「奥保鞏少佐に1個大隊を率いさせて、川尻方面に突出させましょう。
既に緑川沿いにまで、背面軍が迫っているようです。
そちらの方が突出隊が生還できる可能性が高い」
「よし、それでいこう」
樺山の言葉に、谷は決断した。
「西郷軍の城攻めは、兵糧攻めに水攻め、秀吉公の城攻めのようだ。
三木の干殺し、鳥取の飢え殺し、備中高松の水攻め。
秀吉公子飼いの名将、加藤清正公が築いた熊本城を、秀吉公が用いた城攻めの方法で、島津軍の末裔たる西郷軍が攻めるとは。
何とも言えない気がしてくるな。
しかも、熊本城守備にあたる鎮台司令長官のわしは、山内家の元家臣で、先祖は土佐藩祖、山内一豊の家臣としてその3つの城攻めに参加した、と父に聞いておる、
何とも重い因縁に思えてくる」
谷の言葉を、樺山は混ぜ返した。
「この城攻めが始まる前に、私が聞いた話と違いますな。
谷司令長官の先祖は、長宗我部家の家臣で、山内一豊の土佐入りに伴い、山内家の家臣になったと聞きましたぞ。
どちらが本当なのですか」
「覚えていたか」
谷は樺山の言葉に苦笑いした。
「そこまで余裕があるのでしたら、まだ大丈夫ですな。
それに熊本城は水没まではしていません。
城の外側の一部が水に浸かっただけで突出は可能です」
樺山も笑い返した。
「熊本城内の兵糧が、間もなく尽きるのは事実だ。
4月17日には熊本城内の兵糧は尽きてしまい、三木城や鳥取城と同様になりかねない。
この際、籠城している一部の兵力を突出させ、熊本城内の糧食を節約すると共に、城内の状況を城外に知らせるべきだ、とわしは思うが、どう考える」
谷は樺山に問いかけた。
熊本城攻防戦は、4月に入って末期的状況に陥っていた。
2月22日黎明から始まった西郷軍の熊本城攻撃は、最初は西郷軍の猛攻の前に、すぐに熊本城が陥落するのではないか、と攻防共に錯覚する有様だった。
しかし、さすがは清正公が築いた名城、熊本城である。
熊本城攻防戦直前に起こった火災によって、熊本城内の主要施設は焼失していたが、それにも関わらず、熊本城内からの銃火は、よく西郷軍の猛攻を阻止した。
特に法華坂を巡る攻防では、後に生き残った西郷軍の兵の1人が、すぐに上れるはずの法華坂が、坂を取り囲む両面からの籠城軍の銃火の前に、誰1人として上りきれず、西郷軍の死体の山が築き上げられた、と証言する惨状を呈する有様となったのだ。
その損害の多さと熊本城救援軍の接近により、西郷軍は激論の末に23日には攻囲作戦に熊本城攻めを変更した。
それ以降、籠城軍は時折、城内から突出して西郷軍に損害を与えたが、多勢に無勢である。
また、熊本城の火災により、兵糧の多くが失われていたのも、籠城軍にとっては痛かった。
西郷軍の監視の目をかいくぐって、熊本城外から少量の糧食が届くこともあったが、焼け石に水である。
だが、西郷軍とて余裕があるわけではない。
田原坂等で行われた激闘は、熊本城攻囲軍からの兵力の抽出を、西郷軍に余儀なくさせた。
その対策として、熊本城への水攻めを西郷軍は併用したのだ。
そのために、熊本城は、冒頭で記したような状況となっていたのである。
「熊本城から突出するのは、熊本城に生きて還らぬ決死隊となりかねませんな」
樺山は谷に言った。
「わし自らが、その決死隊を率いようとも考えている」
谷は答えた。
「それは、止めてください。
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「それもそうか」
谷は、決死隊である以上、自らが司令官になろう、と考えており、樺山のような視点を欠いていたのだ。
「奥保鞏少佐に1個大隊を率いさせて、川尻方面に突出させましょう。
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「よし、それでいこう」
樺山の言葉に、谷は決断した。
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