土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
上 下
75 / 120
第7章 背面軍の奮闘と熊本城完全解囲

第2話

しおりを挟む
 この時、僅か1日で八代市を制圧した背面軍の士気は高かった。
 この勢いで、甲佐へ川尻へ更に熊本城へ、と背面軍は進撃して、4日もあれば熊本城は救援できるのではないか、西郷軍の主力が田原坂へ向かっている以上、八代から熊本への路はそう困難ではあるまい、そんな楽観的な見方さえ背面軍の一部にはある程だった。

 だが、八代を奪われた西郷軍は当然、即座に反撃を開始した。
 熊本から40キロも離れてはいない、ということは、裏を返せば、1日もあれば、西郷軍は強行軍により、熊本城攻囲軍から背面軍阻止の部隊を差し向けられるということでもあったのだ。

「さすがに簡単には、我々を熊本城へは進ませてくれないか」
 滝川充太郎少佐は、そう呟いていた。
 3月20日早朝から、熊本城救援に進軍した背面軍の先鋒に、第2海兵大隊は充てられていた。
 そして、早速、第1の関門となる氷川まで、第2海兵大隊は進軍を果たしたのだが。
 氷川対岸に西郷軍は、滝川少佐がざっと見たところでも、1000名余りの部隊を展開して、背面軍を阻止しようとしていた、という事態が起こっていたのだ。

「艦砲射撃の支援を仰げれば楽なのだが、
 さすがに海岸からこれだけ離れていては艦からの直接照準が出来ず、無理もいいところだからな」
 滝川少佐は、そうも呟いて、部下を散開させて攻撃準備を整えた。

 第2海兵大隊だけでは、1000名にも満たないが、後続の部隊を含めれば2倍近い。
 西郷軍がこれに対応しようとすれば、どうしても部隊配備が薄くなるところが出てくる。
 更に、こちらが攻勢であるというのも有利な点だった。
 相手の弱点を探って、その弱点に、自分達は攻撃を集中できる。

 陸軍の砲兵が、氷川対岸に展開する西郷軍に、直接砲撃を浴びせる。
 それによって、西郷軍がひるんだところに、氷川の渡渉が少しでも楽なところを探りながら、第2海兵大隊は、氷川の渡渉を開始した。
 湿気に極めて弱い海兵隊のシャスポー銃は、本体も弾薬も濡らすのは厳禁といってよい。
 第2海兵大隊の一部の部隊が、掩護射撃を展開している間に、残りの部隊は銃や弾薬箱を濡らさないように、懸命に努力しながら、氷川を渡河していく。
 渡河を果たした部隊が、西郷軍に突撃を開始した。

 激闘数刻、その間に第2海兵大隊以外の背面軍の諸部隊も、徐々に氷川の渡河を果たし出した。
 更に、渡河を果たした部隊、特に第2海兵大隊は、氷川の西郷軍の防衛線を、徐々に崩壊させだした。
 こういった状況に鑑み、西郷軍は氷川での背面軍の阻止は困難、と判断したのか、退却を開始した。

「全力で追撃しろ」
 この状況から、そう滝川少佐は部下を鼓舞したが、西郷軍も阻止に必死である。
 それに西郷軍の援軍等も、滝川少佐らには正確につかめておらず、気になるものだった。
 そういったことから、第2海兵大隊の追撃は、砂川へたどり着く前の中途半端な段階ではあったが、中止せざるを得ない状況になり、20日の夕暮れを迎えることになった。

「背面軍が、熊本への進撃を果たし、熊本城を解放するには、もっと増援が絶対にいるな。
 どれだけの兵力を、背面軍に回してくれるのやら」
 3月20日の夜、滝川少佐は、そう独り言を言っていた。
 それに滝川少佐には、気になることがもう1つあった。
 熊本方面のみならず、鹿児島方面からも西郷軍が投入されるのではないか、ということである。
 もし、そうなったら、背面軍が逆に西郷軍によって挟撃されるという事態が生じてしまう。

「さて、どちらが先になるかな。
 我々に増援が駆けつけるのが先か、それとも、西郷軍の鹿児島方面からの援軍が駆けつけるのが先か。
 それによって勝負が決まるな」
 滝川少佐は考え込まざるを得なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

1333

干支ピリカ
歴史・時代
 鎌倉幕府末期のエンターテイメントです。 (現在の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』から、100年ちょい後の話です)  鎌倉や京都が舞台となります。心躍る激しい合戦や、ぞくぞくするようなオドロオドロしい話を目指そうと思いましたが、結局政治や謀略の話が多くなりました。  主役は足利尊氏の弟、直義です。エキセントリックな兄と、サイケデリックな執事に振り回される、苦労性のイケメンです。  ご興味を持たれた方は是非どうぞ!

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...