土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第7章 背面軍の奮闘と熊本城完全解囲

第1話

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 またも、少なからず、時が相前後する。

 3月18日、滝川充太郎少佐は、長崎からの船旅を満喫していた。
 もちろん、田原坂を巡る戦いで、死闘を演じている海兵隊の仲間を、滝川少佐が心配していないことはない。
 だが、田原坂には戊辰戦争等での実戦経験が豊富な海兵隊の優秀な前線指揮官、古屋佐久左衛門少佐と土方歳三少佐が、2人共に揃っているのだ。
 まず、大丈夫だ、という思いが、先に滝川少佐にはあった。
 それに、これこそ海兵隊の本来の任務ではないか。従っている部下を見渡しながら、滝川少佐はそう思っていた。

 滝川少佐は、当初は土方少佐の後を追って、弾薬が整い次第、田原坂に第2海兵大隊と共に赴くことになっていたが、それに待ったが掛かった。
 3月13日に、黒田清隆の献言により、山県有朋参軍が戦局の打開を図るために、長崎から八代に上陸し、八代から熊本城を救援する、背面軍を急きょ編制することが決定し、それに第2海兵大隊も川村純義参軍の判断により加えられることになったのだ。

 大鳥圭介海兵旅団長は、川村参軍の命令にいい顔をしなかった。
 ただでさえ、海兵隊は補給に苦しんでいるのに、更に部隊を分散させて、補給を更に困難にすることは無いという思いがした。
 しかし、背面軍に回せる部隊にも限りがあり、背面軍の当初の主力は、陸軍ではなく、本来は警官からなる警視隊が占めるという陣容とあっては、最初から、この作戦に参加可能な第2海兵大隊は貴重な戦力であり、大鳥旅団長も川村参軍の命令を拒絶できなかった。

 一方、この命令を聞いた滝川少佐の思いは違った。
 こういった海上を迂回して、敵軍の後方に上陸して戦うのこそ、海兵隊の本領である。
 背面軍の先陣を承るのは、海兵隊にとって誉れ、というべきではないだろうか。
 そういった想いをしながら、滝川少佐は、部下と共に船に揺られていた。

 3月18日に長崎から乗船し、3月19日に八代近郊に分散して、艦砲射撃の援護を受けつつ、上陸作戦を背面軍は開始した。
 この時、西郷軍は後方を軽視したのか、それとも主力を田原坂等に投入済みであったために余力が無かったのか、監視兵程度の兵力しか八代近郊には配置していなかった。

 一方、背面軍の主力の一角を占める海兵隊は、上陸作戦こそ得意中の得意とする作戦である。
 この差は大きく、第2海兵大隊等の猛攻の前に、八代近郊に配置された西郷軍は、背面軍の上陸作戦の阻止に失敗してしまい、背面軍は速やかに橋頭堡を確立した。
 
 更にその勢いを駆って、背面軍は上陸後に快進撃を見せ、その日のうちに八代港を無傷で確保することに成功し、長崎港からの海上補給線を確立した。
 八代港から熊本城までは、直線距離にして40キロも離れていない。
 そして、背面軍はその時は知る由も無かったが、同日、遂に田原坂の突破に政府軍は成功しており、田原坂方面からの西郷軍の熊本城救援阻止作戦は急激に困難になりつつあった。
 そうした状況において、背面軍が八代港から熊本城に向かおうとする事態が発生したのである。

 ここに西南戦争の始まりは終わり、戦局は一大転機を迎えたといえた。
 だが、北から南から熊本城解放のために、政府軍が向かおうとしているのを、座視している西郷軍では無かった。
 確かに腹背から熊本城近辺にいる西郷軍主力は攻撃を受ける事態になった、といえるが、逆に言えば、この時の西郷軍主力は、内戦の利を存分に活用し、政府軍を各個撃破できる位置にあるともいえた。

 西南戦争の始まりは終わりつつあるとはいえ、終わりが見える状況というには程遠い。
 背面軍は、田原坂方面からの軍と共闘して熊本城に向かおうとし、西郷軍はそれを阻止しようとする激戦が始まった。
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