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第6章 激闘、田原坂
第11話
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現在、山県有朋参軍の副官の密やかな楽しみは、山県参軍の顔色を見ることだった。
山県本人は気づいていないが、身内しかいない場では、山県は結構、自分の感情を顔に出す。
山県の海兵隊、特に新選組に対する感情は極めて複雑なものがあり、ある意味、玄妙な顔色を、しょっちゅう醸し出していた。
特に現在、3月17日朝は、それが特に楽しい。
「ふむ、横平山からの攻勢は無理で、守勢を採るべきだと新選組は言っていると」
「はい、3倍近い西郷軍が横平山奪還のために攻撃してきているとのことです。
しかも、それを桐野が直卒しているらしいとのこと。
そのため、新選組は横平山に西郷軍を引きつけるので、その間に田原坂への正面攻撃を行ってはどうか、と言っています」
山県参軍の前では、ある参謀が報告している。
「うむ、名案、わしも前からそう考えていた」
あれ、と副官は疑問を覚えた。
横平山攻撃前は、横平山から攻勢を取ることになっていなかったか?
山県は、副官が疑問を覚えているのに気づかず、言葉を続けた。
「速やかに田原坂正面突破の作戦計画を立案し、攻撃準備を整えたまえ」
「あの、横平山攻撃前は別の話になっていたと思うのですが」
報告していた参謀も、山県の発言に疑問を覚えたのだろう、反問した。
「察しが悪いな、新選組から横平山攻撃案を非難する報告が来ているか」
「いえ、来ていません」
「新選組は、我々が立案した横平山攻撃案に従って大損害を出している。
実際には、我々が非難されても仕方ない。
だが、新選組はそれを不問にする代わりに、我々にも血を流して田原坂を速やかに突破しろ、と暗に言ってきているのだ」
山県の言葉に、参謀は目を見開いて肯きながら言った。
「分かりました。
速やかに作戦計画を立案します。」
「情けは人のためならず、と言うが、海兵隊の情けはいろいろと考えが深すぎる。
台湾出兵の時も、薩摩を追い落とそうとするわしの考えを察して、海兵隊は情けをかけてくれたからな。
こちらもそれなりのことをしないとな」
副官が長州出身で気を許しているということもあるのだろう、山県は参謀が去った後、ひとりごちていた。
一方、同じ頃、横平山前面では西郷軍の猛攻が、新選組に対して行われていた。
桐野も一晩、寝て冷静になると、横平山にそうこだわり過ぎるのは愚策だ、と理性を取り戻しつつあった。
だが、横平山の誠の一字旗が、桐野の部下の冷静さを奪いつつあった。
「何としても、あの旗を奪い、新選組の陣地を占拠する」
桐野の部下の小隊長の1人が叫んで、何とか新選組の陣地に小隊を突入させた。
だが、そこに待っているのは抜刀隊もいるし、新選組の抜刀隊以外の隊員も刀による白兵戦を怖れるどころか、逆に銃剣のさびにしてみせる、と豪語する兵揃いなのだ。
西郷軍お得意の白兵戦も、新選組相手では勝手が違った。
新選組の防戦の前に、小隊長が戦死し、小隊は陣地から敗走した。
しかし、その一方で、新選組も無傷では済まない。
佐川官兵衛が斬り死にする等、多くの兵員が死傷していく。
17日の夕闇が迫る頃には、新選組は、全てを合わせても、無傷な者は600名を切りつつあった。
しかし、西郷軍の損害の方が遥かに甚大で無理な強攻がたたり、鹿児島出発時には、2000名いたはずの4番大隊の戦闘可能人員が、1400名以下になるという損害を被っていた。
「強攻策もここまでか」
遂に17日の夜に、桐野は部下を集めて、横平山奪還を断念することを告げた。
だが、部下の猛反対にあった。
「後、一押しなのです」
「あの新選組の旗を奪わせてください」
部下が口々に叫んだ。
桐野は結局、部下の反対を押し切れなかった。
だが、これが結果的には災いとなった。
山県本人は気づいていないが、身内しかいない場では、山県は結構、自分の感情を顔に出す。
山県の海兵隊、特に新選組に対する感情は極めて複雑なものがあり、ある意味、玄妙な顔色を、しょっちゅう醸し出していた。
特に現在、3月17日朝は、それが特に楽しい。
「ふむ、横平山からの攻勢は無理で、守勢を採るべきだと新選組は言っていると」
「はい、3倍近い西郷軍が横平山奪還のために攻撃してきているとのことです。
しかも、それを桐野が直卒しているらしいとのこと。
そのため、新選組は横平山に西郷軍を引きつけるので、その間に田原坂への正面攻撃を行ってはどうか、と言っています」
山県参軍の前では、ある参謀が報告している。
「うむ、名案、わしも前からそう考えていた」
あれ、と副官は疑問を覚えた。
横平山攻撃前は、横平山から攻勢を取ることになっていなかったか?
山県は、副官が疑問を覚えているのに気づかず、言葉を続けた。
「速やかに田原坂正面突破の作戦計画を立案し、攻撃準備を整えたまえ」
「あの、横平山攻撃前は別の話になっていたと思うのですが」
報告していた参謀も、山県の発言に疑問を覚えたのだろう、反問した。
「察しが悪いな、新選組から横平山攻撃案を非難する報告が来ているか」
「いえ、来ていません」
「新選組は、我々が立案した横平山攻撃案に従って大損害を出している。
実際には、我々が非難されても仕方ない。
だが、新選組はそれを不問にする代わりに、我々にも血を流して田原坂を速やかに突破しろ、と暗に言ってきているのだ」
山県の言葉に、参謀は目を見開いて肯きながら言った。
「分かりました。
速やかに作戦計画を立案します。」
「情けは人のためならず、と言うが、海兵隊の情けはいろいろと考えが深すぎる。
台湾出兵の時も、薩摩を追い落とそうとするわしの考えを察して、海兵隊は情けをかけてくれたからな。
こちらもそれなりのことをしないとな」
副官が長州出身で気を許しているということもあるのだろう、山県は参謀が去った後、ひとりごちていた。
一方、同じ頃、横平山前面では西郷軍の猛攻が、新選組に対して行われていた。
桐野も一晩、寝て冷静になると、横平山にそうこだわり過ぎるのは愚策だ、と理性を取り戻しつつあった。
だが、横平山の誠の一字旗が、桐野の部下の冷静さを奪いつつあった。
「何としても、あの旗を奪い、新選組の陣地を占拠する」
桐野の部下の小隊長の1人が叫んで、何とか新選組の陣地に小隊を突入させた。
だが、そこに待っているのは抜刀隊もいるし、新選組の抜刀隊以外の隊員も刀による白兵戦を怖れるどころか、逆に銃剣のさびにしてみせる、と豪語する兵揃いなのだ。
西郷軍お得意の白兵戦も、新選組相手では勝手が違った。
新選組の防戦の前に、小隊長が戦死し、小隊は陣地から敗走した。
しかし、その一方で、新選組も無傷では済まない。
佐川官兵衛が斬り死にする等、多くの兵員が死傷していく。
17日の夕闇が迫る頃には、新選組は、全てを合わせても、無傷な者は600名を切りつつあった。
しかし、西郷軍の損害の方が遥かに甚大で無理な強攻がたたり、鹿児島出発時には、2000名いたはずの4番大隊の戦闘可能人員が、1400名以下になるという損害を被っていた。
「強攻策もここまでか」
遂に17日の夜に、桐野は部下を集めて、横平山奪還を断念することを告げた。
だが、部下の猛反対にあった。
「後、一押しなのです」
「あの新選組の旗を奪わせてください」
部下が口々に叫んだ。
桐野は結局、部下の反対を押し切れなかった。
だが、これが結果的には災いとなった。
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