土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
上 下
68 / 120
第6章 激闘、田原坂

第10話

しおりを挟む
「新選組に横平山を奪われただと」
 3月15日の朝、報告を受けた桐野利秋は思わず叫んでいた。

「はい、新選組が夜襲を掛けてきて、包囲されたうえに、守備隊の半数以上を失ったことから、守備隊は支えきれなくなり、横平山を放棄したとのことです」
「まずいぞ、何としても横平山を奪還する」
 部下の報告を受けた桐野はそう答え、自らが直卒する4番大隊の全力を持って、横平山奪還を行うことにした。

 一方、新選組こと第3海兵大隊は横平山を当初の計画では攻撃の拠点とすることにしていたのを、計画を変更して急きょ、防御拠点として死守の構えを取ることにせざるを得なかった。
 まず第1に夜襲には最終的には成功したものの、例えば、抜刀隊第1小隊が完全に再編成の必要に迫られる等、こちらの損害も大きかったこと、第2に明らかに西郷軍が横平山奪還を策して攻撃に向かう気配が、土方歳三少佐らには、感じられたことである。
 土方少佐は、古屋佐久左衛門少佐に至急、要請して砲兵中隊を増援として譲り受けて、横平山の防御力を高めるとともに野戦陣地を至急、作らせることにした。

「こちらに向かってくる西郷軍の兵力は、ここを守っている新選組の3倍近い模様です」
 夜襲明けに4時間ほど仮眠をとった後、起きてきた林忠崇大尉は、横平山奪還に向かってくる西郷軍の数をそう目算して、土方少佐に報告していた。

「大丈夫か、もう少し寝ていてもいいぞ」
 土方少佐の方が心配して声をかけたが、林大尉は謝絶した。
「いや、色々と寝れる気分になれないもので。本当に色々と目がさえているのです」

「分かった。何かあったら私に話せ。分かったな」
「はい。陣地整備の督励に掛かります」
 土方少佐の言葉に、歴戦の武人というものを感じつつ、林大尉は、フランス士官学校直伝の陣地整備を、各部隊に指示して、横平山の防御態勢を高めた。

 桐野が、夜襲による混乱を嫌ったこともあり、16日の朝から西郷軍の反撃は始まることになった。
「撃ち方始め」
 西郷軍の攻撃を阻止するために、砲兵中隊長の号令がかかり、横平山陣地からの砲撃が西郷軍に加えられる。
 その一方で。

「できる限り引きつけろ、よほどの豪雨にならない限り、この陣地には屋根があるから射撃不能にはならん。
 落ち着いて狙って射撃しろ」
 陣地を守る第3海兵大隊所属の各小隊長は、直属の部下に声をかけた。

 西郷軍の突撃に伴う叫び声が聞こえ、その叫び声が、海兵隊の射撃音と砲声でかき消される。
 激闘が始まってから、数時間が経過したが、陣地と砲撃の効果が、自軍の3倍近い西郷軍の攻勢を、海兵隊、新選組に凌がせ、横平山を護り抜かせていた。

「何としても横平山を奪還しろ」
 この状況に、桐野は西郷軍を督励した。
 更に、この時の桐野の目には、横平山の頂近くに翻る誠の1字旗が入っていた。
「あの誠の1字旗、新選組の旗を何としても奪え」
 桐野が絶叫した。
 その絶叫に応え、西郷軍の攻勢はますます強まり、激闘は激しさを増した。
 しかし、その誠の1字旗が掲げられた理由はというと。

「ここまで西郷軍が、横平山奪還に熱くなってくれるとは思いませんでした。
 誠の1字旗、新選組の旗の効果は絶大のようです」
 林大尉は、土方少佐に語りかけていた。
 この旗が横平山の陣地に掲げられていたのは、土方少佐の策略の一環でもあったのだ。

「西郷軍を少し煽り過ぎたかもしれんな。
 西郷軍がここに攻撃をかけてくれるなら、ここ横平山にできる限り引きつけよう、と考えただけなのだが」
 土方少佐は、塹壕に共に籠りながら、林大尉に答えていた。
「西郷軍が横平山奪還に力を注ぐ程、それだけ、田原坂正面の西郷軍は手薄になる。
 陸軍が、これを生かしてくれればいいのだが」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―

三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】 明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。 維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。 密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。 武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。 ※エブリスタでも連載中

信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~

佐倉伸哉
歴史・時代
 その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。  父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。  稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。  明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。  ◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093085367901420)』でも同時掲載しています◇

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

処理中です...