土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第6章 激闘、田原坂

第10話

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「新選組に横平山を奪われただと」
 3月15日の朝、報告を受けた桐野利秋は思わず叫んでいた。

「はい、新選組が夜襲を掛けてきて、包囲されたうえに、守備隊の半数以上を失ったことから、守備隊は支えきれなくなり、横平山を放棄したとのことです」
「まずいぞ、何としても横平山を奪還する」
 部下の報告を受けた桐野はそう答え、自らが直卒する4番大隊の全力を持って、横平山奪還を行うことにした。

 一方、新選組こと第3海兵大隊は横平山を当初の計画では攻撃の拠点とすることにしていたのを、計画を変更して急きょ、防御拠点として死守の構えを取ることにせざるを得なかった。
 まず第1に夜襲には最終的には成功したものの、例えば、抜刀隊第1小隊が完全に再編成の必要に迫られる等、こちらの損害も大きかったこと、第2に明らかに西郷軍が横平山奪還を策して攻撃に向かう気配が、土方歳三少佐らには、感じられたことである。
 土方少佐は、古屋佐久左衛門少佐に至急、要請して砲兵中隊を増援として譲り受けて、横平山の防御力を高めるとともに野戦陣地を至急、作らせることにした。

「こちらに向かってくる西郷軍の兵力は、ここを守っている新選組の3倍近い模様です」
 夜襲明けに4時間ほど仮眠をとった後、起きてきた林忠崇大尉は、横平山奪還に向かってくる西郷軍の数をそう目算して、土方少佐に報告していた。

「大丈夫か、もう少し寝ていてもいいぞ」
 土方少佐の方が心配して声をかけたが、林大尉は謝絶した。
「いや、色々と寝れる気分になれないもので。本当に色々と目がさえているのです」

「分かった。何かあったら私に話せ。分かったな」
「はい。陣地整備の督励に掛かります」
 土方少佐の言葉に、歴戦の武人というものを感じつつ、林大尉は、フランス士官学校直伝の陣地整備を、各部隊に指示して、横平山の防御態勢を高めた。

 桐野が、夜襲による混乱を嫌ったこともあり、16日の朝から西郷軍の反撃は始まることになった。
「撃ち方始め」
 西郷軍の攻撃を阻止するために、砲兵中隊長の号令がかかり、横平山陣地からの砲撃が西郷軍に加えられる。
 その一方で。

「できる限り引きつけろ、よほどの豪雨にならない限り、この陣地には屋根があるから射撃不能にはならん。
 落ち着いて狙って射撃しろ」
 陣地を守る第3海兵大隊所属の各小隊長は、直属の部下に声をかけた。

 西郷軍の突撃に伴う叫び声が聞こえ、その叫び声が、海兵隊の射撃音と砲声でかき消される。
 激闘が始まってから、数時間が経過したが、陣地と砲撃の効果が、自軍の3倍近い西郷軍の攻勢を、海兵隊、新選組に凌がせ、横平山を護り抜かせていた。

「何としても横平山を奪還しろ」
 この状況に、桐野は西郷軍を督励した。
 更に、この時の桐野の目には、横平山の頂近くに翻る誠の1字旗が入っていた。
「あの誠の1字旗、新選組の旗を何としても奪え」
 桐野が絶叫した。
 その絶叫に応え、西郷軍の攻勢はますます強まり、激闘は激しさを増した。
 しかし、その誠の1字旗が掲げられた理由はというと。

「ここまで西郷軍が、横平山奪還に熱くなってくれるとは思いませんでした。
 誠の1字旗、新選組の旗の効果は絶大のようです」
 林大尉は、土方少佐に語りかけていた。
 この旗が横平山の陣地に掲げられていたのは、土方少佐の策略の一環でもあったのだ。

「西郷軍を少し煽り過ぎたかもしれんな。
 西郷軍がここに攻撃をかけてくれるなら、ここ横平山にできる限り引きつけよう、と考えただけなのだが」
 土方少佐は、塹壕に共に籠りながら、林大尉に答えていた。
「西郷軍が横平山奪還に力を注ぐ程、それだけ、田原坂正面の西郷軍は手薄になる。
 陸軍が、これを生かしてくれればいいのだが」
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