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第6章 激闘、田原坂

第1話

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 長崎を出発した古屋作左衛門が率いる伝習隊こと第1海兵大隊が、熊本鎮台救援軍と合流できたのは、3月2日のことだった。
 強行軍をすれば、3月1日中に合流できなくもなかったのだが、砲兵を随伴させていたことと、兵士の疲労を嫌った古屋佐久左衛門少佐の判断から、3月2日に熊本鎮台救援軍との合流となったのだった。

 この合流は、事前に電報によって熊本鎮台救援軍側も承知しており、この到着を待って、3月3日を期して、田原坂への攻撃が開始されることになっていた。
 熊本鎮台救援軍と合流して、第1海兵大隊の駐屯地の確保ができると、古屋少佐は熊本鎮台救援軍を指揮している野津鎮雄第1旅団長に挨拶に赴いた。

「古屋少佐以下伝習隊こと第1海兵大隊、本日、合流しました」
「ご苦労」
 古屋の言葉に、野津旅団長が答えた。

「それにしても、その名前は。自分としては、思わず銃弾を浴びせたくなるな」
「野津閣下もそう思われますか、西郷軍が引っ掛かってくれると思って、この名前にしたのですが。
 味方からも撃たれそうですな」
「心配するな、軽い冗談だ、本当に撃ちはせん。
 味方のわしらもそう思うくらいだ、西郷軍はおそらく引っかかるぞ。
 というわけで、正面からの攻撃の先鋒を、伝習隊にはお願いする」
 野津と古屋のやり取りは続いた。

「伝習隊を西郷軍によって、皆殺しにするおつもりですな」
「悪いか。それくらいは、当然の話だろう」
「それくらいは、我々も覚悟していました。
 伝習隊の精鋭ぶりを、皆様にお見せしましょう」
「よく言った、詳細は参謀に説明させるから、この後は、その指示に従え」
 最後には、にやりと笑って、野津は古屋が辞去することを許可した。

 野津の目は笑っており、古屋も平然としてはいたが。
 だが、古屋に随伴した海兵隊士官の面々全員が、胃が痛くなる思いがした、二人のやり取りではあった。
 その一方で、海兵隊と陸軍とのその後の打ち合わせは、それなりに順調に進んだ。
 この時、陸軍側も、四の五の言っていられる戦況では、とてもなかったのだ。

 3月3日朝から、伝習隊は菊池川を渡河し、安楽寺へ、更に木葉から田原坂を目指す先鋒を務めることになった。
 海兵隊の砲兵中隊の支援砲撃が、まずは西郷軍の陣地に対して行われる。
 ひとしきり、砲声が轟いた後、海兵隊の匍匐前進した歩兵が、西郷軍の陣地の前面に迫った。
 その一部が支援の銃撃を浴びせて、西郷軍をひるませ、残りが陣地に突貫していった。
 だが。

 勿論、他の陸軍の部隊も、海兵隊と共に戦ってはいるのだが。
 西郷軍も、伝習隊が参戦したという情報を得ているからだろうか、それとも伝習隊が陸軍と軍服が違うから目立っているからか、伝習隊に対して、西郷軍の反撃が集中したのだ。

 古屋少佐にしてみれば、西郷軍の反撃を、指揮下にある海兵隊の面々に、何とか凌がせることが精一杯になった。
 その間に陸軍が進撃していき、包囲の危機を感じた西郷軍は田原坂へ退却していった。
 海兵隊の海兵(歩兵)1人には、基本的に40発ずつ弾丸が、戦いが始まる前に配給されていたのだが。
 その日の日没までに、海兵のほとんど全員が、配給された銃弾を全て撃ち尽くしており、中には銃剣に頼って戦ったり、負傷兵から弾丸を半分奪って戦ったりする兵が続出する有様だった。
 最終的に、この日1日だけで、海兵隊全体で戦死者10名、負傷者が30名近く出るという大損害が出た。

「初日で、海兵隊には、これだけの損害か。
 熊本城にたどり着くまでに、海兵隊で、どれだけの兵が失われることになるか」
 古屋少佐は、この結果にりつ然とする思いに駆られた。

 実際問題として、古屋少佐の想いは、最終的には、杞憂どころでは済まないことになった。 
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