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第5章 新選組の再集結
第11話
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土方歳三は思わず涙腺が緩むのを覚えた。
土方の目の前には、80名余りの旧新選組の隊士が集っている。
確か鳥羽・伏見の戦いの直前には、150名近くが新選組の仲間がいた筈なのに。
よくぞここまで生き残って、集ってくれたという思いと、ここまで減っていたのかという思いが、土方の胸を去来していた。
彼らが集ってくれたのは、この旗のお蔭か、と土方は後ろを振り返った。
そこには再製された新選組の誠の旗が置かれている。
ふと前にいる面々を土方が見渡すと、同様な思いに駆られているのか、目元を涙で滲ませながら、その旗を見つめている者がほとんどだった。
「それでは今から始めます」
司会を買って出た林忠崇大尉が、発言した。
「といっても酒は1斗樽に入っている分が無くなったら終わりで、料理は今日の夕食ですが、勘弁してください」
「いや、充分、二日酔いで、訓練をさぼる奴が出たら困るからな」
その言葉を聞いた土方が言い。前にいる面々からは笑い声が上がった。
「私からも一言、言わせてもらおう。
よくここまで来てくれた。
心から礼を言わせてもらう。
賊軍の汚名をそそぎ、官軍として今度は戦おうではないか」
「「応」」
土方の言葉に、旧新選組の面々から答える声が上がった。
「ところで、林大尉が新選組の副長ということになるのでしょうか」
斎藤一がいきなり言った。
「そう見られる方もおられるかと思います」
林が答えた。
「新選組の副長なら、剣術の腕を披露してもらわないと。永倉」
「応、どうした」
斎藤の言葉に、永倉新八が答えた。
「林大尉と竹刀で試合をしてくれないか」
「しかし、いきなり言われても、林大尉が受けてくれるのか」
「私は受けてもいいですが」
林は答えた。
「決まりだな、早速やってもらおう。
土方少佐、審判をお願いします」
斎藤はそう提案した。
急きょ、剣道場から取り寄せた竹刀と防具をお互いに身に着け、旧新選組の面々の前で、林と永倉は対峙した。
「林大尉は、元お殿様だからな。殿様剣法に負けたら恥だぞ」
斎藤が、永倉に声をかけた。
「わしを誰だと思っている」
永倉が言った。
「では、はじめ」
土方が声をかけた。
「何」
永倉は絶句した。
林が、正眼の構えからいきなり右片手による変形突きを披露したのだ。
これまでに見たことのない技と、永倉の内心の軽侮が相まって、林の突きはいきなり決まった。
「実戦だったら、永倉は死んでいるな、林大尉の腕は、自分と同じ位なのを言い忘れていた」
斎藤はにやにや笑って言った。
「わざと言い忘れたな、わしの真の今の実力を見せてやる」
永倉が、本気になった。
実際、永倉が本気になると、林は防戦を強いられた。
だが、林は一本は決して取られず、永倉の猛攻を巧みに凌いだ。
いつの間にか、旧新選組の面々は林と永倉の試合に魅入られていた。
2人共に汗まみれになり、息が荒くなっていることに気づいた土方は、2人を分けることにした。
「それまでだ、2人とも止めろ」
土方の大声が、林と永倉の動きを止めた。
「この実力なら、新選組の副長を、林大尉に名乗られても文句は言えんな」
永倉が言った。
「林大尉の剣の腕は、新選組の新しい副長にふさわしいと思うがどうか」
土方が言うと、
「異議なし」
「文句は言えんな」
と周囲の面々も口々に言った。
林は慌てたが、とても断れる雰囲気ではない。
「不肖の身ですが、謹んで新選組の副長を、私はお受けします」
とうとう林は、畏まってそう言う羽目になった。
「さて、本当に集会を始めるか」
土方があらためて音頭を取って、集会が始まった。
旧知の面々が、お互いに顔を合わせ、消息を尋ねあう。
また、土方ら旧幹部に挨拶をして回る者もいる。
集会は、小1時間余り和やかに続いて終わった。
土方の目の前には、80名余りの旧新選組の隊士が集っている。
確か鳥羽・伏見の戦いの直前には、150名近くが新選組の仲間がいた筈なのに。
よくぞここまで生き残って、集ってくれたという思いと、ここまで減っていたのかという思いが、土方の胸を去来していた。
彼らが集ってくれたのは、この旗のお蔭か、と土方は後ろを振り返った。
そこには再製された新選組の誠の旗が置かれている。
ふと前にいる面々を土方が見渡すと、同様な思いに駆られているのか、目元を涙で滲ませながら、その旗を見つめている者がほとんどだった。
「それでは今から始めます」
司会を買って出た林忠崇大尉が、発言した。
「といっても酒は1斗樽に入っている分が無くなったら終わりで、料理は今日の夕食ですが、勘弁してください」
「いや、充分、二日酔いで、訓練をさぼる奴が出たら困るからな」
その言葉を聞いた土方が言い。前にいる面々からは笑い声が上がった。
「私からも一言、言わせてもらおう。
よくここまで来てくれた。
心から礼を言わせてもらう。
賊軍の汚名をそそぎ、官軍として今度は戦おうではないか」
「「応」」
土方の言葉に、旧新選組の面々から答える声が上がった。
「ところで、林大尉が新選組の副長ということになるのでしょうか」
斎藤一がいきなり言った。
「そう見られる方もおられるかと思います」
林が答えた。
「新選組の副長なら、剣術の腕を披露してもらわないと。永倉」
「応、どうした」
斎藤の言葉に、永倉新八が答えた。
「林大尉と竹刀で試合をしてくれないか」
「しかし、いきなり言われても、林大尉が受けてくれるのか」
「私は受けてもいいですが」
林は答えた。
「決まりだな、早速やってもらおう。
土方少佐、審判をお願いします」
斎藤はそう提案した。
急きょ、剣道場から取り寄せた竹刀と防具をお互いに身に着け、旧新選組の面々の前で、林と永倉は対峙した。
「林大尉は、元お殿様だからな。殿様剣法に負けたら恥だぞ」
斎藤が、永倉に声をかけた。
「わしを誰だと思っている」
永倉が言った。
「では、はじめ」
土方が声をかけた。
「何」
永倉は絶句した。
林が、正眼の構えからいきなり右片手による変形突きを披露したのだ。
これまでに見たことのない技と、永倉の内心の軽侮が相まって、林の突きはいきなり決まった。
「実戦だったら、永倉は死んでいるな、林大尉の腕は、自分と同じ位なのを言い忘れていた」
斎藤はにやにや笑って言った。
「わざと言い忘れたな、わしの真の今の実力を見せてやる」
永倉が、本気になった。
実際、永倉が本気になると、林は防戦を強いられた。
だが、林は一本は決して取られず、永倉の猛攻を巧みに凌いだ。
いつの間にか、旧新選組の面々は林と永倉の試合に魅入られていた。
2人共に汗まみれになり、息が荒くなっていることに気づいた土方は、2人を分けることにした。
「それまでだ、2人とも止めろ」
土方の大声が、林と永倉の動きを止めた。
「この実力なら、新選組の副長を、林大尉に名乗られても文句は言えんな」
永倉が言った。
「林大尉の剣の腕は、新選組の新しい副長にふさわしいと思うがどうか」
土方が言うと、
「異議なし」
「文句は言えんな」
と周囲の面々も口々に言った。
林は慌てたが、とても断れる雰囲気ではない。
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とうとう林は、畏まってそう言う羽目になった。
「さて、本当に集会を始めるか」
土方があらためて音頭を取って、集会が始まった。
旧知の面々が、お互いに顔を合わせ、消息を尋ねあう。
また、土方ら旧幹部に挨拶をして回る者もいる。
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