土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

文字の大きさ
上 下
55 / 120
第5章 新選組の再集結

第8話

しおりを挟む
 土方歳三少佐の到着により、海兵旅団の全部の大隊長が、長崎の地に揃った。
 そして、現在の戦況を再整理するためと、土方少佐に説明するためと、今後の方針を周知徹底するために、大鳥圭介海兵旅団長は、副大隊長以上を全員集めた(といっても第1大隊と第2大隊には副大隊長はいないので)7名による会議が急きょ、2月25日の夕方に行われることになった。

 大鳥圭介海兵旅団長が、会議の口火を切った。
「正直に言って、現在の戦況は極めて悪い。
 土方少佐がここ7日余り、船上にいて戦況を全く把握しておられないこともあるし、戦況の認識について全員の認識を一致させるべきだと思うので、林大尉に現在の戦況をまず説明させる」

 林大尉が起立して、戦況の説明を始めた。
「2月21日の夕刻から、熊本鎮台からの連絡は、完全に途絶えたままです。
 直前の電報によると、熊本鎮台に西郷軍が接近しつつあり、翌日、つまり22日の黎明を期して熊本鎮台に対する攻撃を西郷軍は策している模様とのことで、現在、熊本鎮台を巡る攻防戦が行われていると思料します」

「確か、熊本鎮台は熊本城内にあるが、熊本城が燃えたという情報も無かったか」
 林大尉の発言を受けて、古屋佐久左衛門少佐、第1海兵大隊長が発言した。

「はい、そのとおりです。
 2月19日昼頃に熊本城は燃えており、天守閣等は焼失しました。
 これについては情報が錯綜しています。
 西郷軍に通謀した何者かが放火した、熊本鎮台自ら攻撃の的となる天守閣等を自焼した、単なる失火だ等々の情報が乱れ飛んでいます」
 林大尉が即答した。

「天守閣等を自焼したら、城の防御能力が低下しないのか」
 滝川充太郎少佐、第2海兵大隊長が発言した。

「日本の城の防御能力の本質は、地形を活用したものです。
 そういった観点からすると、熊本城は加藤清正が心血を注いで作り上げた名城と謳われたものであり、天守閣等が燃えたからといって防御能力がそんなに低下するとは考えにくいです。
 これは私が受けたフランスでの士官教育からも断言できます」
 林大尉が言った。

「となると自焼説もあながち否定できないか」
 林大尉の言葉を受けて、滝川少佐が言った。

「また、熊本城下でもほぼ同時に大規模な火災が発生したとのことです。
 これは熊本城の火災が延焼したものか、それとも別の原因によるものかは判然としません」
 林大尉は、更に気になる情報を言った。 

「熊本城下の街並みは西郷軍が接近するのに好都合だからな。
 それこそ鎮台兵が放火した可能性が高い」
 本多幸七郎少佐、第4海兵大隊長が言った。

「勝手な憶測は慎め」
 流石に、この言葉には、大鳥旅団長が叱った。

「小倉から熊本鎮台救援に向かっていた陸軍の第14連隊ですが、一部は熊本城内に無事入城しましたが、主力は熊本城内に入城することに失敗し、2月22日から西郷軍と交戦しましたが、結局、敗走しました。
 救援に向かった陸軍の第1旅団と第2旅団によって、西郷軍のそれ以上の追撃は阻止されたという一報が入っており、現在は熊本城救援に向かった第1旅団等と西郷軍が交戦中であると考えられます」
 林大尉が、自らが把握している戦況の説明を終えた。

 土方は、この間、無言を押し通すしかなかった。
 今の故郷である北海道の屯田兵村を出た時に、自分が把握していたのは、西郷隆盛が挙兵したらしい、薩摩士族が続々とその挙兵に賛同して、行動を共にしている程度だったのだ。
 それが、先程の林大尉の説明により、具体的なものとして、自分にもようやく把握できたからだ。

 熊本城やその周囲が燃え、更に熊本鎮台が孤立している。
 現在の戦況は、どうにも芳しいとは言い難い、これから我々はどうすべきかな、と土方は考えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

処理中です...