土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第4章 西南戦争の勃発

第11話

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「嘆いていても始まりません。対策を考えましょう」
 荒井郁之助局長と、補給担当の責任者との会話の場に同席していた大鳥圭介が発言した。
「幸いなことにシャスポー銃はフランス陸軍の制式小銃でもあります。
 至急、フランス本国や植民地からの銃弾の輸入を行う必要があると考えます。
 後は生産設備の拡張ですが、横須賀造船所にその余裕はあるでしょうか」

 大鳥の発言を聞いて、荒井も多少は頭が冷えて来た。
「まずは、どの程度、銃弾が必要になると見積もられるかな。
 大鳥の見解を聞きたい。」
 荒井は、新設の海兵旅団長に就任予定の大鳥の意見を、まずは聞くことにした。

「実査に戦場に赴く身としては、日産3万発は最低でも欲しいところです。
 なぜなら、海兵旅団の兵員数は約3000名余りです。
 1人1日10発は、最低でも安心して撃てるくらいは必要と考えます」
 荒井の問いに、大鳥が答えた。

「横須賀造船所の生産設備の拡張ですか。
 海軍省本体はいい顔をしない、と考えます。

 まず、多額の予算が必要になります。
 しかも、シャスポー銃は既に後継銃を検討せねばならない段階に達しつつある銃でもあります。
 幾ら戦時中とはいえ、そのような銃の銃弾の生産設備の拡張というのは、予算面からいうと無駄遣いと海軍省本体から言われても仕方がありません。

 それに横須賀造船所はその名のとおり、造船を主に考えている施設です。
 銃弾の生産設備のために更に土地が欲しいと言っても、その余裕はないと言われると考えます。
 かといって銃弾の生産設備のための工場を新たに作るとなると、土地の確保等も必要になってきます。
 それにシャスポー銃は陸軍は採用しておらず、事実上は、海兵隊の専用銃です。
 そういった点からも生産設備の拡張は望み薄です」
 補給担当の責任者が、丁寧に事情を説明した。

 この言葉を聞いた荒井は、簡潔に自らの理解を要約した。
「シャスポー銃の銃弾生産設備拡張の金があるなら、そのための金を、フランス本国等からの銃弾購入に回した方がいい、と海軍省本体には言われるだろうし、実際問題として、その方が合理的な判断で、シャスポー銃の銃弾生産設備拡張は非現実的ということか」
「はい。ほぼ間違いなく」
 補給担当の責任者は、荒井の言葉を肯定した。

「となると、フランス本国等からの銃弾の輸入を至急図るしかないか。
 日産1万発なら、何とか可能ということだから、1月に製造可能な銃弾は約30万発にはなるが。
 その一方で、1月に必要な銃弾は約90万発だ。
 逆算すると、不足分として月に最低60万発の銃弾の輸入が必要だ。
 膨大な数の銃弾を輸入せんとならんぞ」
 荒井は、自らそう言いながら、自分の頭痛が酷くなるのを覚えていた。

 荒井の気持ちを変えようと、大鳥が口を挟んだ。
「それにしても、海兵隊全部を動員した場合に、約10日しか戦えないくらいの銃弾しか、海兵隊が予め備蓄していなかったというのは問題ですね。
 今後は、平時の備蓄量を増やしておく必要がありますね」

「それは今後の課題だ。
 動員が完了して銃弾を充分に確保してとなると、海兵隊が前線に赴けるのは、2月以上先になる可能性が高い。
 それは政治的な事情が許さないだろう。
 ある程度は、大隊単位での前線投入を考えざるを得ないと考えるが、大鳥はどう考える」
 大鳥の言葉を聞いて、気持ちを切り替えた荒井が言った。

「私も同感ですな。
 大隊単位で前線に投入というのは兵力の逐次投入で、兵法上は愚策ですが、政治的にはやむを得ないかと。
 それに兵力輸送面の問題も、意外と大きいと私は考えます」
「次から次と問題が続出するな。問題は、そろそろ終わりにしてほしいが」
 大鳥の返答を聞いて、荒井は自嘲せざるを得なかった。
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