土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第4章 西南戦争の勃発

第8話

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 荒井郁之介海兵局長は、集まっている部下の外の面々にも声を掛けた。
「我が海兵隊として最善の作戦計画についてはどう考える」

「そうですね。
 取りあえず全海兵隊を長崎に集結させて、海兵旅団を編成します。
 それには1か月ほど掛かるでしょう。
 海兵旅団の編成が完了したら、私学校党を中核とする軍、仮に西郷軍と呼称しますが、その動向に合わせて海兵旅団を海上機動を行うことも考えあわせたうえ、状況に応じ、前線に投入します」
 北白川宮能久大尉が答えた。

 北白川宮大尉は、英国留学帰りである。
 英軍には、島国という特性から、海上機動作戦は、当然のものという発想があるといってよかった。
 更に海兵隊という特性が加わり、英国帰りの北白川宮大尉の発想は、当然のものといえた。

「ふむ」
 荒井が唸っていると。

「私が考える限り、西郷軍と仮に私も呼ばせてもらいますが、西郷軍は、窮鼠、猫を噛むではありませんが、充分な作戦計画も無く挙兵せざるを得なくなりました。
 西郷軍が取れる作戦は2つあります。
 第1の作戦は、鹿児島に割拠して、厳密に言えば籠城作戦ではありませんが、大坂の陣の豊臣軍のごとく、侵攻してくる政府軍を撃破し続け、手打ちというか講和に持ち込む。
 第2の作戦は、断固として鹿児島から出撃して政府打倒の行動を取り、熊本鎮台を制圧して、更に九州全土を制圧して、東上していくという作戦です。

 いずれかの作戦を西郷軍は取ると考えます。
 第1の作戦の方が堅実ですが、私は西郷軍は政府軍の実力を過小評価しており、第2の作戦を取る可能性が高いと思料します。
 しかし、この第2の作戦は、致命的な難点があります。
 総力を挙げて東上しようとする程、策源地の鹿児島が手薄になることです。
 制海権はこちらが完全に握っており、第2の作戦を西郷軍が取るならば、鹿児島を我が海兵旅団が海上から急襲して制圧できます。
 そうすれば、西郷軍は策源地を失い、糸の切れた凧のように霧散消滅せざるを得なくなるでしょう。

 また、第1の作戦を西郷軍が取る場合、我々は陸軍と協同して鹿児島攻略を目指すことになります。
 西郷軍の動向に合わせるというのが難点ですが、西郷軍の今後の動向に合わせて、前述の行動を我々は取らざるを得ないと考えますが、いかがでしょうか」
 本多幸七郎大尉が、長広舌を振るった。

 その言葉に荒井が考えこんでいると、明るい声が聞こえた。
「いやあ、皆、よく考えているな。
 私も同感だ。
 荒井局長、基本的には私も同様の考えで動くべきだと考えるが、どんなものかな」
 大鳥圭介副局長が、わざと明るい声で言っていた。

 何しろ、天下の大乱だ。深刻に考えざるを得ない。
 だからこそ、空気を明るくしよう、と大鳥は言ったのだ。
 そのことを荒井は感じ、また、北白川宮大尉や本多大尉も感じた。
 そして、荒井は黙考した末。

「よし、その作戦を取る。
 大鳥副局長は、川村純義海軍大輔の承認を得た上で、大佐に昇進させて、海兵旅団長に任命することにする。
 皆、全力を尽くせ。
 なお、更に細部を詰めていこう」
 荒井局長が、終に決断を下した。

「はっ」
 部下の面々も、口々にその決断に応えた。

 だが、結果的に、その命令全てが、速やかに実行されることは無かった。
 なぜなら、2つの要因が、その命令の実行を阻害したからだ。
 その内1つは陸軍の妨害だった。
(ただ、陸軍も海兵隊に対する嫉妬とか、意趣返し等といった感情的要因だけで妨害したわけではない。
 流石に、陸軍の感情的要因が0だったとは言えないが、陸軍には陸軍としての視点、理屈があったのだ)
 もう1つは補給の問題だった。

 この2つの要因に、海兵隊は西南戦争の全期間を通じて結果的には苦しみながら、戦い抜くことになる。
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